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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ノアとフィナの誕生日を祝う
557/904

552 クマさん、悪人商人を捕まえる

「それじゃ、縄を解いてあげて」


 ミレーヌさんがそう言うと、ジェイドさんが男の縄を解く。

 男は腕を擦りながら立ち上がる。


「今回、上手くいけば、商人として店を任されるはずだったのに」


 リーデントを裏切ることになった男は愚痴をこぼすように言う。


「なにを言っているのですか? いつ捕まるか分からない者に店を任せるわけがないでしょう。あなたはこんなことがいつまでも続くと思っていたのですか? 盗賊行為を続ければ冒険者ギルドも商業ギルドも動きます。少し考えれば分かることです」


 ミレーヌさんの言葉に男は周りを見る。自分たちを討伐に来た冒険者が10人+3クマを改めて見る。


「なにより、ギルドカードを持たされていない時点で、気づくべきです。ギルドカードや市民カードなどの身分を証明するものがなければ、冒険者に殺されたときに本人の証明ができません。わたしが悪人なら、あなたを殺します」


 男はミレーヌさんの言葉にうなだれる。


「落ち込んでいないで、まずは名前を聞かせて?」

「ミゲールだ」

「それで、ミゲール。盗んだ荷物の引き渡しはどうしていたの? ギルドカードがなければ、街の中に入れないでしょう?」

「荷物の引き渡しはシーリンの街の外で行なっていた」

「正確な場所は? 次の引き渡しはいつ?」

「森の中、次の引き渡しは明日だ。時間は昼過ぎになっている」


 明日か、盗んだものをいつまでも保管している意味はないしね。


「その取引には誰が来るの?」

「リーデント様、本人だ。今回のことを知っているのは俺とリーデント様だけだからな」

「そう。ありがとう。それから、もう一つ。逃げた者がリーデントに接触する可能性はありますか?」

「ないと思う」

「今回のことの情報を売って、お金を得ようとする者はいないの?」

「いたとしても、リーデント様には簡単に会えない。リーデント様は用心深い人だ。だから、今回のことを知っている者も俺ぐらいだ」

「一応、リーデントの店に見張りを付けたほうがいいかもしれないわね。まあ、よほどのバカじゃなければ、リーデントに報告しに行くバカはいないでしょう」


 そんなバカがいたら、一人や二人は小屋に残っていたと思う。


「でも、明日、会うことになっているなら、急がないといけないですね」


 それからわたしたちはリーデントと言う商人を捕まえるために話し合う。といっても、ほとんどがミレーヌさんが考えた通りに動くだけだ。


 わたしたちは四つに分かれる。

 一つ目がわたしとミレーヌさんが、くまゆるとくまきゅうに乗ってシーリンの街に先行する。

 二つ目が後追いでブリッツたちがシーリンの街に来て、店を見張る。

 三つ目がミゲールとリーデントが会うことになっている森にジェイドさんたちが行く。

 四つ目がルリーナさんとギルが見張りをしていた男をクリモニアに連れていく。

 という感じで分かれ、それぞれの役割の説明を受ける。


 来るときにくまゆるとくまきゅうに乗っていた三人は盗賊が隠していた馬や馬車を使って移動することになる。くまゆるたちに乗れなくなった三人は目に見えて残念そうにしていた。

 こればかりは仕方ない。


「だけど、捕まえるだけなら、そこまでする必要はないんじゃない? 待っていれば相手のほうからやってくるでしょう?」


 普通に盗んだ物を取りに来る。その場を押さえれば終わりだと思うんだけど。


「そうね。いろいろな理由があるけど。もし、リーデントが従業員の暮らしのために、仕方なくやらせていたのなら、多少は情状酌量の余地はあります。人は殺していない。そのときは、領主様にはその旨を伝えるつもり。でも、私利私欲のためにしたら、現状の罪以上を負わせるつもり。もし、リーデントと言う商人が善人の心を少しでも持っていれば、盗賊は解散するように命じて、逃げるように言うはず。そして、彼に店を任せようとするでしょう」


 確かにミレーヌさんの言う通りに、この世には仕方なく犯罪に手を染める人もいる。それが正しいとは思わない。でも、少しは救われてもいいかもしれないと思う。


「でも、違うなら、救う価値はないってこと。とことん追い詰めましょう」


 ミレーヌさんは微笑む。その笑顔が怖い。ジェイドさんたちの顔も引き攣っている。流石、商業ギルドのギルドマスターをやっていることはある。見た目だけじゃ、受付のお姉さんなんだけど。


「人は見た目で判断しちゃ、ダメだよね」

「ユナちゃんだけには言われたくないわ」


 ミレーヌさんの言葉に、この場にいる全員が頷いている。



────────────────────────



 この街には領主が二人いた。一人は悪いことをして力を増やしていく領主。もう一人は善人そうな領主だった。善人は悪人に搾取され、(じき)に消えるはずだった。

 でも、消えたのは俺が支持をしていた悪いことをしていた領主のほうだった。

 詳しいことは分からないが、悪事が露見して、捕まったそうだ。そして、落ち目だった領主がこの街の領主となった。

 この街の領主が代わって、力関係が変わった。商業ギルドのギルドマスターも代わり、あらゆるコネが使えなくなった。そのため、物の独占ができなくなり、売り上げは激減した。領主やギルドマスターに渡していた金は戻ってこないし、最悪の状況だ。金が無ければ、新しいこともできない。

 従業員の一部は辞め、店は苦しい状況だ。

 このままでは金も尽きる。

 なら、盗めばいい。金が無いなら、物を奪い、売ればいい。儲けは大きい。こんなに楽なことはない。

 俺は一人の部下に指示を出し、俺と同じように領主に寄生していて、金に困っている者たちを集めるように命令をする。

 男は渋ったが、この仕事が成功すれば、店を持たせてやると言ったら、嘘とも知らずに引き受けた。

 盗みは順調だった。盗賊に払う安い金で、商品が入ってくる。笑いが止まらない。初めから、こうすればよかった。こんなに楽に金が入ってくる仕事はない。

 ただ、盗んでくるものが指定できないのは難点だ。運んでいる荷物が分からないし、街にいては細かい指示も出せない。

 でも、ミゲールの奴はよくやっている。それなりに金になる物を盗んでくる。意外と盗賊の才能があるのかもしれない。


 でも、そろそろこの商売も終わりだ。

 先ほど、冒険者ギルドと商業ギルドから、近々盗賊討伐を行う連絡があった。


「潮時だな」


 思っていたよりも早かったが、俺は最後の仕事をすることにする。

 今回のことを知っている者はほとんどいない。知る者が多ければ、漏れる可能性も高くなる。だから、最後の後始末も自分がやらないといけない。初めから決めていたことだが、面倒なことだ。


 翌日、俺は一人で街を出る。

 今日は荷物を引き取ることになっている。引き取る場所は街の近くの森だ。森の奥に大きな岩があり、その岩の前で、受け取ることになっている。

 約束の場所にやってくると、約束通りにミゲールがいた。


「リーデント様、お待ちしていました」

「それで、今回はなんだ?」


 ミゲールの周りには大きな袋が置いてある。


「高級な綿です。クッション、布団、貴族様に売れるかと思います」


 俺はミゲールの近くにある大きな袋を確認する。綿が入っている。触れると、ものすごく柔らかく、高級な綿であることはすぐに分かった。


「よくやった」

「ありがとうございます」


 俺は綿が入った袋をアイテム袋に仕舞う。


「それで、盗賊たちに支払うお金のほうは?」

「それは必要ない」

「それはどういうことですか?」

「冒険者ギルドと商業ギルドが動いた。討伐されるだろう」

「それじゃ、わたしの役目も終わりですね」


 ああ、終わりだ。


「これで約束通りに店を持たせていただけるのですね」

「そうだな。お前さんには、店で頑張ってもらおう」


 俺はミゲールの肩を左手で叩く。ミゲールは嬉しそうにする。俺は右手を懐に入れ、隠していたナイフを掴む。

 ミゲールを殺せば、俺のことを知るものはいなくなる。盗賊が俺のことを知っていたとしても、証拠はなにもない。

 できれば、冒険者どもが全員殺してくれると一番いい。

 ナイフを懐から取り出し、ミゲールを刺そうとした瞬間、腕を掴まれる。


「なんだ!」


 知らない男が俺の腕を掴んでいた。

 盗賊の一人か?


「リーデント様、俺を殺そうとしたんですね」

「ミゲール、どういうことだ。俺を裏切ったのか?」

「違うわよ。彼はわたしと取引をしたの」


 大きな岩の後ろから商業ギルドの制服を着た女が現れる。


「どうして、商業ギルドの職員がここに」

「取引現場、先ほどの言動、全て聞かせてもらいました」

「どういうことだ。ミゲール!」

「彼と取引をして、今回の引き渡し場所を教えてもらったのよ」

「ミゲール!」


 ミゲールに襲いかかろうとするが、俺の腕を掴んでいる男が捻り上げる。


「いててぇ、離せ!」


 俺が力を込めても、動きもしない。


「ジェイド、そのまま縛って」

「了解、トウヤも手伝ってくれ」


 俺は新しく現れた男に無理やり押さえられ、抵抗もできず、縛り上げられる。


「裏切りやがって」

「裏切ったのはリーデント様です。もし、リーデント様が盗賊を逃がすように指示をだし、俺に店を任せるように言ってくれたら、情状酌量をしてくれるはずでした」


 ミゲールは落ちているナイフを見る。

 くそ、俺はミゲールに嵌められたのか。

 このまま、捕まるわけにはいかない。


「何を言っている。全て、おまえが考えたことだろう。おまえたちも、盗賊をしていた奴の言葉を信じるのか!」

「もちろん、信じるわよ。あなたの評判と最近の現状を知っているからね」

「一職員の小娘が何を言っている」

「自己紹介をしていませんでしたね。わたしはクリモニアの商業ギルドのギルドマスターのミレーヌ」

「クリモニアのギルドマスター? 嘘を吐くな」

「それは、わたしが保証しますよ」


 30歳ほどの優男が現れる。俺はこの男を知っている。シーリンの街の新しいギルドマスターだ。


「ギ、ギルドマスター」

「流石に、わたしのことは知っていたようですね。新しいギルドマスターだから、知らないかと思いましたよ。あなたの店と家を、わたしの権限で調べさせていただきます」


 ギルマスのその言葉で全てが終わった。




閑話ってことで、普通の悪人商人となりました。

まあ、ジェイドさんやブリッツ、ルリーナさんを出したいと思ったので、長々と書く必要はないかと思いました。それと、グランさんが辞めたあとのシーリンの街の状況を少し書きたかったので、このようになりました。

次回で盗賊の話は終わるかと思います。……たぶん。


※投稿はしばらく5日とさせていただきます。ご了承ください。書籍作業がなかなか進まないんです……。感想返しもできないかと思いますがご了承ください。


【お知らせ】コミックPASH!で「くまクマ熊ベアー」の27話が公開されました。よろしくお願いします。


※いつも誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。



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[一言] 小物臭がすごい パーティーでのこともあるのに情勢読めないし、討伐の件も把握するの遅いね、安く手に入ってもリスク高いけどね 安いお金で雇えるならボロでやすそうだし、しかもなれてなさそうな人も…
[気になる点] 誤字報告の範囲外にあるので、ここで。 ①タイトル・筆者コメント ✕悪人商人 〇悪徳商人 →悪人商人という熟語は無い (何か隠した意図があり、敢えてこの表現であるなら話は別) ②本文…
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