545 クマさん、みんなでクマのぬいぐるみを作る
ふかふかの布団で気持ちよく寝ていると、くまゆるとくまきゅうに起こされる。
「くまゆる、くまきゅう、起こすの早くない?」
いつもよりも、早いような気がする。
くまゆるとくまきゅうは壁に向かって「くぅ〜ん」と鳴く。
今日はフィナたちが泊まっているんだっけ。だから、早く起こしてくれるように頼んだことを思い出す。
わたしはくまゆるとくまきゅうにお礼を言って、黒クマに着替える。そして、フィナたちの朝食を用意するために一階に降りる。わたしはお皿とコップをテーブルの上に並べ、お皿の上にパンを乗せる。焼きたてのように美味しそうだ。本当に、クマボックスに感謝だね。
「ユナお姉ちゃん、おはようございます」
朝食の準備を終える頃、フィナが二階から降りてくる。
「おはよう。シュリとシェリーは?」
「起こしましたので、そろそろ来ると思います」
相変わらず、フィナはしっかりした女の子だ。
間もなくして、フィナの言う通りに、眠そうにしているシュリとシェリーの二人もやってくる。
「2人ともおはよう」
「ユナ姉ちゃん、おはよう」
「ユナお姉ちゃん。おはようございます」
3人とも、目の下に隈などはできていない。夜更かしはせずに、ちゃんと寝たようだ。
「くまゆるちゃん、くまきゅうちゃん、おはよう」
シュリはソファーの上で丸くなっていたくまゆるを抱きしめ、くまゆるが座っていたソファーに座る。
「シュリ、くまゆるちゃんを離して、顔を洗ってきて、すぐに朝食だよ」
「うん」
シェリーがシュリを連れて顔を洗いに行く。
二人が顔を洗っている間に、冷蔵庫から牛乳を出しておく。これで、朝食の準備も完了だ。
顔を洗ってきたシュリとシェリーが椅子に座る。
「それじゃ、食べたら、今日も頑張ろうか」
「はい」
「うん!」
「はい!」
全員、「いただきます」と言うと、パンを食べ始める。
そして、朝食を終えると、シェリーは昨日の続きの型紙作りを始め、型紙ができるまで、暇なフィナとシュリはティルミナさんのところに仕事に向かい、お手伝いが終わり次第、戻ってくることになった。
「ユナお姉ちゃん。これを渡してもらえれば、ナールさんは分かると思います」
シェリーが一枚の紙を渡してくれる。紙にはぬいぐるみに必要な材料が書かれている。
シェリーの代わりに、暇なわたしが、お店に材料を取りに行くことにした。
「了解」
「でも、ユナお姉ちゃん、本当にいいんですか?」
「いいよ。暇だからね」
そのほうが時間の有効活用になる。
わたしは紙を持って、ナールさんのお店に向かう。
「おはようございます」
「あら、ユナちゃん、いらっしゃい。今日はどうしたの? シェリーはユナちゃんのところに行ったけど、会っていない?」
「いえ、そのシェリーから、ぬいぐるみの材料が書かれた紙を預かってきたので」
わたしはシェリーが書いてくれた紙をナールさんに渡す。ナールさんは紙に目を通す。
「やっぱり、かなりの量の布を使うわね。それと軽い綿ね。こっちもかなり必要になるのね」
等身大のクマのぬいぐるみだ。材料もかかる。お金の心配はない。材料のほうが心配だ。
「その、ありますか?」
「ふふ、もちろん、あるわよ。と言いたいところだけど、綿のほうは在庫は無いから、注文になるわね」
「今は布だけで大丈夫です。まだ、型紙を作っているところなんで」
綿は最後に入れるので、今日のところは布さえあれば問題はない。
「了解。それじゃ、今、用意してくるわね」
ナールさんは奥の部屋に行き、布や糸、他にも必要なものを持ってきてくれる。
「これだけ、あれば足りると思うわ」
「ありがとうございます」
わたしはお礼を言って代金を払う。
やっぱりだけど、子熊のぬいぐるみに使う布の金額より、遥かに高かった。綿のほうの代金は後日入荷になるため、後になる。
わたしはクマボックスに仕舞い、クマハウスに戻る。
「シェリー、布を受け取ってきたよ」
「ありがとうございます」
わたしは持ってきた布をクマボックスから出し、邪魔にならないところに置く。そして、わたしは子熊化したくまゆるとくまきゅうとまったりしながら、シェリーの仕事風景を眺める。シェリーは昨日と同じように黙々と仕事をしている。そんなシェリーに、わたしは何気なく尋ねてみた。
「シェリー、幸せ?」
「いきなり、なんですか?」
わたしの質問にシェリーが、驚いた表情で、わたしのことを見る。
「いや、なんとなく」
シェリーは孤児院で育ち、今はテモカさんとナールさんのお店で仕事をしている。
「幸せです。ユナお姉ちゃんが来てから、みんなに笑顔が増えて、毎日、楽しそうにしています。わたしも、テモカさんやナールさんに仕事を教わり、毎日が楽しいです」
シェリーの顔からは嘘を言っているようには見えない。
「そんなナールさんには、ずっと、お店にいてくれていいって言われています」
それって、遠回しに、娘になってほしいって言っているのかな?
「不安だった将来が、見えています。だから、幸せです」
シェリーは満面の笑顔で答える。
「でも、なんで、そんなことを聞くんですか?」
「シェリーが嫌々、仕事をしていたら、どうしようかと思っただけだよ。わたしのせいで、こんな状況でしょう?」
シェリーからクマさんの刺繍がされたクッションをもらったことから、始まった。お店のクマの制服を作ることになり、ぬいぐるみを作ることになり、水着も作った。
現状のきっかけを作ったわたしとしては気になるところだ。
「ユナお姉ちゃんのおかげで、幸せになっています。たぶん、孤児院のみんなも、そう思っているはずです」
シェリーは恥ずかしそうに答える。
もし、本当にそうなら、よかった。
それから、他愛もない会話をしていると、仕事を終えたフィナとシュリがやってきた。
「どうしようか?」
まだ、型紙全ては終わっていない。
まあ、わたしが話しかけたせいで、遅くなったせいでもある。
「それじゃ、作り終えている型紙から布を切っていきますか?」
シェリーが手が空いているわたしたちに提案する。
「そうだね」
わたしたちはシェリーが作った型紙に合わせて布を切ることになった。
「それじゃ、シェリーが頑張ってくれたし、わたしたちも頑張ろうか」
「はい!」
「うん!」
わたしとフィナは大きな箇所を、シュリには耳や尻尾、肉球などの小さい箇所をお願いする。
わたしたちはシェリーが作ってくれた型紙に合わせて、布を切っていく。
布を切れば、あとは縫うだけだ。
わたしたちがぬいぐるみ作りをしていると、クマハウスの外から声がする。
「ユナさん、いますか!」
ノアの声だ。
「ノア様ですか?」
「ノア姉ちゃん?」
「ノアール様ですか!?」
フィナたちも、ノアの声に反応する。
「ユナお姉ちゃん。ノア様に知られても大丈夫ですか?」
フィナは周りに目を向ける。部屋はぬいぐるみ作りで、いろいろと散らかっている。
基本、誕生日プレゼントは当日まで、本人には黙っているものだ。でも、今回はサプライズは必要ない。なんたって、ノア自身のリクエストだ。もう、何をプレゼントされるか本人は知っている。だから、作っているところを見られても問題はない。
「大丈夫だと思うよ。自分でリクエストしているんだから」
わたしは、そう言い、玄関を開ける。
「いらっしゃい。今日は、どうしたの?」
「今日は、ぬいぐるみのことを相談しようと思って来ました」
満面の笑顔だ。
「ぬいぐるみって、ノアの誕生日プレゼントのくまゆるとくまきゅうの?」
「はい!」
ノアは元気に返事をする。
そういえば、一緒に作るって、会話をした記憶がある。
冗談じゃなかったんだね。
「家の中に入ってもいいですか?」
「その、いいけど。少し言い難いんだけど。実は、もう作っている最中なんだよ」
「えっ」
ノアの目が大きくなる。
「どういうことですか?」
「言葉通りだけど。今、フィナたちと一緒に作っているよ」
ノアはクマハウスの中に入る。
「ノア様、こんにちは」
「ノア姉ちゃん、こんにちは」
「ノアール様、こ、こんにちは」
フィナとシュリは部屋に入ってきたノアに、普通に挨拶をする。シェリーは少し緊張した感じで、挨拶をする。
「フィナ、シュリ、シェリー、こんにちは。……ではなく、どうして、わたし抜きでぬいぐるみを作っているんですか?」
ノアの言葉にフィナは困った表情をする。
「これは、ノア様へのプレゼントですから」
「うん、ノア姉ちゃんのプレゼント」
「……」
三人には悪気はない。わたしはノアと一緒に作ることを伝えていなかっただけだ。
「ユナさん、どうして誘ってくれなかったんですか?」
「ノアへの誕生日プレゼントだから?」
「わたしも、作るのをお手伝いするって言いましたのに」
ノアが少し、いじけた表情をする。
「ノアのプレゼントなんだから、別に一緒に作らなくてもいいんだよ」
「ユナさんたちがプレゼントしてくれるのは嬉しいです。でも、一緒に作れば、クマさんを見たとき、ユナさんたちと一緒に作ったことを思い出します。それは、普通にプレゼントされるより、心に残ると思います。だから、わたしも一緒に作りたいです」
ノアが言いたいことは分かる。
一人でやるより、二人でやったほうが心に残る。フィナと一緒に作った料理は憶えていても、一人で作った料理は憶えていない。
毎日のことならまだしも、誕生日などの記念のことなら、なおさらだ。
「それじゃ、一緒に作ろうか」
「ノア姉ちゃんも一緒に作るの?」
「はい。わたしも、一緒に作らせてください」
ノアも一緒に作ることになり、フィナたちの輪の中に入っていく。
クマハウスではノアを含め、くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみ作りが始まった。
シェリーが幸せでなによりです。
【お知らせ】活動報告やTwitterなどで、書籍12巻の店舗購入特典の情報を公開させていただきましたので、よろしくお願いします。
※いつも誤字を報告をしてくださっている皆様、ありがとうございます。お礼の返事ができませんので、ここで失礼します。