540 クマさん、誕生日パーティーに参加する
セレイユの誕生日ですが、数日後と曖昧にしてきましたが、本日とさせていただきました。
過去の文章も合わせるように修正させていただきました。(修正漏れがありましたら、申し訳ありません。)
昨日のあらましは一通り聞き終える。
「それじゃ、わたしはこれで」
「ユナ、待ってください」
椅子から立ち上がろうとするわたしをセレイユが止める。
「実は、本日で、わたしは16歳になりました」
「そうなの? セレイユ、おめでとう!」
「ありがとうございます。それで昨日、あんなことがあったのですが、本日わたしの誕生日パーティーを行います。中止することも考えたのですが、元から予定されていたことだったので、中止にすることはないと、お父様が言って……」
セレイユは父親のほうを見る。
「料理人も準備をしている。それに中止にすれば、使用人たちが心配すると思います。なにより亡くなったシューリアも中止は望まないでしょう」
「わたしの誕生日パーティーと一緒で申し訳ないのですが、ユナへのお礼も兼ねています。参加していただけませんか?」
セレイユは真剣な目でわたしを見る。
いつもなら断るわたしだけど、セレイユの真剣な目を見ると、簡単に断ることができない。
「参加する人は?」
「わたしたち家族だけです。実は、もしものことを考えて、前々からお父様には16歳の誕生日パーティーは家族だけとお願いしておいたのです。誕生日パーティー当日にわたしはいなかったかもしれませんので」
セレイユは隣に父親がいるので、少し言い難そうに言う。
それだけの覚悟でいたってことだ。
「実は、ユナとノアの料理も用意するように伝えてあります」
「わたしからもお願いします。ぜひ、参加してください」
セレイユの父親にまでお願いされる。
でも、わたしの一存では決められない。
「ノアと相談してもいい?」
「はい。もちろん、構いません」
わたしとセレイユはノアのいる部屋に向かい、セレイユの誕生日パーティーについて説明する。
「セレイユ様の誕生日パーティーですか?」
「はい。よかったら、参加してください」
「でも、わたし、プレゼントは何も用意してません」
「そんなものは必要ありませんよ。でも、ノアが知っているユナのお話を聞かせていただけると嬉しいです」
「そういうことでしたら、参加させていただきます。ユナさんのお話なら、任せてください」
「ふふ、楽しみにしていますね」
「二人とも、冗談だよね?」
わたしの言葉に二人は微笑むだけだった。
プライバシーだから、本当にやめてね。
でも、プレゼントか。誕生日と言えばあれだよね。
「ノア。プレゼントだけど、一緒にケーキでも作ろうか?」
「ケーキですか?」
「時間もあるから作れると思うよ」
「ユナさん。とっても良い考えだと思います」
わたしのアイデアにノアは賛同する。
ケーキならクマボックスに入っているけど、自分たちで作ってあげたほうがプレゼントになる。ノアもプレゼントが用意できる。それに、プレゼントの用意ができるから、わたしの話はしないよね?
「それでセレイユ。キッチンを……」
キッチンを借りようと思ったけど、料理人が誕生日パーティーの料理を作るから、借りられないことに気づく。一緒に作れば邪魔になる。
ケーキを作る場所がない。
最終手段は、庭にクマハウスを出すって方法だ。それだと、使用人たちや近くの住民たちが驚くかもしれない。余計な騒ぎになりそうだ。
「キッチンですか?」
「セレイユに美味しい食べ物を作ってあげようと思ったんだけど。料理人が料理を作るから借りられないよね?」
わたしの言葉にセレイユは考える。
「離れのほうにもキッチンはありますから、そちらなら大丈夫だと思います。でも、ユナとノアールはお客様です。なにもせずに待っていただければと思いますが」
「セレイユ様。ユナさんの作るケーキはとっても美味しいんです。わたし、セレイユ様に食べてほしいです。プレゼントは用意できませんが、作らせてくれませんか?」
わたしの代わりにノアがお願いする。
「分かりました。離れのキッチンを自由に使ってください。楽しみに待たせてもらいます」
「はい、楽しみにしていてください」
わたしたちは、さっそくキッチンに移動する。小さいがちゃんとしたキッチンだ。ケーキを作るには十分だね。
「それじゃ、作ろうか」
「はい!」
わたしはクマボックスから調理器具や材料を取り出し、ノアとケーキを作り始める。
「ミサの誕生日パーティーのときは一緒に作ることができませんでしたが、今回は作ることができます」
ミサの誕生日ケーキのときはノアを誘わなかったから、頬を膨らませていた。
「ノア、上手だね」
「ありがとうございます。ユナさんに言われると嬉しいです。実は、たまに料理を作るお手伝いもしているんですよ」
「貴族のご令嬢なのに、料理なんて作っているの?」
「ユナさんに会うまでは、ほとんど作ったことがありませんでした。でも、ユナさんやフィナが作っているのを見て、わたしも作りたいと思ったんです。フィナと一緒に作ったくまパン作りが楽しかったので」
あのくまパンがノアの料理を作る楽しみになったんなら、恥ずかしいけど、よかった。
ノアはおぼつかない手つきだったけど、わたしの指示どおりに手伝ってくれたこともあって、スポンジケーキができあがる。あとはクリームを塗って、イチゴなどの果物を乗せ、最後にセレイユへの「誕生日おめでとう」の言葉を書くだけになる。その役目はノアに任せる。
「わたしが書いていいのですか?」
「ミサの誕生日ケーキのときもフィナが書いたよ」
「それなら、フィナに負けられません」
なんの勝負か分からないけど、ノアはやる気になり、ゆっくりとゆっくりとイチゴのクリームで文字を書いていく。
「できました」
ノアの手によって『誕生日おめでとう』と書かれた。これで誕生日ケーキが完成した。
「これなら、セレイユに喜んでもらえるね」
「はい!」
わたしたちはケーキが完成したことをセレイユに報告しにいく。
「終わったのですか?」
「終わったよ」
「美味しくできました」
ケーキは料理の最後に出したいことを伝える。
「ふふ、分かりました。最後の楽しみですね。それでは、こちらも準備ができていますので、こちらに来てください」
準備ってなんだろう?
わたしとノアはセレイユの後をついていく。
そして、セレイユのあとを付いて行き、部屋に入った瞬間、わたしの体が固まる。
「せっかくなので、ドレスを用意しました」
部屋の中にドレスが数着、ハンガーに掛けられていた。
「うわ~、綺麗です」
「ノアにはわたしが子供のときに着ていたものがサイズが合うと思います。ここから好きなものを選んでください。ユナはこちらのほうから選んでください」
やっぱり、わたしも着るんだね。
ドレスならノアからもらったドレスがクマボックスに入っている。
わたしはセレイユの体型と自分の体型を比べる。あのドレスはセレイユが何歳頃に着ていたものだろうか。それとも、現在進行形で着ているドレスだろうか。
わたしは短い時間だけど、葛藤する。
ノアからもらったドレスを出して、自ら着るべきか。それとも、似合わないからドレスを着ないほうに話を運ぶか。
後者は間違いなく無理だ。ノアとセレイユに着せられる。
だから、わたしはこう答える。
「ドレスなら、ノアからもらったのを持っているから大丈夫だよ」
そう答えたわたしの顔は微妙な顔をしていたかもしれない。
わたしは悩んだ結果、ノアからプレゼントされたドレスを着ることにした。
だって、セレイユのドレスを借りて、もし、ある部分に大きな開きがあったら、枕を涙で濡らすことになる。「すみません、そんなに小さいとは思わなくて」とか「わたしと同じ年齢ですよね?」とか言われたら、立ち直れないかもしれない。
だから、致命傷を避けるため、ノアからプレゼントされたドレスを選んだ。
「ユナさん、持っててくれたんですか!?」
「アイテム袋に入っていただけだよ」
わたしはクマボックスからドレスを出すと、ノアは嬉しそうにする。
「それじゃ、ノアも選んでしまいましょう」
「はい」
ノアとセレイユはドレス選びを始める。
「はぁ」
溜め息しかでない。
貴族の二人と違って、ドレスは着なれていないんだよ。と叫びたかった。
そして、ノアは明るい色の青のドレスを選び、着替えている。セレイユもドレスに一緒に着替え、わたしも渋々ながら、ドレスに着替える。制服以上に落ち着かない。
ドレスに着替えたわたしたちは、最後にメイドさんが髪を整えてくれる。
「ユナは可愛いとは思っていましたが、ドレスを着ると、綺麗になりますね」
「ユナさんは、可愛くて、綺麗です」
「二人のほうが可愛くて、綺麗だよ」
ノアのほうが可愛いし、セレイユのほうが綺麗だ。対象があるせいで、ハッキリとする。わたしは下を見る。セレイユの胸を見る。
うん、セレイユのドレスを借りないでよかった。
悲しくなるので、これ以上比べるのはやめよう。
まだ、始まってもいないのに、早く終わってほしいと願う自分がいる。
「でも、わたしがプレゼントしたドレスを着てくれて、嬉しいです」
せめてもの救いは、ノアが嬉しそうにしていることぐらいだろう。
「それじゃ、行きましょう。お父様とキースが待っています」
食堂に行くと、セレイユの父親と元気な表情をしているキースの姿がある。
元気な姿を見ると、無事に助けることができてよかったと思う。
そんなキースはノアのほうに見とれているような気がする。
あの年齢でも、男の子だね。でも、ノアに目が行くのは仕方ない。ノアはドレスを着たことで、可愛さが上がっている。
セレイユの父親から、わたしたちのドレス姿のお褒めの言葉をいただき、席に座る。
そして、まもなくすると、料理が運ばれてくる。
どれも美味しそうなものばかりだ。
簡単なセレイユの言葉があり、わたしたちは料理を食べ始める。そして、学園の交流会の話などで盛り上がる。個人種目のことから、最後の団体戦の話をする。
「ユナは本当に強かったです。ユナがいなければ、ユーファリアが勝ったんですよ」
「お姉様、負けたのですか?」
「残念ながら負けました。ユナはとても強く、わたしより強く。誰よりも強かったです」
「それじゃ、僕が勝ってみせます」
「ええ、お願いするわね」
なにか姉のセレイユに勝ったことで、弟のキースに対抗心を持たれてしまったようだ。まあ、キースと試合をすることはないので、気にしないでおく。
「僕、お姉様を守れるような強い男になります」
「そうね。わたしは、もう強くなる必要はないから、強くなるのはキースに任せますね」
「お姉様、どうかしたのですか?」
いつもの雰囲気と違うセレイユに何か感じ取ったみたいだ。
「なんでもないわ。でも、強いだけの男じゃダメよ。ちゃんと勉強して、人を思いやる気持ちも大切よ。そうね。ユナのようになってくれたら嬉しいわ」
わたし?
面倒くさがり屋で、貰いものクマ装備で戦っているだけだよ。
「セレイユ、わたしを見習うのはやめたほうが……」
わたしが否定しようとしたけど、隣から同意する声があがる。
「わたしもそう思います。ユナさんは強く、優しく、素晴らしい人です」
「ノア。わたし、そこまで、褒められるほどの人じゃないから」
「そんなことはありません。ユナさんは孤児院の子供たちを救い、わたしのお父様を救い、お姉様も救ってもらっています。それだけではありません。ユナさんは……」
「分かったから、それ以上は言わないで」
これ以上、なにかを言う前にノアを止める。
「これから、ユナさんの素晴らしさを、お話ししようと思っていたのに」
「しなくていいから」
「ふふ、ノアはユナのことが好きなのね」
「はい! 大好きです」
「ノア、恥ずかしいから、やめて」
「どうしてですか?」
お願いだから、そんな純粋な目で、わたしを見ないで。
久しぶりのドレス姿です。書籍でいえば10巻ぶりぐらいかもしれません。
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事が出来ませんので、ここで失礼します。
追記、4/1 次回の投稿、書籍作業が少し入ったため、少し遅れます。