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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ユーファリアの街に行く
544/928

539 クマさん、セレイユの家に話を聞き行く

 わたしはいじけているくまきゅうを抱きかかえると、優しく撫でてあげる。くまきゅうは甘えるように抱きついてくる。


「くまきゅうちゃん。ユナさんが自分を置いて、どこかに行ってしまったと思ったんですね。朝、起きたら悲しそうにしていましたので、わたしがなにかしてしまったかと思いました」


 ノアはわたしが抱いているくまきゅうの頭を撫でる。


「ユナさん。もう、くまきゅうちゃんを置いて、どこかに行ってはダメですよ」


 わたしはノアに叱られる。

 昨日は疲れてて、温泉への欲求に勝てなかったんだよ。

 でも、今後は黙って置いていかないことを約束する。


 それから、ノアがシアや王都の学生たちを見送りたいと言う。

 この数日の間にノアは学生たちと仲良くなっていた。昨日も、わたしが湖でダウンしたあとも、シアと一緒に学生たちと遊んでいた。

 わたしも団体戦ではお世話になったので、挨拶ぐらいはしておくことにした。

 なので、一度くまきゅうを送還する。夜にちゃんと召喚して、お風呂に入って、一緒に寝る約束をする。


 見送りにはユーファリアの学生たちも来ており、来年のことを話している。その中にはセレイユの姿もある。表情は笑顔だけど、疲れているようにも見える。

 昨日の今日だ。疲れていても仕方ない。そんなセレイユがわたしのほうにやってくる。


「ユナも来ていたのですね」

「セレイユ、大丈夫なの? 見送りぐらい、休んでもよかったんじゃない?」

「お父様にも同じようなことを言われました。でも、ちゃんと休みましたから、大丈夫ですよ。わたしより、ユナのほうが疲れているんじゃないですか?」

「お風呂に入って、ぐっすり眠ったから、わたしも大丈夫だよ」


 見送りぐらい休めばいいと思ったけど、貴族という立場や領主の娘とか、いろいろとあるみたいだ。

 まだ、挨拶があるらしい。


「ユナ。それでは、のちほどに」


 セレイユはわたしから離れると、先生や王都の学生たちに挨拶してまわる。

 立場もそうだけど、責任感が強いのだろう。だから、学年を問わず、好かれている。いつも、セレイユの周りには人がいる。

 わたしはノアのところに移動する。


「それじゃ、ノア。先に戻っているからね。ちゃんと、ユナさんの言うことを聞くんだよ」

「はい。お姉様も無事に帰ってくださいね」

「ユナさん、ノアをお願いしますね」

「ちゃんと、送り届けるよ」

「ユーナとノアールは一緒に帰らないのですか?」


 わたしたちの会話を聞いていた王都の学生が話しかけてくる。


「わたしとノアはもう少し、街に残るから」

「そうなのですね。お話をしたかったのですが、残念です」


 それぞれ、学生たちが馬車に乗り込むと、王都に向かって出発する。

 ノアは手を振って馬車を見送る。


「いっちゃいましたね」

「王都に行けば、すぐに会えるよ」

「そうですね」


 ユーファリアの生徒たちは授業があるので、このまま教室に向かう。学生の本分は勉強だから仕方ない。

 そんな中、セレイユが残り、わたしのところにやってくる。


「ユナ、お待たせしました。それでは、家に行きましょう」

「学園のほうはいいの?」

「今日は家庭の事情ってことで、休みをいただいていますから大丈夫ですよ」


 まあ、誘拐事件があったんだ。理由としては十分だ。

 そして、セレイユが用意していた馬車に乗って家に行くことになる。セレイユの体調を気にかけて、セレイユの父親が用意したそうだ。


「それで、ユナさんはどうして、セレイユ様のお家に行くのですか?」

「話してはいないのですね」


 セレイユが確認するようにわたしに尋ねる。


「言いふらすことじゃないからね」

「感謝します」

「なにかあったのですか?」


 わたしたちの会話から、何かを感じ取ったノアが尋ねてくる。


「詳しいことはお話しできませんが、わたしは昨日、ユナに命を救われました。今日はそのお礼として、家にお呼びしたのです」

「命……」


 ノアがセレイユの言葉の重みを感じたように小さな声で呟く。


「ユナがいなければ、わたしは、死んでいたでしょう。たとえ死ななくても、ここにわたしがいることはできなかったかもしれません。ユナには感謝をしてもしきれません」


 わたしが乱入していなかったら、セレイユは弟のため、街のためと、自分の身を差し出したと思う。助けることができたのは本当に偶然だ。

 わたしの行動が遅かったら、セレイユに会うことはできなかった。湖で男が捨てたものが気にならなかったら、魔石を拾うことがなければ、セレイユに相談しようとも思わなかった。

 これも、ノアが遅くまでシアと遊んだおかげとも言える。そのおかげで、魔石を捨てる現場を見ることができた。


「昨日、そんなことがあったのですね」


 話を聞いたノアの表情が暗くなる。


「だから、ユナさん。昨日、あんなに疲れていたんですね。なのに、わたし、無理やりに誘って」


 ノアが昨日のことを思い出して、落ち込んでしまう。

 いや、あれはクマ装備がなかったから、普通に体力がなくて疲れただけだよ。

 決して、魔物と戦ったからではない。


「ノア、気にしなくてもいいよ。わたしも楽しかったから」

「ユナさん……」


 わたしはノアの頭をポンポンと優しく叩く。


「そんな大切なお話をするのに、わたしが一緒に行ってもいいのですか? わたしは宿屋で待っていますが」


 ノアが気を使って、そう言う。


「いえ、ノアも一緒に来てくださって問題はありませんよ。ただ、詳しいお話をすることはできないと思いますので、別の部屋にいてもらうことになると思いますが」


 どんな話をするか分からないけど、昨日聞いた話をするなら、ノアに聞かせたくはない。キースが攫われた話をすれば、ミサが攫われたときのことを思い出すかもしれない。セレイユの母親が亡くなった理由を聞いたら、悲しむかもしれない。

 ノアに関係ないことで、心を痛める必要はない。


「わたしも貴族の娘です。理解をしているつもりです。命のやり取りがあったことも、本当なら話せなかったかと思います。セレイユ様が、そのことを教えていただけたことだけで、気を使ってくれていることが分かります。ですので、気になさらないでください」


 ノアは貴族の令嬢らしい対応をする。

 本当は詳しく知りたいはずなのに、分別があるから深くは尋ねてこない。本当に、その辺りは偉いと思う。

 いつもは子供らしいけど、こういうときは貴族らしく、振る舞うんだよね。


「ノア、ありがとう」


 馬車はセレイユの家に到着し、わたしたちは家の中に入り、部屋の前で止まる。


「それでは、ノアはこちらの部屋でお待ちになってください。あとで、美味しいお菓子を運ばせますので」

「はい、お気遣い、ありがとうございます」


 部屋に入っていくノアを見送り、わたしとセレイユは別の部屋に向かう。

 少し歩き、ドアの前に立つと、セレイユはノックしてドアを開ける。


「お父様、戻りました」


 部屋の中にはセレイユの父親がいる。

 セレイユの父親に椅子に座るように言われ、わたしはセレイユの父親の前に座り、セレイユは父親の隣に座る。


「来てくださって、ありがとうございます」


 セレイユの父親は頭を軽く下げる。

 わたしはまず、ノアが居たので聞けなかったことを尋ねる。


「キースは大丈夫ですか? 目は覚めたんですか?」


 あのまま寝たままだったら、かなりの問題になる。魔法で眠らされ、一生眠ったままという可能性もある。


「昨日の夕刻には目を覚ましました」


 その言葉を聞いて安堵する。

 最悪の状況にはならなかったようだ。


「目が覚めたとき、1日が終わっていたので、驚いていました。どうやら、攫われたときのことは、覚えていなかったみたいです」

「お父様がキースに抱きつくから、キースが意味が分からない顔をしていましたよ」

「いや、おまえも抱きついていただろう」

「姉が弟を想うのは当たり前です」

「父が息子を大切に想うのも当たり前だろう」


 お互いに家族を心配していた。

 わたしには眩しいね。こんな家族がいたら、わたしも異世界に来なかったのかな?

 でも、この世界に来て大切なものがたくさんできた。この世界に来て、よかったと思っている。

 セレイユの父親は、少し恥ずかしそうにしながら、話題を変える。


「まず、こちらを受け取ってください。ユナさんが討伐した魔物のお金になります」


 セレイユの父親がお金が入った袋をわたしの前に差し出す。


「多くないですか?」

「娘と息子を救ってくれたお礼のお金も入っています。お受け取りください」

「セレイユにも言ったけど、友達を助けただけだから、お礼はいらないよ」

「これは父親としての感謝の気持ちです。娘の友達に感謝する親はいるでしょう。娘の友達だからと言って、お礼をしない理由にはなりません」


 そう言われたら、断ることはできないので、素直にお金を受け取る。

 それから、男について教えてくれるが、まだ調査中だと言う。

 まあ、昨日の今日だ。すぐには情報は集まらないだろう。それから、今回のことを国王に報告するらしい。


「信じてもらえないと思いますが」


 セレイユの父親は自信なさげにする。


「信じてくれますよ」


 魔物が王都に集まったあの件を知っている国王なら、信じてくれるはずだ。


「もし、信じていただけないようだったら、わたしの名前を出してもらえば」

「ユナさんの名前ですか?」

「たぶん、それで信じてくれると思うよ」


 面倒ごとになりそうだけど、信じてもらえないことが一番困る。


「ユナさん、あなたは?」

「ちょっとばかり、国王陛下と顔見知りなだけだよ」


 わたしの言葉に二人は信じられない表情をする。

 クマの格好をした人物の言葉より、信じられるよね?



あと、一話か二話でユーファリア編も終わります。引き続き、よろしくお願いします。


【お知らせ】コミックPASH!で「くまクマ熊ベアー」の24話が公開されました。少年が冒険者ギルドにやってきて、ユナが村を救うためにブラックバイパーにところに向かいます。


【お知らせ】本日11時に、ニコニコ漫画で「くまクマ熊ベアー」の19話(後半)が公開されます。こちらもよろしくお願いします。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。お礼の返事が出来ませんので、ここで失礼します。



【追記3/29】申し訳ありません。次回の投稿、少し遅れます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユナの名前は印籠ですか
[良い点] 誤字脱字報告は本文でないと出来ない様なので此処に書きます。 [気になる点] ブラックバイパーにところに向かいます。 と、ありますが、 ブラックバイパーのところに向かいます。 ではないでしょ…
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