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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ユーファリアの街に行く

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530 クマさん、怒りを覚える

【お知らせ】コミック2巻が発売しました。よろしくお願いします。


※誤字を報告をしてくださっている皆様、ありがとうございます。お礼の返事が出来ませんので、ここで失礼します。



 わたしたちは緩やかな登り坂を歩く。


「ユナ、ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」

「気にしないでいいよ。セレイユは悪くないよ。悪いのは、あの男でしょう」


 セレイユの弟のキースを攫い、過去にはセレイユの母親も殺している。どう考えても、前を歩く男が悪い。


「そうですが……」

「それに自分の身ぐらい守れるから、セレイユは自分のことと、キースのことだけを考えて」

「ユナが強いことは知っています。ですが、今回のことに巻き込んでしまったのはわたしの責任です。もう少し、周囲を気にしながら、街を出るべきでした」


 セレイユは責任感が強い。わたしを巻き込んだことに罪悪感を抱いているみたいだ。それに弟のキースがさらわれたんだ。冷静になれと言うのは酷なことだ。


「わたしの命を引き替えにしても、ユナとキースは無事に帰しますから、安心してください」


 セレイユは自分を犠牲にしてでも、わたしとキースを守る気でいるみたいだ。もちろん、そんなことをさせるつもりはない。セレイユを犠牲にして助かっても、一生、セレイユの死を背負って生きていかないといけない。そんなのはごめんだ。


「お話もいいですが、しっかり付いてきてくださいよ。逃げるようなことがあれば、言わなくても分かりますよね」


 わたしたちが何もできないと思っているのか、男は後ろを振り向きもしない。


「あなたこそ、そんなに危機感がなくていいの? わたしたちが後ろから襲うかもよ」

「あなたのことは知りませんが、セレイユ嬢は弟さんのために、そんなことはしないでしょう。あなたが襲い掛かろうとしても、きっと止めてくれます」


 まるで、なんでもセレイユのことを知っているように言う。


「わたしがセレイユの言うことを、聞かないかもしれないよ」

「つまり、セレイユ嬢の弟さんがどうなってもいいということですね。セレイユ嬢、友人はちゃんと選んだほうがいいですよ」


 言い方が、むかつく。


「ユナには手を出させませんから、安心してください」

「ふふ、セレイユ嬢は、そちらのお嬢さんより、現状を理解しているようですね」


 うん、わたしは誰よりもあなたの未来を理解しているよ。


「わたしたちは襲ったり、逃げたりはしません。ですが、歩くだけでは暇なので、わたしの質問に答えてくれませんか?」

「なんでしょうか?」

「あなたがお母様を殺したというのなら、どうして、お母様を殺したのですか? お母様が何かしたのですか?あなたとお母様になにかあったのですか!?」


 セレイユが前を歩く男に尋ねる。


「あなたの母親とは学生時代からの知り合いでした。あなたの母親は誰にでも優しく、綺麗な女性でした。わたしもそんな彼女に惹かれました。学園を卒業するときに告白をしました。でも、彼女はわたしの愛を受け取ってくれませんでした。あなたの母親はわたしの好意を踏みにじったのです。学生の頃から愛していたのに、彼女は金を持っているだけの男と結婚をした」


 男は大きな手ぶりをしながら、説明する。


「もしかして、それだけの理由で、お母様を殺したのですか!?」


 セレイユは歯を食いしばっている。手も悔しさで震えている。


「理由としては十分でしょう。わたしの愛を拒否し、踏みにじった。でも、心優しいわたしは数年待った。しかし、返答は一緒でした。だから、殺したのです。人がせっかく、最後のチャンスをあげたのに、あの女は断りました。酷いとは思いませんか?」


 男が振り返りながら、わたしたちに同意を求める。その顔は、自分は間違っていないと言わんばかりの表情をしている。

 悪いが、全然、同意なんてできない。

 相手だって、選ぶ権利ぐらいある。この男とセレイユの父親なら、普通の女性ならセレイユの父親を選ぶ。

 まして、貴族で、お金も持っていて、優しそうだったし、女性からしたら最高の結婚相手だろう。

 それが、目の前にいる男と比べる時点で間違っている。

 これがミサを攫った貴族みたいに性格が悪く、ガマガエル顔だったら、お金目当てで結婚したと言われても仕方ないけど。そうじゃない。完全な嫉妬であり、逆恨みだ。

 だけど、男の表情から、裏切られたと思い込み、憎んでいるのがわかる。

 これは思っていた以上に質が悪い。世間一般の常識が通じない相手ほど、会話にならない相手はいない。


 恋愛経験がないわたしが言うのもあれだけど、フラれたぐらいで、人を殺すなんてありえない。でも、この世には相手のことが好きで、粘着するストーカーは存在する。一方的に好意を向け、それを拒絶すると、気が狂い、人を殺す。元の世界でも、そんなニュースが流れていた。

 そんな粘着する時間があれば、ゲームでもしていたほうが楽しいと思うんだけど。この世界にだって、楽しいことを探せばたくさんある。恋愛だけが楽しいことじゃない。それにフラれたなら、新しい恋を探せばいい。

 でも、これは恋愛をしたことがないわたしだから、言えるのかもしれない。感情はフラれた本人しか分からないことだ。

 だからといって、人を殺したり、束縛してもいい理由にはならない。


「あなたは狂ってます。お母様に拒絶されただけで、殺すなんて」


 男の話を聞いていたセレイユが絞り出すような声で男に向かって言う。

 セレイユは母親の殺された理由を知って、悔しそうにしている。男に対して、憎しみの目を向けるが、弟のキースが攫われているため、それ以上のことはできない。


「それで、母親にフラれ、殺したのにもかかわらず、娘のセレイユをどうしようというわけ? もしかして、セレイユまで殺すつもり?」

「セレイユ嬢を殺す? まさか」


 わたしの言葉に男は笑う。


「殺すわけがないでしょう。セレイユ嬢は美しく成長しました。あのときの学生時代を思い出します。セレイユ嬢にはわたしと結婚してもらいます」

「……結婚」

「ついに、わたしと結ばれるときがきたのです」


 男は笑う。完全に狂っている。

 もしかして、この男はセレイユの母親を殺してから、セレイユが成長するのを待っていた?

 想像するだけで、気持ち悪くなる。その好意を向けられているセレイユは、わたし以上に気持ち悪いだろう。


「わたしはお母様ではありません。セレイユです」

「いえ、そっくりですよ。見た目も、その毅然とした態度も。そして、非情になれない優しいところも、母親と同じです」

「わたしは、あなたと結婚するつもりはありません。あなたと結婚するなら、お母様と同じところに行きます」

「弟さんを連れてですか?」

「!?」


 そのための人質(キース)か。


「あなたは卑劣です」

「褒め言葉と受け取っておきましょう」


 男は笑う。


「それに、わたしとあなたは相思相愛でしょう。お互いのことを毎日のように思い。相手のことだけを考えて生きてきた」

「それは、もしあなたが現れたときにお母様の仇をとるためです」

「それでも、あなたはわたしのことを思っていたでしょう。母親を殺されたときから、わたしのことを考え、幼いときから、わたしのことだけを考えて剣を振り、わたしのことを考えながら魔法を学んでいた。それが憎しみからで、わたしを殺すためでも、あなたの心の中には、いつもわたしがいた。考えるだけでも、こんなに嬉しいことはありません」


 男は嬉しそうに話す。

 だけど、聞いているほうは気持ち悪い。

 完全に狂っている。もし、10年の間、どこかで見続けていたなら、想像するだけで、吐き気がしてくる。

 セレイユは母親を殺した男が現れるのを幼いときから知っていて、剣の技術を磨き、魔法を学んでいたんだね。わたしには想像もつかない長い時間だ。


「もしかして、セレイユと結婚するために、脅迫材料としてキースを攫ったの?」

「人聞きの悪い。弟さんにも一緒に喜んでもらうためですよ。まあ、断れば、どうなるか分かりませんが」


 それが脅迫って言うんだよ。

 ああ、ムカつくし、気持ち悪いし、最悪の気分だ。これはさっさとキースを助けて、男を殴らないと気が済まない。

 でも、わたし以上に、その気持ちを向けられているセレイユはもっと気持ち悪いだろう。美人って、変な人に好かれたりするから困るよね。その点、わたしは……。

 考えるのはよそう。虚しくなってくる。


「セレイユ、大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です」


 そうは見えない。顔色が悪い。


「こんなに不愉快になったのは初めてです。気持ち悪さと、怒りの気持ち、理不尽に殺されたお母様への悲しみ。いろいろな感情で心の中がぐちゃぐちゃになっている感じです」


 まあ、仕方ない。もし、男の感情がわたしに向けられていたら、速攻で殴っている。もしティルミナさんが殺され、フィナが攫われたと考えると、怒りが込み上げてくる。

 たぶん、爆発すると思う。

 わたしがセレイユの心配をしてると、男が歩みを止める。


「着きました」

「キースはどこ!?」


 どこにもキースの姿は見えない。

 わたしは確認するため、探知スキルを使って居場所を確認しようとする。でも、探知スキルの画面がでないことに気づく。

 だから、使えないんだって。

 癖が抜けない。調べようとすると、探知スキルや地図を出そうとする癖がある。

 どれだけ、今までクマ装備に頼ってきたか分かる。


「あそこにいますよ」


 男が先を指差す。

 セレイユは駆け出す。わたしも追いかける。

 そこには信じられない光景が広がっていた。

 わたしたちは緩やかな上り坂を歩いてきた。わたしたちがいる場所は高い位置にある。


「魔物……」


 わたしたちの視線の先には丘が広がっており、ウルフなどの魔物がたくさんいた。その数は千は超えるかもしれない。

 その魔物の中心に子供が寝かされていた。


「キース!」


 セレイユは叫ぶ。

 魔物の群れの中心にキースが寝かされていた。


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― 新着の感想 ―
万の魔物操ってた奴も今回の奴も無駄に技術力あるの草
[一言] 読み直して思ったのはこいつは愛が歪んだセルブス・スネイプですね
[一言] 光源氏計画かよ
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