523 クマさん、交流会に参加する
ノアとはグラウンドの傍で別れ、わたしとシアは先生のところに向かう。
「シューグ先生、連れてきました。参加してくれるそうです」
30歳ほどの男性がわたしを見る。
確かに、シアたちの護衛の話を聞いたときの先生だ。
うろ覚えだったけど、なんとなく思い出した。
「ありがとうございます。助かります」
先生はお礼を言うと、わたしの顔を見てから、手と足に視線を向ける。
「本当に、あのときのクマの格好をした女の子なのですね」
「そのことは内密にお願いします」
わたしの格好がクマの格好っていうことは秘密だ。
「でも、本当に、わたしが参加してもいいの?」
「一応、相手の先生の許可はいただきます。たぶん、大丈夫でしょう。ユナさんが学生に見えない年上でしたら、許可は出しません。言ってはなんですが、ユナさんは他の学生より年下に見えますので」
どうせ、身長は低いよ。
成長期なんだよ。これから、いろいろな場所が大きくなるんだよ。
「それに、これは魔法の交流会です。お互いの魔法の技術を見せ合い、向上させていくのが目的です。同年代のユナさんが学生たちの見本となり、向上の一つになってくれればと思います」
向上。
それが、今回の交流会の目的だったね。
「それに、ユーファリアの学園にはセレイユ様がいますから」
「セレイユに勝ってほしいってこと?」
「その気持ちがないとは言いません。ただ、黒虎を倒したという、あなたが出てくれれば面白いかと思いました。それに強い人が1人いたとしても、勝敗がどうなるかは分かりません」
確かに、あのルールなら、強い人が一人いても勝てるわけではない。
「それでは、ユーファリアの先生に確認をとってきますので、待っていてください」
先生はユーファリアの先生のところに行き、話をすると、すぐにもどってくる。
「許可はもらいました」
簡単にもらえたようだ。
「フォシュローゼ家が信用する同年代の強い魔法使いと、お伝えしましたら、問題はないと言われました。よほど、自信があるようです」
まあ、セレイユがいるからね。
それに他にも魔法が上手な生徒は多くいた。
「シアさんは他の学生に紹介して、簡単なルール説明をユナさんにしてあげてください」
「先生、ユナさんのことは学生ってことで説明してもいいですか?」
「そうですね。そのほうが混乱は少なくていいでしょう」
制服を着ているし、確かに説明が面倒になるかもしれない。試合が始まる前に、混乱させることもない。
始めにシアと話し合った通り、シアの友人の学生として参加することにする。
「あ、先生。あと、ここではユーナで、紹介しますので、お願いします」
「ユーナですか?」
先生は首を傾げる。
シアとわたしは偽名の話をする。
「あまり、偽名になっていないような気がするのですが」
ですよね~。
「とりあえず、わかりました。それでは、ユーナさんをよろしくお願いします」
わたしとシアは学生たちのところに移動する。
学生服を着た女の子10人がわたしに視線を向ける。少し緊張する。
「シア、紹介してくれる? 先日、セレイユ様と試合をしていた女の子だよね?」
「えっと、彼女はユ、ユーナ」
シアが偽名で紹介してくれる。
「ユーナです。シアの友達です。今回は、シアの応援で来ていましたが、魔法が使えるので、参加させてもらうことになりました」
「先日の試合、見ていたよ。あのセレイユ様に勝つなんて、凄いね」
「あなたみたいな強い女の子がいたんだね」
わたしは女の子たちに囲まれる。
みんな、近いよ。子供には囲まれることはあるけど、同年代の女の子に囲まれることはない。なので、少し緊張する。
「ほら、みんな、離れる。これから試合なんだから。ユーナといったわね。得意魔法は?」
年上のリーダーっぽい女の子が、わたしの周りにいる女の子を引き離し、尋ねてくる。
「一通り使えます。シアには旗を守るように言われました」
自分で言ったことだけど、シアに頼まれたことにしておく。
「そうね。抜けた子も旗を守る役目だったから、そのままで問題はないわね」
「簡単に旗が倒されても気にしないでね。わたしたちがその分、頑張るから」
思っていたよりも、みんなは好意的にわたしを受け入れてくれる。
普通はいきなりわたしのような子が来たら、文句を言う人は1人はいると思ったんだけど。これは貴族であるシアの存在のおかげかな?
それから、シアから聞いたルールの説明を、みんなからもう一度聞く。
「問題はセレイユ様だよね。わたしのところに来たらどうしよう」
「弱いところに、行ってくれたら、ラッキーだよ」
「うぅ、酷い」
周りから、笑い声が漏れる。
別に馬鹿にしたわけでなく、言われた本人も笑っている。
「でも、セレイユ様が行くとしたら、ルージュのところかもね」
話を聞くと、守備側で一番上手な人らしい。
「わたしはユーナさんを狙う可能性もあると思うよ。先日のリベンジで」
「確かに、ありえそう」
「でも、剣と魔法は別だよ」
「だけど、ユーナには悪いけど、ユーナを狙ってくれたら、セレイユ様が早々と消えてくれるから、助かるわね」
どうやら、わたしは戦力に考えられていないみたいだ。
まあ、学園に通っていて、今回の魔法の交流会に選ばれていないと思われているから、仕方ない。
「いや、セレイユ様は初めは様子見でしょう」
詳しく聞いたルールには、攻撃側は交代が自由にできること。
もし、攻撃Aが守備Aを、攻撃Bが守備Bを攻撃していて、それを旗を倒す前だったら、攻撃Aが守備B、攻撃Bが守備Aと交代してもいいとのことだ。
つまり、相手が倒せないと思ったら、自分より上の実力がある人、もしくは、相性が良い人と交代ができるという。
強い人は、初めは旗取りには参加せず、様子を見るそうだ。
「あと、もう一つ、土魔法で旗を囲うのは禁止です」
土魔法の壁は大きくても4分の1ほどまでと言う。
確かに土でドームみたいに囲ったら、相手は大きい魔法で破壊をしないといけなくなる。そうなれば、いろいろと危険だし、見ていても面白くない。
「そういえば、シアはどっちなの? 攻撃? 守備?」
「わたしは守備側ですよ。一緒に守りましょうね」
そして、わたしを含む女子学生がグラウンドに集まる。そして、挨拶をする。
相手側にいるセレイユが何か言いたそうにわたしを見ている。
挨拶が終わり、それぞれが自分の持ち場に移動するとき、セレイユに呼び止められる。
「まさか、ユナが参加するとは思っていませんでした」
「わたしも思わなかったよ。でも、わたしが参加することに、そっちの生徒は納得したの?」
「同年代の女の子が参加する分には、なにも問題はないですよ。みんな、同年代では自分が強いと思っていますから」
今回の交流会に選ばれるだけの学生だ。優秀な部類に入るのだろう。
「それに、わたしはユナにリベンジができるのは嬉しい。今度は勝たせてもらいますよ」
「負けるつもりはないよ」
やるからには勝ちたい。
セレイユは宣言すると、離れていく。
わたしはシアのところに移動する。
「シア、わたしはどこの旗を守れば?」
「ユーナさんは、あそこの旗をお願いします」
シアが一番隅にある旗を指差す。
「ユーナさん。えっと、適当に頑張ってください」
「やるからには、一応、頑張るよ」
セレイユにも勝負宣言されてしまったし、それなりに頑張るつもりだ。
ゲームは楽しむのが一番。
わたしは、自分が守る旗のところに移動する。旗は、わたしの身長より高い。手を上げた位置ぐらいにある。
この旗を守るのが、わたしの役目だ。チームプレーができないわたしには、合っているかもしれない。
シアのほうを見ると、少し離れた旗にいて、目が合うと手を振ってくれる。
そして、生徒全員が位置に付くと、先生が開始の合図を出す。生徒たちは走ることもなく、ゆっくりと相手の旗に向かって歩き出す。
わたしのところにセレイユがやってくると思ったら、違う生徒がやってきた。
セレイユは少し離れたところで、動かずにわたしのほうを見ている。
「あなた、どこを見ているのですか? あなたの旗はわたしがもらいます」
肩まで髪を伸ばしたユーファリアの生徒が、わたしに向かって言う。
「あなたが、本来の学生ではないとは聞いています。セレイユ様に、あなたの旗を狙わせてほしいと頼まれましたが、本来の学生でもない生徒の旗を、セレイユ様に任せるわけにはいきません」
「つまり、あなたは一番弱いってこと?」
「残念ながら、そうです。だから、あなたの旗を取るのが、わたしの役目です」
弱いと言ったのに、怒った様子はない。
自分の役目と言い切るところが、カッコいい。好感が持てる。
「それでは、いきます!」
女の子は手に魔力を集めると、風魔法を放つ。わたしは同じ風魔法で相殺する。
「得意魔法は、わたしと同じ風魔法ですか?」
「それはどうかな」
女の子は白線の周りを走り出す。わたしも旗を中心に女の子を追いかけるように回る。女の子は風魔法を飛ばしてくる。だけど、わたしはそれに合わせるように相殺させる。
面白い。
女の子とわたしの攻防が続く。女の子は空気弾を使って、わたしを吹き飛ばそうとするが、わたしは防ぐ。女の子は攻撃の合間に旗を狙ってきたりする。わたしはその攻撃を全て相殺して旗を守る。
女の子は諦めず、何度も攻撃を仕掛けてくる。
わたしは隙を見せない。
「はぁ、はぁ」
女の子は次第に息を切らしていく。女の子とわたしとでは移動距離が違う。女の子が数歩移動するところ、わたしは一歩でいい。遠くから攻撃をする女の子のほうが必然的に動く距離は長くなる。
女の子は足を止める。
「強いですね」
「簡単に、旗を取られるわけにはいかないからね」
「最後に、あなたごと、吹き飛ばさせていただきます。これで、旗を倒すことができなかったら、諦めます」
女の子はそう言うと両手を前で合わせると、女の子を中心に風が吹き始める。
今までの中で、一番強い。
「行きます!」
彼女は宣言すると、腕を前に伸ばす。すると、突風がわたしに向けて飛んでくる。
わたしは土魔法で壁を△のように作り、風を左右に逃がす。
「あなた、土魔法も使えたのね」
「だから、初めに言ったでしょう。どうかなって」
「わたし1人では、あなたの旗を倒すことはできそうもないですね」
女の子はそう言うと、後ろに下がる。
一度、下がって、他の生徒と相談するみたいだ。
セレイユのほうを見ると、動かずにわたしを見ていた。
最後の交流会が始まりました。
ちょっと、団体戦を書くのが難しいので、特殊ルールになりますので、よろしくお願いします。
※1/25に11.5巻が発売します。よろしくお願いします。
※書籍作業は少し落ち着きました。あと、12巻の店舗特典を書いたり、確定申告がありますので、感想の返信は、もうしばらくお休みにさせていただきます。
※誤字を報告をしてくださっている読者様、ありがとうございます。お礼の返事が出来ませんので、ここで失礼します。