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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ユーファリアの街に行く
523/928

518 クマさん、ノアのお願いを聞く

 わたしとノアは見やすそうな場所に移動する。

 周りにはユーファリアの学生や先生。それから学生の家族と思われる人もいる。

 完全にアウェイだね。シアたち王都の学生たちには頑張ってほしいものだ。

 そのユーファリアの学生や先生たちは自分たちで用意したのか椅子に座っている。


「みんなの分の椅子ぐらい用意してくれてもいいと思うんだけど」

「一般に開放はしていないみたいですから、仕方ないと思います。それにどれだけの人が見に来るかも分かりませんから」

「まあ、椅子がなければ、用意すればいいだけだけどね」


 わたしはクマボックスから二人分の椅子を取り出し、ノアに座るように言う。


「ありがとうございます」

 

 椅子に座って待っていると、開会式のようなものが始まる。先生が生徒に向かって言葉を贈る。

 力を発揮してほしいとか、お互いに切磋琢磨してほしいとか、たとえ力及ばず負けたとしても、来年頑張ってほしいとか、無駄に話が長い。

 来年とか、今年で卒業する人はいないの? と心の中でツッコミを入れる。当然だけどシアより年上の人ももちろんいる。


 そして長い話も終わり、交流会が始まる。

 一人の先生がグラウンドの中央に移動し魔法を使うと、地面から土が盛りあがり棒のようなものが出る。さらに棒の上には四角い的のようなものも作られる。


「あれに向かって魔法を放つみたいですね」


 確かに土魔法で作った的なら、作るのも簡単だ。弓と違って魔法は命中すれば破壊される。壊れるたびに的を作るのは手間がかかる。でも、土魔法の的なら簡単に作れる。

 先生が等間隔に的を作っていき、距離も高さも違う的が出来上がる。

 そして、準備が終わると、これから風の魔法による、的当てが始まると説明される。時間内に手前の的から当てていき、どこまで遠くの的を当てられるかを競うらしい。

 まずはユーファリアの女子学生が風魔法を放っていく。

 風の刃を飛ばしたのか、土の的が切れる。周りから小さな歓声があがる。女の子は一枚、二枚と次々と順調に命中させていくが、5枚目でミスる。でも、時間内なら、何度でも挑戦できるみたいだ。女の子は再度風魔法を放って切る。だけど、遠くなればなるほど、命中率が下がり、威力も下がる。結局、時間内に命中できたのは5枚目までだった。

 一枚目の的までの距離が10mぐらいで、次の的は2mおきぐらいの間隔で置かれている。ユーファリアの女の子は風魔法を18mほどの的まで命中させることができたことになる。

 次に王都の女子学生がでてくる。交互にやるみたいだ。王都の女の子は6枚まで当てたところで時間となった。

 女の子は嬉しそうにしている。

 先生が壊れた的を作り直し、次のユーファリアの男子学生が始める。


「ああ。早く、わたしも魔法を使いたいです」


 魔法を使う学生を羨ましそうに見ながらノアが言う。


「そういえば、ノアは魔法の練習はしないの? 10歳ぐらいから、覚えるものなんでしょう?」


 学園祭のときに、そんな話をしたことを思い出す。

 この世界では魔力が安定するために、魔法を覚えるのは10歳になってからだと言っていた。安定しない状態で魔力を集めたり、魔法を使ったりすると、魔法が使えなくなる場合があるためとか。


「はい。わたしも早く学びたいんですが、お父様からは11歳になるまでダメと言われています。魔力の安定を完全にするためみたいです」

「つまり、年齢が高いほど、魔力が安定するってこと?」

「そうです。ユナさん、魔法を使っていますよね? どうして、そんなことを聞くんですか?」

「うぅ、それは……」


 わたしの質問は基本的な質問だったらしい。しかも、魔法を使っているわたしが知らないとおかしかったみたいだ。


「その、わたしは魔法は自分で覚えたから、その辺りのことはなにも知らないんだよ」

「そ、そうなんですか? お父様やお母様から教わらなかったのですか?」

「親とかもいないし、魔法を教えてくれる人もいなかったから」


 嘘は言っていない。この世界に親はいない。それに元の世界に両親がいたとしても魔法の扱いは教わっていない。魔法の使い方を教えてくれたのはゲームの中のNPCだ。

 だから、知らないのは本当のことだ。


「ごめんなさい。ユナさんに両親がいなかったのは知らなかったので」

「ああ、気にしないでいいよ。それに言っていなかったんだから、仕方ないよ」


 ノアが悲しい表情をしたので、とっさに答える。勘違いをさせてしまったみたいだ。

 でも、さすがにこことは違う世界に両親がいるとも言えないので、曖昧に答えるしかない。


「でも、それならユナさんは凄いです。誰にも教わらなかったなんて」


 少し後ろめたいけど、仕方ない。

 わたしは話を逸らすため、久しぶりに秘技の話逸らしを発動する。


「そういえば、ノアの誕生日って」


 わたしが尋ねると、ノアは嬉しそうな表情になる。


「実は、誕生日はもうすぐなんです」

「そうなの!?」

「はい。だから、楽しみなんです」

「それじゃ、プレゼントを用意しないといけないね。なにか欲しいものはある? あっ、でも無理なことはダメだよ。くまゆるがほしいとか、くまきゅうがほしいとか」


 流石にくまゆるとくまきゅうが欲しいと言われてもプレゼントすることはできない。


「そんなお願いはしませんよ。もちろん、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんは欲しいです。でも、そんなお願いをしたら、ユナさんに嫌われることぐらい分かっています」


 ノアは頬を膨らませる。


「ごめん、冗談だよ」


 半分本気だったけど。ノアなら言いかねないかと思ったりした。


「でも、ユナさんがそう言ってくださるのなら、お願いがあります。わたしに魔法を教えてくれませんか」


 ノアは少し考えてから、そんなことを言い出した。


「魔法?」

「はい。もちろん、お父様が許してくださったらです。毎日じゃありません。ユナさんが空いた時間のときだけでいいです」


 魔法か。一応、新人冒険者の女の子に魔法を教えたことはある。でも、女の子には基本が身についており、わたしは魔法が強くなるように教えてあげただけ。

 女の子は魔法が強くなって喜んでいたので、教え方は間違っていないはず。

 でも、一からとなると教えられるか微妙なところだ。下手な教え方をして、ノアが魔法を使えなくなっても困る。魔法を使ったことのないノアに教えるのは不安がある。


「ごめん。ちょっと約束はできないかも」

「そうですか」


 ノアはしょぼんと悲しそうな表情をする。


「別に教えたくないわけじゃないんだよ。ただ、わたしに教えられるか分からないからね。魔法を教えるかどうかは別にして、他にお願いはない?」

「うぅ、分かりました。それじゃ、もう一つ、お願いがあります。大きいくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみが欲しいです」

「大きいぬいぐるみって、このぐらい?」


 わたしは子熊サイズより、少し大きいぐらいのサイズを手で表してみる。


「違います。本当の大きさのくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみです」


 ノアが大きく手を広げて、体いっぱいに使って大きさを表現する。

 どうやら、等身大のくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみが欲しいらしい。


「えっと、大きくない?」


 想像してみるが、大きい。ミサにプレゼントしたくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみの何倍あるんだろう?

 布も綿もかなりの量を使用しそうだ。

 それにそんなのを作っても邪魔になりそうだ。

 普通の家に住んでいるなら「大きいと邪魔になるよ」と言えるけど。しかし、貴族であるノアの家は普通の家よりも、また領主だけあって他の貴族の家よりも大きく、ゆえに当然ながらノアの部屋もまた広い。確かにノアの部屋には、等身大くまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを置くスペースくらい十分すぎるほどあるだろう。


「ミサの誕生日パーティーのときにユナさんからぬいぐるみをプレゼントされたのを見たとき、大きいくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみが欲しいと思ったんです。お金が必要でしたら、お小遣いをお渡ししますから、作ってください」

「お小遣いって、貴族なのに貰っているの?」


 貴族って、お小遣いっていうよりは、欲しいものを親に言って、買ってもらうイメージがある。


「自分の街で売っている物の価格を把握することも勉強なので、一定の金額のお小遣いを貰って、街で買い物をしています」


 そして、小さい声で「最近はユナさんのお店でパンを買ってばかりですが……」などと目を逸らしながら言うのが聞こえた。

 ああ、確かに1人でお店に来て、パンを食べているね。

 あれはお小遣いを貰って、お店に食べに来ていたんだね。

 言われてみれば、思い当たる節がある。 

 この街に来ても、いろいろと品物の価格を確認している姿もあった。


「だから、この街でも価格を気にしていたんだね」

「お父様にユーファリアで見たことを報告しないといけませんから。そうしないと、次のお出掛けができなくなってしまいます」


 わたしは無意識にノアの頭を撫でていた。


「な、なんですか?」

「偉いと思ってね」

「ユナさんやフィナとお出掛けをするためです」


 それでも偉いと思う。 


「なので、お金が必要なら言ってください」

「ぬいぐるみのお金は気にしないでいいけど。ただ、作るのが大変かなと思って」


 主に頼む予定のシェリーが。


「そうですよね。……それじゃ、わたしも作るのを手伝います!」


 ノアは少し考えて、良いことを思い付いたような表情をする。


「手伝ったら、プレゼントにならないよ」

「それでも、いいです」


 ノアは力強く言う。

 ちょっと、等身大のくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみについても保留かな。

 わたし1人では判断ができない。

 まずはシェリーに相談してからだ。

 でも、一緒に作るのは、良い思い出になるし、愛着も湧く。悪いことではない。

 ノアへの誕生日プレゼントに大きなくまゆるとくまきゅうのぬいぐるみを候補の1つに挙げておくことにする。

 そういえば、フィナの誕生日っていつだろう?



ノアの誕生日が近いそうです。


※誤字脱字の報告ありがとうございます。

新システムの誤字脱字のお礼の返信が書けないので、ここで失礼します。


【お知らせ】活動報告にて、12巻の店舗特典と書籍の書下ろしのSSショートストーリーのリクエストを募集しています。参考にさせていただければと思いますので、よろしくお願いします。


※感想の返信ができず、申し訳ありません。来年まで無理そうです。

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― 新着の感想 ―
[一言] カップラーメンの価格を知らない政治家とかもいますからね、教育は大事
[気になる点] お小遣いの話、海辺りでしてたような? 週1のおやつがプリンで…みたいな流れで。
[気になる点] 「ミサの誕生日パーティーのときにユナさんからぬいぐるみをプレゼントされたのを見たとき、大きいくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんのぬいぐるみが欲しいと思ったんです。お金が必要でしたら、お小…
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