504 クマさん、シアに会いに行く
国王陛下や王妃様、ティリアは遠慮なく二個目の飴細工に手を伸ばす。
残っているからいいけど、糖分の取り過ぎはよくないので飴細工が入っている重箱は仕舞う。
国王陛下は残念そうにしたが、大人になってからの甘いものは気をつけないといけない。
わたしはフローラ姫が一個目の飴細工を食べ終わるのを見て、クマボックスから絵本を取り出す。
「新しい絵本です」
絵本を差し出すと、フローラ姫は嬉しそうに受け取ってくれる。
「くまさん、ありがとう」
フローラ姫は満面の笑みを浮かべると、絵本を読み始める。
「新しい絵本?」
ティリアは椅子から立ち上がると、フローラ姫のところに移動する。
「フローラ、少しだけ、見せて」
ティリアは絵本に手を伸ばす。
でも、フローラ姫は体を張って絵本を守ろうとする。
「とっちゃだめ!」
「少しだけ」
「だめ!」
「それじゃ、一緒に見させて、それならいいでしょう?」
ティリアがお願いすると、フローラ姫は絵本とティリアを交互に見る。
「うん、いいよ」
ティリアはフローラ姫の頭を撫でて、椅子をフローラ姫の隣に運ぶと座る。
仲良し姉妹だ。
「アンジュさん、あとでエレローラさんに複写してもらってください」
「はい、後でお伝えしておきます」
わたしの言葉に新しいお茶を淹れていたアンジュさんが嬉しそうにする。アンジュさんも絵本が欲しかったんだね。
「そういえば、エレローラさんは?」
いつもなら、国王陛下と一緒にやってくる。でも、今日は来ていない。
「あいつは、仕事だ。今日は外に出ているはずだ」
仕事しているんだ。珍しいこともあるものだ。もしかして、雨が降るかもしれない。
でも、来ないってことはエレローラさんの分の飴細工を用意したほうがいいかな? あとで文句を言われても困るし。
飴細工を食べた国王陛下は仕事に戻っていき、王妃様も用事があるそうで、部屋から出ていった。
アンジュさんは飴細工を持って、ゼレフさんのところに向かった。
わたしはフローラ姫とティリアの願いもあって、通常サイズのくまゆるとくまきゅうを召喚する。
二人はそれぞれのお腹に抱きつく。
「柔らかい。幸せ」
ティリアはくまゆるのお腹に顔を埋める。
それを真似をして、フローラ姫もくまきゅうのお腹を抱き締める。
部屋が広いと、くまゆるとくまきゅうを召喚しても大丈夫だからいいね。
「くまゆるに乗って、城の中を散歩したい」
「そんなことをしたら、騒ぎになるからダメだよ」
ティリアの独り言を却下する。
「うぅ、確かにくまゆるを見た騎士たちが、くまゆるに攻撃を仕掛けてきたら、困るね」
「くまさん、こうげきされるの?」
「部屋の外を歩くと、そうなるかもって話だよ」
「くまさん、そとにでちゃ、だめだよ」
ティリアの話を聞いたフローラ姫はくまきゅうに抱きついて、どこにも行かせないようにする。
くまきゅうは「くぅ~ん」と鳴くと、お腹に抱きついているフローラ姫の頭に優しく手を置く。
「こんなに懐いているクマも凄いと思ったけど、言葉が理解できるクマって、信じられないよね。くまゆる、わたしを背中に乗せてくれる?」
ティリアがお願いすると、くまゆるは腰を下ろし、乗りやすいようにしてくれる。
「ありがとう」
ティリアはお礼を言って、くまゆるの背中に乗る。
「おねえちゃん、ずるい。わたしものりたい」
フローラ姫の言葉を聞いて、くまきゅうは腰を下ろす。フローラ姫が乗ろうとするが、腰を下ろしているくまきゅうでも、高くて乗れない。
わたしはフローラ姫の腰を掴み、持ち上げて、くまきゅうの背中の上に乗せてあげる。
「くまさん、ありがとう」
そして、くまゆるとくまきゅうに乗った二人は部屋の中を歩く。
今日は特に予定もないので、フローラ姫とティリアとのんびりと過ごす。しばらくすると遊び疲れたフローラ姫はくまきゅうの上で、気持ち良さそうに寝てしまう。
戻ってきたアンジュさんが優しくフローラ姫を持ち上げ、ベッドに寝かせる。
「くまさん……」
寝言を言う。くまさんって、わたしのことかな? それともさっきまで一緒にいたくまきゅうのことかな。
ベッドの上に寝かされたフローラ姫は、アンジュさんの手によって隣に置かれたくまきゅうぬいぐるみに、無意識に抱きつく。
その顔は幸せそうにしている。
「それじゃ、わたしは帰るね」
「ユナ、今日はありがとうね。今度もわたしがいるときに来てね」
「まあ、タイミングが合えばね。フローラ姫に、また来るねって伝えておいて」
「起きたとき、ユナとくまゆるたちがいなかったら、泣くかもね」
「大丈夫だよ。そのときのためのぬいぐるみだよ」
ティリアと別れたわたしは、お城を出る。
時間はまだある。学園が休みってことは、出掛けていなければ家にシアがいる可能性がある。飴細工もあるし、シアに会いに行くことにする。
もし、いなかったら、メイドのスリリナさんに渡しておけばいい。それにエレローラさんの分も渡しておけば、あとで文句を言われることもないはずだ。
エレローラさんのお屋敷に着くと、メイドのスリリナさんが出迎えてくれる。
「シアはいる?」
「はい、今は花壇のところにいます」
わたしはスリリナさんの案内で花壇がある庭に移動する。
「ユナさん、来てくれたんですか」
わたしに気づいたシアが嬉しそうに振り向く。
その顔には土の汚れがついていた。
「なにをしていたの?」
「花壇を綺麗にしていたんです」
「本当はわたし一人でするつもりだったのですが、シア様が手伝いを申し出てくれまして」
「学校が休みだったから、お手伝いしていたんです」
雑草は綺麗に処理され、花壇には綺麗な花が咲いている。
「ここって、わたしが作った花壇?」
国王の誕生祭に来たときに、スリリナさんのお手伝いで花壇を作ったことがあった。そのときの花壇に花が咲いている。
「はい、ユナさんのおかげで綺麗な花が咲くことができました」
スリリナさんは嬉しそうにする。
「スリリナさんが頑張って、育てたからだよ」
「毎日、お世話をしていましたからね」
シアにも言われてスリリナさんは少し照れた表情をする。
「それではお茶の用意をしますので、家の中に入りましょう。シア様は部屋に行く前に、顔を洗ってくださいね」
シアが頬に手をやると、汚れが薄く広がる。
それを見て、わたしとスリリナさんは笑みを浮かべる。
「うぅ、疲れました」
顔を洗ったシアが椅子に寄りかかる。
「シア様、今日はありがとうございました。おかげで早く終わりました」
スリリナさんがお茶を運んできてくれる。わたしはお礼を言って受け取る。
「仕事のあとのお茶は美味しいね。それで、ユナさんはどうしたんですか。用事ですか? もちろん、用事がなくても、いつでも来てくれても構いませんよ」
同じようなセリフをノアに言われたことがある。やっぱり、姉妹だね。
「どうして、笑うんですか?」
「ノアにも同じようなことを言われたからね。今日はシアにお土産を持ってきたんだよ。後、お城に行ったんだけど、エレローラさんにも会えなかったから、エレローラさんにも渡してもらおうかと思って」
わたしはクマボックスから、飴細工が入った重箱を取り出す。
「なんですか?」
「疲れているみたいだし、ちょうどいいお菓子だよ」
疲れたときは甘いものだ。
わたしは重箱の箱を開ける。数は減ったけど、残っている。
「お菓子ですか?」
シアは飴細工を見てきた人たちと同じ反応をする。
「甘くて美味しいお菓子だよ。味は同じだから、好きなのを選んで」
シアは不思議そうに飴細工を見て、ウサギの形をした飴細工を手にする。
「綺麗、食べるのがもったいないですね」
「スリリナさんも、どうぞ」
わたしはスリリナさんを誘う。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
スリリナさんも椅子に座り、シアと同じような顔をして、赤い花の飴細工を手にする。
そして、シアとスリリナさんは飴細工を口に入れる。
「美味しい」
「はい。甘くて美味しいです」
「ユナさんって、甘いお菓子が好きですよね」
「そう?」
自分はそんなに甘党ではないはず。
「だって、学園祭のときも綿菓子を教えてくれたし、プリンもケーキも甘いお菓子です」
そう言われると、甘いお菓子が多い。
でも、ポテトチップスやポップコーンも作っているよ。
それを証明するためにポップコーンを出してあげる。
「これはなんですか?」
「ポップコーンって、お菓子だよ。これは甘くないよ」
「えっと、手で掴んで食べればいいんですか?」
そうだよね。シアは貴族の令嬢だ。基本、手掴みはしない。
「うん、手で掴んで食べるものだけど、少しべたつくかも?」
「シア様、スプーンをお持ちしますか?」
「このまま食べるよ」
シアはポップコーンに手を伸ばし、数粒掴むと、口の中に入れる。
「しょっぱい。柔らかいです。これもユナさんが作ったんですか?」
「さっきの飴細工は、ちょっと遠い場所でお店で売られていたものだけど、これはわたしが作ったよ」
「遠くでは、わたしが知らない食べ物がいっぱいあるんですね」
シアはポップコーンと飴細工を交互に食べる。
どうやら、どっちも気に入ってもらえたようだ。
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