502 クマさん、ポップコーンを作る
さて、できるかな?
わたしは干していたトウモロコシを見る。タールグイの島から取ってきたトウモロコシだ。触ると硬く乾燥している。
まあ、できたらラッキーぐらいに思いながら、ポップコーンを作るための準備をする。
わたしはフライパンを用意し、火をおこし、油を引き、乾燥したトウモロコシの粒を入れる。初めは実験なので粒は少量にする。
軽くフライパンの中でトウモロコシの粒を転がす。
これで上手くいけば爆発して、ポップコーンができるはずだ。
あとは待つばかりだ。
フライパンの上にあるトウモロコシの粒を見て、気付く。
……おっと、見ている場合じゃない。蓋をするのを忘れるところだった。わたしは慌ててフライパンに蓋をする。蓋をしなかったら、大変なことになるところだった。ポップコーンはできる瞬間、弾け飛ぶ。蓋をしなければ間違いなくフライパンから飛び出す。
でも、蓋をするとポップコーンが出来上がる瞬間を見ることができないのは残念だ。
屋台で見たことがあるように、飛び出さないような囲いを作れば、大丈夫かな?
そんなことを考えていると、フライパンの中で「ポン!」と弾ける音がする。1つが弾けると次から次へと「ポン! ポン!」と音を立てて何度も弾ける。
おお、無事にできているみたいだ。
ここで蓋を開けて確かめたいのをグッと我慢する。下手に蓋を開けると大変なことになるのは目に見えている。
フライパンを動かしながら音が止むのを待つ。
しばらくすると音が止む。
もう、いいかな?
ゆっくりと蓋を開け、隙間から覗く。
おお、できている。
全ての粒とはいかなかったけど、白いポップコーンができている。
わたしは蓋を開けると塩を振りかける。
ポップコーンに塩が付いたところで火を止めて、お皿に乗せる。
さて、味のほうはどうかな?
わたしはクマさんパペットでポップコーンを掴むと口の中に入れる。
「あつ!」
クマさんパペットのせいで掴んだときは気付かなかったけど、できたばかりだったのでポップコーンは熱かった。
だけど、口の中に入ったポップコーンはわたしが知っているポップコーンだった。
わたしは今度は気を付けながら口に入れる。うん、懐かしい味だ。ポテトチップスに続き、スナック菓子が増えた。
これでコーラとテレビがあったら完璧だったね。アニメでも見ながら、優雅な一日が過ごせたのに。せめて、漫画か小説があれば、引きこもりの日常が戻ってきたけど残念だ。
でも、上手に作れて良かった。わたしは口の中にポップコーンを放り込む。
塩味以外にもカレー味やチーズ味も作れそうだね。あと、醤油もあるから、醤油バター味とかもいいかも。スナックのパッケージを思い出しながら考える。
まだ、トウモロコシの粒は残っているから、作ってみようかな。
そう思ったわたしは味見係として、フィナを召喚することにする。
わたしは召喚道具、クマフォンを出す。
「ああ、フィナ。今、大丈夫? うん、待っているから、それじゃ、すぐに来てね」
クマフォンって便利だね。
元の世界じゃ、スマフォは持っていても、通話機能はほとんど使っていなかった。この世界に来て、通信は便利だと再確認する。
わたしはフィナが来る前にポップコーンを作ることにする。
のんびりとポップコーンを作っていると、息を切らしたフィナがやってきた。
「ユ、ユナお姉ちゃん、それでなんですか?」
そんなに息を切らして、走ってこなくてもよかったのに。わたしは額に汗を掻いているフィナにタオルを出してあげる。
「お菓子を作ったから、味見をしてもらおうと思ってね」
「うぅ、それならそう言ってください。いきなり、今大丈夫?って聞かれて、大丈夫って答えたら、直ぐに来てって言われたから」
そんなことを言ったっけ? 言ったような気もするけど、とりあえずフィナを椅子に座らせ、冷えた果汁を出してあげる。フィナが果汁を飲んで落ち着くと、お皿の上に乗せたポップコーンをフィナの前に置く。
「これはなんですか?」
フィナはポップコーンを見て、尋ねてくる。初めて見るお菓子だから仕方ない。
「ポップコーンっていうお菓子だよ。いろいろな味を作ってみたから、食べてみて」
「えっと、スプーンは?」
「スプーン?」
「フォークでも」
まさか、ポップコーンを食べるのにスプーンやフォークが欲しいと言われるとは思わなかった。
確かに何も知識がなければ、必要と思っても仕方ないかもしれない。
ポップコーンは食べたあとってポテトチップスと同じようにべたつく。手が汚れないように箸とかで食べる人もいるけどスプーンとフォークを使う話はあまり聞いたことがない。
「ポテトチップスみたいに手で食べるといいよ」
フィナは自分の手を見てから、手でポップコーンを掴み、口の中に入れる。
「どう?」
「塩味です」
だよね~
基本、ポップコーンに味らしい味はない。
「でも、柔らかくて、不思議な感じです。でも、固い部分もあります」
ああ、粒っていうか、たまに硬い部分もあるよね。
「いろいろと味付けをしたから、食べてみて」
カレー味や醤油味、チーズ味もある。
「どれも美味しいです」
「よかった」
「これって、どうやって作ったんですか?」
「トウモロコシだよ。前に食べたよね」
前にシュリとタールグイに行ったときに採ってきたトウモロコシをテーブルの上に出す。(423話参照)
「はい、茹でて食べたら美味しかったです」
「まあ、あれと、ちょっと違う種類なんだけど。この粒を乾燥させてから作るの」
わたしは乾燥させたトウモロコシの粒を見せる。
「凄い硬いです。これがあんなに柔らかい白いものになるんですか?」
論より証拠。わたしはフィナの前でポップコーンを作って見せる。
火にかけたフライパンに油を引いて、乾燥したトウモロコシの粒を入れる。そして、蓋を置く。
しばらくすると「ポン!」と音がして、フィナが驚く。さらに「ポン、ポン、ポン」と連続で音がしてさらにフィナは驚く。
フィナの驚く顔を見ていると笑みがこぼれる。
「ユナお姉ちゃん、凄い音がしているよ。いいの!?」
「いいんだよ。今、蓋を取ると大変なことになるからね」
本当なら、ガラスの蓋でポップコーンになるところを見せてあげたかった。
見せるだけなら、一粒だけでいいかもしれない。
音がしなくなり、蓋を開けるとトウモロコシの粒は消え、白いポップコーンに変わる。
フィナは不思議そうにフライパンの中を見ている。
「今度は少しだけ入れるから見てて」
わたしは出来上がったポップコーンをお皿に移し、3粒ほどフライパンに入れる。
今度は蓋をしないでポップコーンを作る。
そして、しばらくすると、ポンっと音がして、ポップコーンは跳ね上がり、フライパンの上から飛び出す。
「まあ、こんな感じになるから、蓋が必要なわけ」
「あの硬い粒がこうなるなんて不思議です」
フィナは不思議そうにポップコーンを見ている。
それから、作ったポップコーンは来ることができなかったシュリへのお土産として、持って帰ってもらう。もちろん、ティルミナさんやゲンツさんに食べてもらっても構わない。
ただ一言、フィナに言っておく。
「別にお店に出すつもりはないって、ティルミナさんに言っておいてね」
ティルミナさんは新しい食べ物を見ると、お店に出すのか心配するので、伝えておいてもらう。
これ以上、お店の仕事を増やしたら、子供たちが大変なことになるし、パン屋がおかしなほうに行ってしまう。出すなら、学園祭の出し物や、屋台かな?
食べ物の話が続きましたが、ここでポップコーンの話を処理しておかないと、しばらく書けそうもなかったので、今回となりました。
そろそろ新しい章に入ると思います。
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