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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、和の国に行く
502/904

497 スズラン

カガリさんのお世話をしていたスズランのお話になります。

 わたしはカガリ様のお世話をしているスズランです。

 カガリ様はとても美しく、金色の長い髪をした綺麗な女性。わたしが幼い頃に会ったときから、その美しさは変わりません。何百年と生きていると聞いたときは信じられませんでしたが、衰えないカガリ様を見れば信じられます。

 リーネスの島には大蛇が封印されているという言い伝えが残っています。大蛇は国に災害をもたらし、多くの人が亡くなったと言われています。その大蛇を封印し、その封印を守っているのが狐様だと言われています。

 わたしは物語のようにその話を聞いて育ちました。わたしは狐が神様だと思っていました。

 ですが、島には本当に狐様がいて、長年大蛇の封印を守っていました。それがカガリ様です。

 初めて聞かされたときは驚きましたが、カガリ様の狐の耳と尻尾を見たとき、信じることができました。


 リーネスの島に渡り、カガリ様のお世話をします。

 ですが、今日のカガリ様は様子がおかしいです。話をしても上の空です。

 カガリ様に何度か話しかけると、しばらくは島に来ないでいいと言われました。わたしはその言葉に驚きました。どうしてなのか、尋ねました。わたしに不満があるなら、言ってほしい。悪いところがあれば直したい。

 でも、カガリ様のお言葉は予想を超えるものでした。

 なんでも、大蛇の封印が解けるかもしれないから、わたしを島に近づけたくないそうです。

 お酒を飲みながら言うので、冗談かと思いましたが、その顔は嘘を言っている顔や、いつものように冗談を言っている顔ではありませんでした。

 そのお言葉は本当のことだと感じました。


 カガリ様にお会いできなくなって数日後、城で仕事をしてると、街の外に多くの魔物が現れた話が出て、兵士たちは慌ただしく出て行きます。あの数の兵士が出て行くとなると、どれほどの数の魔物なのでしょうか?

 でも、きっと大丈夫なはずです。いつも、訓練している姿を見ています。

 兵士が出ていってしばらくしたとき、偶然に兵士が話している声が聞こえてきました。その会話の中に「大蛇が復活した」という言葉が聞こえました。

 わたしは聞き耳を立てようとしましたが、箝口令が敷かれているようで、兵士は上官に注意され、すぐに口を閉じてしまいます。

 大蛇が復活した。わたしの頭の中に、その言葉が何度も繰り返されます。

 カガリ様は!

 わたしは考える前に港に向けて駆け出していました。

 何度も転びそうになりますが、港まで走ります。街の中は魔物のことで騒ぎになっていますが、大蛇のことは騒がれていない。途中で馬車に乗ればよかったと気づいたのはあとのことでした。 


 港に着くと、騒がしい。

 わたしは辺りを見渡します。兵士の数が少ないですね。街の外に魔物が出たから、そちらに向かったのでしょうか。

 港に来ましたが、どうしたらいいか分からず歩いていると、スオウ王様とサクラ様がいました。


「サクラ様!」


 わたしはサクラ様のところに近づきます。


「大蛇が復活したのは本当ですか!?」

「スズラン、声が大きいです」

「申し訳ありません。それで本当なのですか?」


 わたしは小さな声で尋ねます。


「本当です。でも、もう大丈夫です。大蛇は倒されました」 

「本当なのですか?」

「本当です」

「それで、カガリ様は!?」


 わたしが尋ねると、サクラ様は困った表情を浮かべ、スオウ王様のほうに視線を向けます。


「カガリについての情報はない。これから、調査隊を組んで、島を探索する予定だ」

「それなら、わたしもその調査隊に入れてください」


 島には女性しか入れません。わたしは何度も行っているので、誰よりも詳しいです。ですが、島に行く許可は下りませんでした。


「まだ、魔物がいるかもしれない。自分の身を守れない者を連れていくことはできない。カガリについては分かり次第、連絡をする」


 スオウ王様のお言葉です。逆らうことはできません。


「……分かりました。カガリ様をよろしくお願いします」


 わたしは頭を下げる。

 カガリ様、生きていますよね。


 カガリ様の行方が分からないまま、数日が過ぎました。

 大蛇の解体が始まっていると聞いて、スオウ王様に島の上陸をお願いしますが、許可は下りませんでした。

 カガリ様のことをお尋ねしても、未だに確認中とのことです。

 確認中とはなんでしょう。

 生死の確認ってことでしょうか。それともスオウ王様のほうでも確認ができていないのでしょうか。


 わたしは何かを知っていると思われるサクラ様にお尋ねします。


「サクラ様、カガリ様について、なにか知っていることはありませんか?」

「それは……、伯父様より、お話があると思います。もうしばらく待ってもらえますか」


 サクラ様はなにかを知っているようです。でも、サクラ様の口からは言えないようです。

 カガリ様が亡くなっている可能性も考えないといけないかもしれません。もし、怪我をしていても、生きていれば、教えてくれるはずです。だけど、なにも教えてくださいません。


 さらに数日が過ぎ、スオウ王様に呼ばれます。

 カガリ様のことだと思います。

 わたしはもしものことも考えて、気持ちを強く持つ。

 深呼吸をして、心を落ち着かせます。


「スズランです」


 スオウ王様の許可をもらい、部屋の中に入る。部屋の中にはスオウ王様しかいません。人払いをしたのでしょうか。


「来たか」

「はい、呼ばれたのはカガリ様のことでしょうか?」

「ああ」

「それで、カガリ様は」


 わたしは手を握りしめ、声をあげたいところを抑えながら尋ねます。


「結論から言えば無事だ」

「カガリ様は生きているのですか!?」


 スオウ王様の言葉にわたしは前のめりになって、お尋ねします。


「ああ、生きている」

「よ、よかった」


 カガリ様が無事だと言うことを聞いて安堵し体の力が抜けました。

 もう、カガリ様が生きていることは諦めていました。今日も死んだことの報告だと思っていました。でも、違いました。でも、それなら、どうして今になって報告を? 考えられるのは大蛇と戦って、大怪我をしていたということかもしれません。


「お怪我のほうは?」


 わたしの質問にスオウ王様は、少し困ったような表情を浮かべます。


「……怪我のほうは大丈夫だ。カガリの状況は俺のほうから説明はできない。詳しくはカガリに会って、本人に聞いてくれ」


 スオウ王様は言いづらそうにおっしゃいます。


「分かりました。それでカガリ様はどこにいるのでしょうか?」


 早く、お会いしたい。


「トワの湖の屋敷にいる。確か、トワの湖には行ったことはあるよな」

「はい、カガリ様のお世話をするときに、一緒に行ったことがあります」

「カガリはあそこにいる」

「今から行ってきます」

「待て、行くなら、明日にしてほしい」


 飛び出そうとするわたしを止める。


「どうしてでしょうか?」

「それは、カガリからの頼みだ。今日はいろいろと準備をして、明日行ってくれ」

「わかりました。それで何を用意したらよろしいでしょうか?」

「むこうには何もないと思ってくれればいい」


 つまり、全て用意しないといけないということでしょう。

 わたしはお礼を言って、部屋をあとにしました。

 カガリ様が生きていたことに嬉しくなる。わたしはカガリ様に持って行くものを準備する。お腹を空かしているかもしれないので、食べ物にあとお酒、服も必要かもしれません。わたしは必要なものを頭の中で考える。

 カガリ様にすぐにでも会いたいですが、スオウ王様が言う通りに用意するものが多いので、出発は明日になりそうです。


 翌日、カガリ様のために用意したものを馬車に乗せて出発する。馬車を走らせている途中で、クマのようなものに乗った子供たちとすれ違ったような気がしますが、きっと気のせいです。


 馬車を走らせ、トワの湖のお屋敷に到着します。

 ここにカガリ様がいる。

 扉に手をかける。


「開いている」


 扉を開けて建物の中に入ると、中は静まり返っています。


「カガリ様、いらっしゃいますか ?」


 わたしは玄関から小さな声で尋ねます。

 どちらにいるんでしょうか。

 一階は調理場、倉庫などでこの階にはいないはずです。

 わたしは二階に上がります。二階はいくつか部屋があります。ここにいるかもしれません。

 そう思ったとき、「お腹が減ったのじゃ!」と声が上からしました。

 カガリ様の声です。

 わたしは階段を駆け上がります。


「妾もついていけばよかった。スズランはいつ来るのじゃ」


 あの部屋から聞こえてきます。ドアが開いていたので声が漏れていたみたいです。


「カガリ様、遅れて申し訳ありません」


 部屋の中に入ると、そこにはカガリ様が……いなかった。いたのは金色の髪をした小さな女の子でした。


「スズラン?」


 小さな女の子はわたしの名前を口にします。

 わたしの名前を知っているの?

 わたしは小さな女の子に近づきます。

 凄く綺麗な女の子です。でも、どこかで見たことがあるような気がします。


「スズラン、待っていたぞ。なにか作ってくれ」

「わたしのことを知っているの?」

「なにを言っておるんじゃ?」


 女の子は不思議そうにわたしを見ます。

 わたしはじっくりと女の子を見ます。この金色の綺麗な髪、この顔。もしかして、もしかするのでしょうか。


「もしかして、カガリ様の娘さんですか!?」

「……!」


 女の子は驚いた表情をする。


「カガリ様にこんな可愛い娘さんがいたんですね」


 どうして、教えてくれなかったのでしょうか?

 わたしは女の子を持ち上げます。

 女の子は軽く持ちあがります。凄く可愛いです。


「えっと、お名前はなんて言うの? お母さんはどこにいるの? お母さんに会いに来たんだけど」


 わたしが女の子に尋ねると、女の子は腕を振り上げると、ポカリとわたしの頭を叩く。


「なにを言っておる。妾がカガリじゃ。お主の目は節穴か!」

「……カガリ様?」


 わたしは腕の中にいる女の子を再度見ます。


「そうじゃ、カガリじゃ。大蛇との戦いで魔力を使い過ぎて、こんな姿になってしまったのじゃ」


 信じられません。魔力を使い過ぎたからと言って、子供の姿になるなんて聞いたことがありません。


「本当にカガリ様なのですか?」

「なんじゃ、お主しか知らないことを話せば信じてくれるのか? 料理を失敗した話か、森で迷子になって、泣いていたことか」

「そのことを知っているのは」

「妾だけじゃ」

「それじゃ、本当にカガリ様なのですか?」

「さっきから、言っているじゃろう」


 わたしの目から涙が流れ落ちる。

 カガリ様が目の前にいることを認識した瞬間、涙が出てしまったのです。


「生きていてくれて、よかったです」

「心配をかけたようじゃな」


 カガリ様が小さな手でわたしの頭に手を置いてくれます。


「カガリ様」


 わたしは小さくなったカガリ様を抱く。

 本当に生きていてくれた。わたしがカガリ様に抱きついていると、カガリ様のお腹が小さく「くぅ」と鳴る。

 わたしとカガリ様はお互いの顔を見ると、笑顔になる。


「それじゃ、今から料理を作りますね」


 カガリ様が大好物な、お稲荷さんを作ってあげよう。

 でも、それまで待ってくれるでしょうか。

 わたしは外にある馬車に向かいました。



ユナたちが街に行っている間に、カガリさんとスズランが無事に会いました。



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― 新着の感想 ―
このすずらんの話すごく好き
[一言] 体が小さくなったら声は高くなり同一人物と判断するのは難しいのでは?:某探偵の少年 そう思ったとき、「お腹が減ったのじゃ!」と声が上からしました。 カガリ様の声です。
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