495 クマさん、フィナたちと街を散策する
朝食を終えたわたしたちは街の散策に向かう。
「シノブは女の子にモテるんだね」
「その話は、もういいっすよ。そう言うユナは男はいないっすか?」
「いると思う?」
わたしは自分の姿をシノブに見せつける。
シノブはわたしの格好を見ると、すぐに納得する。
「ごめんなさいっす。でも、ユナは普通の格好をすればモテると思うっすよ。みんなもそう思うっすよね」
「はい、ユナお姉ちゃんは綺麗だから、男の人にモテると思います」
「うん、ユナ姉ちゃん、可愛いよ」
「お姉ちゃんより、綺麗だから、近寄ってくる男の人はいると思うよ」
お世辞と分かっていたけど、最後のルイミンの言葉でお世辞が決定した。あの顔が整って、スタイルがいいサーニャさんより、美人なわけがない。
それに一度として、男の人に近寄られたことはない。悪い意味で絡まれたことはたくさんあるけど。
「三人ともお世辞でも嬉しいよ。三人はわたしより可愛いから美人になるよ」
わたしより、確実にモテるだろうね。
わたしは話を打ち切り、街の中を散策する。
シュリが珍しいものを見つける度に、走り回ったりするのでフィナが呼び止める光景が続く。今では手を握って、勝手に走り出さないようにしている。手を繋いでる姿を見ると微笑ましい。
「ユナ姉ちゃん、あれは?」
シュリが見る先には団子の絵が描かれたのぼりがある。
「お団子屋さんだね」
シュリが食べたそうにしていたので、お団子を食べることにする。朝食を食べたばかりだけど、1人一本なら、大丈夫。代金を払おうとしたらシノブが払ってくれる。今回はお言葉に甘えることにする。
「柔らかいよ」
「色が綺麗だね」
ピンク、白、緑の三色だんご。
「みんな味が違うです」
うろ覚えだけど、ピンクは梅、白はすあま、緑はよもぎだっけ?
間違っていたり、こっちの世界で違ったら恥ずかしいので、その辺りの説明はスルーする。美味しければ、問題はない。
団子屋を後にしたわたしたちは、シュリが暑いと言うのでかき氷を食べることにする。
「冷たくて、美味しい」
「氷を削って食べるんですね」
もしかして、ルイミンはかき氷は初めてなのかな?
かき氷はクリモニアでも売っている。ハチミツをかけたりすると聞いた。
こっちでは抹茶、甘い蜜(シロップなのかな?)。
「三人とも美味しい?」
「うん」
「はい」
「でも、シノブさん。本当にいいのですか?」
今回のかき氷の代金もシノブ持ちだ。
「気にしないでいいっすよ。フィナとルイミンには助けてもらったすから。お礼だと思ってくださいっす」
「わたし、なにもしていない……」
シノブの返答にかき氷を食べていたシュリの手が止まる。シノブは悲しげな表情をするシュリに慌てる。
「シュ、シュリはフィナの妹っす。それにサクラ様の大切な友人っす。だから、気にしないで食べてくださいっす」
「そうだよ。シュリは気にしないで、たくさん食べていいんだよ。シノブは優しいから、なんでも買ってくれるよ」
わたしはシノブをチラッと見る。
「そ、そうっす。好きなだけ食べてくださいっす」
「いいの?」
「いいよ。もし、シノブが払わなくても、わたしが払うよ。シュリにはいつもお世話になっているからね」
わたしはクマさんパペットでシュリの頭を撫でる。
「うん、ユナ姉ちゃん、ありがとう」
シュリはかき氷を食べ始める。
「ユナ、いいとこだけ持っていくなんて、ズルいっす」
それはシノブがフィナとルイミンだけ感謝の言葉を送って、シュリを除け者にした罰だ。もう少し、言葉を選んで喋らないとダメだよ。
かき氷を食べ終えたあとも、他の店を回ったりする。
「綺麗な服でした」
フィナは和服を見た感想を漏らす。
着物姿のフィナたちの姿も見てみたいね。買ってあげると言ったけど、あまりにも値段が高かったのを見て、フィナは首を横に振った。だから、シュリに買ってあげることも、ルイミンに買ってあげることもできなかった。
エレローラさんじゃないけど、フィナを着せ替え人形みたいにしたくなる。
街の風景を眺めながら歩いていると、どこからともなく、チリ~ン、チリ~ンと音が聞こえてくる。フィナも聞こえたようで、口にする。
「綺麗な音が聞こえてきます」
「どこ?」
「あっちのほうから聞こえてきます」
ルイミンが指差す先には風鈴が吊るされている屋台がある。
わたしの視線の先には屋台があり、風鈴がたくさん吊るされている。風が吹くたびに風鈴の音をわたしたちのところまで運んでくる。
「風鈴だね(っす)」
わたしとシノブの言葉が重なる。
「風鈴?」
「ガラスで作ったもので、風で音色を奏でてくれるものだよ」
「ユナは、どうしてそんなに詳しいっすか? 納豆も知っていたし、平気で食べるし、もしかして、この国の出身だったりします?」
「違うよ。この国に似た国だよ。遠くにこの国と似たような国があるんだよ」
「この和の国に似た国っすか? 行ってみたいっすね」
その言葉にわたしは、なにも答えることはできなかった。
わたしとシノブは三人のところに向かう。三人は綺麗な風鈴の色や音色を聞いている。
「可愛いお嬢ちゃんたち。どうだい、買っていかないかい。しばらくここにいるから、親御さんに頼んでみたらどうだい?」
「お姉ちゃん」
シュリが欲しそうにしている。だけど、フィナは困っている。この辺りはわたしと違ってしっかりしている。
「その可愛い格好のクマの嬢ちゃん、妹さんにどうだい?」
わたしの格好を気にせずに売り込んでくる。さすが、商売人だ。ちなみにフィナとシュリはわたしの妹じゃないよ。その妹と思われているシュリがわたしのことを見ている。
ここでダメとは言えないわたしがいる。
「買ってあげるよ」
「本当!」
シュリは嬉しそうにする。この笑顔に勝てない。そんなシュリの隣にいるフィナがわたしのことを見ている。
「ユナお姉ちゃん。あまり、シュリを甘やかすのは……」
甘いのは分かっているけど、フィナもシュリもいい子だから、買ってあげたくなる。
「別にシュリのためじゃないよ。ティルミナさんへのお土産だよ。いつもティルミナさんにはお世話になっているから、わたしからのお礼だよ」
こう言えばフィナも抵抗はないはずだ。
フィナは「分かりました」と嬉しそうに言うと、シュリと一緒に風鈴を選び始める。
「ルイミンもムムルートさんの家と自分の家に飾る風鈴を選んでいいよ」
「いいんですか?」
「ムムルートさんとルイミンにはお世話になったからね」
なんだかんだ言って巻き込んだ理由を作ったのはわたしだ。ムムルートさんには感謝されたけど、ルイミンを危険な目に遭わせた事実は変わらない。まあ、そんなことを言ってもムムルートさんはお礼は受け取らないと思う。でも、風鈴ぐらいはお土産として渡しても、問題はないと思う。
「それなら、わたしが払うっすよ。フィナにはお世話になったっし、ムムルートさんはお礼を受け取ってくれなかったっすから」
「お爺ちゃんに、サクラちゃんに会いに行ってもいいけど、謝礼は受け取ってはダメって言われています」
話を聞いていたルイミンは手を大きく振って、シノブの申し出を断る。
風鈴ぐらいいいかと思うけど、持って帰ると怒られるのかもしれない。
「シノブには食事をご馳走になったし、今回はお土産だから、わたしが出すよ」
それにシノブにお金を出してもらったものを、わたしからのお土産として渡すことができなくなる。だから、今回はわたしが支払うことになった。
「シュリ、こっちのほうがいいんじゃない?」
「え~、こっちがいいよ」
「たしかにいいけど」
「わたしはこっちにしようかな」
「クマさんがあればクマさんにするのに」
シュリがそんなことを言う。
いや、あるわけがないよ。風鈴に描かれているのは綺麗な模様、水色や緑、涼しげな色合いが多い。動物もいるけど、残念ながらクマが描かれた風鈴はない。
「フィナ、あと孤児院やお店に飾るものも選んでおいて」
孤児院などのお土産はフィナにお願いして、わたしはノアとフローラ姫に買って行くお土産を選ぶことにする。あと、留守番しているカガリさんにも買っていくのもいいかもしれない。わたしは風鈴を見る。本当にいろいろな色の風鈴がある。どれにするのか迷う。
どれがいいかな?
わたしはフィナたちと一緒に風鈴を選ぶ。
「これでいいかな?」
フローラ姫には透明のガラスに赤色の花が描かれた風鈴を、ノアには青い魚が描かれた風鈴を選び、わたしも自分用に一つ選ぶ。
カガリさんへのお土産は狐の絵が描かれた風鈴だ。まあ、見たときから、これしかないと思っていた。
クマはないけど、狐はあるんだね。
そして、フィナたちも風鈴を選び終わる。
ルイミンが選んだ風鈴は緑色を使った風鈴だった。綺麗な波打ったような模様だ。エルフの村には合いそうだ。どうやら、二つとも同じようなものを選んだようだ。
フィナとシュリが選んだティルミナさんへのお土産は全体が薄青いガラスでできた風鈴だった。そこに模様が入っている。
くまさんの憩いの店への風鈴は鳥の絵が描かれていた。選んでいた会話からすると、コケッコウ繋がりみたいだ。
アンズのお店のくまさん食堂のは金魚の絵が描かれていた。魚繋がりで選んだみたいだ。それ以前に金魚いるんだね。
孤児院では花が描かれた風鈴をいくつか選んだ。孤児院は広いから、女子側と男子側とあったほうがいいんじゃないかとなった。
全ての風鈴を選び終える。
「嬢ちゃん、ありがとうさん。それで風鈴は箱に入れるかい? ちなみに箱代は別料金になっている」
せこいと思うのはこの世界の住人じゃないからかな? 箱入りは当たり前だからね。だから、わたしの返答は決まっている。
「全部、箱に入れて」
箱に入れておけば、壊れにくいし、片づけるときも便利だ。プレゼントするときも箱があったほうがいい。
おじさんは1つずつ、丁寧に小さな木箱に入れてくれる。
「それじゃ、これ代金」
「ありがとうさん。可愛いクマの嬢ちゃん」
おじさんはお金を受け取り、嬉しそうにする。
風鈴はクマボックスに入れる。
お土産も買ったので、次回はサクラと合流の予定