484 クマさん、不思議な水晶を手に入れる
すっかり、クマを片づけるのを忘れていた。
「あのクマのせいで、少し混乱している。この島には狐様がいると噂されていた。だが島に来てみれば、大蛇の頭の近くにはクマの形をした岩が転がっている。実はこの島にいたのはクマ神様ではないかと言い出すものもいる」
「なんじゃと。妾は狐じゃぞ」
カガリさんがスオウ王を睨みつける。
「それは長年、島に人を入れず、謎の島になっていたのが原因だろう。それが初めて島に行ったものがクマの石像を見れば、勘違いするだろう?」
「目立つのは嫌じゃが、クマと勘違いされるのも嫌じゃぞ」
「ごめん、片づけるのを忘れていた。すぐに片づけるよ」
「もう遅い。無くなれば、それはそれで問題になる。それで、狐の石像を作ってはと考えている」
「今から、作って間に合うの?」
「ないよりは、あったほうがいいだろう。カガリ、狐の石像は作れるか?」
「作れないことはないが、本当に作るのか?」
「このままじゃ、実は狐じゃなくて、クマがいたことになって、お主の存在がクマになるぞ」
「それはそれで嫌じゃのう」
結局、狐の石像が作られることになった。
大々的に広めたりはしないが、狐様とクマの仲がよかったことにするらしい。
狐とクマが共に戦う話ができそうだ。絵本にしたら面白いかな?
「それで、どこに作る? 風の大蛇のところか?」
「いろいろな場所に作ってほしい。まずはこの家の前でいいだろう。おまえさんが住んでいたのだから」
狐の石像を作るため、わたしたちはクマハウスを出る。
「カガリさん、魔力は大丈夫なの?」
「そのぐらいは回復している。ただ、上手に作れるかが問題じゃな」
そう言って、カガリさんは自分の家の壊れたところに魔法で狐の石像を作り上げる。
「これは……」
作られた狐の石像はリアルの狐の石像ではなく、デフォルメされた狐の石像だった。
可愛い。
「お主のクマに合わせて作ってみた」
簡単に言うけど、一度しか見ていないはずなのに、簡単に作れるものだ。
「やっぱり、狐のほうが可愛いのう」
「「くぅ~ん」」
子熊のくまゆるとくまきゅうが鳴く。
今まで静かにしていたくまゆるとくまきゅうも、それだけは否定したいらしい。
もちろん、どちらが可愛いかとなれば、わたしはクマに一票入れるよ。
「この長い耳とか、長い尻尾とか、クマよりもいいじゃろう」
「「くぅ~ん」」
くまゆるとくまきゅうが再度反論する。
小さい耳も小さい尻尾も可愛いよ。
「サクラもシノブも狐のほうが可愛いと思うじゃろう?」
サクラたちにも飛び火した。
サクラとシノブは困ったような表情をして、カガリさんとくまゆるとくまきゅうを見比べる。
「え~と、どちらも可愛いと思います」
「難しい質問っす。比べることなんてできないっすよ」
その返答にカガリさんとくまゆるとくまきゅうが叫ぶ。
「裏切者じゃ!」
「「くぅ~ん」」
「そんなことを言っても、狐もクマもどちらも可愛いから、選べないです」
「そうっすよ。カガリ様も大人なんですから、こんな子熊相手に大人げないことは言わないでくださいっす」
「今の妾は子供じゃ! それにこいつらも大人じゃ」
答えの出ない争いが続く。
そして、なんだかんだ言い争ったカガリさんとくまゆるとくまきゅうだったが、移動するときはくまゆるの上にカガリさんが乗り、くまきゅうの背中の上にはサクラが乗る。
「だが、乗り心地は妾の負けかもしれぬ」
カガリさんはくまゆるの上で、寝そべりながら悔しそうに言う。
それに対して、くまゆるは勝ち誇ったように「くぅ~ん」と鳴く。
仲がいいんだか、悪いんだか、よく分からない。
そもそも一般的に狐の上には乗れないよね。あの大狐だったら乗れそうだけど。乗れたら、空の散歩をしてみたいね。
そして、狐の石像は風の大蛇が倒された場所にも作られ、他にも島の場所にデフォルメされた狐の石像が建てられた。いろいろな場所に狐の石像があれば、狐の島になる。
「大蛇の解体は終わったんですね」
戦いの跡や大蛇がいた名残は残っているけど、大蛇の姿はない。
「ああ、終わらせた。復活はしないと思うが、一応な」
「大蛇の素材ってなにかに使えそうなの?」
「皮が一番役にたつな。皮だから、鉄より軽い。なにより強度が高いから、いろいろと活用方法がある」
「肉は?」
「わからない。毒があるかもしれない。これから、調べさせる予定だ」
確かに、大蛇の素材なんて、過去に経験があるわけでもない。ほかの素材についても調べるらしい。
「こんなもんでいいじゃろう。流石に疲れたぞ」
カガリさんはくまゆるの上で、ぐたーとする。
「疲れているところ悪いが、カガリに見てもらいたいものがあるから、もう少し付き合ってもらうぞ」
「見せたいものとはなんじゃ?」
「説明ができない。見てもらったほうが早い」
そう言って、スオウ王は歩きだす。
連れて来られたのはムムルートさんが大蛇の胴体の封印を強化した場所だ。建物は大蛇が復活したことで崩れている。
「こっちだ」
スオウ王は建物の裏側と言うのか、場所を少し移動する。地面は崩れ、大きな穴が空いている。スオウ王はその穴に降りていく。
「サクラ、くまきゅうにしっかり掴まっていれば大丈夫だからね」
「はい」
わたしたちもスオウ王に続いて地面の穴を降りていく。
「カガリ、これを見てくれ。なにか分かるか?」
スオウ王が指差す先には頭ほどの大きさの虹色のモヤ? 雲? 煙? ミニオーロラ? が漂っていた。
「なにこれ?」
「なんでしょうか? でも、綺麗です」
カガリさんはくまゆるから降りて、その虹色の雲に近づく。
「なにか分かるか?」
「触れたか?」
「確認するために、二人ほど触れたが、なにもおきなかった」
カガリさんはその虹色の雲に手を入れるが、なにもおきない。
「何も感じられないな。魔法は?」
「確かめていない。まずはカガリに確認をとってからと思って、手をださせていない」
「そうか」
カガリさんは手に魔力を集めると、小さな風を起こし、雲に向かって放つ。だけど、虹色の雲は揺らぐこともなく、漂ったままだ。
「わからん。魔力の塊にも見える」
本当に不思議な現象だ。
「わたしも触ってもいい?」
興味本位で尋ねてみる。
「危険はないと思うが、気を付けるんじゃぞ」
多少危険でもクマさんパペットなら大丈夫なはずだ。
わたしは虹色の雲の中に黒クマさんパペットの手を入れると、虹色の雲が光り始める。虹色の雲は収束する感じにクマさんパペットに集まっていく。その収束が収まると虹色の雲は消え、黒クマさんパペットに野球ボールぐらいの大きさの玉が咥えられていた。
「なんじゃ?お主、なにをした?」
「なにもしていないよ。手を入れただけだよ」
本当に何もしていない。虹色の雲の中にクマさんパペットを入れただけだ。魔法もなにも使っていない。
わたしは黒クマさんパペットに咥えられている玉を皆に見せる。
「綺麗です」
「水晶かのう? ちょっと貸してくれ」
カガリさんが手を出すので、その小さな手の平の上に乗せる感じに渡す。水晶のような玉はクマさんパペットから離れ、カガリさんの小さな手の平の上に落ちる。カガリさんの手の平に乗るかと思った玉は、カガリさんの手の平に乗らずに地面に落ちる。
カガリさんとわたしは固まる。
今、カガリさんの手をすり抜けたように見えた。それはカガリさんも同様なようで、不思議そうに自分の手と地面に落ちた水晶玉を見ている。
カガリさんがしゃがむと落ちた水晶玉に手を伸ばし、掴もうとするが掴むことができない。手がすり抜ける。
「なんじゃ、これは? 掴めないぞ」
危険かもしれないので、スオウ王とサクラは触らせることはできないので、シノブが触ることになったが、カガリさん同様に、手は通り抜けて水晶玉に触ることができない。
だけど、わたしが触れると、掴むことができる。
「どうして、嬢ちゃんだけが触れることができるんじゃ?」
どう考えてもクマさんパペットしか考えられない。
この水晶玉が気になったので、クマの観察眼を使う。
クマの道しるべ。
用途は不明。
……クマの道しるべって。これは間違いなく、わたし専用のアイテムだよね。
「嬢ちゃん、どうしたのじゃ」
「なんでもないよ。これ、わたしがもらってもいい?」
「それがなにか分かったのか?」
「分からないけど、わたしに必要なものだと思う」
クマの道しるべって言うぐらいだ。
「なら、構わない。持っていけ」
「いいの?」
「誰も手にすることができないものだ。他の者が欲しがったとしても、無理だろう。ユナのみが手にできるなら、ユナが持つべきだろう」
「まあ、そうじゃな。理由がどうであれ、嬢ちゃんしか持てないなら、意味がない」
「袋に入れて持てばいいじゃないっすか?」
シノブが巾着袋を取り出し、紐を緩めて入り口を開ける。わたしはその巾着袋にクマの道しるべを入れる。
クマの道しるべは巾着袋を通り抜け、地面に落ちる。
「本当っすか?」
シノブは不思議そうに巾着袋を見ている。
「これでユナにしか持てないことが分かったな。それがなんにしろ、ユナにしか持てないなら、その玉はユナを必要としているんだろう」
わたしはクマの道しるべをもらうと、クマボックスに仕舞う。
でも、クマの道しるべってなんだろう?
クマの道しるべって言うんだから、わたしをどこかに導いてくれるってことかな?
面倒ごとは断りたいけど、そんなわけにはいかないよね。
でも、この辺りって、大蛇の尻尾あたりがあったところかな?
ヤマタノオロチの尻尾なら剣が出てきたんだけど。こんな訳が分からないものよりも、剣が欲しかった。
島にクマと狐の石像が立ちました。
そして、大蛇を倒してゲットしたのは「クマの道しるべ」でした。
※本日、コミカライズ9話が公開されました。よろしくお願いします。