477 国王、島に向かう
サクラは大丈夫なのか!?
クマに乗って海を渡ったと聞いたが、脱出はできたのか?
シノブ、定期報告の連絡ぐらい寄越せ!
だが、それができない状況なのかもしれない。
荒れる海の上、リーネスの島を見る。
火を纏っている大蛇とクマとカガリが戦っているのは見えた。だが、今は大蛇の炎で森林は燃え、クマとカガリの姿は煙のせいもあって見えなくなる。船を動かし、島の近くで大蛇を確認しようとすると、船が揺れる。
「どうした!」
「島から風です!」
揺れる船の上、望遠鏡を片手に握り締め、望遠鏡を覗く。
望遠鏡の中には火の大蛇の隣に新しい頭が並んでいる姿があった。その新しい大蛇の頭には風のようなものを纏っている。
「風の大蛇か?」
火の大蛇に次は風の大蛇か!
風の大蛇の封印まで解けたか。他の頭の封印も解けるのは時間の問題だ。全てが復活したらおしまいだ。
「魔法使いはまだか!」
急がせているが、魔法使いが乗った船は来ない。
当たり前だ。陸にも魔物が現れ、その魔物討伐に魔法使いを向かわせてしまった。簡単に戻すことはできない。
望遠鏡を覗くと、燃える炎や煙によって見え隠れするがクマとカガリの姿がたまに見える。
二人が無事なことに安堵するが、クマの嬢ちゃんとカガリがたった二人で戦っているのに、俺はなにもできない。国王とは名ばかりの無力な王だ。
「船を近づけさせろ」
「これ以上は無理です。波が激しく、思う通りに船を動かせません」
船は揺れる。
くそ、いったいどうなっている。
風だけの影響じゃない。海の中で何かが動き回っている感じだ。
「できる限りでいい。船を近付けさせろ」
船を動かし、リーネスの島が確認できる場所に移動させるが、船は揺れ、望遠鏡が揺れる。島は火と煙が上がり、クマとカガリの姿が確認できなくなる。
嫌な想像が頭に浮かぶが、すぐに消し去る。
あのカガリが簡単に倒されるわけがない。それにあのクマの嬢ちゃんはサクラが見つけた希望であり、ジュウベイに勝った強者だ。
だから、大丈夫だ。
船が大きく揺れ、バランスを崩し、柱にしがみつく。
「国王陛下!」
「大丈夫だ!」
船が落ち着くのを待ち、望遠鏡を覗く。
火の大蛇がいない!?
どうなった?
望遠鏡を覗いて探す。
あれは!?
風の大蛇の周りを大きな狐が飛んでいる。
もしかして、カガリか!?
カガリは元は狐だ。カガリが狐に変化できることは知っている。カガリの存在が確認できたことに安堵するが、クマが見えない。
狐になったカガリは大蛇の頭の上を飛び回る。カガリの動きが速く、望遠鏡が定まらない。さらに船が揺れるので、カガリの戦いを見ることができない。
しかも、時折島から突風のような強い風が吹いてくる。
風の大蛇とカガリの戦いの影響がここまであるのか?
「島を回れ、風の影響が少ない場所に移動しろ!」
船は島から受ける風が弱い場所に移動する。
望遠鏡で島を確認すると、大蛇の姿とカガリの姿が消えた。
どうなった? カガリが倒したのか?
それとも地上で戦っているのか?
火の大蛇の姿も、さっきから見えない。島に上陸できない悔しさがでてくる。
そのとき、大きな音が島からする。地面に大きなものを叩きつけるような音だ。それはすぐに岩だと気づく。
大きな岩の一つが海に飛んできた。
船から離れた位置に落ち、大きな水しぶきをあげる。
岩の大蛇だ。
状況がわからない。火の大蛇の姿が消え、風の大蛇も消えた。だが、それと入れ替わるように岩の大蛇が現れた。どうなっているか、状況が飲み込めない。
「国王陛下! 危険ですので、島から離れます!」
あんな岩が船に直撃すれば船は沈む。だからと言って、離れるわけにもいかない。
「現状の距離を維持しろ。大蛇が海に出て来なければ、ここまで届かない」
そんなのはわからない。口からのでまかせだ。
もっと、遠くまで飛ばせるかもしれない。見たことも経験したこともないことは誰だってわからない。だが、これ以上、島から離れるわけにはいかない。
それからしばらくすると音は止む。島の一部は燃え、煙が上がっている。状況がわからない。
あれから火の大蛇も風の大蛇も見えなくなった。現れた岩の大蛇も消えた。
いったいどうなっている?
岩の大蛇が消えたと思ったのも束の間、水を纏った大蛇の頭が見えた。ついに大蛇の全ての頭が復活してしまった。
水の大蛇が吐き出す水が森に点いた火を消してくれる。その水の勢いが強い。
あんな攻撃を受ければひとたまりもない。
いや、大蛇の攻撃はどれも受ければ、死に繋がる。
火の大蛇が吐く炎を受ければ燃え。
風の大蛇が出す風を受ければ、体を切られる。
岩の大蛇が吐き出す岩に直撃すれば、体は潰される。
水の大蛇の吐き出す水を受ければ、衝撃を喰らい、最悪、息ができずに水死する。
カガリの姿も風の大蛇と戦っている姿を見てから、一度もみていない。
嫌な想像しかできない。
妹の忘れ形見のサクラ。サクラを慕っているシノブ。長い間、国を守ってきたカガリ。そして、この国に関係ないのに、巻き込んでしまったクマの嬢ちゃん。
クマの嬢ちゃん。本当にサクラが言う希望の光なら、なんとかしてくれ。
それからしばらくすると、島から音が消え、水の大蛇も姿を消した。
どうなった?
望遠鏡で大蛇の姿を探すが見つからない。
なぜ、大蛇の姿が見えない。
状況が分からないまま時間が過ぎる。
もしかして、倒したのか?
そんな、可能性の低いことを考えてしまう。
俺は望遠鏡を覗いて探す。
カガリ、サクラ、シノブ、クマ、一瞬でいいから姿を見せてくれ。
そんな願いは崩れさる。大きな大蛇の頭が四つ伸びた。
「大蛇だ!」
見張りが叫ぶ。
大蛇が完全復活した。
つまり、それはカガリとクマの嬢ちゃんが負けたことを意味する。
せめて、生きててくれ。
望遠鏡を強く握りしめる。
「国王陛下、退避を。大蛇がこの船に襲ってきましたら、逃げることができなくなります。国に逃げ、追いかけてきましたら、大蛇を国に招き入れることになります。気づかれる前に退避の指示を」
その言葉は理解できる。もし、この船に目をつけられたら、国に戻ることはできなくなる。
この船を犠牲にして、おびき寄せる考えも浮かぶがそれはできない。ここで死ぬわけにはいかない。
「わかった。島から離れるぞ」
俺は指示を出す。
無事でいてくれ。
船は国の船着き場に戻ってくる。船は一隻も海には出ていない。大蛇を国に呼び寄せないためだ。
カガリたちを助けに行こうにも船を出すことはできない。助けたとしても、大蛇が船を追いかけてきたら、国に被害がでる。
戦うために集めた女たちは使えなかった。
あとは魔法使いを集め、犠牲のもと、大蛇を引き付けて、国から離すしかない。
今後の対策を考えていると、伝令兵がやってくる。
「森から現れた魔物の討伐に成功。残りの魔物は逃げ出すように森に戻っていきました」
「わかった」
これで魔法使いが戻ってくれば、俺は魔法使いたちと、船に乗る船乗りに「国のために死んでくれ」と命令するだけだ。
数日前には伝えてあるが、部下に死ぬ命令を出すのは気が重い。ただ、こんな命令を我が子にさせなくてよかった。
魔法使いが来るのを待ち、船の準備をさせていると、俺の頭の上を鳥が飛んでくる。
これはシノブの鳥か?
シノブ、生きていたのか?
腕を伸ばす。
早く止まれ。
鳥はぐるぐると俺の頭上で飛び回り、俺の手に止まる。
俺は鳥の首に付いている筒の蓋に指をかける。
早く開け。
蓋が開き、筒から小さな丸まった紙がでてくる。
俺は慌てるように丸まっている紙を広げる。
「…………はぁ?」
変な声が出てしまった。
俺の声に周りが反応する。
「国王陛下、どうかなさいましたか?」
「もう一度、船を出す」
「それは――」
「大丈夫だ」
俺は指示を出し、もう一度紙に目を通す。
『大蛇の討伐は完了。カガリ様、ユナより、国王陛下に大蛇討伐について大切な話あり、リーネスの島の船着き場まで来られたし。来てくれないと自分が困るっす!』
大蛇を討伐しただと?
あの大蛇を?
本当なのか?
疑うわけじゃないが、とてもじゃないが信じられない。
だが、それはリーネスの島に行けば分かること。
俺は、兵士を待機させ、魔法使いが来ても船を出さないように指示を出してから、船を出す。
でも、話とはなんだ?
話なら、城でもできるだろう。
でも、最後の文章はいったいなんだ?
シノブが困るって、一番意味が分からないぞ。
先ほどの荒れていた海が嘘のように海は静まっている。船は簡単にリーネスの島の船着き場に到着する。大蛇の姿は見えない。その代わりに変なものが建っている。
あれはクマか?
「あれはなんでしょうか?」
「わからん」
桟橋の近くにクマの形をした奇妙なものがある。
あんなものがあった記憶がない。あんなものがあれば、気付くぞ。
そのクマの前には見知った者がいる。
「あれはシノブ殿?」
「おまえたちは船に残れ。俺、1人で行く」
「ですが、男性は」
「あの位置は大丈夫だ」
俺は1人で船から降りるとシノブが駆け寄ってくる。
「国王陛下、待っていたっす」
「サクラとカガリは無事なのか?」
「二人とも無事っす」
それを聞いて、安心する。
気になっていた一つが解消された。
「それで、大蛇を倒したのは本当なのか?」
「それを含めて、あの家の中で説明するっす」
「あれは家なのか?」
「ユナの家っす。ついてきてくださいっす」
俺はシノブの後を歩き、クマの前までやってくる。シノブはドアを開けてクマの形をした家の中に入っていく。俺はそのシノブの後をついて、クマの中に入る。
遅くなって申し訳ありませんでした。
次回の投稿は書籍作業がなければ、通常通りに投稿します。
そんなわけで、国王がクマハウスに入りました。
次回、話し合いになると思います。
追記
※クマ、コミカライズ8話、来週の水曜日になります。申し訳ありません。