468 国王、動く
昨日、サクラが夢で見たと言う、クマの格好をした少女に会ってきた。
報告を初めて受けたときは意味が分からなかったが、本当にクマの格好をした少女だった。
報告によれば15歳だと言う。俺の娘とさほど変わらない。
見ただけでは、とてもジュウベイに勝てるほど、強いとは思えない。シノブの奴も、よくあのクマの格好をしている少女がサクラが言っている希望の光と分かったものだ。
もし、ジュウベイとの戦いの報告がなければ、サクラの希望の光という言葉だけでは信じられなかったと思う。
クマの格好をした少女はジュウベイと戦い、ジュウベイに勝った。ジュウベイはこの国の中でも強い。勝てる者は少ない。
たとえジュウベイが、相手が子供だからと言って手加減したとしても負けないと思っていた。
結果は、クマの格好をした少女が勝った。
だが、嬉しい誤算だ。これでサクラの言葉が証明された。異を唱えていた者も、この結果を見れば黙るしかない。現に今回のことで、口を挟む者はいなくなった。
クマの少女には試すようなことをして申し訳なかった。一歩間違えれば、希望の光を失うところだった。
だが、クマの少女は俺の謝罪を受け入れて、大蛇の魔物と戦うことを了承してくれた。
あのような少女に国の未来を託すことになるとは思わなかった。
そのクマの少女はカガリに会うために、本日、3人でリーネスの島に行くとシノブから報告を受けている。
その方法だが、クマの上に乗って海の上を渡ると言う。
シノブから受けた報告では、その黒と白のクマに乗って島に行くと聞いている。どうやら、一番初めに受け取った報告の内容は間違いではなかったようだ。
クマの格好をした女の子が、クマに乗って海からやってきたと、書かれていた。初めは船に乗ってやってきて、そのときにクマに乗っていたぐらいにしか思っていなかった。
でも、言葉通りに、海の上をクマが走って、やってきたのだ。
クマが海の上を走る?
勘違いしても仕方ないだろう。クマが海の上を走るって報告を受けても、信じられる者などいない。
だけど、事実だったらしい。今日はサクラの願いもあって、クマの上に乗って島に行くと聞いている。
そのときに、クマが海の上を渡ることは誰にも言わないようにとシノブに言われた。
誰に言うのだ。
もし、クマが海の上を渡ってきたと臣下に言おうものなら、俺の頭がおかしいと思われる。
クマが海の上を走るって聞いて、俺自身が信じられないものを、他の者が信じるとは思えない。
だから、そもそも言うつもりはない。
それに、クマの格好をした少女が秘密にしてほしいと言えば、守るつもりだ。
サクラの言う通りに、クマの格好をした少女が希望の光なら、機嫌を損ねることはしない。
それがどんなに小さな希望の光であったとしてもだ。国が救われるなら、どんな些細なことでもすがりつく。
それにしても、本当にあのクマが海の上を走るところは、見てみたかったものだ。
リーネスの島にいるカガリは、長年この国を守ってきた守護者だ。国に危機がある度に救ってくれた。カガリは何百年も生きている狐だ。昔から姿は変わらない。
カガリを知っている者は限られている。不老長寿にあの美貌では面倒が絶えないからだ。
俺は小さいときから知っているため、姉であり母親って感じだ。そのため、俺のことをいろいろと知っているので厄介だ。だから、カガリには頭が上がらないことが多い。
今後のことを考えながら仕事をしていると、連絡が入ってくる。
なんでも街道に魔物が現れたそうだ。
初めは、どうしてそんなことを俺のところに報告するのかと思ったが、数が多いらしい。それで、冒険者ギルドから兵士を出してほしいと連絡があったらしい。
俺は兵士の一部隊を出すことを命令する。現場のことは担当する部隊長に任せると指示をだす。
魔物の報告を受け、しばらく仕事をしていると、開いている窓から白い小鳥が入ってくる。
白い小鳥は部屋の中をクルクルと翔び、俺が手を差し出すと手にとまる。
シノブの伝令鳥だ。小鳥の首には小さな筒が付けられている。
なんだ? シノブはサクラとクマの格好をした少女と一緒にカガリのところに行っているはずだ。なにかあったのか? 一瞬、カガリがクマの格好をした少女にとんでもないことをしたのではないかという考えが浮かぶ。
俺は急いで筒の蓋を外し、中から紙を取り出す。そこには短い文で『島に魔物の襲撃あり、封印、解かれる恐れあり』と書かれていた。
違った。
もっと、最悪な状況だった。
魔物が集まってくる。先程の報告が思い出される。
思い当たることは1つ。
それが原因か!
俺は席を立ち、すぐに大臣たちを集めるように指示を出す。
そのとき、伝令兵がやってきて、魔物を討伐するために先に出発した部隊長から、増援の連絡が届いた。
魔物の数が増えているそうだ。
地図を出し、魔物が出た報告と照らし合わせる。
やっぱり、リーネスの島付近に移動している。
他の島でも同様なことが起きている可能性がある。
いや、間違いなく起きている。
「リーネスの島に一番近い場所が一番危険だ」
「どういうことですか?」
「先程、リーネスの島にいるシノブから連絡があった。島に魔物が集まってきているそうだ」
「まさか」
俺の言葉に他の者も思い当たることがあったようだ。
「過去、大蛇が現れたとき、多くの魔物が現れたと言われている。俺は今がその兆しだと思っている」
俺の言葉に皆が騒ぐ。
「すぐに各島に確認を。そして兵の準備を急がせろ」
街の入り口の防衛、街道の確保の指示をだす。
街道には移動している者もいる。最優先で守らなければならない。
それから、各街、村から出ないように伝える。
「あと、おまえたちが大蛇と戦うために集めた女性をリーネスの島に向かわせろ」
もし、大蛇が復活していたら、どれほどの役に立つか分からないが、男性が入れない今、その女性たちに頼るしかない。
最悪でもサクラを連れてきてもらう。サクラは亡き妹の忘れ形見だ。
「魔法使いはどういたしましょうか?」
「まだ、大蛇は復活していない。今は魔物から住民を守るほうが優先だ。討伐に向かわせろ」
くそ、もう数日あると思ったのに。
あのカガリがクマの嬢ちゃんをどう評価したかで、今後のことを考えるつもりだった。この件に関しては、カガリの意見が一番重要になる。だから、カガリの評価次第でクマの嬢ちゃんの扱いをどうするかが変わってくる。
カガリ。おまえの目から見て、クマの嬢ちゃんは希望の光になったのか。それともなにも感じなかったのか。
そのことを尋ねたくても、今はできない。
今は集まってくる魔物を討伐しないとならない。
そして、城、および都は他の者に任せ、港に行くことを伝える。
「国王は城にお残りください」
「魔物に関してはお前たちでも大丈夫だろう。もし、大蛇が復活したら、現場は混乱する。俺が前に出ないでどうする!」
「ですが」
「わかっている。危険なことはしない。もしものことがあれば、指示をだすだけだ。できるだけ兵士、魔法使いの温存をしろ。ただし、住民が危険なときには惜しまずに投入しろ。魔物に関してはおまえに一任する。もし、緊急の場合は港に伝令を寄越せ」
「わかりました。国王の命じるままに」
それぞれの大臣に指示を出した俺は港に向かう。
「船の準備が整い次第、出発する」
港では出港の準備が行われている。
まもなく、船の準備が終わり、船に乗り込む。
島は見えるが、ここからでは状況は分からない。
船は徐々に島に近づく。
「国王陛下! 島が」
島を観察してた兵士が慌てたように報告する。言葉にできないほどに焦っている。
俺は持っている望遠鏡で島を見る。
島から煙が上がっている。火の手が見える。
そして、もう1つ大きなものが動いている。
なんだ……?
……大蛇、大蛇が復活した。
あの島にはカガリ、シノブ、サクラ、そして、クマの格好をした少女の4人がいる。
どうなっている。サクラは無事なのか。
「船を島に近づけさせろ」
「ですが!」
「確認するだけだ」
船が島に近づくにつれて、様子が見えてくる。
あれが大蛇、赤い大きな蛇の頭が一つ。その周りに小さな何かが動いている。
あれは、カガリとクマ!
もしかして、戦っているのか!?
シノブとサクラはどうなっている。
考えられることは、カガリとユナが戦い、シノブがサクラを連れて逃げているぐらいだ。
でも、あの大蛇が復活した島に安全な場所があるのか?
ただ、今は頭が一つしか見えない。
頭が一つだけなら、まだ、なんとかなる。
前方に、大蛇と戦うことになっている女性を乗せた船が見える。だが、船付き場に向かわない。
何をやっている!
早くしないとサクラが死んでしまう。
小鳥が飛んでくるのが見えた。
伝令兵が受け取り、確認する。
「国王陛下!」
「なんだ!?」
「大蛇を見た女性たちが怖気づいてしまい、島には降りないと言っているそうです」
「今更、なにを言っている!」
俺の叫びに伝令兵は顔を強張らせて、困った表情をする。
この伝令兵に言っても八つ当たりなのは分かっている。
だが、あれだけ俺に文句を言って、集めた結果がこれか?
サクラが希望の光と言った、クマの格好をした少女は戦っているんだぞ。
「伝令! 魔法使いを港に集めさせろ」
最悪、国から大蛇を引き離す!
遅くなって申し訳ありません。
そして、次回の投稿も遅れると思います。
ご了承ください。
ゴールデンウイーク明けぐらいには落ち着かせたいと思います。
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