462 サクラ、お手伝いする
少し短いです。
ルイミンさんは馬を走らせます。
わたしは振り落とされないようにルイミンさんにしっかり抱きつきます。
しばらく走ると、村の中に入り、一軒の家の前に止まります。
「ついたよ」
わたしはゆっくりと馬から降ります。
少し、ふらついてしまいます。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
ここがルイミンさんが住む村なのですね。わたしたちの街とは全然違います。村の人たちが、わたしたちのことを見ています。
建物や服装が違うのを見ると、本当に別の場所に来たのだと再認識しました。
「サクラちゃん、こっちだよ」
わたしが周囲を見ていると、ルイミンさんが声をかけてきます。
ルイミンさんは目の前の家の入口の前にいます。
わたしはルイミンさんのところに向かいます。
「この家は?」
「お爺ちゃんの家だよ。こっちにお爺ちゃんがいるから来て」
ルイミンさんは家の中に入ります。わたしはその後を付いていきます。
「お邪魔します」
わたしは挨拶をして、家の中に入ります。
わたしたちの住む家とは違います。不思議な感じです。
ルイミンさんの後を付いて廊下を進むと、上の階段と下に向かう階段があります。ルイミンさんは下の階段を下りていきます。
階段を降りると、大きな部屋があり、ムムルート様がいました。
「お爺ちゃん、戻ったよ」
「失礼します」
ムムルート様が部屋に入ってきたわたしたちのほうを見ます。
「それで魔物が来たと聞いたが、本当なのか?」
「はい。くまきゅう様とくまゆる様が近づく魔物に気づき、ユナ様たちは魔物と戦うために残り、わたしは危険だから、こちらに行かされました」
「そうか。魔物が来たのなら、そのほうがいい。嬢ちゃんたちの不安材料は少ないほうがいい」
不安材料と言われると、胸が痛くなります。
本当にわたしは何もできない無力な存在です。
「お爺ちゃん、そんなことを言わなくても」
「守りながら戦うのは、大変なことだ。島の安全なところに残ったとしても、心の中で、魔物に襲われていないか、不安になる。魔物との戦いとはそういうものだ」
「そうだけど」
「ルイミンさん、いいのです。わたしも理解していますから、ここに来たのです」
皆の負担が少しでも減ればいい。今のわたしには、そのぐらいのことしかできません。
「サクラちゃん……」
「だが、島に魔物が集まってきているか……。急がないとならないな」
「ムムルート様。やっぱり、封印が解かれる兆しなのでしょうか?」
「可能性はある。逆に言えば、それ以外の理由で魔物が集まってくる理由が分からない」
ムムルート様のお言葉で大蛇の復活が現実に近づいてきていると感じます。
怖い。
自分が死ぬのも恐いけど、皆が死ぬのも見たくありません。あの悲しい夢は現実になってほしくないです。
「お爺ちゃん。ユナさんに状況を確認したほうがいい?」
「嬢ちゃんたちは魔物と戦っているのだろう。邪魔になるだけだ。なにかあれば嬢ちゃんのほうから連絡があるだろう。わしたちは早く封印強化の準備をする」
確かにムムルート様の言うとおりです。
連絡をして、ユナ様の戦いに邪魔をしてはいけません。
「ムムルート様、わたしにできることはありませんか? 少しでも早く、戻りたいんです。わたしにできることなら、なんでもしますから、言ってください」
「それじゃ、お嬢ちゃんはそっちにある絨毯を片付けてくれ」
ムムルート様が見る先には沢山の絨毯が広がっていました。
綺麗な模様の絵が描かれています。
「今、封印を強化する魔法陣が描かれている絨毯を探しているんです」
ここにある絨毯の描かれている模様が魔法陣だそうです。
こんなに沢山あるのですね。
そして、この中から探すようです。
大変な作業です。
「サクラちゃんはそっちの絨毯を片付けて。丸めたら、そっちの空いている棚にお願い」
「わかりました」
わたしはルイミンさんの指示に従って、綺麗な模様が描かれている絨毯を丸めて、棚に片付けていきます。
小さい絨毯は一人で、大きな絨毯はルイミンさんと一緒に片付けます。
「お爺ちゃん、まだ、見つからないの?」
ムムルート様は絨毯を広げては「違う」「これじゃない」と言って、新しい絨毯を広げます。
「使ったのはかなり前だからな」
「もう、ちゃんと整理しておけばこんなことにならなかったのに」
部屋には棚が沢山あり、絨毯がたくさん置かれています。
たしかに、名前も書かれていないので、なんの魔法陣の絨毯なのか分かりません。
「魔法陣なんて、普段は使わないからな。どこに仕舞ったか忘れても仕方ないだろう」
「だから、普段からちゃんと整理しておけばよかったんだよ。魔法陣の名前を絨毯に書いておけば、楽だったのに」
たしかに現状を見るとルイミンさんの言うとおりだと思います。今も大蛇が復活するかもしれないのです。急いでほしいって気持ちが先立ちます。
「わかっておる。いつかはやろうと思っている」
「それ、お婆ちゃんが何度言ってもやろうとしないって言っていたよ」
「数年後にはしようと思っていた」
「今度、わたしも一緒に片づけるのを手伝うから、早くやろう」
「分かった。分かった。だが、今は封印強化の魔法陣を探すほうが先だ。場所がない。ほれ、早く片付けろ」
「お爺ちゃん……」
ルイミンさんは文句を言いながら、絨毯を片づけます。
「数年後ですか……」
ムムルート様の言葉を聞いて、数年後のことを考えてしまいました。
大蛇はどうなっているんでしょうか。国はどうなっているんでしょうか。そして、わたしは……。もし、ユナ様になにかあれば、わたしは国に戻ることができません。
そう考えると不安になります。
「サクラちゃん、どうしたの?」
わたしの手が止まったことに気づいたルイミンさんが尋ねてきます。
「いえ、数年後はどうなっているのかと思いまして、もし、大蛇の再封印ができなかったら、国はどうなっているのかと考えてしまって」
「大丈夫だよ。なんたって、ユナさんがいるんですから」
ルイミンさんはわたしを元気づけてくれます。
「ルイミンさんはユナ様のことを信じているのですね」
「うん。だって、ユナさんは凄く強いから、大蛇なんて倒してくれるよ」
ルイミンさんはユナ様のことを信じているようです。
わたしもユナ様のことを信じます。
「それにお爺ちゃんがなんとかしてくれるよ」
「できる限りのことはする。安心しろとは言わない。でも、希望は持て」
「はい、ありがとうございます」
わたしは止まっていた手を動かします。
そんなわたしにルイミンさんが尋ねてきます。
「サクラちゃんは将来はなにをしたいの?」
「将来ですか?」
このまま巫女の仕事をするのでしょうか?
ただ、この短い間にユナ様に出会って、ルイミンさんに会って、不思議な扉を通って、いろいろな経験をしました。
「いつになるか分かりませんが、いろいろな世界を回ってみたいです」
そんな思いがあります。
でも、それには強くならないといけません。それが一番の問題です。
「だけど、わたしは戦うこともできませんから、無理かもしれません」
わたしは、まだ10歳です。シノブにいろいろと教われば、強くなれるでしょうか?
「それなら、わたしも一緒に行くよ」
「ルイミンさん?」
「わたし、サクラちゃんが大きくなるまでに守れるように頑張って強くなるよ」
「わ、わたしも頑張って、魔法の練習をします」
それには、わたしに魔法の才能がないとダメですが。
お父さまは魔法は使えなかったようですが、お母さまは魔法を使っていました。お母さまの血が流れているわたしはきっと魔法が使えるはずです。
それに伯父さまからお母さまに似ていると言われます。
だから、わたしも魔法が使えるかもしれません。そしたら、ルイミンさんと一緒に世界を回るのもいいかもしれません。
でも、それには早くても5年後でしょうか?
「ルイミンさん、5年ほど待ってもらえますか?」
「うん、10年でも100年でも待つよ」
いえ、流石に100年後は死んでいます。
「それには大蛇を倒さないといけないけどね」
「はい」
希望がある未来のため、今出来ることを頑張らないといけません。
それからまもなくして、封印を強化する魔法陣を見つけることができました。
ただ、それには問題がありました。
ムムルートさん側の話はこれで終了です。
島に残ったユナたちの話に続きます。