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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、和の国に行く
466/930

461 シノブの思いとサクラの思い

遅くなりました。

シノブ視点とサクラ視点になります。

 ユナと別れたわたしは走る。

 まさか島に来て、こんなことになるとは思っていなかった。

 わたしたちはユナのクマに乗って海を渡ってきた。

 クマで海の上を渡ることは誰にも話さない約束だったので、クマが海の上を歩くことができることを知っている国王様にしか、島に来ることを伝えていない。


 誰か、城に魔物のことを伝えていないっすかね。


 もしかすると、海の上を飛ぶ魔物を見た者が、城に報告をしているかもしれない。でも、封印のことまでは分からないはず。

 わたしは走るのを止め、懐から紙と書くものを取り出すと、『島に魔物の襲撃あり、封印、解かれる恐れあり』と、短い文章を書く。

 そして、手から小鳥のピースケを出し、首にある小さな筒の中に紙を筒状にして入れる。


「魔物に気をつけて行くっすよ」


 ピースケは「ピー」と鳴くと飛んでいく。

 わたしはハヤテマルを召喚して、手紙を書いた遅れを取り戻す。


 封印の場所にやってくると、ヴォルガラスが封印のある建物の上を飛んでいる。建物の中に入る場所を探しているようにも見える。

 ワイバーンを探すが、姿は見えない。


 ワイバーンがいないっす。


 わたしはワイバーンがいない理由を考える。考えるまでもなく、ユナしか思い当たらない。

 くまゆるとくまきゅうが魔物の襲撃を発見した。

 そして、くまゆるたちとユナは意思疎通をしていた。くまゆるとくまきゅうが魔物の数まで把握していたらと考えると、ワイバーンがいない状況も説明ができる。

 一番、魔物が多い場所をユナが受け持った。だから、右側の二ヶ所を引き受けたと考えられる。

 今、思い返すと、確かにワイバーンを発見したとき、ユナが向かった方角に飛んでいる数が多かった。


「はぁ」


 ため息しかでない。

 他国の危機だ。逃げても誰も文句は言わない。それなのに自ら危険なことを引き受けるユナが信じられない。

 初めてユナを見たときは驚いた。格好についてもそうだが、クマが海を走っている。初めは、ユナが伝説の大蛇を倒すことができる希望なのか、判断ができなかった。


 でも、可愛らしいクマの格好した女の子はとっても強かった。わたしが敵わない師匠に勝った。

 わたしは小さいときから鍛錬をしてきた。才能があるとも言われてきた。自分は強いと思っていた。でも、上には上がいる。師匠には一度も勝てたことがない。他にも強い者はいる。でも、同年代の女の子には負けない自信はあった。

 でも、ユナと師匠の戦いを見たとき、自分は弱かったんだと思い知った。

 ユナは強かった。武器の扱いも、魔法の扱いも遥かにわたしを凌ぐ。

 ユナはわたしと師匠との戦いを見ている。つまり、ユナはわたしの実力を知っている。わたしの実力を分かっているから、ユナは一番、魔物が多いところを引き受けた。

 それも、誰かに言うまでもなく。当たり前のように選んだ。


 可愛いクマさんの格好している不思議な女の子。


 ユナは、大蛇を倒すために自分の秘密を話してくれた。

 遠くの人と話せる魔道具?

 遠くの場所に一瞬でいける魔道具?

 こんな秘密は簡単には話せない。

 だからこその契約魔法だった。もし、契約をするときに断ったり、逃げたら、どうするつもりだったのだろうか。

 サクラ様はお優しい方だから、契約をしなくても言わない方だ。

 カガリ様もムムルートさんに会わせてくれた恩を仇で返すような方じゃない。

 わたし?

 わたしは一番、酷いことをしてきた。

 ユナのことを調べ、ユナのことを試し、ユナのことを騙し、自分の願いをユナに押し付けた。なのに、ユナは怒らなかった。そんなユナの思いを裏切るようなことはしない。


 わたしはハヤテマルを送還する。

 懐に手を入れ、短刀を取り出す。一度、大きく深呼吸してから、ヴォルガラスに向かって駆け出す。

 一番、楽な場所にいるからと言って、のんびりしているわけにはいかない。一刻も早く討伐して、他の場所に向かう。


 そして、ユナを助けに行くっす。


 建物の周りにある柵を利用して、建物の屋根に跳び上がる。わたしが建物の屋根に上がると、ヴォルガラスが反応する。


 さっさと終わらせてもらうっすよ。


 わたしは短刀に魔力を込め、短刀を振り抜く。振り抜かれた短刀から、風の刃がヴォルガラスに向かう。

 風の刃は手から出すより、武器などから出したほうがイメージがしやすく、鋭さが増す。

 だから、ユナが普通に手から出しているのを見たときは凄いと思った。それもわたしが使う魔法より、鋭く、切れ味がよかった。

 才能の差。

 届かない領域。


 天才っているもんっすね。


 持っていないものを妬んでも仕方ない。

 自分が持っているもので戦わないといけない。

 短刀から風の刃を飛ばして、ヴォルガラスを倒していく。


 そして、全てのヴォルガラスを倒し終える。

 接近戦にもなったので、体に血がついてしまった。


「終わった」


 ここで、この場所を守るか、他の場所に救援に向かうか悩む。

 初めは倒したら、他の場所に向かうつもりだった。でも、戦っている間もヴォルガラスは増えた。新しい魔物がやってくる可能性もある。


 わたしは近くの高い木の上に登って、周囲を確認する。

 ユナが受け持った方向を見るとワイバーンが飛んでいる。やっぱり、ユナのところが、一番多い。くまゆるとくまきゅう、それからカガリ様のところもワイバーンが飛んでいるのが見える。


 他の場所に行くか、ここに残って、魔物に備えるか、悩む。

 だが、すぐに悩む必要が無くなる。

 海からワイバーンが3体ほどこっちに向かって飛んでくるのが見えた。

 どうやら、楽はさせてくれないらしい。

 ワイバーンは空を飛んでくる。心の中で、通り過ぎてくれないかなと思ってしまう。


 自分は汚いっすね。

 でも、通り過ぎたら、仕方ないっすよね?


 わたしは建物の屋根の一番目立つ場所に立つ。

 わたしを見つけたからなのか、他の魔物と同様に大蛇の封印に呼び寄せられたのか分からないけど、ワイバーンがわたしに向かって降りてくる。


「全部っすか……」


 ワイバーンは間近で見ると大きい。


 これはヤバイっすかもね。

 誰か来てくれないっすかね?


 木の上から見た状況を考えれば無理なのは分かっている。

 命を懸けてでも封印は守る。

 わたしは短刀を握りしめる。



サクラ視点


 くまゆる様とくまきゅう様が鳴いた。

 なんでも、魔物がこの島に近づき、大蛇が封印されている場所に向かっているという。

 わたしは危険なので、ユナさんの不思議な扉で、ルイミンさんがいる場所に行くことになった。

 ユナさんが笑顔で心配しないでと言って、わたしの前の扉がゆっくりと閉じる。

 わたしは一人、安全なところに逃げました。わたしが島に残っても足手まといになるだけなのは分かっています。

 だから、「残りたい」って言葉は飲み込みました。

 わたしが残っても何もできません。


 わたしは扉の前でルイミンさんを待ちます。

 ここで待っていれば、ルイミンさんが来てくれるはずです。

 扉の周囲は森の中で、高い岩山もあります。

 ここがルイミンさんとムムルート様たち、エルフが住んでいる場所。

 わたしが辺りを見回していると、馬が走ってくる音がします。


「サクラちゃん!」

「ルイミンさん!」


 ルイミンさんが馬に乗って現れました。ルイミンさんは馬から降りると、わたしのところにやってきます。


「サクラちゃん、大丈夫?」

「はい、わたしは大丈夫です。魔物がやってくる前にこちらに来ましたので」

「そうなんだ。でも、もう大丈夫だよ。こっちにいれば安全だから」

「でも、みなさんが大蛇の封印を守るために残ったのに。わたしだけが逃げて」


 わたしはなにもできない自分が悔しい。


「戦いはユナさんに任せておけば大丈夫だよ。ユナさん、あんな可愛い格好しているのに、もの凄く強いんだから」


 ルイミンさんが下を向くわたしに、優しく声をかけてくれます。


「そうですね。でも、わたしも戦えたらと思ってしまうのです。皆に戦わせて、自分だけが安全な場所にいるのが辛いんです」


 わたしが無力な子供だから。もし大人だったら、みんなと戦えたかもしれない。なにも力を持っていない、自分が悔しい。

 わたしが真剣に悩んでいるとルイミンさんが、目を細めて尋ねてきます。


「えっと、サクラちゃん。見た目どおりの年齢だよね?」


 どういう意味でしょうか?


「今年で10歳になります」

「だよね」

「それが、どうかしましたか?」

「サクラちゃんって、子供らしくないから、もっと年上だったりするのかなと思って」

「子供らしくありませんか?」


 いつも、周りからは子供だって言われます。


「うん。だって、サクラちゃんって、大人みたいな考え方をするから。子供は大人を頼っていいんだと思うよ。お爺ちゃんはいつも子供を守るのは大人の役目だって言っているよ。でも、ユナさんが大人かと言えば、困るんだけどね」

「それを言ったら、シノブもです」


 シノブとユナ様は大人ではないと思いますが、子供でもないと思います。

 でも、2人はわたしと違って、自分の身はしっかり守ることができます。


「わたしも戦える力が欲しいです」


 でも、わたしに戦える力があったとしても、魔物と戦うことができるか、分かりません。

 震えて動けないかもしれません。

 ユナ様もシノブも戦うことが怖くないのでしょうか?

 

「それはわたしも一緒だよ。わたしの村も前に大変なことがあったんだけど。わたし、何もできなかった。わたしはユナさんと一緒に戦えない。だから、お爺ちゃんの手伝いをしようと思ったの。サクラちゃんも、自分ができることをすればいいんだよ」

「ルイミンさん……」


 ルイミンさんが手を差しのべます。

 わたしはその手を掴みます。


「はい」


 わたしは戦うことができない。

 わたしもどこまでお手伝いができるか分かりませんが、ムムルート様のお手伝いをすることにしました。


「それじゃ、ちょっと急ぐから、しっかり掴まっていてね」

「はい」


 わたしは馬に乗り、しっかりとルイミンさんに掴まります。

 ルイミンさんは馬を走らせます。




それぞれの場所で戦いが始まりました。

ユナとシノブの温度差が激しいですw


※クマ9巻が3/30に発売します。

 表紙はユナとルイミンです。

 今回も店舗特典のSSを4本と書き下ろしを書かせていただきました。

 内容については活動報告に書いてありますので、読んでいただけると嬉しいです。


 下記の9巻の表紙をクリックすると出版社様の書籍情報に飛びます。

 書き下ろしについては書かれていませんので、活動報告で確認してください。


 くまなの

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやいやシノブもスゴいっすよ、ちゃんと自分の性格分かってt   ε=ε=ε=┏(・_・)┛それでもちゃんと仕事しようとはするけどしょおじき逃げたいあたり共感できるし
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