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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、和の国に行く

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457 クマさん、封印箇所を確認する

 サクラは一人納得いかない様子だったが、「大人になったら教えてくださいね」とカガリさんに約束していた。

 わたしたちは周囲が森に囲まれている中、舗装された道を歩く。誰もいないので静かなものだ。

 サクラはくまきゅうに乗り、わたしはくまゆるに乗っている。


「それで、どこに行くの?」

「大蛇の頭が封印されている場所じゃよ」


 なんでも封印されている頭4つに体を含めて5ヶ所あるという。その1つである封印されている頭に向かっている。


「そういえば、封印の管理ってカガリさんがしていたんですよね。サクラが気づくまで、封印が弱まっているって気づかなかったの?」


 記憶によればサクラの予知で封印に気づいたと言っていた。


「それは……」

「それは?」

「寝ておった」

「寝ていた?」

「えっと、カガリ様は数日間、寝ていることがあるんです」

「妾は狐じゃ、人とは違う。寝るときはまとめて寝るんじゃ。その逆に何日も起きていられることもできる。そして、今回は酒を飲み過ぎて、ひと月、寝てしまったのじゃ」


 ひと月って。寝過ぎじゃない? それにお酒で寝てしまうって、大蛇の役目でしょう。


「わたしたちが起こしに来ましたら、『あとひとつき~』とか言ってました」


 あとひと月って、どんだけ寝るのよ。

 なんでも、過去には数年寝ていたこともあったらしい。

 それで、本当に結界を管理していたことになるのかな?


「人のことは言えぬが、妾も平和ボケをしていたのじゃ」


 まあ、数百年も何もなければ、そんなことにもなるのかも。


 しばらく歩いていると、カガリさんがいた神殿のような建物が見えてきた。


「この中じゃ」


 カガリさんは扉を開け、中に入る。建物の中には広い空間が広がる。そして、中央に階段がある。カガリさんは壁にあった魔石に触れると、階段に光が灯る。


「サクラとシノブ……」


 カガリさんは2人の名前を言って、少し考えたあとルイミンのほうを見る。


「それとルイミンの3人はここで待っていてくれ」

「どうしてですか? 前に入ったときはそんなことは言ってませんでした」

「前とは変わっている。見て気持ちいいものじゃない。本当なら、そっちのクマの嬢ちゃんも見ないほうがいいと思うが、嬢ちゃんが本当に大蛇と戦うなら、見たほうがいい」


 気持ち悪いものなら、わたしも見たくないんだけど。


「シノブはサクラとルイミンが勝手に動かないように見張っておいてくれ」

「くまゆるとくまきゅうもサクラとルイミンをお願いね」

「「くぅ~ん」」


 まあ、いきなり封印が解かれるってことはないと思うけど、お願いだけはしておく。

 3人を残して、カガリさんを先頭にムムルートさん、わたしと階段を降りていく。階段を降りると広い空間があった。


「あいつが掘った穴か」


 ムムルートさんは懐かしそうにする。もしかすると、当時の冒険者仲間が掘った穴かもしれない。

 カガリさんが中央に歩き、地面に埋まっている魔石みたいなものに触れる。すると、地下に大きな魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は数十メートルに及ぶ大きさがある。そして、魔法陣が赤黒く光り、ゆっくりと点滅し始める。赤黒い色は気持ち悪い。


「確かにこれは見てて気持ちいいものじゃないね」


 魔法陣を見ていると、魔法陣が動いたような気がした。

 魔法陣が動く?

 気のせいかと思ったけど、気のせいじゃない。

 魔法陣の中にある黒い、大きな円形のものが動いた。

 わたしは構える。


「なにか、いる?」


 わたしの問いに、すぐにカガリさんが答えてくれる。


「大蛇の目じゃよ。妾が来ると、睨むように見る」


 大蛇の目?

 目はギョロギョロと動き、わたしたちを見ているように見える。

 目と分かると、さらに気持ち悪くなってくる。確かにサクラたちに見せないほうがいい。1人で夜にトイレに行けなくなるかもしれない。

 目はギョロと動き、一点に止まる。気のせいじゃなければ、ムムルートさんのほうを見ているような気がする。

 でも、カガリさんは魔石に触れて魔力を流すと、大蛇の目はゆっくりと閉じる。


「そろそろ限界じゃ。今は妾が毎日魔力を込めて押さえ込んでいるが、いつ封印が解かれてもおかしくはない」


 でも、今のが目って、大蛇はどれだけ大きいの?


「少し、調べさせてもらうぞ」


 ムムルートさんが魔法陣に向けて歩き出す。


「刺激は与えないようにしておくれ」


 ムムルートさんは確認しながら魔法陣の上を歩き、たまに魔法陣に手を置く。それを何度も行う。


「酷い状況だな。完全には封印できなかったわけか」

「数百年、封印できたことを考えれば凄いことじゃ。あまりにも長い平和に、もしもの場合の対処法も考えずに暮らしてきた、ツケが回ってきただけじゃ」

「それを言われると、わしも耳が痛いな。わしも結界の中で暮らしてきたからな。それを嬢ちゃんに救われた」


 ムムルートさんの場合は封印されていた魔物が復活したわけじゃない。人が入れない場所に魔物が入り込んでしまっただけだ。それにあれには対処方法はないと思う。


「平和は何もしなければ保たれないものじゃ。武士や兵士が治安を守り、魔物の脅威から守ってくれる。そうやって、平和は保たれる」

「でも、大蛇なんて、大きな脅威は簡単には対処できないと思うけど?」

「考える時間はたくさんあった。それをしてこなかったのは妾たち、和の国の国民たちじゃ」


 確かに数百年は考えるには十分な時間だ。


「だが、それと同時に、数百年という年月は忘れるには十分な時間だ。世代が代われば、その当時の記憶は薄くなり、危機感は無くなっていく」


 わたしも、昔の戦争のことを言われてもピンと来ない。よくないことは分かっているけど、当時の者がどれだけの恐怖や苦しみを感じたとか、どんな気持ちだったのかなんて分からない。

 それが戦国時代となったら、映画のような、物語の1つぐらいにしか思えない。


「男性を入れないように結界を張った妾も、なにも考えていなかった一人じゃ。そのせいで戦う前から戦力を失っている。ムムルート、お主を島に入れたいと思う気持ちが、封印と結界を重ねてしまった」


 もしかして、会いに来てくれるかもしれないと思っている者を結界に入れないようにすることはできなかったのかもしれない。

 わたしだって、フィナと別れても、もし会える手立てがあれば残しておきたいと思ったはずだ。


「和の国の平和ボケした国民と、妾の我儘のせいでこんな状況になった。自分でやっておいてなんじゃが、面倒なことをしてくれたものじゃ。昔の妾に忠告してやりたいわ。バカなことはするなとな」


 わたしだって、カガリさんみたいなことがあれば人避けの対処ぐらいはする。クマハウスだって、それに近い。


「そんなことはないと思うよ。自分の身を守るのは大切なことだよ。でも、お城とかに住むことは考えなかったの?」

「いくら英雄とはいえ、数百年も生きている狐じゃ。同じ場所にはいられぬよ。妾のことを知っているのはごく一部の者だけじゃ。城にいれば、おかしく思う者がでてくる。それに妾は1人のほうが落ち着く」


 つまり、わたしと同じで引きこもりってことだね。


「ムムルートには迷惑をかけることになった。すまぬ」

「気にするな。あてにされても困るが、できるかぎり、手を貸すつもりだ」

「感謝する」


 カガリさんは嬉しそうに微笑む。

 わたしもいるよ。って突っ込みはしたら、ダメかな?


「それで、ムムルートさん。なんとかなりそうなの?」


 カガリさんの話を聞きながら、魔法陣を調べているムムルートさんに尋ねる。


「カガリの言うとおりに、封印と結界が複雑に絡まっている。一つの結界を解けば、繋がっている全ての封印が解かれる」

「ムムルート、一つずつ封印を解除することはできぬか? 一箇所ずつなら、少ない戦力でもどうにかなると思っておる」

「方法はあるが、可能かどうかは、他の封印箇所の状況を見てからだな」


 わたしたちは階段を上がり、サクラたちがいるところに戻ってくる。

 3人はくまゆるとくまきゅうに寄りかかるように休んでいた。


 それから、わたしたちは二つ目、三つ目と地下にある大蛇が封印されている魔法陣を確認していく。


「あと頭が一つと、体か」

「それで、ムムルート様。なんとかなりそうなのですか?」

「下手に手を加えると、封印が解かれる可能性が高い。再封印するには一度、大蛇の力を弱らせてからになる。それでカガリと話をしているが、首を一体ずつ対処する方法を考えている」

「できそうなのですか?」

「他の封印箇所の結界を一時的に強化すれば、なんとかなると考えている。ただ、その間に首の一つを弱らせて封印しないといけない」

「時間は?」

「大蛇の力がどれほど溜まっているのか分からないから、正確な時間は分からない。時間との勝負になる。問題は戦力だが……嬢ちゃんとわしだけか」

「城のほうでも集めておるが、妾の結界のせいで、あてにならない」

「一応、封印が解かれた場合。港の近くに兵士が集まることになっているっす。それと……」


 シノブは少し言い難そうにして、サクラを見る。


「なんですか?」

「船に魔法使いを乗せて、大蛇を誘導させて陸から遠ざけることが提案されているっす」

「それって、船の上から戦うってこと?」

「違うっす。あくまで国から離すための誘導っす」

「それじゃ、船は……」

「生きては帰ってくることはできぬな。大蛇の攻撃をくらえば、船は沈没する」

「それじゃ」

「命を懸けた誘導じゃな」

「でも、わたし、そんな話は」

「サクラ様に心配をさせないためっす。でも、サクラ様の予知では変わったことはなかったっす。だから、失敗すると国王様は思っているっす。でも、他の者は一つの案として、進めているっす」

「そんな方法は取りたくないね」

「失敗すれば、大蛇は和の国に戻ってくるっす」


 サクラの予知が正しければ、成功の望みは低い。


「それに、逃がすってことは、他の国に行く可能性もあるってことです。わたしたちの国の災いを他の国に押し付けるなんて」

「サクラの気持ちは分からんでもないが、上の人間は他国より、自国の国民を一番に守ることを考えないといけない。もし、スオウがそのように決断しても、責めるんじゃないぞ」

「…………」

「だから、そんなことをさせないように妾たちが頑張るんじゃよ」


 カガリさんは落ち込むサクラの頭に手を置く。


「はい」


 サクラは顔を上げて返事をする。

 ミリーラの町に来られても困るから、ここで討伐したいね。



封印を確認して、本格的に大蛇との戦いが始まりそうです。


※次回の投稿、4日後にさせていただきます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 大亀に誘き寄せて戦わせるとか?
[気になる点] ムムルートのセリフにある「頭が痛い」のところ、この場合後ろめたい気持ちのようなので「耳が痛い」になるのではないでしょうか?
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