451 クマさん、くまきゅうを守る
前話、シノブがクマの炎を見たと書いてありましたが、削除させていただきました。
444話のジュウベイと戦うシーンで、ジュウベイを驚かせるために、クマの炎を出す話を書いていたのですが、削除をしたことを忘れていました。修正前にお読みになった読者様にはご迷惑をおかけします。
「国王陛下、それで城のほうは?」
サクラはなにもなかったように尋ねる。
なに、このスルー技術。
周りも気にした様子はない。
わたしも真似をして、スルーすることにする。
「黙らせてきた。どんな格好をしてようが、年齢が低くてもジュウベイを倒した強者だ。それにあいつらも各々で報告を受けているだろう。文句は言わせない」
国王はそう言ってわたしを見る。
どんな格好って、クマだから否定はできないけど。
「だが、報告は受けていたが、こんなに小さな女の子だとは思わなかったぞ。サクラの言葉じゃなければ疑うぞ」
ち、小さくないよ。国王が大きいんだよ。
でも、サクラの言葉は信じるんだ。
「ジュウベイ、本当に負けたのだな?」
「はい。見た目とは違い、どの武将よりも強いです。この命に誓って」
「そうか。異国には小さくても強い者がいるんだな」
いや、いないと思うよ。
今のところわたしより強いと思う人には出会っていない。
それだって、神様からもらったクマ装備のおかげだ。クマ装備がなければ、なにも力がない女の子だ。
「それと、これがサクラが言っていた希望の獣か。猛々しいと聞いていたが、なんと言うか怖くないクマだな」
「「くぅ~ん」」
国王の言葉にくまゆるとくまきゅうは否定の鳴き声をする。
戦っているときは格好いいけど、通常モードは顔は緩んでいるから、国王の言葉に反論できない。
いつも猛々しい顔だったら、子供たちは怖がって近寄らなかったと思う。
「触っても大丈夫か?」
「危害をくわえなければ」
「そんなことはせぬ。それじゃ、触らせてもらうぞ」
国王はくまきゅうの体に触れる。
「おお、肌触りがいいな。気持ちいいぞ。それに白くて綺麗だな。こんな毛皮が欲しいな」
そう国王が言った瞬間、くまきゅうは素早い動きで国王から離れ、わたしの後ろに隠れる。
「くぅ~ん」
そんな大きな体はわたしの体じゃ隠れることはできないよ。
もちろん、国王がそんなことをしようとすれば守るけど。
国王は逃げたくまきゅうを見ている。
わたしが「冗談でも言わないでもらえる」って声をかけようとしたとき、サクラが先に口を開く。
「伯父さま! 言葉には気をつけてください。シノブたちがどれほど苦労して、ユナ様やくまきゅう様を連れてきたと思っているのですか。もし、ユナ様が伯父さまの言葉に怒って帰ってしまったら、どうするんですか!」
国王に向かって、サクラが怒る。
「すまぬ。別に毛皮にするつもりはない。ただ、気持ちがよかったと言いたかっただけだ」
国王は素直に謝る。
でも、今、国王のことをおじさまって、言わなかった?
「それは分かります。ですが、言って良いことと悪いことがあります。ご自分の言葉には責任を持ってください」
国王が押されている。
「分かったから怒るな。あと、サクラ。ここでは国王と呼べ」
「申し訳ありません」
今度はサクラが謝罪する。
「おじさまって、2人の関係は?」
「サクラはわたしの妹の娘だ」
「それじゃ、サクラは王族?」
「違います。母は父と結婚して、王族ではなくなりました」
一般人と結婚をすれば、王族でなくなる話は聞く。
「なので、わたしは普通の巫女です」
普通の巫女は予知夢を見ることはできないと思うけど。
だけど、国王がサクラの言葉を信じた理由が分かった気がした。どちらかと言うと周囲の人間が否定的だった感じだ。
「だから、国王はサクラの言葉を信じていたんですね」
「ああ、妹も不思議な力を持っていたからな」
国王はなにか懐かしそうな表情をする。その言葉にサクラたち他の3人は無言になる。
そんな中、サクラが口を開く。
「お母さまとお父さまは、わたしが小さいときに亡くなりました」
お母さまとお父さまって、それじゃ2人とも亡くなっているの?
「だから、わたしが父親代わりをしている。でも、立場があるゆえ、公の場では、国王と呼ばせている」
それで、さっきの国王呼びの話になるんだね。
10歳なのに親がいないのは可哀想には思う。でも、わたしは両親を亡くしたり、捨てられたりした子供をたくさん知っている。孤児院の子供たちの顔が思い浮かぶ。サクラよりも小さい子供たちだ。それでも、悲しまず、元気にしている。子は親がいなくても成長するが、大人の助けは必要だ。だから、院長先生やリズさんがいる。
それにサクラには国王やシノブがいるし、性格も真っ直ぐに育っているから、心配はなさそうだ。
わたしみたいに性格がひねくれないように育ってほしいものだ。
「それじゃ、わたしと一緒だね。わたしも両親にはもう会えないから」
「ユナ様もですか?」
嘘は言っていない。
元の世界に戻れる当てはない。だから、会える可能性は低い。それに戻りたいかと問われれば悩む。
行き来できるなら、戻ってもいいけど。二度とこっちに戻れないなら、こっちを選ぶと思う。こっちの世界には大切な人たちができたからね。
「うん。だけど、わたしにはくまゆるとくまきゅうがいるから大丈夫だよ」
わたしは家族であるくまゆるとくまきゅうを見る。
くまゆるとくまきゅうは嬉しそうに鳴く。
「わたしも伯父さまたちがいますから、大丈夫です」
サクラは笑顔で答える。
その顔には寂しさは感じられない。
「それで、ユナと言ったな。お主は今回の件が無事に終えたら、なにが欲しい? 叶えられる願いなら聞くつもりだ。金か? 地位か?」
どちらもわたしには不要な代物だ。
あえて欲しいものはと言われたら、クマの転移門を設置する場所だ。クマの転移門を設置しないとクリモニアに帰ることができない。できれば、出入りしても目立たない場所がいい。でも、家なら買えるし、何か簡単に手に入らないものがいいね。
だから、わたしはこう答える。
「お金も地位もいらないよ。お願いは、大蛇を無事に封印して、わたしの貢献度で判断してくれればいいよ。そのときにあらためてお願いするよ」
つまり、終わってからお願いするってことだ。
「わかった。そのときは希望が叶えられるようにしよう」
国王は約束してくれた。
もし、封印に成功したら、温泉のある家を頼んでもいいかも?
それから、わたしは今後の話をする。
「それでは明日、リーネスの島に案内します」
いきなり戦うのではなく、封印を管理しているカガリって人に会って、話を聞くらしい。
「リーネスの島の結界を管理しているカガリ様は結界の状況を一番知っています」
なんでも、長年結界を管理しており、封印されている大蛇について詳しいらしいので、そのカガリ様って人から話を聞くことになった。
「今日はお部屋を用意しますので、ゆっくりとお休みになってください」
国王とジュウベイさんは帰り、わたしは部屋に案内される。ちなみにくまゆるとくまきゅうは子熊化してある。もし、なにかあった場合の護衛だ。
「それで、どうして2人が一緒にいるの?」
部屋にはサクラとシノブがいる。
「ユナ様たちと、もう少し話ができたらと思いまして」
そう言って、くまゆるとくまきゅうのほうを見る。
目当てはわたしではなく、くまゆるとくまきゅうみたいだ。
「わたしはユナのお世話係っす。なんでも言ってくださいっす」
「そうだ。シノブ、これは返すよ」
わたしはシノブから預かったお金が入った袋をだす。
先ほど、国王に褒賞について話をしているときに思い出した。
シノブからは、もしシノブが死んだ場合、代わりに親の仇だったジュウベイさんを倒すのがわたしの役目だった。でも、シノブは死なず、ジュウベイさんはわたしが倒した。シノブが生きていたら、返すことになっていた。でも、ジュウベイさんを倒したのはわたしだ。
なにより、それらは演技であり、親の仇は嘘だった。
だから、約束も無効になる。
「それは……」
シノブはお金が入った袋を見て、手を伸ばそうとするが、すぐに引っ込める。
「どうしたの?」
「受け取れないっす」
「確認するけど、このお金は国の?」
「違うっす。わたし個人のお金っす。あのときはどうしてもユナには師匠と戦ってもらわないといけなかったっす。だから、お金を出してでも、ユナには師匠に戦ってもらおうと思ったっす」
お金はシノブの独断だったみたいだ。
「そして、ユナは師匠と戦って、勝ってくれたっす。ユナはわたしとの約束を守ってくれたっす」
このお金が国から出ているなら貰っていた。でも、このお金がシノブ個人のお金なら、話は別だ。お金を稼ぐのがどれだけ大変なのか知っている。
「返すよ」
「ユナ?」
「だって、シノブが死んだ場合に、わたしが貰う約束だったでしょう」
「そうっすが、ユナが親の仇である師匠を倒したっす。約束ではユナが仇を討ってくれることっす。それが、演技だとしても、ユナは約束を守ってくれたっす。それを受け取ったら、全てが嘘になった気がするっす。あのときはわたしは死ぬ覚悟で戦ったっす。あの気持ちは嘘じゃないっす」
分かっている。あのときのシノブの表情が本気だと思ったから、引き受けた。
でも、シノブは受け取る気はないらしい。それはわたしも同様だ。
だからわたしはよく、漫画やアニメであるシーンを真似をしてみる。
「それじゃ、これだけもらうよ」
お金が入っている袋から、金貨を一枚取る。
「ユナ?」
「これで、お金を貰ったことになるし、それと同時にシノブが生きていたら返す約束にもなるでしょう。これならお互いの約束を守ったことになるよね」
わたしの言葉にシノブは唖然とした表情でわたしのことを見ている。
「ユナって、師匠と戦ったときもそうだったっすが、男前っすよね。師匠の三段突きから、わたしを救ってくれたとき、惚れそうになったっすよ。それに、こんなことをされたら、わたし惚れちゃうっすよ」
わたしはシノブから離れる。
「なんで、離れるっすか!?」
男に興味はないけど、そっちの趣味もない。
次回、島に行きます。