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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、和の国に行く
453/929

448 クマさん、サクラ様と話す

 広い部屋の一番奥に白い巫女装束を着た女の子が一人、座っている。


「サクラ様、戻ったっす」

「シノブ。怪我は?」


 巫女装束の服を着た女の子が立ち上がり、シノブのことを心配する。


「大丈夫っす。元気っすよ」


 シノブはその場で前転宙返りやバク転をしてみせてる。

 本当に身軽で忍者みたいだ。


「よかった」


 女の子は安心したように座り直す。

 わたしとシノブは女の子の前にやってくる。女の子の前には座布団が置いてあり、わたしは座るように促される。


「ユナ。紹介するっす。サクラ様っす」

「サクラと申します」


 サクラは先ほどのシノブのことを心配した年相応の表情とは違う、真剣な顔をして挨拶をする。

 年齢はフィナとあまり変わらないように見える。

 先ほどシノブに見せた表情は消え、綺麗な顔立ちと凛とした居住まいに、背筋を綺麗に伸ばして、わたしのことを見ている。

 長い黒髪が白い巫女装束にかかり、神秘的な女の子だ。

 でも、予知夢を見る巫女がこんなに小さな女の子だとは思わなかった。


「知っていると思うけど、わたしはユナ、この子はくまきゅう」


 わたしは抱いているくまきゅうを紹介する。


「この度はユナ様には不快な思いをさせて申し訳ありませんでした。このような呼び出しかたをしたことを謝罪します」


 サクラは子供には似ても似つかない言葉で謝罪し、手を前に突き、頭が畳に着くぐらいまで深々と頭を下げる。


「もう、いいよ。頭を上げて」


 子供に土下座をさせているようで体裁が悪い。わたしの言葉にサクラはゆっくりと頭をあげる。


「ありがとうございます」

「だからと言って、依頼を引き受けるわけじゃないよ。シノブが命を張ってまで頑張ったから、話を聞きに来ただけだよ」


 あと、予知のことも気になった。


「はい、シノブには大変な役を引き受けてくれたことに感謝しています」

「そんなことはないっすよ。サクラ様の苦労に比べたらたいしたことはないっす」

「シノブ、ありがとう」


 サクラはシノブに向かって微笑む。

 サクラはわたしのほうを見ると、緊張したような表情をする。そんなにわたしって、緊張するかな。ゆるキャラじゃないけど、緊張するような格好はしていないと思うんだけど。

 サクラは小さく息を吐き、何かを決めたように口を開く。


「ユナ様、手を握らせていただいても、よろしいでしょうか?」

「手を?」


 わたしはクマさんパペットをパクパクさせてみせる。でも、サクラの反応は真剣な表情から変わらない。別にわたしのクマさんパペットを触りたいだけではないみたいだ。


「はい、ご迷惑でなければ、お願いします」


 サクラは頭を下げる。


「変なことじゃないよね?」

「はい、変なことではありません。それはお約束します」

「なら、いいよ」

「あ、ありがとうございます」


 わたしが許可を出すと、サクラは立ち上がり、わたしの前にやってくる。そして、目の前で座り直し、わたしが差し出したクマさんパペットを緊張した表情で握り、ゆっくりと目を閉じる。

 クマさんパペットを握ったサクラはじっと動かない。静かにわたしのクマさんパペットを握っている。

 一分ほど経ち、サクラが動かないので、声をかけようと思った瞬間、サクラの目から涙がこぼれる。


「ど、どうしたの!?」


 わたしは慌てる。まさか、手を握られて泣かれるとは思わなかった。


「温かい魔力。綺麗な魔力。間違いなく夢の中で感じた光と同じです。やっと、掴むことができました」


 クマさんパペットを握るサクラの手が強くなる。手は小さくて弱々しい。でも、手を離したくない気持ちが伝わってくる。


「やっとです。やっとです」


 サクラは涙を拭こうともせず、わたしの手を逃がさないように握っている。

 わたしはどうしたらよいか分からず、サクラを見ていると、サクラの目がゆっくりと開く。

 その表情は涙を流していたが笑顔に変わる。


「申し訳ありません。わたしが求めていたもので、掴もうとしても掴めなかったものだったから」


 サクラは手を離し、涙を拭く。


「確認するまで、不安だったのです。でも、ユナ様は間違いなく、わたしの夢に出てきた希望の光です」

「そんなことまで分かるの?」

「何度も夢に出てきて、何度も掴もうとした光です。ユナ様から同じものを感じます。間違いありません」


 サクラは力強く答える。

 そして、嬉しそうに微笑む。

 サクラはお礼を言って、わたしから離れ、座り直す。


「それじゃ、本当に予知を夢で見ることができるの? あと、なんでも見ることができるの?」

「いえ、わたしが見ることができるのは自分に関わることだけです。あと、なんでも見ることはできません。見るのは気まぐれで、見たいと思っても自由に見ることはできません。逆に見たくないと思っても、見てしまいます」

「自分の未来しか見ることができないの?」

「はい、自分が関わる未来が、見えているんだと思います」


 どうやら、他人の未来は見ることはできないらしい。

 わたしの未来を見てもらうってことはできないみたいだ。


「1つ聞いてもいい?」

「はい、わたしにお答えできることでしたら」

「わたしが助けなかった場合の未来はどうなるの?」

「封印が解かれ、魔物が復活して、多くの人がわたしの目の前で殺されます」

「その復活したあとの魔物はどうなるの?」

「分かりません。わたしも死にます。その先、討伐されたかもしれません。更に被害がでたのかもしれません。でも、未来のわたしが死んだことで、その先のことを知ることはできません」


 それって、つまり、何度も自分が死ぬところを見たってこと?

 逃げなかったの? それとも、逃げられなかったの?

 この女の子は、何度も、何度も、何度も、自分が死ぬところを経験した。でも、その中で希望の光、わたしを見つけた。掴むことができなかった光。さっきの涙の理由が分かった気がした。


「でも、その絶望する夢の中で、光を見つけました。その光は遠くにありながら、温かい光を感じました。光はゆらゆらと揺れ、光をよく見ると獣の形をしており、人が乗っていました」


 そう言って、くまきゅうを見る。

 乗っていたのはくまゆるだけどね。


「わたしはその光を希望の光と呼ぶことにしました。でも、どうやって、希望の光を呼ぶか分かりませんでした。光はゆらゆらと揺れ、自由気ままに動きました。わたしは一生懸命に摑もうとしましたが、摑むことはできませんでした。でも、あるとき、海からやってくることが分かりました」


 その辺りはシノブから聞いている。


「国王陛下は海からやってくる獣に乗った者を出迎えるため、兵を配置しました。でも、希望の光は消えてしまいました。すぐに兵を引き上げました」


 サクラはシノブから聞いた話をしてくれる。

 そして、最終的にシノブが獣に乗った(わたし)に接触することになった。


「その予知の夢って、予知が変わったって分かるの?」


 サクラがどうやって、予知の分岐点を変えることができたか分からない。


「それは、大きな力を持った者の意志によって変わります」

「それって?」

「国王陛下の力です。国王陛下が動けば、国が動きます。まず、海から獣に乗って現れるのは分かりました。それで、獣がどれほどの危険なものか分からなかったので、対応として、国王陛下は兵を準備しました。でも、その日の夜の夢では光は遠ざかり、消えました。わたし個人では変えることができない未来でも、力ある者が動けば変えることはできます」


 もし、魔物の群れが襲ってくるのが分かった場合。魔物を倒す力を持っていないサクラ個人が立ち向かっても未来は変わらない。でも、国王が軍を動かせば未来は変わるってことらしい。


「シノブから聞いたけど、わたしの実力を計るためにジュウベイさんと戦うことになったらしいけど。サクラの希望の光って言葉を国王は信じなかったの?」


 サクラは首を横に振る。


「国王陛下でなく、重鎮たちや古い言い伝えを守る者です。よそ者にあの土地に入られるのを嫌い。わけが分からないものに救いを求めてもいいのかと、好意的でない意見もでました。国王陛下もわたしだけの言葉を聞くわけにもいかず……」


 サクラは言い難そうに頭を下げてしまう。

 それで、あんな面倒なことになったわけか。

 確かに希望の光って、サクラしか分からない。他の人からしたら海から獣がやってくると言われたら怪しむのも仕方ないかもしれない。

 しかも、その者の実力も分からない。

 そして、やってきたのはクマに乗ったクマの格好した女の子だ。


「あと、わたしのこの力は秘匿され、一部の者しか知らなかったこともあり、ユナ様には不愉快な思いをさせることになりました」


 サクラは申し訳なさそうにする。


「それで、確認だけど、本当にこんな格好しているわたしに頼むの? 他の人たちが文句を言ってくるんじゃないの?」


 わたしの格好は着ぐるみを着たクマだ。一般的に見れば魔物を倒せるようには見えない。


「真剣な戦いでジュウベイに勝ったのです。誰にも文句は言わせません。それでもユナ様の力を疑うなら、その者は国家の一大事を理解していないだけのバカです」


 サクラは膝の上に乗せている小さな手を強く握り締める。

 本当は戦わせたくなかったんだと思う。

 そのことはシノブが部屋に入ってきたときの表情を見れば分かる。

 

 今、わたしは目の前の女の子を助けたいと思っている。

 わたしに頼むなら、初めからサクラが来ていればよかったんだと思う。

 初めが間違いだった。国王に伝えたから、こんなに大事になった。

 もし、サクラ個人でわたしに会いにきたら、話を聞いたと思う。

 そして、このように真剣に話されたら、自分にできるならと引き受けたと思う。

 そう考えると、わたしの攻略方法って、子供?

 フィナのときや、ブラックバイパーのときも、孤児院の世話も、ノアのお願いの魔物一万、ミサの誕生パーティーのこと、砂漠でのカリーナと、全てに子供が関わっている。

 どうやら、わたしは子供に甘いみたいだ。



投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。

理由は書籍作業の赤文字ですw

今後、急遽遅れる場合は活動報告にて、書かせていただきます。

お気に入りユーザに入れていただけると、分かりやすくなると思います。


※そんなわけで、サクラに泣かれたユナです。

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― 新着の感想 ―
”その者は国家の一大事を理解していないだけのバカです“   悲しいかな、リアルの政治家は全てとは云わないけど、ほとんどが自分の利益しか考えないクソばかり‥‥‥   全てを粛清したいね!!
[一言] でもまあこの場合、サクラがおばあさんでも話を聞いて協力しただろうとは思うけどね~。 ・・・と書いて思ったけど、ユナの攻略法は『頑張っている弱者』かもね~。力を持ってたり動かす事ができる立場と…
[一言] あレレ! いまごろきずず問わ! 「さすがユナちゃまですねぇ。♥️」
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