41 クマさん、孤児院のために行動する
クマハウスに戻り、孤児院のことを考えてみる。
生きることに必要なもの。
衣食住の3つ。
衣、急ぐ必要はまだ無い。
食、数日後には必要になる。
住、家は修復したから大丈夫。
やっぱり、一番の問題は食料だろう。
さすがに屋台のおっちゃんが言っていたように毎日食料を持っていくわけにはいかない。
手を差し伸べてしまったのだから引っ込めることはしたくない。
どうしようかと悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえ、フィナが呼ぶ声が聞こえてくる。
「フィナ、解体終わったの?」
「うん。それで、ギルドマスターがユナお姉ちゃんを呼んでこいって」
孤児院のことは答えが出ないので、フィナを連れてギルドに向かうことにする。
「おお、来たか」
ギルマス自ら出迎えてくれる。
「それで、ブラックバイパーは?」
「ああ、冷蔵倉庫に仕舞ってある」
冷蔵倉庫に向かい、中に入ると大量の皮と肉、牙が山積みになっていた。
「ギルドはどのくらい欲しいの?」
「多ければそれにこしたことはない」
「半分は」
「もう少し欲しい」
「それじゃ、わたしが1/3」
「うーん。それなら、いいだろう」
ギルマスの了承を得て、自分の確保する量をクマボックスに仕舞う。
「あと、これが魔石だ。本当ならこれも売ってほしかったんだけどな」
魔石はいろんな物を作るのに必要なので最近は売らずに確保している。
ブラックバイパーの魔石が何になるかは未定だけど、売るつもりはない。
「お金の方はもう少し待ってくれ、量が量だけに少し時間がかかる」
「いつでもいいよ」
ギルドを出る頃には日が沈みかけている。
今日はまっすぐにクマハウスに戻る。
夕食とお風呂を済ませて、ベッドの上に寝転ぶ。
ブラックバイパーの素材で孤児院を助けられる方法を考えるが思いつかない。
売ればお金になるがそれだけだ。
ブラックバイパーを倒したのだからレベルが上がっているかもしれないのでステータス画面を出す。
最近、ウルフやゴブリンなどの低ランク魔物しか倒していなかったので、レベルは上がっていない。
今回は、高ランクのブラックバイパーを倒したおかげでレベルが上がり、新しいスキルを覚えていた。
名前:ユナ
年齢:15歳
レベル:20
スキル:異世界言語 異世界文字 クマの異次元ボックス クマの観察眼
クマの危険察知 クマの地図、クマの転移門
魔法:クマのライト、クマの身体強化、クマの火属性魔法 クマの水属性魔法 クマの風属性魔法 クマの地属性魔法、クマの回復魔法
装備
黒クマの手(譲渡不可)
白クマの手(譲渡不可)
黒クマの足(譲渡不可)
白クマの足(譲渡不可)
クマの服(譲渡不可)
クマの下着(譲渡不可)
クマの転移門
門を設置することによってお互いの門を行き来できるようになる。
3つ以上の門を設置する場合は行き先をイメージすることによって転移することができる。
この門はクマの手を使わないと開けることはできない。
おお、便利なスキルが来た。
でも、設置式か、ちょっと不便かな。
すぐに試してみたいので、ベッドから起き上がり部屋にクマの転移門を設置する。
壁にクマのレリーフの形をした両開き門が設置される。
次に1階の部屋に向かい、同様にクマの転移門を設置する。
門を開けると、その先は2階の自分の部屋だった。
便利だ。
だけど、設置型だと外に設置する場合、場所を考えないといけない。
しかも設置型だから、使ったら消えるわけじゃないから、設置場所も考えないといけない。
土足のこととか、くまゆるたちと移動した場合とか、意外と不便が多い。
瞬間移動なら、戦闘でも使えたんだけど残念だ。
でも、贅沢は言っても仕方ない。
このスキルだって十分に便利な力だ。
とりあえず、フィナが来たときのことを考えてクマの転移門ははずしておく。
うーん、クマの転移門って名前が長いな。
略してクマ門ってどうかな?
一瞬、寒気を覚える。
風邪でも引いたかな、名前は今度考えることにして今日は早く寝よう。
本日も朝食に目玉焼きと野菜をパンに挟んで食べる。
パンを齧った瞬間、アイディアの神様が降りてきた。
そうだ。これがあるじゃない。
パンにかぶり付く。
卵よ。
卵を生産して売ることができれば。
朝食を済ませると、商業ギルドに向かう。
商業ギルドに着くと前回来たよりも人が多い気がする。
いや、確実に多い。
人が入り口から溢れ出ている。
これ、中に入れるかな?
小さい体を利用して人と人の間を抜けて、前回お世話になったミレーヌさんがいないか探す。
いた。
でも、接客中のようだ。
どうしたもんかと思っていると、接客が終わり、わたしに声を掛けてくる。
「ユナさん」
次の人が並んでいるのにいいのか?
「どうしたのですか」
「ちょっとミレーヌさんに相談したいことがあったんだけど」
並んでいる人を見る。
「それじゃ、お聞きしますね」
「いいの?」
「大丈夫です。別の者に代わりますから。それでは、ユナさん、こちらで相談を伺います」
並んでいる人の目が怖いんですけど。
順番を抜かしたのだから仕方ないけど、わたしのせいじゃないよ。
ミレーヌさんは別の職員と席を代わり、わたしを別室に連れていく。
「それにしても、混んでますね。何かあったんですか?」
「ユナさん。本気でそれ、言ってますか?」
呆れたような目で見てくる。
「……?」
「はぁ」
なぜ、ため息を吐く?
商業ギルドが混んでいる理由をわたしが知っているわけ無いでしょう。
「本気で言っているみたいですね。ユナさんが討伐したブラックバイパーの素材を、買い付けに来ているんですよ。もう、昨日から大変ですよ。数も限りあるのに皆、沢山欲しがりますから」
「そうなの?」
「特にブラックバイパーの皮と牙は人気がありますね。王都に売りに行く商人もいるほどですから。さすがに肉は運べませんけど」
「そんなに人気なんだ」
「はい、お蔭様で。ユナさんのおかげで儲けさせてもらってます」
小さく頭を下げる。
「それで、相談とはなんでしょうか。ユナさんの頼みごとならある程度の無理でもお聞きしますよ」
それはありがたい。
遠慮なく、お願いをしてみよう。
「孤児院があるでしょう」
「端の方にある孤児院ですね」
「そう。その近くの土地を売ってもらうことはできる?」
「孤児院の近くの土地ですか。少しお調べしますのでお待ちください」
ミレーヌさんは部屋から出ていき、資料を持ってすぐに戻ってくる。
相変わらず、仕事が速いです。
「そうですね。大丈夫です。孤児院もあるせいであの土地を利用する者はいません」
「孤児院があると駄目なの?」
「悪い言い方をすれば、教育ができていない子供たちです。何かを建てたとしても、悪さをされる恐れもあります。それに街の端にあるせいで人気も無い土地ですから」
「それじゃ、その土地をわたしが買ってもいいのね」
「はい。問題はありません」
「それじゃ、その一帯の土地を売ってちょうだい」
「失礼ですが、どうなさるのですか」
「うーん、内緒」
「内緒ですか」
「できるか分からないからね」
提示された金額を払って、土地の権利書を貰う。
孤児院の近くの土地はわたしの物になった。
一度クマハウスに戻り、倉庫に転移門を設置する。
設置が終わると街の外に行き、くまゆるを呼び出す。
今から行けば今日中には着くはず。
くまゆる、くまきゅうに乗ってブラックバイパーを倒した村に向かう。
日が沈んだ頃、村が見える。
辺りは暗くなっている。
前回、倒したときに転移門に気づいていれば二度手間にならなかったのに。
まあ、今更言っても仕方ない。
今回は村に入らず、少し離れた山に入る。
暗いのでクマの光を照らして、山の中を進んでいく。
「良い場所ないかな」
ここでいいかな。
暗いし、探すのも面倒なので、崖の下にちょうどいい場所を見つけたので、ここにする。
ここなら、人もやってこないだろう。
崖下に下りて、横穴を掘る。
入り口はくまゆるたちが入れるほどの大きさにして、奥の穴は大きな空洞にする。
外も暗いけど穴の中はさらに暗いのでクマの光を2つほど作って作業を続ける。
細かい部分は後日やるとして、入り口は土魔法で埋めて、転移門を設置して門をくぐる。
「ただいまっと」
一瞬でクマハウスの倉庫に戻ってくる。
やっぱり便利なスキルだ。
先のことを考えずに書いているからこうなる。
本当ならブラックバイパーを倒したときにステータスを確認して、その時に村に転移門を設置するべきでした。
あと、クマ門ってアウトかな?
キャラクターじゃないからセーフだと思うけど。