430 クマさん、フルーツパフェをだす
わたしたちは庭園にやってくる。
相変わらず、庭園には色とりどりの花が咲いている。タールグイや蜂の木に咲いていた花も綺麗だったけど、城にある花も綺麗だ。そんななか、マリクスとシアは緊張するように歩いている。
花を眺めながら歩いていると国王、エレローラさんに王妃様の姿があった。王妃様を見つけたフローラ様は嬉しそうに駆け寄っていく。その後ろを子熊化したくまきゅうが追いかけていく。王妃様はやってきたフローラ様の頭を撫でる。
「マリクス、王妃様もいるわよ」
「王族が4人……」
「こんななかで食事をするんだね」
マリクスはお腹をさする。
たしかに普通に考えたら、王族が四人もいるわけだから、とんでもない状況だよね。
「ユナさん、お待ちしていました」
フローラ様のお世話役のアンジュさんがやってくる。
「アンジュさん、こんにちは」
「お久しぶりです。それでは皆様、こちらの席にお座りください」
アンジュさんはわたしたちを席に案内してくれる。
大きな円形のテーブルに国王陛下、王妃様、フローラ様と座り、国王陛下を挟んだ反対側にはティリアが座る。
フローラ様の隣にわたしが座り、エレローラさん、シア、マリクスと座る。
マリクスの隣がティリアになる。
フローラ様が椅子に座ったとき、王妃様がくまきゅうに気付くと、くまきゅうは後ずさりする。
そんなくまきゅうを見て、王妃様は微笑んで、くまきゅうに向かって手を差し出す。くまきゅうは動かないでいると、王妃様は席を立ち、くまきゅうを抱きかかえる。
王妃様がくまきゅうを離さなかったときのことが脳裏に蘇る。
「可愛い子ね」
「うん。くまさん、かわいいよ」
「そうね」
王妃様はくまきゅうの頭を撫でると離してくれる。
あれ?
前回同様に離さないかと思ったんだけど、予想が違った。くまきゅうも「くぅ~ん」と首を傾げる。
ちなみにくまゆるはティリアの膝の上に座っている。
「それでユナ。冷たい、美味しい物ってなんだ?」
国王が一番待ち遠しそうに尋ねてくる。
「一応、フローラ様のために持ってきたことは忘れないでよ」
今更だけど、どうして国王の分まで用意しないといけないのかな?
まあ、本当に今更のことなので、クマボックスからクマの形をした冷凍庫を出して、作ってきたものを取り出す。透明のガラスにアイスクリーム、生クリーム、プリン。そして、シュリと一緒にタールグイの島で採ってきたいろいろな果物が乗っている。
わたしが持ってきたのはフルーツパフェだ。器は元の世界にあったような縦長のガラスの器がなかったので、ボール型のガラスの器になっている。
アイスクリームやプリンにクリーム、いろいろな果物を乗せるなら、こっちのほうがよかった。
「あら、綺麗な食べ物ね」
「ユナさん、これはアイスクリームですか?」
「それにプリンや果物まで乗っているわね」
アイスクリームを食べたことがあるシアとエレローラさんがフルーツパフェを見て、感想を漏らす。
「暑いときはアイスが一番だからね。それからプリンやクリーム。果物も冷えているから美味しいよ」
アイスクリームだけじゃ、味気ないので、今回はフルーツパフェにしてみた。
「ああ、もしかして、仕事が忙しくて抜け出せなかったときか」
国王はなにかを思い出したようだ。
たしか、前回アイスクリームを持ってきたとき、国王と王妃様はいなかったので、国王と王妃様の分を置いていった記憶がある。
「あれは冷たくて美味しかったな。ゼレフが騒いでいたのを覚えている」
「でも、前は素っ気ない感じで、こんなに豪華じゃなかったわね」
前はカップにアイスクリームがあっただけだ。今回はアイスクリームにプリン、いろいろな冷えた果物が乗っている。
一つのフルーツパフェに皆の視線が集まり、食べたそうにしているので、皆の分のフルーツパフェを冷凍庫から出す。
「ユナさん、お手伝いします」
アンジュさんがやってきて、申し出てくれる。
わたしが冷凍庫から出して、アンジュさんが皆の前に運んでくれる。国王、王妃、ティリアと運び、フローラ様の前に置こうとする。
「アンジュさん、フローラ様の分は別にあるので、他の人にお願いします」
「わかりました」
フルーツパフェがフローラ様以外に配られる。
そして、最後にフローラ様の前に特別製のフルーツパフェを置く。
「くまさんだ~」
そう、フローラ様の前に置かれたフルーツパフェはアイスクリームがクマの顔の形になっている。クッキーや果物を使って、装飾してある。
「あら、フローラ様の分だけ、特別製なのね」
エレローラさんが自分のフルーツパフェとフローラ様の前にあるフルーツパフェを見比べる。なにか、欲しそうにしている。
「全員分を作るのが面倒なので、フローラ様だけですよ」
さすがに手間がかかるので、全員分は作らなかった。
それに国王がクマの形をしたフルーツパフェを食べるのは絵面的に問題がある。 だから、クマのフルーツパフェはフローラ様の分だけになる。
最後にわたしはスプーンとフォークを用意する。フローラ様はフォークを持つとわたしを見上げる。
「たべていいの?」
「いいよ」
わたしが許可を出すと、フローラ様は少し悩んで、持っているフォークを果物に刺して口に運ぶ。
「つめたくて、おいしい」
果物も冷えている。今度はシャーベットを作ってもいいかな。
「見たことがない果物もあるな」
そう言って、国王は輪切りになったバナナを口にする。
この辺りだと、バナナは手に入らないのかな?
「美味しいな」
「本当ね」
「おまえはどこから、こんな果物を手に入れてくるんだ?」
「う~ん、いろいろなところから?」
タールグイのことは言えないので、誤魔化す。
「なぜ、疑問形なんだ?」
「乙女の秘密だからだよ」
「乙女って」
目の前にクマの格好した乙女がいるでしょう。目が悪いのかな?
「どの果物も美味しいし、プリンもある。味も一つじゃないから、楽しめる。色とりどりの果物が乗っているから、豪華に見える。王族のパーティーに出しても目立つわね」
果物はバナナ、オレン、モモ、イチゴ、さくらんぼ、ぶどうが飾られている。
「ユナちゃん、飾りつけのセンスもあるわね」
「服のセンスはないけどな」
エレローラさんが褒めてくれているのに、国王がわたしの格好を見る。
別にわたしが選んで着ているわけじゃないよ。センスがないのは、わたしにクマの着ぐるみを着させた神様だ。
「なにを言っているのよ。とっても可愛いでしょう」
「可愛いと、着たいのは別だぞ。おまえさんは、着たいと思うのか?」
「う~ん、娘たちに着せたいわね」
そのエレローラさんの言葉にフローラ様と王妃様以外の全員がシアのほうを見る。
「お断りします」
シアは丁寧に母親の希望を断る。
「ええ~、マリクスも似合うと思うわよね?」
「えっと、その」
いきなり話を振られてマリクスは困り始める。
マリクスはエレローラさんとシアを見てから口を開く。
「本人が嫌がることは、しないほうがいいと思います」
悩んだ結果、シアを擁護する感じに答える。
でも、クマの着ぐるみを着ることが、嫌がることなんだ。
まあ、わたしがシアの立場だったら、同じ気持ちなので、責めることはできない。
「母親のお願いを断るなんて、意地悪ね。それじゃ今度、ノアにお願いしてみようかしら」
ノアなら、喜んで着そうだ。くまさんの憩いの店の制服も着たがったし。
エレローラさんはそんなことを言いながら、フルーツパフェを食べる。
「フローラ様、美味しいですか?」
「うん、おいしいよ」
満面の笑顔で答えてくれる。
どうやら、嫌いな果物はなかったみたいだ。
フローラ様は果物を食べながら、クリームが付いたプリンを食べたりする。口にクリームが付いているので、ハンカチで拭いてあげる。
「くまさん、つめたくておいしいよ」
フローラ様はくまのアイスを食べる。初めは食べるのを戸惑っていたけど、ひとくち食べると、クマのアイスはじきに消えていった。
「果物も美味しいけど、プリンもクリームも合うわね。それにこの冷たい食べ物がおいしいわ。アイスクリームだっけ?」
エレローラさんがアイスクリームを口の中に入れると美味しそうにする。
国王も王妃様も美味しそうに食べている。
「暑いときにはいいでしょう」
「確認だが、城の外ではこんなものが食べられているのか?」
「う~ん、売っているところは見たことはないわね」
国王はエレローラさんから、マリクスとシアのほうへ視線を向ける。
「自分も知らないです」
「わたしはユナさんから頂きました」
2人の答えに国王がわたしに視線を向ける。
「もしかして、またなのか?」
「またって?」
「誰も知らない食べ物かって意味だ」
「知っている人は知っているよ」
わたしが考えた食べ物じゃない。
「おまえは、いったいどこから……」
国王はなにか言いたそうにしたが、口を閉じた。
「まだ、食べたいようだったら、いくつか置いていくよ」
「ああ、そうだな。頼む」
フルーツパフェが好評に終わり、食べ終わったフローラ様とティリアはくまきゅうとくまゆると遊んでいる。それを微笑ましそうに王妃様が見ている。
シアはエレローラさんに着ぐるみの格好を着させられようとしているが、一生懸命に断っている姿がある。
国王陛下が騎士について語っている。それをマリクスが緊張しながら聞いている。
わたしは冷凍庫から残りのフルーツパフェを出すと、アンジュさんが城の冷凍庫に運んでいく。もちろん、ゼレフさんとアンジュさんの分もある。
それから、国王とエレローラさんは仕事に戻り、それと同時にマリクスとシアも去っていく。
「ユナさん。今日はありがとう。少し、勉強になった気がする」
「ユナさん、試合もそうだけど、フルーツパフェも美味しかったです。また、食べさせてくださいね」
そして、わたしも帰るので、フローラ様とくまきゅうのお別れの時間になる。
「約束したよね」
「う、うん」
フローラ様は悲しそうにくまきゅうから離れる。くまきゅうも「くぅ~ん」と鳴いてから、わたしのところにやってくる。その様子を見たティリアも黙ってくまゆるから離れる。
どうやら姉として、我がままを言うことはしないみたいだ。
「くまきゅう、くまゆる。またね」
フローラ様は小さな手を振る。
「「くぅ~ん」」
くまきゅうとくまゆるも鳴いて返事を返す。
わたしはくまゆるとくまきゅうを送還させる。
フローラ様は悲しそうにするが、くまゆるのぬいぐるみを持ったアンジュさんが現れ、くまゆるぬいぐるみをフローラ様に渡す。
フローラ様はくまゆるぬいぐるみを抱きしめる。
どうやら、ぬいぐるみが役にたっているみたいだ。
本当はマリクス視点で、王族に囲まれて緊張するマリクスを書こうとしたのですが、フルーツパフェの話を書こうとするとユナ視点でないと書けないので、今回は断念しました。
時間があればSSの方で書ければと思います。
次回の投稿より、新章に入ります。
楽しみにしていたければと思います。
これからもよろしくお願いします。
次回の投稿はなにもなければ通常通り3日後にさせて頂きます。