表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ドワーフの街に行く
425/928

420 クマさん、クマのキューピッドになる。その2

 わたしはリッカの手を引いたまま少し歩き、クマの転移門を通って、王都にあるクマハウスに移動する。その後ろからフィナが付いてくる。

 わたしはクマの転移門を隠すためにリッカさんの手を放す。


「ユナちゃん?」

「少し待って」


 わたしはクマの転移門を閉じ、クマボックスに仕舞う。


「もう、目隠しを取っていいですよ」


 わたしが言うとリッカさんが目隠しを外す。


「ここは?」

「王都にあるわたしの家だよ」

「王都にあるユナちゃんの家? それじゃ、ここは本当に王都なの?」


 キョロキョロと部屋を見渡す。先程のムムルートさんの家の部屋とは違うけど、まだ実感が湧かないみたいだ。


「外に出ればわかるよ」


 わたしたちはクマハウスから出る。そして、視線を少しずらすと、大きくそびえ立つ城が見える。


「お城……それじゃ、本当に王都」

「この移動のことはムムルートさんに迷惑がかかるから、誰にも話さないでね。ガザルさんにもロージナさんにもだよ」

「もちろん、誰にも言わないよ」


 リッカさんは約束をすると、不思議そうにぐるっと回るように周囲を見る。そうすると必然的に目に入ってくるものがある。


「クマ?」


 リッカさんの視線がクマハウスの前で止まる。


「ユナちゃんは本当にクマが好きなんだね」


 ここで否定するとくまゆるとくまきゅうが泣きそうなので、否定はできない。それに、クマは嫌いじゃない。クマはわたしの生活の一部になっている。今さら、否定することじゃない。

 でも、口にするのは恥ずかしいので、わたしは肯定も否定もせずに、逃げることにする。


「まあ、わたしのことはいいから、ガザルさんのところに向かうよ」

「うん」


 わたしたちはガザルさんのお店に向かう。

 さすがにここまで来て、逃げたりしないとは思うけど、フィナにはリッカさんの手を握ってもらっている。さすがのリッカさんもフィナを振りほどいて逃げたりはしないだろう。

 あと、迷子にならないようにする目的も含まれている。


 そして、いつも通りに王都を歩くと、わたしに視線が集まり、「くま」「クマ」「熊」「ベアー」って単語が聞こえてくる。


「ユナちゃん、一つ聞いていい?」

「なんですか?」


 質問の意図はわかるけど、尋ねてみる。


「王都でユナちゃんのような恰好している人っていないの?」

「…………」


 わたしが口を閉じていると、リッカさんはフィナに視線を向ける。


「えっと、いないです」


 フィナが言い難そうに答えた。


「そうなんだ。もしかして、ユナちゃんみたいな格好をした人もいると思ったんだけど、いないんだね。でも、これだけの人に見られると恥ずかしいね」


 もう、わたしは恥ずかしいって気持ちは捨てた。どちらかと言うと諦めたって言ったほうが正しいかもしれない。遠目で見るだけなら、無視をするし、絡んでくるようだったら、対処をするだけだ。


「フィナちゃんは気にならないの?」

「もう、慣れました。それに、ユナお姉ちゃんの格好は可愛いです」

「まあ、たしかに可愛いけど」


 とりあえず、わたしたちは視線を浴びながらガザルさんの鍛冶屋まで行く。


「ここにガザルがいるんですね」

「いるよ」


 わたしはドアを開けて、お店の中に向かって叫ぶ。


「ガザルさ~ん」

「ユ、ユナちゃん!?」


 いきなり、わたしがガザルさんの名を呼ぶので、リッカさんが慌てる。


「だって、呼ばないと来ないでしょう?」

「まだ、心の準備が」

「それは、王都に来るときにしたでしょう?」

「でも……」

「だれだ?」


 お店の中からガザルさんの声がして、やってくる。


「リッカお姉ちゃん、どこに行くの?」

「フィナちゃん、離して、お願い」

「駄目だよ」


 ガザルさんの声を聞いたリッカさんが逃げ出そうとしたが、フィナがしっかりと掴んで逃がさない。フィナにリッカさんの監視をお願いしておいて正解だった。


「なんだ。クマの嬢ちゃんか。今日はどうしたんだ?」

「ガザルさんに会いたい人がいるから、連れてきたよ」

「俺にか?」

「フィナちゃん、離して。お願い」

「この声は?」


 ガザルさんは店から出る。その先には逃げ出そうとしているリッカさんの姿と手を掴んでいるフィナの姿がある。


「リッカ?」

「ガザル!」

「どうして、リッカがここに?」

「ガザルさんに会いに来たんだよ」


 逃げようとしているリッカさんの代わりにわたしが答える。


「えっと、それは、ガザルが、心配で、少しだけだよ。あとユナちゃんが王都に帰るって言うから、付いてきただけだよ」


 えっと、ツンデレ?

 ここまで来て、その反応なの? 面倒くさい。

 アニメや漫画で見るツンデレは可愛く見えるけど、リアルで見ると面倒くさい女の子にしか見えない。

 ツンデレは二次元に限るね。


「それで、わざわざ、王都まで来たのか?」

「いけないの?」

「いけなくはないが」


 ガザルさんは少し困ったような表情をする。


「ガザルが、なかなか街に戻ってこないからいけないんでしょう。たまには戻ってきなさいよ」

「すまない。仕事で忙しかったんだ」


 男がよく言うセリフだね。

 でも、これでは話が全然進まない。


「リッカさん」


 わたしは話を進ませてほしいと目で訴える。


「わ、わかっているよ」


 リッカさんは小さく深呼吸して、ガザルさんに近づく。


「お店は1人でやっているの?」

「ああ」

「誰か、雇わないの?」

「今のところ、その予定はないな」


 ああ、本当に面倒くさい。


「ガザルさん。リッカさんは街に戻れないから、ここで働かせてほしいって」

「ユナちゃん!?」


 話が進まないので、リッカさんの背中を後ろから押す。


「どういうことだ?」

「つまり、リッカさんはガザルさんに会いたくて、ここまで来たの。ここまで言えばわかるでしょう」


 流石に永久就職に来たとは口にしないけど、ここまで言えばわかるよね?


「リッカ……」

「駄目かな?」

「それは……」


 シュシュ、ストレート。


「それとも、わたしがいると邪魔?」


 シュシュ、アッパー。


「それは……」


 シュシュ、シュ。左、左、右。


「駄目なの?」


 シュシュ。


「その前に一つ確認してもいいか?」

「なに?」


 シュシュ、シュシュ。


「いや、リッカにでなく。どうして、嬢ちゃんはリッカの後ろで、拳を振っているんだ?」

「気にしないでいいよ。ただ、ガザルさんがリッカさんを振った場合の殴る練習だから」


 シュシュ、ストレート。

 わたしのストレートパンチが風を斬る。


「なんでそうなる?」

「ちゃんとロージナさんに許可をもらっているよ」

「師匠に?」

「もし、娘を振ったら、一発殴っておいてくれって。あとウィオラさんからも頼まれているから二発だね。わたしの分を入れてもいいなら三発かな」


 シュシュ、シュシュ。


「お父さん、お母さん、いつのまに」


 わたしはシャドウボクシングのように、速い動きでクマさんパペットパンチを繰り返す。そのたびにクマさんパペットが空気を斬る。


「待て、それはおかしいだろう。なんで、嬢ちゃんの分があるんだ!?」

「いや、ここまで連れてきたわたしの苦労もあるかなと思って」


 実際はくまゆるとくまきゅうに乗って、クマの転移門を使って、戻ってきただけだ。一泊二日だ。でも、そのことをガザルさんは知らない。

 でも、振ったあとのことを考えれば一発ぐらい殴ってもいいはずだ。


「嬢ちゃん。知っているか。それは脅迫って言うんだぞ」

「脅迫って感じ取るってことは、そういうことなの?」


 わたしは思いっきりストレートパンチをして、空気を斬る。

 ガザルさんは頭を掻いて、考え込む。


「リッカ、本当にいいんだな。ここで働くってことは、師匠には簡単には会えなくなるんだぞ」

「うん。ガザルが一緒なら」


 リッカさんは悩むこともせず、即答する。


「……わかった」


 ガザルさんのその言葉でリッカさんは満面の笑顔になる。

 わたしの拳の出番はなかったようだ。


「ガザルさん」

「なんだ」

「あと、もう1つ伝言ね。一度は戻ってこいだって。遅くても、子供ができる前が良いって」

「お、お父さん!」


 リッカさんが恥ずかしそうに叫ぶ。


「ガザル、お父さんの冗談だからね。冗談だからね」

「そうだな。一度帰るか」

「……ガザル」

 どうやら、丸く収まったようだ。

 わたしはリッカさんに預かった荷物をクマボックスから出して、お店をあとにした。

 ロージナさんのことや試しの門のことも話したかったけど、今は2人だけにしてあげる。


「リッカさん、嬉しそうでよかったですね」


 フィナが自分のことのように嬉しそうにする。

 まあ、わたしも嬉しい。知り合いがフラれるところを見ても面白いことはない。

 でも、あれって結婚することになったのかな。今度、何かお祝いものを持っていってあげようかな。


「ユナお姉ちゃん、これからどうするんですか?」

「フィナを送り届けないといけないから、一度、クリモニアに戻るよ」


 フィナを長居させるわけにもいかない。

 わたしはクマハウスに戻ってくるとリッカさんに見られないように片付けたクマの転移門を再度、設置する。そして、クマの転移門の扉を開けて、クリモニアに移動する。


「10日ぐらいですが、いろいろあったので、長く感じました」


 フィナにとってはエルフの村に、ルイミンとの出会い。それから、ジェイドさんとの再会。ドワーフの街ではロージナさんにリッカさんに会って、街の探索。さらにわたしに付き合って、試しの門を見学したり、トウヤのミスリルの剣と濃密な10日間だった。

 しばらくはのんびりと過ごしたいものだ。

 でも、ムムルートさんにクマモナイトについて尋ねないといけないから、一度はムムルートさんのところに戻らないといけない。

 なにより、クマの転移門をムムルートさんの部屋に放置しておくわけにはいかない。



無事にガザルさんとリッカさんが結ばれました?

これで、ドワーフ編は終了となります。

次回から、クマモナイトの話や少しのんびりした話を書いたら、新章に入ります。

よろしくお願いします。


タイトルの「その2」はSSの方でキューピットの話があるので、「その2」にさせて頂きました。

ティルミナさんとゲンツさんの話になります。読んでいない方がいましたら、↓にある『くまクマ熊ベアーSSショートストーリーです』をクリックすると飛びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] クリモニアを出発して10日でドワーフの町往復して帰ってきて早くないかと怪しまれない?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ