408 クマさん、偽クマさんと戦う
3回目の試練が終わる。
ロージナさんとギルマスのことを忘れて、普通に戦ってしまった。
目立ってしまったが、仕方ない。手加減して勝てるような相手じゃなかったし、せっかくロージナさんが挑戦させてくれたんだ。魔法が使えずに負けるのは仕方ないけど、手加減して負けるわけにはいかない。
問題は4戦目、5戦目だ。これ以上強くなられると、今以上の力を出さないといけなくなる。
これは終わったあとに、わたしのことは内緒にしてもらうようにお願いするしかないかな。
今はこの試練を楽しむことにする。さて、次は何が出てくるのかな?
次の試練を待っていると、土が盛りあがり、縦に伸びる。
思ったよりも小さい。てっきり、大型の魔物が現れると思っていた。土は徐々に形を作りあげていく。
……人型?
高さはわたしと変わらない。二本足で立ち、両腕がある。頭は変なフードを被っている。どこかで見覚えがある。わたしは目をこすって、もう一度見る。
まずは足。どこかで見たことがあるような大きな靴を履いている。わたしは自分の足と見比べる。似ている。そして、視線を上げて、胴体を見る。太ったような、もっこりしたお腹。わたしは自分のお腹に手を触れる。似てる。
次に胴体から左右に伸びる腕から手を見る。手には見覚えがある動物の顔がある。わたしは自分の手を見る。クマさんパペットに似ている。そして、そのクマさんパペットの口にはわたしのクマさんパペットと同じようにナイフがちゃんと咥えられている。
最後に視線を一番上に向ける。頭はフードを被り、そのフードには可愛らしいクマの顔がある。
結論から言おう。どう見ても、わたしだよね。
「ロージナさん、自分と戦うの?」
「知らん。俺も初めてだ。ギルマスのほうが詳しい」
「俺も知らないぞ。自分を相手にするなんて見たことも聞いたこともない」
ロージナさんとギルマスも知らないみたいだ。
土と魔力でできているとはいえ、もう一人の自分がいるって気分が良いものじゃないね。しかも、完成するとわたしにそっくりになる。ご丁寧に色までそっくりだ。自分と戦えとか趣味が悪い。
たまにゲームや漫画に自分を越える試練がある。自分とそっくりな相手と戦って勝つ。戦いながら成長しろとか、言っているわけじゃないよね。
そもそも、どこまでわたしのことを模写してるかだ。わたしの防具は神様のチート防具だ。それをそのままコピーできるとは思えない。言うなれば神の防具だ。さらに魔力で身体強化もしている。簡単にわたしの真似ができるとは思えない。
もし、わたしの全ての力をコピーしたのだったら、最強、最悪の相手になる。
コピーのわたしを見ていると、ゆっくりと動き出す。頭の中でコピーのわたしって言うにも違和感がある。偽と命名させてもらう。
偽わたしはクマさんパペットが持っているナイフをゆっくりと構える。動くと思った瞬間、偽わたしはわたしに向かって駆け出す。
まずはどれくらいわたしのことを真似をしているか調べさせてもらう。
動きは速い。お互いの間合いがつまる。偽わたしが右手に持つナイフを突き出す。わたしは右にかわす。すると、すかさずに偽わたしの左手に持つナイフがわたしに迫ってくる。わたしはくまゆるナイフで防いで後方に下がる。
意外と二刀流を相手にするのは面倒かもしれない。
武器が一つなら、一つに注意すればいい。でも、二つ注意するのはそれだけ、面倒くさくなる。
それから、偽わたしの実力を計るため、数度の斬り合い、打ち合いをする。お互いにナイフを振る。お互いに避ける。そんな動き難そうな格好をしているのに、ギリギリのところで攻撃がかわされる。
どうしてそんな動きができるのよ。足捌きの動き、ナイフの扱い、クマの格好をしているくせに。
偽わたしに文句を言うと自分にブーメランのように返ってくるような気がするので、偽わたしの悪口はほどほどにしていく。
でも、これは今まで戦った中で一番面倒な相手かもしれない。
これって、動きもわたしの真似をしているのかな。自分の動きって、実際は見たことがないから、どんな風に戦っているか知らない。もし、わたしの動きもコピーされていたら、面倒くさくなりそうだ。
過去の三試合でわたしの動きを情報収集されたのかもしれない。体とかは魔法陣が怪しい。
自分の体重やスリーサイズは把握されていないことを祈る。
わたしと偽わたしの攻防は続く。
突く、避ける。斬り、避ける。偽わたしのナイフを避けたとき、予想外の攻撃をしてきた。クマ足が横から飛んできた。
「ちょ」
わたしはお腹にぎりぎり当たるところでかわす。そして、逃げるように後ろに下がる。
「ちょ、蹴りは反則じゃない!」
わたしは偽わたしに向かって叫ぶ。もちろん、返答は返ってこない。だから、文句を言う相手を変える。
「ロージナさんにギルドマスター。わたしはダメで相手は蹴りはありなの?」
「そんなことを俺に言われても」
「人型なら、蹴りぐらいしてくるだろう」
「自分がダメで、相手が良いって、不公平じゃない?」
「駄目とは言っていない。わからない。あくまで武器の試練だからな」
武器の試練ってことぐらいわかっているけど。自分のコピーは蹴りを使って、わたしが使えないのは不公平だと思う。それとも、使ってもいいのかな? でも、使った瞬間終わっても嫌だし。卑怯だ。
だけど、自分のコピー相手にハンデってやばいかな?
これで偽わたしが魔法でも使ってきたら、ズルいを通り越して、反則だ。でも、幸いに今のところ魔法は使ってこない。
距離をあけて、どうしようかと考えていると、偽わたしの右腕が上がる。そして、腕が振り下ろされる。
わたしはとっさに右にかわす。ナイフを投げてきた。
「ちょ」
わたしが文句を言おうとすると、偽わたしの右手には新しいナイフが握られている。
それって、反則じゃない?
偽わたしが左右の持つナイフを何本も投げてくる。投げナイフって卑怯じゃない。しかも、再生されるって、チートだ。わたしの方は二本だ。しかも、投げたらそこで終了だ。
これは距離が離れると、ナイフが二本しかないわたしのほうが不利だ。わたしはナイフを避けながら偽わたしとの距離をつめる。
それから、何度か至近距離で打ち合う。
ナイフを受け止め、受け流し、斬りかかる。あるときは突き刺す。自分と戦うと、思ったよりも厄介だね。動きが読まれているような気がするし、当たったと思っても、防がれる。
偽わたしがナイフを振り下ろす。振り下ろされる前に偽わたしの腕を、腕で受け止める。胴体ががら空きになる。そこに反対側の手に持つくまきゅうナイフを突き出す。でも、偽わたしはそれさえもかわす。
逆に偽わたしは左手の持つナイフをわたしに向けて斬りかかる。それを今度はわたしがかわす。
そして、お互いに距離をとる。
「ふ~」
わたしは息を静かに吐く。偽わたしは無表情だ。もしかして、体力は無限? っていうか。魔力で動いているんだよね。魔力が尽きるまで、動き続けるってことなのかな?
わたしは偽わたしを見る。
うん、だいたいわかった。
自分と戦うのがこんなにイラつくものなんだね。
戦ってわかったことは、どうやら偽わたしは、3試合までのわたしの力をコピーされている。それ以上の力は発揮はできないみたいだ。それでも、十分に脅威だった。
でも、もう楽しもうとするのは終わりにする。わたしは身体強化を行い、さらにくまゆるナイフとくまきゅうナイフに魔力を注げるだけ、注ぎ込む。
わたしは足に力を込める。そして、この4試合で最速の動きで、一気に偽わたしとの間合いをつめる。偽わたしはタイミングを合わせて、ナイフを振り下ろそうとする。わたしはくまきゅうナイフで受け止め、くまゆるナイフを横に振る。偽わたしはナイフで受け止めようとするが、ナイフが斬れる。元は土、魔力で硬化されているだけ。それ以上の魔力を注いだくまゆるナイフで斬れば、わたしのナイフが勝つ。
そして、偽わたしより速く動き、偽わたしのぷっくり膨らんだお腹を斬った。
自分に似たものを斬るって、あまりいい気分じゃないね。
偽わたしはナイフで斬られると、そのまま崩れ落ちた。
四戦目終了。
偽ユナのコピーは三戦目までの戦いと魔法陣でコピーされています。
試練も次回で終わりそうですね。