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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ドワーフの街に行く
405/904

400 クマさん、飛び降りる

 わたしは建物の前にやってくると、中が覗けないか建物の周囲を歩く。でも、どこにも中が覗けるような場所はない。窓はあるけど、閉められているため、中を見ることはできない。


「中はどうなっているの?」

「建物の中はとくになにもないです。奥に行くと試しの門があります。でも、試しの門の奥は入ったことがないので詳しいことは分からないです」

「入ったことがないって。もしかして、試しの門の中って見られないの?」


 それだとジェイドさんの応援ができない。そもそも、それじゃ試練が見られなくて、つまらない。


「試しの門の中に入れるのは武器を作った鍛治職人と武器を扱う者だけだから、他の人は入れないです」


 試しの門の中に入るには参加しないとダメらしい。イベントがあるのに、参加することも、見学もできない。元ゲーマーとしては生殺しだ。見るだけでも楽しいのに。


「お父さんやガザルたちから聞いた話だと、試しの門の奥は広い空間になっているみたいです。そこで、自分の作った武器を試すみたいです」

「試すって、なにをするの?」

「お父さんもガザルたちも詳しくは教えてくれないんです。ただ、扱う武器によって試練は違うみたいです」


 試練が違ったら、誰の武器が一番か分からない気がするんだけど。


「それじゃ、誰の武器が優秀かわからないんじゃ」

「武器作りは自分との戦いです。昨日の自分より、今の自分。一ヶ月前の自分より、今の自分。一年の前の自分より、今の自分です。まあ、お父さんの受け売りの言葉だけど」


 言っていることはわかるけど。


「やっぱり、競い合うものじゃない?」


 自分自身と戦うのもいいけど、戦う相手がいるのも大切だ。友と書いてライバルと読むとかあるしね。それで成長することもある。


「ナイフに剣、槍にハンマー、他にもいろいろな武器があります。どれが一番なのかは選びようがないですよ。武器にはそれぞれ得意、不得意がありますから」


 まあ、それを言われたら、そうだけど。部門別とかあってもいいと思うのはわたしだけだろうか。でも、試しの門は人が判断するのでなく、試しの門が判断するらしいから、そこまで求めるのには無理があるのかな。でも、そんな話を聞くと余計に試しの門の試練の内容が気になってくる。

 あとは試練が終わったあとにジェイドさんに聞くしかないかな。


 それから、わたしたちは高台から街を眺めながら小休憩し、帰ることにする。

 帰るってことは、長い階段を下りていくことになる。


「フィナ、おんぶしようか?」

「うぅ、大丈夫です。どうして、わたしをおんぶしようとするんですか?」

「だって、一番年下だし、エルフでもドワーフでもないし」


 心の中で「クマでもないし」と呟く。

 エルフは身軽そうに感じるし、ドワーフは体力があるイメージがある。ちなみにクマは万能ってイメージになっている。そうなるとこの中ではフィナが一番弱く感じる。

 フィナとわたしの会話を聞いていたルイミンがわたしの背中に抱きつく。


「それじゃ、ユナさんの背中はわたしが乗せてもらおうかな」


 そこで、わたしは面白いことを思いついたので、了承する。


「えっと、なんで、前なんですか?」


 わたしはルイミンをお姫様抱っこしている。ルイミンには首にしっかり掴まるように言う。


「落ちたら、死ぬからね」

「ユナさん、階段を下りるだけですよね?」

「…………」


 わたしはルイミンから視線をゆっくり逸らす。


「どうして、目を逸らすんですか!?」


 わたしはその問いには答えずに、階段の横に立つ。階段の横は崖になっている場所があり、飛び降りるには良い場所だ。


「ユ、ユナさん、そこに階段はないですよ」


 ルイミンが不安そうにする。


「それじゃ、フィナ、リッカさん。先に降りているね」

「ユナお姉ちゃん?」

「ユナちゃん?」


 わたしは駆け出すと、崖から飛び出した。

 腕の中から悲鳴があがり、ルイミンの腕に力が入る。

 わたしは途中の足場になっている場所でワンクッションいれて、一気に下まで降りてくる。わたしは綺麗に着地を決める。

 腕の中ではルイミンがわたしの首を強く締め付けている。これがクマ装備じゃなかったら、苦しかったかもしれない。


「ううぅ、ユナさん。いきなり、飛び降りるなんて酷いです。怖かったです」


 ルイミンは腕の中から降りると、地面に腰を下ろす。目にはうっすらと涙が浮かんでいる。本当に怖かったみたいだ。


「だって、普通に降りてもつまらないと思って」


 安全なバンジージャンプみたいなものだ。楽しんでもらえると思ったけど、楽しめなかったようだ。


「もしかして、腰を抜かした?」

「誰のせいだと思っているんですか!」


 ルイミンは文句を言うが、足が震えて立てずにいる。

 それから、しばらくするとフィナとリッカさんが下りてくる。


「ルイミンさん、大丈夫ですか?」

「うぅ、怖かった。死んだかと思ったよ」


 ルイミンはやってきたフィナに抱きつく。どうやら、歩けるようになったみたいだ。


「今度、フィナもやってみる?」

「お断りします」


 楽しいと思うのに、断られた。


 それから、ルイミンの機嫌を直し。夕食はリッカさんの家、ロージナさんの家で一緒に食事を頂くことになり、今日の出来事やクリモニアの話や王都の話をする。

 そして、リッカさんがエルフの村のことを聞きたがり、ルイミンがエルフの村の話をする。


「わたしもルイミンちゃんのエルフの村やフィナちゃんの街にも行ってみたいな」

「王都はいいの?」

「もちろん、王都も行ってみたいよ。ガザルがしっかり仕事をしているかも、見たいしね。でも、遠いから、簡単にはいけないからね」


 クマの転移門があるから、わたしなら簡単に来ることができる。でも、普通の人からしたら、遠い。


「ユナちゃんたちは、よくそんな遠いところから来たね」

「わたしには召喚獣がいるからね」

「召喚獣?」


 クマの転移門のことは説明できないので、そう答える。まあ、実際にエルフの村から、くまゆるとくまきゅうに乗ってきたので嘘ではない。


「ユナさんの召喚獣は、クマで凄く可愛いんですよ。しかも速くて、わたしの村から、2日も掛からずに来たんです」

「そうなの? でも、クマって怖いんじゃ」

「くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんは可愛いです」

「クマの召喚獣……」


 リッカさんはわたしのことを見る。


「見る?」

「危険はないんですよね」

「もちろん、リッカさんがいきなり襲いかかったりしなければ、危険はないよ」

「そんな怖いことしないです」


 リッカさんは首を左右に振る。

 わたしはロージナさんとウィオラさんの許可を貰い、くまゆるとくまきゅうが召喚できる部屋に移動する。

 わたしは腕を伸ばして、くまゆるとくまきゅうを召喚する。


「クマ!」


 リッカさんはロージナさんの後ろに隠れる。


「黒いほうがくまゆるで、白いほうがくまきゅう」


 くまゆるとくまきゅうを紹介すると、フィナとルイミンがそれぞれに抱きつく。


「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」

「なにもしてこないよ」


 フィナとルイミンに言われて、リッカさんはロージナさんの後ろからゆっくりと出てくる。

 ロージナさんとウィオラさんは驚いているが、怖がっている様子はない。リッカさんは恐る恐る手を伸ばして、くまゆるに触れる。


「柔らかい。それに気持ちいい」


 くまゆるは気持ちよさそうに小さく「くぅ~ん」と鳴く。リッカさんはなにもしてこないくまゆるに安心して、頭を撫でる。


「こっちは白いクマなんだね。白くて綺麗」


 くまゆるとくまきゅうが怖くないと分かったリッカさんは、くまゆるとくまきゅうを撫で回す。そして、帰るために送還すると、名残惜しそうな顔をしていた。

 わたしたちはロージナさんや料理を作ってくれたウィオラさんにお礼を言って、宿屋に戻る。



「さすがに疲れました~」


 ベッドの上に倒れるルイミン。


「足が重いです」


 フィナもベッドに腰掛けて、足をモミモミとほぐしている。まあ、フィナは頑張って、自分の足で階段を登って、降りたからね。


「それじゃ、お風呂に入ってから休もうか」

「でも、お風呂は……」

「大丈夫だよ」


 宿屋にお風呂はなく、銭湯に行かないと入れないらしい。今から行くにもあれだし、人前で無防備になるのは抵抗がある。わたしは部屋の鍵をしっかり閉めると、クマの転移門を取り出す。ここにはクマの転移門のことを知っている者しかいない。

 使わない手はない。

 わたしはエルフの里のクマの転移門の扉を開く。


「フィナとルイミンは少し待っていて。ここは神聖樹の結界の中だから、フィナが入るとなにが起きるか分からないから」


 わたしは一度扉を閉め、神聖樹にあるクマハウスに移動する。そして、神聖樹の結界の外に出ると、適当に旅用のクマハウスをクマボックスから取り出す。わたしはクマハウスの中に入り、クマの転移門を設置している部屋に移動して、フィナたちがいる宿屋のクマの転移門の扉を開く。そして、2人を連れて、クマハウスに移動する。


「それじゃ、お風呂の準備をするから、2人はもう少し休んでいて」

「ユナお姉ちゃん、どうして、エルフの村に転移したの? クリモニアでもいいと思うんだけど」

「一応、光を灯すから、クリモニアや王都、ミリーラは人の目があるからね。ここなら、森の奥にあるし、エルフの村からも離れているから、光が多少漏れても、気付かれにくいしね」


 それに村長のムムルートさんもクマの転移門のことを知っているので、もしものときは誤魔化すことも容易にできる。

 そして、わたしたちは一日中歩いた足の疲れをほぐしながら、ゆったりとお風呂に入った。

 お風呂は良い文化だね。




話数で400話になりました。ありがとうござます。

それと同時に書籍7巻も発売しました。よろしくお願いします。

7巻発売記念でSSにて、カリンさんのお話を投稿してありますので、読んでいない読者様がいましたら、そちらもお読みになってください。


出版社様がクマのPV動画を作成してくださいました。活動報告に書いてありますので、見て下さるとうれしいです。


これからクマをよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 砂漠に行くときに作った仮拠点ってどうなったんだろう? 片付けたの読み飛ばしたか忘れてるだけ?
[一言] 話数400突破お疲れ様です。でもユナさんの活躍はまだまだ続いていて楽しみです。
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