36 クマさん、ギルマスに感謝される
投稿できた。
面白い仕事を探しにギルドにやってきた。
ギルドの中に入るとヘレンと目が合う。
素通りして依頼が貼ってあるボードに行こうとしたら。
「ユナさん!」
ヘレンが叫ぶ。
人を見ていきなり叫ばないでほしい。
部屋にいる冒険者がこちらを見るじゃないか。
「なに?」
「今度は何をしたんですか。ギルマスからユナさんが来たら呼ぶようにって言われていますけど」
会って早々、なにを言うのかこの娘は。
「なんで? わたし今回、何もしてないわよ」
「本当ですか?」
そんな疑うような目で見られても、こちらとしても憶えはない。
この数日は依頼自体、受けていない。
そんなわたしの気持ちに関係なく、ギルドマスターの部屋に連れていかれる。
「ギルマス! ユナさんが来ましたので連れてきました」
中から「入ってくれ」の声が聞こえてくる。
渋々中に入る。
「とりあえず、座ってくれ」
入り口に一番近い椅子に座る。
「えーと、呼ばれたみたいだけど、なに?」
「ゲンツのことだ。礼が言いたくてな」
「礼?」
「おまえがティルミナの病気を治して、ゲンツと結婚をさせたそうじゃないか」
「そうだけど、どうしてギルドマスターがお礼を言うの?」
「まず、ティルミナの病気をお前の故郷の貴重な薬で治してくれたそうだな」
ゲンツさんには魔法で治したことは黙ってもらっている。
下手にばれて病気を治してほしい人が来られても困る。
そのため病気を治したのは貴重な薬ってことになっている。
「ティルミナはここの元冒険者で病気のことは気になっていた」
「もしかして、フィナがギルドで働いていたのも」
「そうだ。少しでも手助けができればと思ってな。でも、表立って雇うわけにもいかないから、仕事が多いときだけとしていた。だから、おまえさんがウルフを持ってきてくれたときは感謝した。それに今も、雇ってくれているのだろう?」
「わたしが好きでやっていることよ」
「それだけじゃない、ゲンツの奴もこの年まで結婚しないできた。あいつがティルミナのことを好きなことは知っていたが、病気だったし、相手は旦那がいなくても子供が2人いるだろう。そんなときにおまえさんが、ティルミナの病気を治し、ゲンツの気持ちを後押ししてくれたから感謝している。 だから、礼が言いたかった。ありがとう」
「気にしないでいいわよ。わたしがフィナのために脅迫して結婚させただけだから」
「これで、あいつも心配事もなくなって仕事に専念できるだろう」
嬉しそうに言う。
もしかして、ゲンツさんとギルマスは部下と上司の関係だけじゃないかもしれない。
でも、わたしには関係ないので帰ることにする。
「それじゃ、わたしは戻るね」
椅子から立ち上がろうとした瞬間、ドアがノックされる。
「ギルマス、クリフ・フォシュローゼ様が来られました。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
ドアが開くとクリフが入ってくる。
「朝早く失礼するよ」
入ってきたクリフはわたしに気づく。
「クマの嬢ちゃん?」
「それじゃ、わたしはこれで失礼するね」
「ああ、時間を取らせたな」
今度こそ椅子から立ち上がり、部屋から出ていこうとするが再度止められる。
「ああ、ユナも残ってもらえるかな」
領主のクリフにそんなことを言われた。
「ちょっと、ユナにも相談したいことがあるんだが」
クリフに肩を押されて椅子に座らせられる。
「それで、こんな朝早くなんのようだ」
「おまえも知っているだろう、来月、国王が40歳の誕生日を迎える」
「ああ、一応な」
「その時に王に献上する良いものが無くてな」
「そんなことなら、商業ギルドに行け。ここは冒険者ギルドだ」
「もう、行ったさ。でも、国王が喜びそうな物が無くてな。金で買える物を献上しても喜ばないしな。それで、冒険者ギルドで珍しい剣や防具、道具とかないかと思ってな」
「めぼしい物は商業ギルドに回している」
「だよな。一応確認のためにきたんだけど、それで、第二案にユナ、おまえさんに尋ねたいんだけど」
「なに?」
「おまえさん、珍しい物持っていないか。そのクマのアイテム袋みたいなやつ。もしくは、召喚獣を召喚するアイテムとか」
「悪いけど、無いよ。もちろん、このクマのアイテム袋を譲る気は無いよ」
「それじゃ、何か作れないか、クマハウスみたいなやつ。俺も見たけど、あれは凄かった。流石にあんなに大きいと運べないから小さいものだと助かるんだが」
うーん、作れないことは無い。
地球のアイディアを使えばドライヤーみたいな物は作れる。
でも、そんなことをしたら、面倒ごとになりそうだ。
そんなことになったら、のんびり暮らしができなくなる。
とりあえず、良いものが無いかクマボックスに何か無いか調べてみる。
…………
………
……
うん? 良い物がある。
「冒険者ギルドには珍しい武器や防具を探しに来たのよね」
「ああ」
「それなら、これはどう」
クマボックスからゴブリンキングの剣を出す。
「これは?」
「ゴブリン王の剣」
「本当か!」
「確かに以前、お前さんがゴブリンキングを倒したのは聞いていたが、ゴブリン王の剣を持っていたのか!」
意外と2人の反応がいい。
「とりあえず、本物か確認だな」
ギルマスは職員を呼んで鑑定できる職員を呼ばせる。
すぐに年配の男性がやってくる。
ゴブリンキングの剣を調べる。
「間違いありません。ゴブリン王の剣です」
「そうか、助かった。戻っていいぞ」
男性職員は部屋から出ていく。
「これは国王への贈り物になるの?」
「ああ、十分になる。珍しい剣だから」
「そうなの? ゴブリンキングを倒せば手に入る物じゃないの?」
「ゴブリンキングが皆もっているわけではない。詳しくは分かっていないが、元は普通の剣だったらしい、それがゴブリンキングが持つことによって、ゴブリンキングの魔力が剣に流れて変質すると言われている。だから、生まれたてや魔力の弱いゴブリンキングはゴブリン王の剣を持つことはできない」
ゲームでも落とすのは低確率だった。
それと同じことかな。
もっとも、ゲームではゴブリンキングの成長って概念はなかったけど。
「それで、その剣を譲ってくれるのか?」
「別にいいけど」
「では、いくらほどで譲ってくれるのだ」
「価値がわからないのだけど、いくらぐらいするものなの?」
「正直に言えばわからない。手に入れようと思っても手に入れられる物じゃないからな。おまえさんに決めてもらって構わない。それで俺が払えるようだったら払う」
「それって、相場を知らないわたしが不利じゃない」
まあ、お金に困っていないからいくらでもいいんだけど。それだと面白くない。
「譲ってもいいけど、貸しひとつってどう?」
「貸しひとつ?」
「領主っていろいろ悪いことしているでしょう。だから、わたしが困ったときに手を貸してほしい」
「人聞きの悪いこと言うな。俺は真っ当だ」
「まあ、冗談は抜きにして、今度お願い事ができたらお願いを聞いてほしい」
「たとえば何をしてほしいんだ?」
「ギルドマスターを辞めさせるとか?」
「お、おい」
ギルドマスターが立ち上がる。
「冗談よ。今は何もないから。今度、何かあったらお願い。何もなければ儲けもんでしょう」
「それでいいのか」
「いいよ。その方が面白そうだから」
「それじゃ有難く貰うな。契約書でも用意するか?」
「いらないよ。もし、約束を破ったら、破ったでいいよ」
わたしは笑顔を向ける。
実際問題、いらない剣だ。
無くても問題はない。
貸しができたら儲けもんと思うことにする。
「いや、俺にできることなら手を貸すことを誓おう」
誓うとか大げさ過ぎる。
「それじゃ、そのときはお願いね」
当時、何も考えずに書いてしまったゴブリン王の剣がやっと処分できた。