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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、異世界を楽しむ
38/907

34 クマさん、クマ風呂に入る

 クマハウスに到着する。


「何度見ても、この家凄いわね」


 ティルミナさんとゲンツさんの二人は何度かクマハウスに来たことはある。

 あらためて家まで来てお礼を言われ、フィナの解体の仕事が見たいとかでクマハウスを案内している。


「それじゃ、台所を借りるわね。フィナ、お手伝いお願い」

「わたしもする」


 シュリも料理のお手伝いに参加を表明する。


「食材は好きに使ってくれていいから」

「うん、ありがとうね。ほんとうなら、食材もわたしたちが出さないといけないのに」

「食べきれないほどあるから、気にしないでいいよ」

「いつも、ウルフの肉も貰っているのに、返せない恩がどんどん増えていくわね」


 三人は台所に向かう。

 残ったゲンツさんとわたしは椅子に座って待つことにする。


「凄い家だな」


 周りを見渡して小さく呟く。


「あれはタイガーウルフの毛皮か」


 壁にフィナと初めて討伐に行ったときのタイガーウルフの毛皮が飾ってある。

 もう1枚は自分の部屋の毛布代わりに使っている。

 

「初めてクマの嬢ちゃんを見たときは、こんな凄い嬢ちゃんだと思わなかったけどな」


 懐かしそうに言う。

 確かに異世界に来て1ヶ月以上の時間が過ぎた。

 街でもクマの格好は有名になりつつある。

 慣れとは怖いものだ。

 クマの格好をしていても恥ずかしい気持ちが無くなっている。


『クマの嬢ちゃん』

『クマさん』

『クマっ娘』

『ブラッディベアー』


 いろんな呼び方があるが全てわたしの呼び名だ。

 解体は未だにできないが、魔物を倒すことには慣れた。

 ゲームをしていたおかげだろう。

 フィナにも出会えたし、この世界も面白いことが多い。

 あれから、神様から手紙もメールもきていないが、この世界に連れてきてくれて感謝だ。


「でも、嬢ちゃん。本当にいいのか?」

「うん?」

「家のことだよ」

「ああ、そのことね」


 ゲンツさんが住む新居の土地をわたしが結婚祝いとして買ってあげたのだ。

 建物はゲンツさんが、独り身の寂しいときに貯めたお金で購入することになった。


「別にいいよ。ただね、わたしがいなくなった後にゲンツさんが死んで、3人が路頭に迷う姿は見たくないだけ。家があれば住む場所だけは困らないでしょう」

「おいおい、勝手に俺を殺すなよ。これから俺の輝かしい未来が待っているのに。そんな不幸な未来は待っていないぞ」

「それなら、それでいいよ。しっかり、3人を守ってね。もし、守れなかったら、どうなるかわかっているよね」

「もちろんだ、死んだロイに誓って3人は守るさ」


 ロイとはティルミナさんの亡くなった夫、フィナ、シュリのお父さんだ。

 若いときの3人は同じパーティーメンバーだった。二人が結婚と同時に解散になり、ゲンツさんはギルドで働くようになった。

 でも数年後、シュリがお腹にいるとき、ロイ1人で依頼を受けているときに亡くなってしまった。

 それ以来、ゲンツさんはティルミナの家族を守ってきた。

 その頃から好きになったらしい。

 ゲンツさんから昔の話を聞いていると、フィナとシュリが料理を運んでくる。

 それぞれの料理から湯気が上がり美味しそうだ。

 最後に大きな皿に載せられた料理をティルミナさんが運んでくる。


「おまたせ、沢山あるから食べてね」


 戻ってきた3人はそれぞれの椅子に座る。


「ユナちゃん、結構、材料使っちゃったけど、ごめんなさいね」

「別にいいですよ。材料だけはたくさんありますから」

「あと、あのクマの冷蔵庫はいいわね。野菜とか肉とか傷まないから」


 クマの冷蔵庫、わたしが作ったクマの形をした冷蔵庫。

 氷の魔石を買ってきて自分で作った。

 やっぱり、この世界の冷蔵庫と日本の冷蔵庫では使いやすさも性能も違うので自分で作ることにしたのだ。


「結婚祝いに贈りますよ」

「うれしいけど、どんどん返しきれない恩が増えていくわね」

「返しきれなかったら、娘さんを貰いますね」

「あら、こんな娘でいいの?」

「素直で可愛くて、働き者で、家族想いで、料理もできて、剥ぎ取りもできて、一家に一人は欲しいです」


 二人でウルフの肉を食べているフィナに視線を向ける。


「うっ、お母さんも、ユナお姉ちゃんも止めてくださいよ」

「どうやったら、10歳でこんな娘に育つのかな」

「たぶんわたしのせいね。わたしが病気になってこの子に負担を掛けたせいで、普通の子よりも頑張っちゃったのね。わたしの病気の面倒、妹の面倒、家の仕事から、ゲンツのところの仕事。この子には子供らしいことをさせてこなかったから」

「わたし、負担だなんて思っていないよ」

「だから、そんな考え方ができる時点で10歳じゃないのよ」

「頑張ったのはわたしだけじゃないよ。シュリも手伝ってくれたから」


 隣で一生懸命に食べている妹の頭を撫でる。


「そうね、シュリも一生懸命に手伝ってくれたよね」


 食事も終わり、片付けもティルミナさんがやってくれる。

 今は食後のオレンの果汁を飲みながらのんびりとしている。


「そろそろ、帰ろうか」

「もう遅いし、泊まっていけば。部屋もありますし。それに、シュリちゃんが」


 シュリは小さく船を漕いでいる。


「シュリちゃん、引越しの手伝い頑張ったから疲れたんですね」

「うーん」


 シュリを見ながらティルミナさんは悩んでいる。


「迷惑じゃない?」

「それにみんな。引越しの作業で埃や汗で汚れているでしょう。今から帰ってお風呂の準備も大変なんじゃない?」

「そうね。それじゃお願いしてもいい?」


 この世界のお風呂はそれなりに広まっているらしい。

 よほどの貧乏じゃなければ家にあるそうだ。

 それも、魔石のおかげ。

 火と水の魔石で簡単にお風呂を沸かすことができる。

 魔法の世界も科学の世界と同様に便利な世界だ。


 お風呂の準備はティルミナさんが食事を作っている間にしたので、いつでも入れるようになっている。

 

「それじゃ、お風呂の準備はできていますから3人で入ってもらっていいですか。部屋は後で案内しますから」

「3人で入れるの?」


 お風呂を作った当時、召喚獣のくまゆるとくまきゅうが汚れた場合、洗い場としても使おうと思い大きく作った。でも送還して、再度召喚すると汚れが取れることが判明したため利用されることはなかった。


「3人でも大丈夫ですよ。フィナ案内してあげて」

「ユナお姉ちゃんも一緒に入ろうよ。お母さんもいいでしょう」

「いいけど、入れるの」

「大丈夫だよ。ユナお姉ちゃんのクマ風呂は大きいから」

「クマ風呂?」

「入れば分かるよ」


 フィナはわたしの手を取り、椅子から立ち上がらせ、眠そうにしているシュリを起こす。

 シュリは小さくあくびをすると椅子から立ち上がる。

 最後に母親の手を掴む。


「ゲンツさんは来ないでくださいね」

「いかんわ!」


 4人で風呂場に向かう。


「ここで、服を脱いでくださいね」


 日本で言えば脱衣所。

 それぞれに籠を用意してあげる。

 全員服を脱いで籠に入れる。


「ユナちゃん……」

「なに?」

「いや、そういえば初めてユナちゃんの素顔を見たから」

「そうですか? 別にフードをかぶっていても顔って見えない?」

「見えるけど、フードを被っているのと被っていないのでは全然印象が違うのよ。まさか、こんな可愛い子とは思わなかったから」

「はい、ユナお姉ちゃんは美人さんです」

「はいはい。お世辞はいいから、お風呂に入るわよ」


 クマの服を脱いでお風呂場に入る。

 風呂場は10人は入れるほどの大きさがある。

 風呂の左右には白クマと黒クマがドスンと座っていて、その口からはお湯が出ている。

 よく、温泉に行くと動物の口からお湯が出てくるのを参考にした。


「本当にクマ風呂ね」

「まずは体を洗ってください」

「石鹸もあるのね。まるで貴族のお風呂みたい」

「シュリ来て、体を洗ってあげます」


 シュリは姉のフィナの所に向かう。


「それじゃ、椅子に座って」


 フィナは小さなシュリの頭から体を洗っていく。

 そんな姿をティルミナさんが見て、娘の体を洗えなかったのを残念そうにする。

 そして、こちらを見る。


「ユナちゃん、洗ってあげましょうか」

「自分でできます。娘さんを洗ってください」

「でも、その綺麗な黒髪、長くて洗うの大変じゃない?」

「面倒ですが、一人でできます」


 面倒と言っても髪が長くなって数年、洗うのも慣れたものだ。


 フィナが洗う隣に座り、体と髪を洗う。

 先に体を洗い終わったシュリは一人、すでにお湯に浸かっている。

 フィナは自分の体を洗おうとした瞬間にティルミナさんに捕まり、洗われている。

 体を洗い終わったわたしは二番手にお風呂に浸かる。

 そのあとにフィナ、ティルミナの順番に続く。


「それにしてもユナちゃん、スタイルいいのね」

「そうですか?」


 ウエストは細いけど胸が、


「胸は残念だけど」


 思ったことを先に言われた。

 胸の大きさはフィナよりも少し大きいぐらいだ。

 10歳の少女と比べるのもあれだけど。


「そのうち、ボン、キュッ、ボンになる予定ですから」

「無理、じゃないかな」


 そんなことないよ。

 まだ、大きくなる可能性は数年は残っているよ。


「わたしは大きくなりますか?」


 フィナが会話に参戦してくる。

 わたしはティルミナさんとフィナを見比べる。


「夢を持つのは自由よ」

「なんか、酷いことを言われた気がするわ」


 ティルミナさんはあまり大きくない自分の胸を見る。


「心配しなくても大丈夫よ。フィナの胸は大きくなるわよ」

「わたし、ユナお姉ちゃんぐらいがいいです」


 ガシ!

 フィナを抱きしめる。

 フィナとの友情を深めた瞬間であった。


 そんなこんながあって、風呂から上がる。

 戻るとゲンツさんが一人寂しそうにしている。

 こちらを見ると、


「おまえたち、なげえよ!」


 部屋にゲンツさんの叫びが響いた。

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― 新着の感想 ―
>「そのうち、ボン、キュッ、ボンになる予定ですから」 ユナは「ボン、キュッ、ボン」になりたいのでしょうか?。 アスリートのようなスレンダーな体型の方が、冒険者としての活動にも向いていて、望ましように…
[一言] ティルミナさんがイイせえかくしてんな思った一幕w だって言いますかふつー「無理」ってw まあ昔の自分を振り返っt   ε=ε=ε=┏(・_・)┛いやだってだから思わず口に出たてほおがマシじぁ…
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