373 クマさん、島に戻ってくる (4日目)
少し前の前書きで書いたようにクリュナ=ハルクの本の設定が変わっています。
読者様にはご迷惑をおかけします。
シュリはゲンツさんの背中で眠り、フィナはティルミナさんと一緒に歩いている。くまゆるとくまきゅうは子供たちを乗せて歩いている。
わたしは隣を歩くノアに話しかける。
「それで、ノアたちはどこに行っていたの?」
「わたしたちは町のほうに行ってました。海で遊ぶのも良いですが、クリモニア以外の町を見るのは勉強になりますからミサと一緒に出掛けていました」
「はい、勉強になります。それに楽しいです」
ノアの言葉にミサが頷く。
「本当はユナさんを探そうとしたんですが、院長先生が『違う場所に行くと言ってましたよ』って教えてくれたんです」
そう言えば院長先生もあの場にいたから、会話を聞いていたんだよね。でも、どこに行くかは内緒にしてくれたみたいだ。
「それでミサと一緒に町の見物に行くことにしたんです。遊ぶのも良いですが、町を見るのも楽しいです。それに孤児院の皆さんには、わたしがいると気を使わせるみたいですから」
ノアは少し悲しそうに言う。
う~ん、そうなのかな?
見ている感じはそうは感じないけど。やっぱり、貴族と平民とでは上手くいかないのかな。
でも、それは仕方ないことかもしれない。孤児院は食べる物も困り、親もいないで苦労してきた子供たちだ。それに引き換え、貴族に生まれたノアは食べる物には困らず、綺麗な洋服に暖かい家で暮らしてる。
なにより領主の娘で力も持っている。
貴族であり領主の娘であるノアと、どう接したら良いか分からないのだろう。昔のフィナがそんな感じだった。ノアは別に威張り散らすような子じゃないけど。それを知らない者にとっては貴族、領主って言葉に恐怖を覚えるかもしれない。
「でも、お店で働く子たちは、普通に接してくれますよ」
まあ、何度もお店に通っていればノアの性格も分かってくるからね。
「本当はみんなに同じように接してほしいんですが、難しいです」
「お店の子たちが大丈夫だったんだから、他の子たちも大丈夫だよ。もちろん、ノアが我が儘を言ったりしなければだけどね」
「しません! ……でも、昔のわたしならしたかもしれません。フィナに会って、普通の友達を作るには我が儘を言うだけじゃダメって分かりました。わたしがお願いすると命令になるんですよね。だから、なるべく、自分からお願いするのは控えています。でも、本当にお願いしたいときは言いますよ」
本当に10歳なのかな?
普通はそこまで理解するのは難しいと思うんだけど。
どこかの姉にも見習ってほしいぐらいだ。
「わたし、お姉様のような人になりたいです」
どうやら、ノアにとってシアは立派なお姉ちゃんらしい。
まあ、学園では優秀らしいからね。
ノアも日々成長しているみたいだ。
その日の夜、わたしはお風呂も食事も終え、みんなが眠りに就くころ、タールグイにあるクマの転移門に転移する。
扉を開けると真っ暗だった。街灯もなく、照らすのは月の光と星の光ぐらいのものだ。
わたしは魔法で光を作り出す。周囲をクマの顔をした光が照らす。
「くまゆる、くまきゅう、行くよ」
通常サイズのくまゆるとくまきゅうがクマの転移門を通り、わたしに付いてくる。
くまゆるとくまきゅうが門を通るのを確認すると、クマの転移門を仕舞う。あのときは急いで設置したが、設置するならちゃんとした場所に設置したい。
桜の木のほうを見る。桜の木は光っていない。もし光っていたら、夜の中、輝く花が綺麗だったかもしれない。少し残念だ。もっとも、そのときは魔物が近寄ってきて、花見どころじゃなくなるんだよね。
とりあえず、わたしは倒したワイバーンを回収しに行くことにする。
ワイバーンの価値がどのくらいあるか分からないけど、せっかく倒したんだから、回収はしないともったいない。
たしかこの辺りだったはず。クマの地図を出してもタールグイが移動しているため、地図は使いものにならなかった。なので周囲を見ながら、記憶を頼りにワイバーンと戦った場所を探す。
でも、昼と夜では雰囲気が変わるので、ちょっとわからない。なにより、遠くまで見えないのが難点だ。
「くまゆる、くまきゅう。どこでワイバーンを倒したか、わかる?」
「「くぅ~ん」」
わたしはくまゆるとくまきゅうの上にも魔法で光を出してあげる。くまゆるとくまきゅうの上にクマの顔をした光が浮かぶ。
くまゆるとくまきゅうが歩き出す。一緒にクマの光の玉も動く。しかも2人とも同じ方向に歩いていく。どうやら、わたしより把握しているようだ。
わたしは黙って後ろから付いていくと倒れたワイバーンがいた。
他に魔物や動物がいないから、倒したときの状態のままだった。わたしは全てのワイバーンを無事に回収する。
あとはクラーケンだけど。炎で燃えちゃったんだよね。
くまゆるとくまきゅうにクラーケンの場所に連れていってもらう。ぐにゃぐにゃの焦げたような、変な状態になっている。
う~ん。絶対に素材になりそうもない。ゲームなら、どんな方法で倒そうが素材は手に入るけど、現実はそうもいかない。
まあ、なにも考えずに炎で攻撃したわたしが悪いんだけど。
こんな状態のクラーケンはクマボックスに仕舞いたくない。でも、放置すると魔物が来るかもしれない。そう考えると、海に捨てたほうがいいかな?
「でも、魔石ぐらいは欲しいけど。どうしようかな?」
わたしが呟くと、くまゆるとくまきゅうが「くぅ~ん」と鳴くと、クラーケンの死骸に突入する。
「くまゆる! くまきゅう!」
わたしが名前を呼んだときにはくまゆるとくまきゅうはクラーケンの死骸の中だ。
そして、しばらくするとくまゆるとくまきゅうが魔石を咥えて戻ってくる。
「……その、2人ともありがとう。でも、一度送還するね」
くまゆるとくまきゅうの体にクラーケンの死骸がべっとり付いてる。わたしは一度送還してから、再度召喚する。
うん、綺麗なくまゆるとくまきゅうが戻ってきた。本当にこれは便利だね。あと、ゲームみたいに召喚回数とかないのもいいよね。ゲームによっては召喚回数が決まっているからね。
残りのクラーケンの残骸は魔法を使って海の中に捨てる。
ワイバーンを回収したわたしが次に向かった先にはクリュナ=ハルクの石碑だ。今、わたしはクリュナ=ハルクの本は持っていない。消えたのが正しい。わたしは最後にクリュナ=ハルクの本を読んだあと、クマボックスに仕舞った。そして、取り出そうとしたときには、クマボックスからクリュナ=ハルクの本は消えていた。
どのタイミングで消えたかは分かっていない。
わたしは石碑のところにやってくると、石碑に触れ魔力を流す。すると、前回と同様に石碑は光りだし、本が現れる。
本当にどんな仕組みになっているのかな?
わたしは実験をしてみることにする。
そして、実験の結果。クリュナ=ハルクの本について分かったことは以下の通りだった。
石碑を中心として、一定の距離を離れると本が消える。だから、一定の距離なら、海の上に出ても消えたりはしない。石碑が島の先頭にあるから、後ろの辺りに行くと本は消える。
クマの転移門を使って移動した場合。扉を開けている間なら、本は存在できる。でも、扉を閉めると本は消える。
クマボックスに入れていても、一定の距離になると消える。
考えられることは石碑と本は、見えない魔力のようなもので繋がっていて、その一定の距離を離れると本が消えるみたいだ。
本の消え方は、まるで分子分解されるように小さな粒子のようになって消えていく。その現象を見たとき、ゲームのときを思い出した。魔力で作り出す武器などがあった。その消え方に似ていた。
もしかすると、この本はわたしの魔力で作りあげたものなのかもしれない。だから、一定量の魔力がないと本が出現しない。そう考えると、辻妻が合う。
まあ、あくまで、わたしの想像の範囲になる。でも、こんなことができる物を作るクリュナ=ハルクは凄い人物だったみたいだ。
以上のことを踏まえると、クマの転移門は石碑の近くに設置したほうがいいかもしれない。本当は石碑の目の前がいいんだけど。クマハウスを建てるつもりなので、海岸の近くだと、島に近寄ってきた船から見えてしまう可能性がある。
だから、少し島の内側にクマハウスを建てたい。
でも、暗いから良い場所を探すのは難しそうだ。昼にもう一度来たほうがいいかな。
「くまゆる、くまきゅう、石碑から近くて、目立たない場所ってないかな?」
ダメ元で尋ねてみる。ワイバーンを探してくれたときみたいに、見つけてくれるかもしれない。
でも、くまゆるとくまきゅうは「くぅ~ん」と鳴いて首を横に振る。
そうだよね。行ったことがない場所を教えてと言っても無理だよね。わたしは桜の木のほうに向かって歩き出す。すると、昼間は気付かなかったが、横に小道がある。
こっちはなにかあるのかな?
小道を進むと、少し開けた場所に出る。
うん?
わたしは光の魔法を前方に放り投げる。クマの光に照らされて出てきたのは、崩れた家だった。
もしかして、誰かが住んでいた?
考え付くのはクリュナ=ハルクが住んでいたのかもしれないということ。
周囲は木々に囲まれているので周囲からは見にくい。でも、少し開けているので、空は見える。昼になれば太陽の光が照らしてくれる。
わたしはこの場所にクマハウスを設置することにする。クマボックスから旅用のクマハウスを壊れた家の隣に出す。
そろそろ、クマハウスの在庫も少なくなってきた。今度、まとめてクマハウスを作らないといけないね。外観は簡単に作れても中の家財道具は購入しないといけない。お風呂や細かい部分も手を加えないといけないから、作るならまとめて作るのが便利だ。
今度、クマハウスを作るときは10個ぐらい纏めて作ろうかな。大中小って作っておくのもいいかも知れない。
わたしはクマハウスに入り、ミリーラの町のクマビルまで戻ってくる。
もう、遅いので寝ることにする。
旅行編もそろそろ終わるかな?
でも、もう少し書きたいことがあるんですよね。
※申し訳ありません、ゴールデンウィークの間は書籍作業したいと思いますので、お休みを頂きたいと思います。投稿の休みの開始になりましたら、改めて告知させて頂きます。