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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、従業員旅行に行く。
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371 クマさん、島を脱出する (4日目)

 少し手こずったが無事にワイバーンを倒すことができた。寝ている無防備の状態と実際に戦うのでは強さは段違いだった。あのときは本当に寝ていて良かった。もし、起きているワイバーンと戦うことになっていたら、かなり面倒なことになっていたはずだ。

 桜の木がある方を見るがワイバーンの姿はない。タールグイの方を見ても、ワイバーンの姿はない。それどころかタールグイの長い首も見えない。

 探知スキルを使って確認しても、新しく魔物がやってくることもない。どうやら、本当に終わったみたいだ。それじゃ、あとはワイバーンを回収したら、フィナたちを迎えに行くだけだね。

 ちょっと、一休みしようと思ったら、くまゆるが「くぅ~ん」と鳴く。


「どうしたの?」


 くまゆるが海を見ている。

 危険を知らせる鳴き方じゃないけど、探知スキルで確認するが魔物の反応はない。

 わたしはくまゆるが見ている海岸に向かう。海から心地よい風が吹く。海を見ると何か違和感を覚える。何かが変だ。

 よく見ると渦潮が消え、海の流れが変わっている。波は左から右に流れているようだ。まるで船が動いている感じだ。

 わたしはクマの地図を開く。間違いなく島が動いている。しかも、徐々に速度が上がっている。さらに沈んでいるようにも感じる。草木があるから、沈まないと思うけど。もしかする場合もある。

 これは急いでフィナたちを連れ戻さないといけない。


「くまゆる。行くよ」


 でも、その前にすることがある。

 わたしは駆け出す。そのあとをくまゆるが付いてくる。全力で走り、数十秒で桜の木のあるところにやってくる。桜の木の花びらはピンク色から白色に変わり、光は収まり、幻想的な光景は消えていた。シャボン玉も消え、もちろんヴォルガラスの姿もない。全てあの中腹にある穴に吸い込まれたのだろう。

 わたしはここに来た目的の1つであるクマの転移門を桜の木の近くに設置する。そして、すぐに走りだし、クマハウスを出したクリュナ=ハルクの石碑のところまで戻ってくる。


 前回出したと思われる場所にクマハウスを出す。

 結構、長い間みんなを放っといてしまった。シュリは泣いているかもしれない。シアは不安そうにしているかもしれない。全てを知っているフィナは困っているかもしれない。みんな、わたしのことを心配してくれているかもしれない。

 わたしはクマハウスの中に入るとクマの転移門がある部屋に向かう。その後ろをくまゆるが付いてくる。そして、フィナたちがいる部屋のクマの転移門の扉を開く。

 きっと、みんな、わたしを心配している姿があると思っていた。でも、そこにある光景は…………。


「あああ、わたしの黒が。シュリちゃん、手加減してよ」

「ユナお姉ちゃんがゲームは真剣にしないとつまらないって言っていたよ」

「そうだけど」

「フィナちゃんはシュリちゃんよりも強いし。全然勝てないよ」

「でも、良い勝負になってきましたよ。シア様、覚えるのが早いです」


 テーブルの上にはリバーシやトランプがあり、みんなが楽しくリバーシをやっている姿があった。誰もわたしのことを心配している様子はない。わたしが外でワイバーンと戦っている間、3人は遊んでいたようだ。不安になっているよりは良いことなんだけど。なんとも言えない気持ちになる。

 わたし、ワイバーンと戦っていたんだよ。結構、苦労したんだよ。もちろん、ワイバーンのことを知らない3人だから仕方ないけど、なにか悲しい。そんな中、くまきゅうが一番にわたしのことに気付いて駆け寄ってくる。


「くまきゅう、ただいま」

「くぅ~ん」


 くまきゅうは心配してくれていたみたいだ。くまきゅうは癒しだ。もちろん、くまゆるも癒しだよ。

 わたしがくまきゅうを抱きしめるとフィナたちもわたしのことに気付く。


「ユナお姉ちゃん!」

「フィナ、戻ったよ。みんなは……大丈夫そうだね」

「ユナさん、戻ったんですね。心配してたんですよ。扉はユナさんしか開けられないって言うし」

「安全対策でわたし以外開けられないようになっているからね」


 嘘です。クマさんパペットじゃないと開けられないだけです。

 シュリはわたしのところにやってくると抱き付いてくる。


「シュリ、ただいま」

「ユナ姉ちゃん。お帰り」


 シュリの頭を撫でる。もしかして、心配してくれていたのかな?


「ユナお姉ちゃん。怪我はないですか?」

「無いよ」

「くまゆるちゃんも大丈夫?」


 シュリがくまゆるに尋ねる。くまゆるは「くぅ~ん」と大丈夫だよとアピールするようにシュリに擦り寄る。


「心配かけてゴメンね。みんなは大丈夫だった?」

「みんなでゲームをしていたから大丈夫だよ」


 フィナはちゃんとみんなを不安にさせないように頑張っていたみたいだ。


「ユナさん、このゲームください。お土産で持って帰りたいです」

「別にいいけど」

「ユナ姉ちゃん、アイスとケーキ美味しかったよ」


 テーブルの上には食べかけのケーキや食べ終わったアイスのカップなどが置いてある。本当に不安もなく、過ごしていたみたいだ。

 でも、一言言いたい。みんな、外の状況忘れていない?


「ユナお姉ちゃん。外は大丈夫なんですか?」

「そうだ。ユナさん。魔物は?」


 思い出したかのように尋ねてくる。


「魔物は、もういないから安全だよ。でも、島が動き出したから、早く島から出るよ」


 わたしは3人を部屋から出るように言う。


「ちょっと待ってください。片付けますから」

「そんなの後でいいよ。このままじゃ、帰る方向が分からなくなって、ミリーラの町に戻れなくなるから、すぐに島を出るよ」


 クマの地図のスキルがあるから、迷子になることはない。でも、急いでいるのは本当のことだ。

 3人はわたしの言葉が効いたのか慌てて部屋から出る準備をする。そして、部屋を出るとクマの転移門の扉を閉め、クマハウスを出る。クマハウスから出るとクマハウスをクマボックスに仕舞う。

 先に出た3人は海岸沿いから海を見ている。


「本当だ。島が動いている」

「それじゃ本当にこの島はタールグイだったんですね」


 今はタールグイの頭は海中に潜っているため、3人にはタールグイの存在は曖昧になっている。


「それはあとで説明するよ。今は早く島から出るよ。くまゆるとくまきゅうに乗って!」


 フィナとシアはくまゆるに乗り、わたしはシュリとくまきゅうに乗る。くまゆるとくまきゅうは走り出し、島の反対側に向かう。目の前の海は進行方向になるから、ここから海に飛び出すのは危険だ。だから、タールグイの後ろと思われる方から脱出することにする。

 くまゆるとくまきゅうは走る。その途中でワイバーンの死骸の横を通る。島が動いて慌ててワイバーンを回収するのを忘れていた。


「ワイバーン?」


 ワイバーンの死骸を見てシアたちは驚く。さらにクラーケンの死骸もあるけど、燃えてしまったので、クラーケンの原型は残っていない。


「ユナさん、なにがあったんですか?」

「説明は後だよ。今は島から脱出するよ」


 最後尾に来ると、くまゆるとくまきゅうは海に向けてジャンプする。無事に島から脱出することに成功する。


「島が離れていく」


 くまゆるとくまきゅうは海の上に立っているだけだけど。大きな島、タールグイは離れていく。ここに戻ってくるのは数年後かもしれない。


「ユナ姉ちゃん」


 シュリが不安そうにわたしを呼ぶ。


「なに?」

「どうやって帰るの? 陸が見えないよ」


 タールグイや小さな島は見える。でも、ほぼ360度は水平線だ。ミリーラの町がある陸は見えない。


「帰れるの?」

「心配はいらないよ。くまゆるとくまきゅうがちゃんと分かっているから」


 わたしがそう言うとくまゆるとくまきゅうは「くぅ~ん」と任せてと鳴くと、ミリーラの町に向かって海の上を走り出す。


「ユナさん、さっきのワイバーンは」

「想像通りだと思うけど。ワイバーンがやってきたよ」

「それじゃ、ワイバーンはユナさんが倒したんですか?」

「安全に島を脱出したかったし、ヴォルガラス以上にワイバーンをミリーラの町に行かせるわけにはいかなかったからね」

「わたしたちが安全な部屋で遊んでいるときに、ユナさんはわたしたちのために戦っていたんですね。ユナさんにはいつも助けてもらってばかりですね」

「3人を守るのがわたしの役目だからね」


 3人にもしものことがあったら大変だ。もし危険な状態になれば、クマの転移門を隠さずに使うつもりではいる。今回は若干余裕があったので、クマハウスから隠し部屋に転移した。


「でも、残念です。伝説の生物、タールグイの存在が知れたのに。なにも調べることができないなんて」

「その方がいいよ。クリュナ=ハルクの本にもタールグイのことは知られたくないって書いてあったからね。一応、善人としてクリュナ=ハルクの本を呼び出した者としては守らないといけないから、今回のことは内緒だからね」

「うぅ、わたしは呼び出せませんでした」

「シアも魔力が多ければ呼び出せたよ。それとも他人に話すような心の持ち主だったから……」

「そんなことはないです。言いふらしたりはしません」


 シアは否定する。そりゃ、自分のことを悪人とは思いたくないだろう。まあ、あの碑石から本を呼び出す定義は曖昧だ。


「フィナもシュリも内緒でお願いね」

「うん」

「はい。でも、わたしたちが居なかったことはどうしますか? ノア様には絶対に気付かれていると思いますよ」


 確かにそれは十分にあり得る。ノアがわたしたちのことに気付かないわけがないよね。


「それじゃ、クリュナ=ハルクとタールグイ、それから魔物のことは内緒にして、近くの島を探検していたってことにすればいいよ」

「それなら、なんとか」

「でも、ノアを連れていかなかった理由はユナさんが説明してくださいね」

「それは姉であるシアが」

「無理です。逆にユナさんとくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんと遊んだと思われて、問い詰められます。だから、わたしが助けてほしいぐらいです」


 それはシアが付いてきたいって言ったからだよね。

 でも、みんなには黙ってもらう代わりだ。そのぐらいはわたしが引き受けないとダメだろう。それに3人に任せて、ボロが出ても困る。


「わかったよ。言い訳はわたしがするけど、みんなはちゃんと黙っておいてね」

「はい」

「うん」

「分かりました」


 そして、海の上をしばらく走ると陸が見えてくる。


「陸が見えてきたよ」


 シュリはくまきゅうから乗り出すようにして前を見る。

 どうやら、無事に戻ってくることができたみたいだ。



タールグイ編終了です。書き終わると、ユナも水の上を歩けるんだから、海の上で戦っても良かったかなと後で思ったりしました。


※活動報告にて、7巻の店舗特典のショートストーリーを募集中です。よろしくお願いします。

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