366 クマさん、一面に咲く花を見つける (4日目)
フィナとシアはくまゆるに乗り、シュリとわたしはくまきゅうに乗って移動することにする。
目指すのは島の中心だ。島の中央は少し小高い山になっている。くまゆるとくまきゅうで登れば楽だし、少しでも高いところから見れば、島全体が見れるかもしれない。今日は小山から島を軽く確認したら、戻ることにする。
「ここに道がありますね」
石碑から進むと、クリュナ=ハルクが作ったのか、タールグイに救われた人が作ったのか分からないけど、古い道がある。
「それにしても、クリュナ=ハルクは凄い魔法を使うんだね。碑石から本が出てきたときは驚いたよ。あんなことってできるものなの?」
わたしが使える魔法は攻撃系が主だ。それをスキルでカバーしている。
「その手の魔法は聞いたことはありませんが、クリュナ=ハルクは一流の魔法使いで、魔道具も作ったりしたそうですよ。今でもクリュナ=ハルクが作った魔道具は高値で取引されているって聞きます」
お話に出てくる賢者って感じだね。1人で放浪の旅に出たり、森の奥で1人で住んでいたり、そんなイメージが浮かぶ。
「凄い人だったんだね」
「ユナ姉ちゃんも凄いよ」
「わたしもそう思います。ユナお姉ちゃんはとっても強くて、優しいし、どんなときでも守ってくれます」
「そうだね。それにユナさんにはくまゆるちゃんとくまきゅうちゃんもいるし、可愛いし、クリュナ=ハルクよりも凄いよね」
「うん!」
「はい!」
凄さに優しいと可愛いは関係ないんじゃないかな。わたしには石碑の中に本を隠す能力も無ければ、人の善悪を調べる能力もない。それにわたしの力は貰いものだからね。あまり、威張れるものでもない。
「でも、あの石碑には納得がいかないです。本当に善人と悪人って分かるんですか?」
シアは自分が石碑に触っても本が出てこなかったことに、傷ついているみたいだ。
「別にシアが悪人ってわけじゃないよ。たぶん、魔力が足らなかったんだと思うよ」
魔力がほんの少しでも多ければシュリが触れたときに本が出てきたはずだ。
シュリが悪人とは思えない。それに純粋な子供に触れさせて悪人が本を手にする場合もある。だから、一定の魔力の持ち主でないと反応しなかっただけだと思う。
本にもそれっぽいことが書かれていた。
しかも、本を取り出した本人しか読めないし、島から出ると本は消え、碑石の中に戻ると言う。だから、本を読むにはこの島でないとダメらしい。どんな魔法と魔道具を使えばそんなことができるのか、謎である。
それだけタールグイのことは秘密にしたいってことなんだろう。まあ、この島が本当にタールグイって生き物なら暴れたら大変だからね。
くまゆるとくまきゅうは道を進んでいく。道があるってことは、なにかしら目的地があるはずだ。
わたしは前に座るシュリを抱え込むように座り、シュリのお腹の前にクリュナ=ハルクの本を開く。シュリの後ろから本を読む感じになる。
移動と危険察知はくまゆるとくまきゅうに頼む。
「ユナ姉ちゃん。本当に文字が書いてあるの?」
シュリが目の前にあるクリュナ=ハルクの本をいろいろな角度から見ようとする。その度にシュリの頭が左右に揺れる。
「シュリ、頭を動かさないで、本が読めないから」
「ごめんなさい」
謝るシュリの頭の上にクマさんパペットを乗せて撫でる。
「ちゃんと書いてあるよ。でも、人にあまり知られたくないみたいだから、碑石から出したわたししか見えないみたい。あとで教えても良いところは話してあげるから、シュリは周りを見てて。もし、珍しい物を見つけたら教えて」
「うん、わかった」
わたしがお願いすると、シュリはキョロキョロと左右を見る。まあ、多少首が動くのは仕方ない。わたしは本を読む。このクリュナ=ハルクって人は長い間、この島で暮らしていたみたいだ。
うわぁ、オレンの木やリンゴの木を植えたのはこの人だよ。この人なにをしているの?
成長が早い? 実も美味しくなる? 確かにオレンもクリモニアで買うより甘く感じた。クリュナ=ハルクの本によれば、タールグイの影響の可能性が高いという。
えっと、それってタールグイの養分を吸って成長しているってこと?
それ、大丈夫なの? クリュナ=ハルクによれば人体に影響はないし、普通の果物だと言う。でも、あくまでクリュナ=ハルクの考察だ。まあ、本人も食べているから書いているんだろう。
しばらく、本には食べ物のことが書かれているので、ページを飛ばす。
それにしても、タールグイについて調べるにしても、よくこんな何も無い島に住もうと思ったね。わたしの場合はクマの転移門があるから、来たいと思うけど。こんな何も無いところに1人で住みたいとは思わない。
変人さんだったのかな?
タールグイは定期的に世界中を動くらしい。移動場所は定期的に同じ場所にやってくるみたいだ。だから、ここにも数年に一度、現れていたんだね。クリュナ=ハルクもそれを利用していたことが書かれていた。他にも、中々面白いことも書かれている。探検のしがいがある島になりそうだ。
わたしは本を閉じて、背筋を伸ばす。
「なにか、面白い物はあった?」
前に座るシュリに尋ねる。
「ううん、なにもないよ。果物もないよ」
「はい、動物もいません」
「鳥が飛んでるぐらいかな?」
たしかに鳥のさえずりは聞こえるね。
近くの島から飛んできたのかな?
くまゆるとくまきゅうはどんどん進んでいく。本当に危険な動物もいないのかな?
くまゆるとくまきゅうがほんの少し坂道になっているところを歩いていくと、視界が一気に広がる。
「お花です」
目の前には綺麗な色とりどりの花が一面に咲いている。綺麗な場所だ。
どこかのお嬢様が丘の上で座って、花冠を作っている姿が似合いそうな場所だ。シアやフィナにはそんな行動が似合うかもしれない。シュリは元気に走り回る姿が似合いそうだ。
でも、わたしはどれも似合いそうもない。クマの格好で女の子座りをして花冠作り? クマの格好でお花の中を駆け回って遊ぶ? どれも想像しただけで、想像を破壊したくなる。
考えただけで、寒気がしてくる。
「ユナ姉ちゃん、あの木、凄く綺麗だよ」
シュリが指す先には、桜のような花が咲いている大きな木があった。
木には桜のような花が咲いており、花びらはピンク色で綺麗に咲いている。
おお、こんなに大きな桜の木は滅多にお目にかかることはできない。桜は満開に咲いている。今が一番と言っても良いぐらいに綺麗に咲いている。
「ユナ姉ちゃん、降りていい?」
「ちょっと待って」
わたしはシュリの肩を掴み、探知スキルで確認して魔物がいないことを確認する。
「うん、いいよ」
シュリはくまきゅうから降りて、駆け出す。それを見たフィナもシアもくまゆるから降りる。
「綺麗なところね」
「この木も綺麗です」
わたしとしては夏に桜を見ているようで、違和感があるけど。不思議な島だ。季節に関係ない花が咲いていても、受け止めることにする。
フィナたちは花の中を楽しそうに駆け回る。
「綺麗です。お母さんとお父さんも連れてきたいです」
「そうだね。ノアにも見せてあげたいね」
「連れてきたいけど、簡単に来られないからね。島の周りの渦潮は凄いから、船じゃ無理だし、くまゆるとくまきゅうのことは秘密だから。それに教えたとしても、乗れる人数も決まっているから、ちょっと無理かな」
「そうですね」
「フィナとシアの気持ちはわかるけど、内緒にしておいてね」
「はい」
わたしは桜の木の近くまでやってくる。かなり、大きい木だ。樹齢千年と言われても、違和感はない。近くで見ると桜とは違うようだ。でも、綺麗な花なのは変わりない。名前が分からないのでしばらくは桜の木と呼ぶことにする。
くまゆるとくまきゅうが近寄ってくるとわたしの傍に座る。わたしもくまゆるとくまきゅうに寄りかかるように座る。
「ああ、ユナ姉ちゃん。くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんを独り占めしている」
シュリが走ってくると、くまゆるとくまきゅうの上にダイブする。
気持ちいい。このまま寝てしまいそうだ。しばらく、ここで休むことにする。これはクマの転移門を置くのは決定だね。
のんびりとしていると、フィナとシアが声を上げる。
「ユナさん!」
「ユナお姉ちゃん。花が光っています」
上を見ると桜の木の花ビラの1つ1つが光りだす。
わたしは、桜の木から離れる。離れた位置から桜の木を見ると、クリスマスのイルミネーションのように光りだしていた。昼間なのに、光は輝き、感動さえ覚える。これが夜だったら、どれだけ綺麗なのかわからない。
「シア。花って、光ったりするの?」
「詳しくは知りませんが、魔力が篭った花は光ると聞いたことがあります。でも、実際に見たのは初めてです」
「それじゃ、この木の花も魔力で光っているの?」
「わかりません。ユナさんが持っているクリュナ=ハルクの本には何か書いていないんですか?」
たしかにそうだ。これだけのことだ。なにかしら書いてある可能性がある。
わたしは持っているクリュナ=ハルクの本を見る。斜め読みのようにパラパラと本を捲っていく。そして、探しているページを見つける。
そこには桜の木と花びらの絵が描かれていた。クリュナ=ハルク、絵も上手い。才能がある人はなにやっても才能があるね。
あらためて本を見ると、花びらの絵を丸く囲んで、大きな赤文字で『危険』って書かれていた。そして『この花がピンク色に咲き、魔力を放出し始めたら、逃げることを推奨する』と書かれていた。
なに? その危険な言葉は。
わたしは本を読み続ける。
花は青色、赤色、黄色、緑色、白色と色づく。そして、数年に一度、ピンク色になると書かれており、花がピンク色に咲くと、魔力を放出する。放出された魔力は綺麗な輝きを灯す。だが、それと同時に魔物を呼び寄せると書かれていた。
ちょ、冗談じゃないよ。
わたしは目の前の桜の花を見る。綺麗な七色のように輝いている。フィナたちは瞬きをするのを忘れるように七色に輝く桜の木を見ている。
たしかにこの光景は見とれるほどに綺麗だ。でも、魔物を呼び寄せるって、どういうこと? この島には魔物はいないよね? だから、大丈夫?
わたしは本を読む。
魔物は海、空からもやってくる。魔物が周囲にいなければ、被害は無い可能性もある。こればかりは運だと書かれていた。
ここは大丈夫?
でも、逃げた方がいいよね。
それにしても、わたしたちが来たらタイミングよく光るって、ゲームや漫画の主人公じゃないんだから、おかしくない?
「みんな、この木から急いで離れるよ!」
「え~」
「え、なんですか?」
「もう少し見ていたい」
「説明している時間がないから、すぐにくまゆるとくまきゅうに乗って!」
わたしは周囲を確認するために探知スキルを発動する。それと同時にくまゆるとくまきゅうが大きな声で鳴いた。
3/31日6巻が発売予定ですが、もうすでに発売しているようですね。
3/31日にSSの方に一話投稿させてもらいます。そのため、本編は1回お休みさせて頂きます。
よろしくお願いします。
本編の方はお約束通りの展開になって来ました。トラブルに愛されるユナです。
初めはお花にしようと思ったのですが、桜の開花のニュースを見て桜にしたくなりました。