33 クマさん、引越しの手伝いをする。
フィナたちが住む新居が決まったらしい。
場所はゲンツさんの仕事場の冒険者ギルドの近く。
それがゲンツさんの要望だったらしい。
それでやっと家賃と場所、大きさに合う物件が見つかったそうだ。
今日は、引越しの手伝いをするためにフィナの家に来ている。
「持っていく物はこっちに持ってきて。細かい物はまとめて箱に入れてね」
箱に入れられた荷物をクマボックスに仕舞っていく。
「このテーブルも持っていくの?」
「新しいの買うお金が無いからお願い」
「それじゃ、この椅子も持っていくね」
「お願い」
どんどん、荷物が運ばれてくる。
フィナもシュリも自分たちの少ない荷物を一生懸命に箱に入れている。
運ばれてくる荷物を仕舞っていく。
「ユナお姉ちゃん。ベッドお願いしてもいい?」
「いいよ」
フィナの部屋にやってくる。
荷物は箱に入れられ、残っているのはベッドが1つしかない。
「1つ?」
「はい、わたしとシュリは一緒に寝ていますので」
「なら、今度は新しいお父さんに買ってもらわないといけないわね」
フィナのベッドをクマボックスに仕舞う。
ついでにティルミナさんの部屋に行って同じくベッドを仕舞う。
「それにしてもクマの嬢ちゃんのアイテム袋は凄いな。普通はリアカーで運ぶんだがな」
まあ、運営(神様)から貰ったアイテムですからね。
それから各部屋に向かい大きな家具を仕舞っていく。
「運ぶ荷物はこれで終わり?」
部屋の中は見事に何もない。
他の部屋も同様だ。
「うん、ありがとうね。ユナちゃん」
フィナの家の荷物は終了したので次はゲンツさんの家に向かうことになる。
なんでだろう。
男の1人暮らしは汚いとはよく言ったものだ。
ゲンツさんもその1人に含まれるらしい。
それ以前に引っ越すと分かっていて、どうして片付けていないのか。
「酷いわね」
ティルミナさんが家の中を見て小さく呟く。
「すまない」
頭を下げるゲンツさん。
「ユナちゃん、悪いけど娘二人を連れて新しい家に行っていてもらえる?」
「いいですけど」
「フィナ」
「はい」
「先に自分たちの部屋の荷物を並べておきなさい。部屋割りは昨日説明したからわかるでしょう。あと、部屋はある程度は掃除はしてあるけど、細かい部分はしてないから、それもお願い。片付けは寝る場所を優先してね。それも終わったら、荷物の配置はあなたに任せるから他の部屋の片付けもお願い。わたしもこの家の片づけが終わったら行くから」
フィナに家の鍵を渡す。
次にわたしの方を見る。
「ユナちゃん、悪いけど、荷物を置いたら、もう一度ここに来てもらえるかしら」
「はい」
「じゃ、三人ともお願いね」
流石、大人の女性、二人の子供を持つ主婦。指示がてきぱきとしている。
わたしたちはフィナたちが新しく住む家に向かう。
位置的にギルドと前にわたしが泊まっていた宿の中間位置にある。
「ここです」
前の家より、一回り大きな家。
ティルミナさんから預かった鍵でドアを開ける。
前もって掃除をしていたのか、埃っぽくない。
「ユナお姉ちゃん。掃除道具出してもらっていいですか」
わたしは掃除道具を出す。
フィナはバケツをもって台所に向かい。
水の魔石から水を汲む。
「ユナお姉ちゃん、二階にいいですか」
三人は二階に上がる。
二階は二部屋ある。
フィナは二階の右の部屋に入る。
部屋の大きさは六畳以上はある。
日本人感覚で言えば少し広めの部屋だ。
フィナは窓を開けて空気を入れ替える。
「シュリ、お母さんの部屋も窓開けておいて。それが終わったら、掃除をお願い」
シュリは頷くと部屋から出ていく。
フィナは雑巾で汚れている場所を掃除していく。
「ユナお姉ちゃん、荷物をお願いできますか」
わたしはフィナの指示通りに家具、ベッドを置いていく。
多少ずれてもクマの力を使えば移動はできる。
最後にフィナ、シュリの荷物が入った箱を床に置く。
次に両親が使う部屋に行き、ベッド、家具を置く。
最後にティルミナさんの荷物も床に置く。
細かい荷物は後回しにして一階に戻る。
そこではシュリが小さい体で一生懸命に掃除をしている。
台所にテーブル、椅子、食器などを出していく。
分からないものは一階の使っていない部屋に置いておくことにする。
「フィナ、荷物はこれで全部だから。わたし、ゲンツさんの家に行くね」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
フィナ、シュリがそれぞれ礼を言う。
「二人とも頑張ってね」
「とりあえず、寝る場所だけは作ります」
ゲンツさんの家に着くと、箱が山積みになっている。
とりあえず、箱に詰め込んだって感じだ。
「ユナちゃん、そこにある荷物お願いできる?」
ティルミナさんの指示に従い、荷物をクマボックスに仕舞っていく。
部屋にいるゲンツさんを見ると疲れきった顔をしている。
それでも、ティルミナさんの指示に素直に従って片づけをしている。
もう尻に敷かれているらしい。
荷物を次から次へと仕舞っていくと終わりが見えてくる。
次第に片付けも終わり、ゲンツさんの家も空になる。
遅くなったが新居に向かう。
家の中に入ると荷物の山が半分以上片付いている。
わたしたちに気づいて、フィナとシュリがやってくる。
「結構、片付いているわね」
「はい。でも、まだ終わってません」
「一日で終わるわけないわ。とりあえず、今日は寝る場所だけ確保しましょう。ユナちゃん、家具以外の手で運べる物は一階の奥の部屋にお願い。それ以外は指定の場所にお願い」
とりあえず、ゲンツさんの家から持ってきた大きな荷物をそれぞれの部屋に配置していく。
部屋に置く荷物は隅に置き、後日片付けることにする。
どこに置くか決まっていない物は先ほどの一階の部屋に置いておく。
「とりあえず、寝る場所は確保したから、今日はここまでね」
2階から1階にティルミナさんが降りてくる。
「フィナ、台所と食材の準備はできてる?」
「ごめんなさい。まだ、片付いていないの」
「ううん、今からじゃ、時間がかかっちゃうわね」
「なら、どこかに食いに行くか」
ゲンツさんがアイディアを出す。
「駄目よ。四人で暮らすとこれから必要な物も出てくるわ。わたしたちにはお金の蓄えもないし、あなたが貯めたお金をこんなことで使うことはないわ」
「だが、今から食事も作れないだろう」
2人が睨み合う。
「ああ、わかった。わたしが払うから、どこかに食べに行こう。それならいいでしょう」
「これ以上、ユナちゃんに迷惑をかけることはできないわ。荷物を運んでもらっただけでも感謝しているんだから、もし、これで人を雇ったらお金も掛かるし、わたしたちだけでやったら、ベッドとか大きい物を運ぶだけで数日かかるわ。それをやってもらっただけでも感謝しているのよ。その手伝ってもらったあなたのお金で食べに行くなんて、そんな恥知らずなことはできないわ」
わたしは気にしないけど。
確かに常識を持っている人ならそう考えるかもしれない。
病気も無償で治して、引越しの手伝いを無償で行う。
さらに食事まで奢ってもらう。
わたしでも断るかも。
「なら、わたしの家でティルミナさんが料理を作るのはどうですか」
「ユナちゃんの家?」
「食材も自由に使ってもいいから、美味しいものを作ってくれないかな」
「それなら、いいかな。わかったわ。美味しいものを作ってあげるわ」
やっと妥協案が見つかり、5人でクマハウスに向かうことになった。