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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、従業員旅行に行く。
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360 クマさん、ウォータースライダーを作る (4日目)

 風呂から上がり、その日の夕食は海で釣った魚やタコなどの海鮮料理がテーブルの上に並んだ。

 食卓ではそれぞれの子供たちが今日の出来事を楽しそうに話す。


「ユナお姉ちゃん、明日はどうするの?」

「海に来たんだから、海で遊べばいいよ。もしかして、飽きちゃった?」

「ううん。楽しいよ」


 その笑顔に嘘は見えない。

 明日は初日と同様に海で遊ぶことになった。わたしはくまゆるとくまきゅうと一緒に謎の島に行こうと思っていたが、フィナやノアたちに誘われてしまった。ここで断れば、怪しまれる可能性もあるので、一緒に海に行くことになった。

 海に行くなら、子供たちのために、なにか遊び場でも作ってあげるのもいいかもしれない。遊び場を作ってあげれば、その遊び場で遊んでいる間に謎の島に行けるかもしれない。



 翌日、食事を食べ終わると、子供たちは海に行く準備をするために部屋に戻る。わたしも海に遊び場を作るため水着に着替えようと部屋に戻ろうとした。一度着れば二度も三度も同じだ。クマの着ぐるみだって、長い間着ていたら、慣れてきた。水着も1回目よりは2回目の方が抵抗感は少ない。

 ……わたしはそう思っていた。でも、部屋に戻るときにシェリーにかけられた言葉で崩壊した。


「ユナさん、今日はどの水着を着てくれるんですか?」


 その瞬間、わたしの思考が止まったのは言うまでもない。人は驚くと言葉が出ないと言うが本当かもしれない。そのときのわたしは「えっ」と言葉を発して、それ以上の言葉が出てこなかった。我に返ったときには、すでに遅く。シェリーは「楽しみにしていますね」と言うと女子部屋に行ってしまったあとだった。


 えっと、つまり、違う水着を着ないと駄目ってこと? しかも、毎回海に行くたびに違う水着を着ないといけない?

 もし、毎回、海に行くたびに水着を変えることになれば、今回を入れて2~3回は水着選びをしないといけないことになる。

 断るにしても、言い訳が思い付かない。他の水着は着たくないとはシェリーには言えない。断る言葉がすぐに見つからず、途方にくれて、三階の自分の部屋の前にやってくる。

 すると、部屋の前には、すでに水着に着替えたノア、シア、ミサの三人がいた。


「ユナさん、くまゆるちゃんとくまきゅうちゃんを貸してください。ちゃんと孤児院の子供たちと一緒に遊びますから、お願いします」

「別にいいけど、独り占めしたらダメだよ」

「はい、約束します」


 部屋のドアを開けると、子熊化したくまゆるとくまきゅうがベッドで丸くなっている。わたしたちが部屋に入ると、くまゆるとくまきゅうがやってくる。わたしは通常サイズに戻すとノアや子供たちと遊んでくるように言う。


「ユナさん、ありがとうございます」


 ノアとミサ、シアは嬉しそうにくまゆるとくまきゅうと一緒に階段を降りていく。

 うーん、なにも考えずに貸しちゃったけど、謎の島に行こうと思っているのに失敗したかもしれない。これも水着のことに気を取られて、なにも考えていなかったせいだ。あとで、理由をつけて、片方だけでも返してもらわないといけなくなった。


 とりあえず、目の前にある問題を片付けないといけない。

 わたしはベッドの上に水着を並べる。せめてもの救いは種類が多く、スク水を選ばないですむことぐらいだ。わたしの水着を選ぶ基準は、どれを着たくないかになる。そうなると必然と着る水着は減っていく。そして、残った水着は白と黒の色を使ったセパレートの水着になった。お腹が見えるけど我慢する。朝食を食べたけど、大丈夫だよね。お腹周りを触る。肉付きが悪いだけで、お腹は膨らんでいないはず。

 ぷよぷよの腕とか見ると少しは体を鍛えて筋肉を付けた方がいいかなと思ったりする。でも、過去に何度も筋トレを実行してきたけど、長続きしたためしがない。

 クマ装備したまま、筋トレができればいいんだけど。そんなことができるわけがなく。わたしは小さく溜め息を吐く。


 それにしてもワンピースの水着と違って、肌の露出が多い水着は恥ずかしい。でも、スク水よりはマシと自分に言い聞かせる。問題は3回目、4回目があるかどうかだ。最悪、シェリーに、この二着がお気に入りってことにするのもいいかもしれない。


 セパレートの水着に着替えたわたしは、いつも通りに手と足にはクマ装備を付ける。

 ここで大きなタオルを巻いて、体を隠したいところだが、部屋の外にシェリーが待っている。先ほど、水着を選んでいるとシェリーがやってきた。着替えているから、先に海に行ってと伝えたが、シェリーは部屋の外で待っていると言う。

 わたしは深呼吸をすると、腹を決めて、部屋を出る。部屋の外にはスク水姿のシェリーがいる。胸のところには『シェリー』と名前が書かれている。シェリーはわたしを見ると花が咲いたように笑顔になる。


「ユナお姉ちゃん、一昨日着ていた水着も似合っていましたが、その水着も似合っています。フィナちゃんとシュリちゃんもそう思うよね」


 シェリーは後ろにいるフィナとシュリに同意を求める。


「はい、ユナお姉ちゃん、似合っています」

「ユナ姉ちゃん、綺麗だよ」

「あ、ありがとう」


 わたしの顔は引き攣っていたかもしれない。

 もっとも、採点が甘い三人だ。本当に似合っているかは疑問だけど、シェリーが喜んでいるから良しとする。シェリーはわたしの水着を見て、「ここは変えた方がいいかな?」とか「ユナお姉ちゃんには他の色もいいかも」とか小さい声で呟いている。

 アンズたちのエプロンにクマの刺繍を頼んだときは、自分に自信がない女の子だったけど、裁縫屋で働き始めて、変わってきたみたいだ。良いことだと思うけど、昔のシェリーが懐かしくも感じる。


 水着のお披露目が終わったわたしは、シェリーと一緒に待っていたフィナとシュリの三人と一緒に海に向かう。海にやってくると、すでに子供たちが遊んでいる姿がある。小さい子はわたしが作ったプールもどきで遊んでいる。くまゆるとくまきゅうはノアを中心に遊んでいる。ちゃんと約束通りに独り占めをせずに遊んでいるようだ。シェリーもそんな輪の中に入っていく。

 そんな子供たちの様子を少し離れた位置で院長先生が見ている姿がある。長時間、日差しが強い外にいるのも危険なので、海の家を取り出して、そこで休んでもらうことにする。


「院長先生、疲れた子がいたら、休ませてあげてくださいね」


 水分補給も大切だからね。

 海の家のことは院長先生に頼む。わたしはあるものを作る予定だ。


「ユナお姉ちゃん、手伝ってほしいことってなんですか?」

「フィナとシュリには確認をしてもらうだけだよ」

「確認ですか?」


 フィナが小さく首を傾げる。

 わたしはフィナとシュリを連れて、海の家から少し離れた位置に移動する。

 この辺りでいいかな?

 周囲には邪魔になるものも人もいない。

 わたしは海に向けて立つと、クラーケンを討伐したときに作った大きなクマを波打ち際に作りあげる。クマは海の方を見るように両足で立つ。もちろん、クマの姿はデフォルメされている。そして、クマにした理由は強度が高くなるためだ。


「クマさんです」

「大きいです」


 シュリとフィナが大きなクマを見上げる。

 わたしはクマに近づくとクマの足の後ろ部分に穴を開けて中に入る。クマの中は空洞になっている。中が暗いので、光の玉を出す。クマの顔をした光の玉がクマの体の中を照らす。

 クマの中を明るくしたわたしは螺旋状の階段を頭の位置まで作り上げる。そして、階段を登り、クマのお腹の位置まで来ると穴を開ける。目の前に海が広がる。わたしは海に向けて滑り台を作る。最後に滑り台の出発地点に水の魔石を取り付けて、魔石から水を流せば、ウォータースライダーの出来上がりだ。


「フィナ、ちょっと、滑ってみて」


 後ろの階段のところで、わたしがすることを見ていたフィナにお願いをする。すると、フィナの横からシュリが顔を出す。


「ユナ姉ちゃん、これはなに!?」

「えっと、ウォータースライダーって、滑って遊ぶものだよ」

「すべるの?」

「うん、ここに座って、海に向けて滑っていくんだよ」

「わたしがすべっていい?」

「別にいいけど」


 フィナに頼んだんだけど、シュリがやりたいみたいようなので、許可を出す。


「シュリ、ちょっと待って」


 フィナはシュリを止めようとするが、すでに遅く、シュリは滑り台を滑り始める。フィナが叫ぶけど、シュリは無事に滑り、海の中に着水する。ちゃんとルールを守って遊べば危険なことはないから、そんなに心配することはない。

 シュリは海から上がってくると、階段を凄い速さで駆け上がってくる。


「ユナ姉ちゃん。もう一回いい?」


 びしょ濡れのシュリがもの凄い楽しそうな表情で尋ねてくる。髪からは水が流れ落ちている。

 どうやら、シュリは気に入ってくれたみたいだ。


「もう少し作るから、少し待ってね」


 わたしは螺旋階段を上り、クマの口辺りまでやってくると穴を開ける。高さが二倍ぐらいになった。見晴らしも良い。わたしはクマの口をスタート地点として、ウォータースライダーを作る。こっちは上級者向けにカーブを付けたり、螺旋にしたり、スロープを付けたりする。もちろん、飛び出さないように、安全管理は忘れない。

 最後は水の魔石を設置して完了。


「フィナ、来て」


 フィナに声をかけると、怖がりながら階段を登ってくる。


「わたしが滑りたい!」


 シュリが手を挙げるが、フィナが「危ないから、わたしが先です」と言う。

 安全管理もしているから、そんなに危険なことはないのに、妹が心配みたいだ。


「それじゃ、ここに座って」


 わたしはフィナの肩を掴み、座らせる。


「ユ、ユナお姉ちゃん。ちょ、ちょっと待ってください」

「立っちゃ駄目だからね」

「お、押さないでください」


 わたしは怖がるフィナの背中をそっと押す。フィナは叫び声をあげながら、ウォータースライダーを滑っていく。カーブを曲がり、螺旋をぐるぐると回り、スロープを通って着水する。

 うん、いい感じだね。

 着水したフィナは立ち上がると、わたしに向けて何かを言っているみたいだけど、聞こえない。


「ユナ姉ちゃん、わたしも」


 下のフィナを見ていたら、シュリが上までやってきていた。目を輝かせながら、わたしを見ている。


「ちゃんと、座るんだよ」

「うん!」


 シュリはフィナと違って、自分から滑りにいく。それと入れ違いにフィナがやってくる。


「う~、ユナお姉ちゃん、酷いです」

「つまらなかった?」

「ちょっと怖かったけど、楽しかったです。でも、心の準備は欲しかったです」


 せっかく作ったことだし、わたしも一度は滑ってみることにする。一応、危険がないか自分で確認しないと、子供たちに滑らせるのも危険だからね。

 クマ靴をクマボックスに仕舞い、ウォータースライダーに座る。水がお尻にぶつかる。そして、勢いよく滑り出す。

 おお、左右に揺られ、くるくると螺旋を回っていく。最後にスロープがあり、着水する。顔に水がかかる。

 初めての経験だったけど、面白かった。もう少し高くしてもいいかもしれない。でも、年齢が低い子が多いから、今回はこれで十分だ。

 わたしが海からあがると、ノアや子供たちが集まってきていた。


「ユナさん、これはなんですか!」

「ユナお姉ちゃん、わたしも遊びたい」

「ちょっと、待って」


 わたしはギルやルリーナさんを呼び、滑り方を教える。絶対に立ってはいけない。走らない、順番を守る。危険な滑り方をしない。前の人が滑り終わってから、滑ることなどの説明をして、監視役をお願いする。

 子供たちが遊ぶ前に、クマの中が暗いので窓を付けたりして、外の光を取り込むようにする。

 うん、これで完成だね。


 子供たちはウォータースライダーで遊び始めるが、魔法使い組は呆れたようにクマのウォータースライダーを見ている。


「魔法をこんなことに使うなんて、信じられない」

「でも、同じ魔法使いとして、嫉妬するわね」


 魔法使いであるエルとルリーナさんがそんな感想を洩らす。

 でも、他の大人であるカリンさんやエレナやアンズたちは子供たちと一緒に遊んでいる。

 ノアを含む、子供たちはクマのウォータースライダーで遊び始めた。砂浜を見ると存在を忘れられたくまゆるとくまきゅうがいた。

 可哀想だけど、無事に解放されたみたいだ。これで謎の島に行けるかな?



また、ミリーラに大きなクマが出来上がりましたw

でも、ウォータースライダーに気を引かせている間に出発が出来そうです。

出来たらいいな。

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― 新着の感想 ―
無自覚に自ら守護神になっていくスタイルのユナ。 そして、黒歴史になる(笑)
[一言] 島の守り神化する?:イースター島のモアイ像 大きなクマを波打ち際に作りあげる。クマは海の方を見るように両足で立つ。
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