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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、従業員旅行に行く。
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358 クマさん、海に出る (3日目)

 昼食を終えると、それぞれの目的のために分かれて行動する。院長先生やリズさん、ニーフさんは眠そうにしている子の手を繋いだり、寝ている子を背負ったりしている。それを見たギルが代わりに背負って、クマハウスに連れていった。

 町に行くメンバーには地元であるアンズたちが案内する。ルリーナさんはこっちに付いていくらしい。

 釣りをするグループはノアを護衛するマリナはもちろん、モリンさん、カリンさん、エレナも魚釣りに参加するみたいだ。


「フィナ、シュリ、勝負ですからね」


 バシっと宣言をするノア。

 ノアたちとは違う船に乗るため、一度ここで別れる。

 わたしたちはクロのお爺ちゃんの船に向かう。クロのお爺ちゃんの船に乗るのはわたしとフィナ、シュリにティルミナさんにゲンツさんの5人になる。釣りをするなら、家族一緒と思って、わたしが誘った。


「お父さん、大きなお魚さん捕れる?」

「昔に釣りはやったことがある。そのときにこんな大きな魚を捕ったこともあるぞ」


 シュリの質問にゲンツさんは手を広げて、大きな魚を釣ったアピールをする。


「あら、そうだったかしら? 確かロイは釣れて、ゲンツは釣れなくて文句を言っていた記憶があるんだけど」


 ティルミナさんが微笑みながら、大きな魚を釣った自慢をするゲンツさんの言葉を否定する。ゲンツさんはティルミナさんの言葉に動揺する。


「そ、そのあとのことだ。みんなが見ていないときに釣ったんだ」


 ゲンツさんは目を泳がせながら答える。その態度が、いかにも嘘を吐いていると分かる。


「それじゃ、どれほど釣りの腕前が上がったか楽しみね」

「……でも、釣りは久しぶりだし、腕が鈍っているかもしれない……」


 なにか、今度は言い訳じみたことを言い出した。さっきまでシュリに大きなことを言っていたのに。

 でも、そんなのは関係なく、ティルミナさんが追い討ちをかける。


「シュリ、お父さんが大きな魚を捕ってくれるって」

「本当? お父さん、頑張って」


 シュリが純粋無垢な表情でゲンツさんにお願いする。そんなシュリの笑顔に無理とは言えないゲンツさんは、自分を追い込んでいく。


「……ああ、任せろ。大きな魚を釣り上げてやる」


 胸を張って約束してしまう。

 ああ、ゲンツさんの顔が引き攣っているよ。素直に初心者だってことを認めればいいのに。どんどん傷口が広がっていく。もしかして、自分を追い込んで力を発揮するタイプなのかな? そんな風には見えないけど。

 ティルミナさんもそんなにゲンツさんを苛めなくてもいいのに。

 でも、今回のことに関しては見栄を張ったゲンツさんが悪いから、フォローのしようがない。


「ユナお姉ちゃんはあるんですか?」

「釣り? わたしはしたことはないよ」


 フィナの質問に嘘を吐くこともなく答える。こんなところで見栄を張っても仕方ないからね。ゲンツさんの二の舞だけはゴメンである。

 引きこもっていたわたしが釣りなんて、アウトドアみたいなことをするわけがない。


「大きな魚、釣れるかな?」

「まあ、それはやってみないと分からないよ」


 期待を持たせるようなことは言わない。釣れなかったら可哀想だからね。

 わたしたちはクロのお爺ちゃんの船に乗って、海に出る。大きな船だ。クロのお爺ちゃん以外にも漁師が乗り込む。なんでも、お爺ちゃんの一番下の息子らしい。まあ、息子が数人いてもおかしくはない。ちなみに町長になったのは長男とのことだ。


 ミリーラの町にある船は帆船だ。帆を張ると船が動き出す。元の世界の船と違うところは、風の魔石が使用されていることぐらいだ。前にダモンさんに聞いたことがあるけど。魔石を使って船を動かすのは見習い漁師。風と魔石を交互に使うのが半人前漁師。自然の風だけで船を動かすことができるのが一人前の漁師になるらしい。自転車の補助輪みたいなものかな?


 船は港から少しずつ離れていく。他の船に乗っているノアやミサが手を振っている。それに対して、フィナとシュリも手を振り返す。


 そして、ノアたちが乗る船を見たときに見てしまった。わたしは目を擦る。間違いじゃない。帆が張ってるマストの一番上にクマの形をしたものがあった。何度も目を擦って確認をしてしまった。

 わたしは自分が乗る船も確認する。

 …………ある。高くて見にくいけど、小さなクマがマストの上にある。

 もしかして、クロのお爺ちゃんもクマをお守り代わりにしているの?

 フィナたちは海を見ているからマストにあるクマには気付いていない。だから、わたしは見て見ぬふりをすることにした。


 船は港から離れると、わたしは聞きたいことがあるのでクロのお爺ちゃんのところに向かう。


「例の現れた島って、どこの辺りにあるんですか?」


 海を見ると小島らしきものがいくつか見えるけど、どれが動く島なのか分からない。ハッキリと言って、毎日のように海に出ている漁師でないと判別がつかない。


「ここからじゃ、見えん」


 クロのお爺ちゃんの話によれば、もっと沖の方に出ないと見えないらしい。

 だから、漁師にしか知られていない理由にもなっている。

 う~ん、せめて方角だけでも知りたいんだけど。方角が分かればくまゆるたちのクマの水上歩行を使って、島に行くことができる。


「近くまで行くことは出来ますか?」

「嬢ちゃんは、そんなに現れた島に興味があるのか?」


 「あります!」とは大きな声で答えることはできない。


「まあ、冒険者だから、一応、どんな島なのか気になって」


 少し声のトーンを落として、ちょっとだけ興味があるように答える。


「それにクラーケンのこともあるし、危険な島だったら困るでしょう」

「近寄らなければ危険はない。突然、現れた以外は普通の小島と変わらんぞ。まさか、嬢ちゃんは行く気なのか?」

「行かないよ。それに渦潮があって、近寄れないんでしょう? ただ、もしものことがあれば島の方角が分かれば、対処もできるかなと思って」


 適当なことを並べてみる。お宝があるかもしれないから、行ってみたいとは言えない。それでは船を沈没させた漁師と一緒になってしまう。お爺ちゃんも良い気はせず、島の場所を教えてくれないかもしれない。


「まあ、遠くから見るだけなら、いいじゃろう」


 クロのお爺ちゃんは船の進む先を変更してくれる。船はどんどん港から離れていく。


「船が小さくなっていくよ」


 シュリが他の船を見る。他の船はそれぞれの魚を釣るポイントに向かっている。クロのお爺ちゃんの船だけが、別の方向に進んでいる。

 フィナたちは島に向かっていることも知らずに、純粋に船を楽しんでいる。しばらく進むと、クロのお爺ちゃんが声をかけてくる。


「嬢ちゃん、あの島がそうじゃ」


 クロのお爺ちゃんが指差す方を見る。距離はかなり離れている。この位置では普通の小島にしか見えない。でも、緑が見え、木々が生えていることは分かる。

 わたしはクマの地図のスキルを使い、場所を確認する。真っ黒い海図に船で通った箇所が、地図として作成されている。地図としては不完全だけど、島に行くだけなら問題はない。この船が通った先に謎の島があることになる。あとは島が移動しないことを祈るだけだ。


「嬢ちゃんの頼みでも、これ以上は近寄らないぞ。わし自ら命じたことを破るわけにはいかんからな」


 わたしとしては方角が分かれば問題はない。わたしがお礼を言うとお爺ちゃんは船を反転させて、釣りポイントに向かう。

 釣りポイントへやってくると、お爺ちゃんと息子さんがフィナたちに釣りの仕方を教える。フィナはもちろん、釣りが出来るゲンツさんも真面目に聞いている。

 釣りの仕方を教わったみんなは、それぞれ糸を垂らす。竿を見ると、リールらしき物も見える。

 あれは魔石かな。

 リールらしき場所に魔石が嵌められている。魔石の力で糸を巻いたりするのかな?


「ユナお姉ちゃんは釣りはしないんですか?」

「わたしはのんびり見ているよ」


 釣りは興味はない。ボーっとするのは好きだけど。竿を垂らして、待つのは好きじゃない。やるならやる。やらないなら、やらないって感じだ。


「ユナ姉ちゃんもやろうよ」


 シュリがわたしの服を掴む。


「わたしはいいよ」

「え~~」

「それじゃ、代わりにくまゆるを貸してあげるから、わたしと思って」

「くまゆるちゃん?」


 わたしは通常サイズのくまゆるを召喚する。くまゆるを召喚した程度では船は傾いたりはしない。


「くまゆる。シュリと一緒に釣りをしてあげて」


 わたしがそう言うとくまゆるは「くぅ~ん」と鳴く。


「くまゆるちゃん、釣りできるの?」

「さあ? でも、わたしより役に立つと思うよ」


 シュリはくまゆるを連れて釣りに向かう。

 わたしは通常サイズのくまきゅうを召喚して、伏せるように寝かせる。そこにわたしは寄りかかるように横になる。

 うん、気持ちいい。ふわふわのクッションだ。

 くまゆるとくまきゅうには一応、海の監視をお願いする。クラーケンは現れないと思うけど。危険な海の生物が襲ってくるかもしれない。保険みたいなものだ。


 わたしは船に揺られながら、フィナたちを見る。フィナは糸を垂らし、海を眺める。シュリはくまゆると一緒に釣りをしている。わたしはクマ装備のおかげで大丈夫だけど。くまゆるに抱かれて、シュリは暑くないのかな? 

 ゲンツさんは「絶対に大きな魚を釣るぞ」と言っている姿があり、ティルミナさんが微笑ましそうに見ている。そんな様子を見たり、声を聞く。船が揺れているが、わたしの体質なのか、クマ装備のおかげなのか、船酔いはしない。くまきゅうのふわふわのクッションに寄りかかっていると眠くなってくる。「はぁ~」少し大きめなアクビをすると眠りに落ちていく。


「ユナお姉ちゃん、シュリ、起きて」


 体が揺れる。目を開けるとフィナがいる。そして、横から「お姉ちゃん?」と眠そうな声が聞こえてくる。声をした方を見るとシュリがわたしに抱き着いて寝ていた。


「ほら、もう帰るから起きて」

「お姉ちゃん。お魚さん、釣れたの?」


 シュリが小さく欠伸をしながら起き上がる。

 どうして、シュリがわたしの横で寝ているのかな?


「大きな魚が釣れたよ」

「本当!」


 シュリは起き上がると、魚を見に行く。


「フィナは釣れたの?」

「はい、くまゆるちゃんが手伝ってくれたので大きな魚が釣れました」


 話を聞くとシュリは早々に釣りに飽きて、船の中を見たり、海を眺めたりしていたそうだ。それがいつのまにかわたしの横で寝ていたという。

 釣りの方はフィナとティルミナさんは数匹の魚を釣り上げたと言う。ゲンツさんの結果は聞かないであげてほしい。


「釣れたのも、くまゆるちゃんのおかげです。くまゆるちゃんが竿を持ってくれたんです。格好良かったんですよ。最後は口に咥えて、グワッと引っ張ると、こんなに大きな魚が釣れたんです」


 フィナは手を左右に大きく動かして、くまゆるがどんな風に魚を釣り上げたかを説明してくれる。フィナの隣にいるくまゆるが凄いでしょうって感じで「くぅ~ん」と鳴く。

 えっと、くまゆるなにをやっているの? くまゆるそんなことまでできたの?

 とりあえず、頭を撫でて褒めてあげる。



※ロイはティルミナさんの亡くなった旦那さんの名前です。(忘れている可能性あるので)


そんなわけで謎の島の位置を把握しました。

あとは向かうだけですね。


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