345 クマさん、集合場所に向かう(1日目)
「シアはどうする?」
「水着ですか? 学園で使っている水着を用意してきましたから、大丈夫ですよ」
「学園?」
「学園では一部の生徒だけですが、泳ぐ練習もあるんです」
シアの話では勉強している教科によって、水泳の練習もするらしい。主にシアなどの貴族や有力者たち、騎士を目指す者が取ると言う。シアたちは自分の身を守るため、騎士は何かしらの理由で川を渡るときもある。
だから、水泳の練習もあるとのことだ。
「二人とも水着を持っているなら大丈夫だね」
「それで出発はいつなの?」
「明日ですよ」
わたしは出発の日時を二人に教える。
「そんなに早くに……」
「ギリギリだった」
「う~ん。それじゃ、このクマさんの乗り物は明日の楽しみにしておくかな」
「ルリーナさん、乗りましょうよ」
ルリーナさんが楽しみは明日にしようとするが、シアは乗ろうとする。
「楽しみは後でとっておいた方がいいでしょう。それに、シアちゃんを家まで送り届けないと、依頼も完了しないしね。それじゃ、ユナちゃん。明日はよろしくね」
ルリーナさんはシアの腕を掴むと歩き出す。シアは名残惜しそうに離れていく。
さて、二人が居なくなったので、クマバスの改造を始める。
えっと、ここがこうなって、ここはこうで、人数は八人?、こっちは七人? 九人。まあ、少し大きく作れば良いだろう。
うん、完成したけど。自分に問いかけたい。これでいいのかと。
目の前には親クマを先頭に2つの子熊のバスが並んでいる。先頭がわたし、後ろにくまゆる、くまきゅうが付いてくるイメージだ。
二階建てバスも考えたけど、速度を出すと二階建てだと危険だ。倒れることはないと思うけど、もしものことを考えて、この結果になった。
親熊バスには孤児院の子供たちおよび、院長先生、リズさん、ニーフさんが乗る。子熊のバスにはお店組のアンズたち4人にモリンさん、カリンさん、ティルミナさんにゲンツさんたちに乗ってもらう。
そして、もう1つの子熊のバスにはノア、シア、ミサの三人にマリナやルリーナさんたちにはこっちに乗ってもらうつもりだ。
フィナとシュリはティルミナさんと乗るか、ノアたちと乗りたいかは自由に決めてもらう。
そして、翌日の朝。陽が昇る少し前に、わたしはくまゆるとくまきゅうに起こされる。
「くまゆる、くまきゅう、おはよう」
わたしは起こしてくれた二人にお礼を言うと、ベッドから抜け出す。
まだ、眠い。昨日は早く寝たけど、時間帯が睡魔を呼ぶ。
わたしは顔を洗って目を覚まさせると、白クマの格好のまま外に出る。そのあとを小熊化したくまゆるとくまきゅうがトコトコと付いてくる。
別に着替え忘れたわけじゃない。クマバスは魔力を使う。普通にゆっくりと動かすだけなら、そんなに魔力は消耗しない。でも、速度を出せば魔力は消耗する。トンネルの通行の時間を考え、もしものことを考えての白クマの格好だ。
集合場所である。門の入口にやってくると、すでに誰かがいる。
「ユナさん、その格好は!?」
「ユナお姉様、可愛いです」
「くまきゅうちゃんの格好?」
「…………」
ノアとミサ、シア、それとマリナとエルがわたしの格好に驚く。いつも、黒クマの格好をしているわたしが白クマの格好をすれば驚くよね。
「まあ、ちょっと理由があってね。気にしないでもらえると助かるよ」
「いつものくまゆるちゃんの格好も可愛いですが、くまきゅうちゃんの格好も可愛いです」
「その、……ありがとうね」
やっぱり、黒いクマだとくまゆる。白い格好だとくまきゅうの格好になるんだね。
それから、ノアたちはくまゆるとくまきゅうに朝の挨拶をする。
「それで、ユナさん。馬車はないんですか?」
「うん? シアから聞いていないの?」
「お姉様ですか? 何も聞いてません」
ノアはシアの方を見る。
「だって、黙っていた方が驚くでしょう。それに説明のしようがないもん」
「な、なんですか。お姉様は何か知っているんですか?」
シアは含みがある笑顔をする。
まあ、わたしがクマバスを出せばいいだけなんだけど。わたしは周囲を確認する。いるのは眠そうにわたしたちを見ている門番の見張りが二人だけ。
まあ、こんなに朝早くに集まれば、気になるよね。
ここでクマバスを出すと、ノアたちが騒ぐかもしれない。そうなると朝からいい迷惑になる。
わたしがどうしようかと考えていると、後ろから声をかけられる。
「ああ、ユナ姉ちゃん。白い」
「本当です」
後ろを振り向くとシュリとフィナが駆け寄ってくる姿がある。そして、シュリはわたしに抱きつく。
「シュリ、フィナ、おはよう」
「おはようございます」
「なんで、ユナ姉ちゃん、白いの?」
「今日はくまきゅうの気分なんだよ」
わたしがそう言うと足元にいるくまきゅうが嬉しそうに鳴く。まあ、いつも出歩くときは、黒クマの姿だから、喜んでいるのかもしれない。
「くまゆるちゃん、くまきゅうちゃん。おはよう」
シュリはしゃがむとくまゆるとくまきゅうに挨拶をする。シュリは朝から元気だ。眠そうにしているかと思ったんだけど。眠そうにしているのはフィナたちの後ろからやってきた、ティルミナさんとゲンツさんだ。
「ティルミナさんとゲンツさんは眠そうですね」
「さすがにいつもは寝ている時間だからね。娘たちがこんなに元気なのが不思議なぐらいよ」
ティルミナさんの言葉にゲンツさんが欠伸をしながら頷く。そして、わたしの格好を見て、何か言いたそうにしているが、口を閉じている。
大人の対応は有難いね。
フィナとシュリはくまゆるとくまきゅうを抱き寄せると、ノアとミサのところに移動する。
「まだ、みんなは揃っていないのね」
あとは孤児院の子供たちにモリンさん、カリンさんにミリーラのメンバー。ルリーナさんとギルの二人だ。
「ティルミナさん、ここは任せていいですか? みんなが来たら、街の外に来てもらってください。外に馬車を用意しておくので」
「娘から聞いているわ。また、変な物を作ったんですってね」
人聞きの悪い。クマバスを作っただけだ。
わたしはティルミナさんにこの場をお願いをすると、ギルドカードを水晶板に翳す。
「こんなに早く、子供を連れて外に出るのか? まあ、クマの嬢ちゃんがいれば大丈夫だと思うが、気を付けてな」
心配する門兵に挨拶をして、ティルミナさんとゲンツさんを残して、皆を連れて街の外に出る。
外は暗い。やっと、うっすらと太陽が昇ってくる。
「フィナとシュリはユナさんが用意した馬車を知っているんですか?」
「うん、知っているよ。大きなクマさんだよ」
「くまさん? 馬車じゃないんですか?」
「まあ、それは見れば分かるよ」
わたしは少し離れた位置に来るとクマバスを取り出す。
「な、なんですか。これは!?」
「くまさんです」
ノアとミサの二人が驚く。
「あれ、ユナお姉ちゃん。後ろの小さなクマさんはなんですか?」
フィナが子熊のバスを見る。昨日、作ったから、フィナとシュリも子熊のバスのことは知らない。
「人も増えたから作ったんだよ。ノアやマリナたちはそっちの子熊に乗って」
「子熊の方ですか。大きいくまさんも乗りたいけど。でも、小さいくまさんにも乗りたいです」
「まあ、どうしても大きい方に乗りたいなら、大きい方でもいいよ」
「本当ですか?」
「ユナ、わたしたちはミサーナ様と同じ」
「駄目。マリナとエルはそっち。それに危険はないから大丈夫だよ」
トンネルまでの道は冒険者によって、近場の魔物は討伐されている。それにクマバスの中は安全だ。魔物が現れたとしても、わたしを含めて、冒険者が五人もいる。ドラゴンなどの上級魔物が現れない限り、すぐに対応はできる。
「ミサーナ様、こっちに一緒に乗りましょう」
マリナはミサを説得し始める。わたしとしてはミサがどっちに乗っても問題はない。フィナたちは親クマのクマバスに乗ったり、子熊のバスに乗ったり、楽しんでいる。朝なのに元気なことだ。
しばらくすると、門から孤児院の子供たちが出てくる。
眠そうにしている子や、離ればなれにならないように手を引っ張っている子もいる。
「ああ、ユナお姉ちゃん。白い」
「本当だ。白いよ」
子供たちが駆け寄ってくる。
「みんな、おはよう」
「おはよう」
やっぱり、白クマ姿で人前にあまり出たことがないから、みんな騒ぐね。
ちょっと、初めてクマの着ぐるみ姿で街を歩いたときの感覚を思い出して、少し恥ずかしくなってくる。
「それじゃ、みんなは大きなクマに乗って、席は好きな場所に座っていいから。でも、一番前と後ろは駄目だからね」
わたしがそう言うと、子供たちの興味はわたしからクマバスに変わる。
「うわぁ、大きなくまさんだ」
「大きい」
子供たちがクマバスを見て騒ぎ出す。やっぱり、外でクマバスを出してよかった。
クマバスをペタペタ触る子供たち、眠そうにしていた子供もクマバスを見て、目を覚ます。クマバスの周囲を駆け出す子供。
「騒がないで、仲良く乗るんだよ」
「はぁ~い」
子供たちは返事をすると、クマバスに乗り始める。
「えっと、ユナさん、これに乗るんですか?」
子供たちの後からリズさんや院長先生にニーフさんが現れる。
尋ねてきたリズさんの背中では小さい子が寝ている。よく見ればニーフさんの背中にも寝ている子がいる。
「見た目はあれですが、馬車よりは速くて、広いですよ。リズさんたちは一番後ろの席に座ってください」
後ろの席は院長先生のために、ゆったり座れるように少し広くしてある。
リズさんたちは恐る恐る、前の入口からクマバスに乗る。そのあとを院長先生とニーフさんが続く。
そして、ミサはどうしたかと思うと、マリナの説得もあって、子熊のバスに乗ることにしたみたいだ。それに、ノアとシアも一緒に乗ることにしたらしい。
フィナとシュリはティルミナさんとゲンツさんと相談するみたいで、決めていないみたいだ。
子供たちが席を決める頃、ゲンツさんとティルミナさんがやってくる。その後ろにルリーナさん、ギルの姿もあり、アンズたちミリーラ組にモリンさん、カリンさん、エレナさんの姿もあった。
これで、全員揃ったみたいだね。
「うぅ、眠いよ」
大きな欠伸をするセーノさん。
「わたしも眠いです」
セーノさんの言葉にアンズも頷く。どうやら、ミリーラ組は皆眠そうだ。
その点、モリンさん、カリンさんの二人は眠そうにしていない。パン作りは朝が早いからかな? でも、宿屋も早いよね?
だけど、眠そうにしていたミリーラ組はわたしの姿を見ると目を覚ます。
「ユナちゃんが白い。夢でもみているのかな?」
目が覚めたかと思ったら、寝ぼけているだけだった。
「今日は白いです。そのことについての質問は受け付けませんから、乗ってください」
わたしはアンズたちを見て、モリンさん、カリンさん、そしてルリーナさんを見て、何も言わせないようにする。もう、説明が面倒だ。
「それで、これはなに? 馬車は?」
クマバスを見てから、キョロキョロと辺りを見るアンズたち。
「これが馬車です。アンズたちはそっちの子熊に乗って」
わたしは二台目の子熊のバスを指す。二台目の子熊のバスにはアンズ、セーノさん、フォルネさん、ベトルさん、モリンさん、カリンさん、エレナさんの料理組の7人が乗る。さらに、ティルミナさんとゲンツさんに乗ってもらう予定だ。
「わたしたちはどこに乗ればいいの?」
昨日、クマバスを見ているルリーナさんはみんなほど驚いた様子はない。でも、乗りたそうにワクワクしている表情がある。
「好きな場所でいいですよ。シアと一緒に乗ってもいいし。ティルミナさんの方に乗っても」
「どうしようかしら? ギルはどっちに乗る?」
ギルは子熊バスに乗るメンバーを見る。
「ゲンツさんと同じ方でいい」
ギルはそう言うとゲンツさんのところに向かう。
「それじゃ、わたしはシアちゃんと同じクマの方にするわ。同じ冒険者同士の親睦も深めたいしね」
ルリーナさんはマリナたちが乗る子熊バスに向かう。
そして、最後まで悩んだフィナとシュリは、わたしの運転席の隣に座ることにしたらしい。
ついに出発です。
バスは親熊バス(ユナ)子熊バス(くまゆる、くまきゅう)ってイメージです。
形もくまゆるとくまきゅうにすれば良かったかな?