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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、従業員旅行に行く。
343/928

338 クマさん、アイスの試食会をする

 昨日はいろいろなアイスを作った。今日は昨日できなかった分の試食を行う予定になっているので、フィナとシュリには家に来てもらうことになっている。

 そして、その試食した中から美味しいアイスを選んで大量生産する予定だ。

 なのに、目の前にはティルミナさんの姿がある。

 

「えっと、どうしたんですか?」

「ユナちゃんが、また変な食べ物を作ったと聞いたから来たのよ」


 変ってなに?

 アイスを作っただけだよ。


「この忙しいときに、新しいことを始めないで」


 ティルミナさんに真面目な表情で懇願される。どうも、ティルミナさんは勘違いをしているみたいだ。


「違いますよ。別にお店を作ろうとかじゃないです。冷たいお菓子を作って、海に行ったときに食べようと思っただけですよ」

「本当?」


 疑うようにわたしを見る。

 そんなにわたしって、信用ない?


「本当です。だから、ティルミナさんに迷惑が掛かったりはしませんよ」


 今は……と心の中で呟く。


「なら、いいけど。フィナから大量の卵の追加も頼まれるし、何事かと思ったわ」


 昨日、フィナにティルミナさんへ卵が欲しいって伝言を頼んだ。どうもそれがティルミナさんを驚かせたみたいだ。

 それで、ティルミナさんがわたしがなにかすると思ったらしい。人のことを何だと思っているんだか。そんなにいつもトラブルを持ってきたりはしないよ。

 ……たまにだけだよ。


「それで、なにを作ったの?」

「フィナから聞いていると思うけど、冷たいお菓子ですよ。ティルミナさんも時間があるようなら、試食して、意見を聞かせてください」

「あら、わたしも食べていいの?」

「昨日、試食したアイスも残っていますから、全ての試食の意見を貰えますか。美味しい、不味いはもちろん。甘すぎとか、もう少し甘い方がいいとか。味が薄いとか、いろいろとコメントをお願いします。シュリは甘いアイスに採点が甘くなるので」

「了解、わかったわ」


 シュリは「甘いほうがおいしいのに」と小さい声で呟いている。


「甘いのもほどほどにしないと駄目よ」


 ティルミナさんはシュリの頭に手を置く。


 そんな感じでティルミナさんを含めた試食会が始まった。

 わたしは冷凍庫からアイスを取り出し、小分けにしてお皿に乗せる。


「これが、フィナたちが言っていた冷たいお菓子ね」

「アイスって言います」


 ティルミナさんはスプーンでアイスを掬って、口に運ぶ。フィナもシュリも口に運ぶ。


「あら、美味しいわ」

「はい、美味しいです」

「ユナ姉ちゃん。もっと、食べたい」


 昨日作ったアイスの中には凍ってしまって、アイスキャンディーになったものもある。でも、それはそれで美味しくできている。まあ、食べられない物は入れていないので、基本、どれも美味しく出来上がっている。

 でも、やっぱりか。みんなの表情や言葉を聞くと、柔らかいアイスが高評価みたいだ。口に入れると溶ける食感が良かったらしい。アイスキャンディーも悪くないが、アイスクリームと比べると評価は少しだけ低かった。


「味が薄かったり、甘すぎるのもあったけど、どれも美味しいわね」

「甘いのはシュリが作った物です。味が薄いのは次回に研究しないと駄目ですね」


 今回は時間がないので、評価が低かったアイスは保留となる。できればいろんな味を作りたいものだ。

 そして、今回、旅行に持っていくアイスは。試食で評価が高かったアイスが選ばれた。


「それじゃ、卵が大量に必要になるのね」

「まだ持っているけど、作る数を考えると、足りなくなると思うからお願いします」


 クマボックスには大量の卵が入っている。でも、昨日練習で大量に使い、今日も使う予定だ。卵はいくらあっても困ることはない。

 それにわたしが個人的に使うときにストックがないと困る。


「わかったわ。余った卵は優先的に持ってくるわね」


 基本、余った卵はお店などに回され、モリンさんの新作パンや、エレナさんの新作のケーキなどを作るために回される。それでも、余った場合、わたしが引き取ることにしている。

 わたしがいない時などは安く商業ギルドに卸されることになっている。


「それじゃ、わたしはちょっと孤児院に行ってくるわね」


 ティルミナさんはフィナとシュリを置いて孤児院に行ってしまう。フィナとシュリにはアイス作りを手伝ってもらう。

 わたしはアイス作りをしながら、フィナに尋ねる。


「フィナに聞きたいんだけど」

「はい、なんですか?」


 フィナが返事をして、わたしの方を振り向くと鼻にクリームを付けている姿がある。

 姉妹揃って、そっくりだ。


「フィナって、スコルピオンって魔物は知っている?」

「スコルピオンですか?」

「うん、もしかすると、解体をお願いするかもしれないんだけど」


 できなかったら、王都の冒険者ギルドのサーニャさんに売り付けようと思っている。クリモニアで売ると騒がれる。王都なら、さほど珍しくはないはずだし、サーニャさんに頼めばわたしの存在が出てくることもない。


「スコルピオンは冒険者ギルドにある魔物図鑑で見たことはありますが、詳しくは知りません」

「それじゃ、解体はしたことはないんだね」

「はい、ごめんなさい」


 下を向いて、落ち込んでしまう。


「いや、謝らなくてもいいから。フィナは悪くないからね」


 わたしは落ち込むフィナを慰める。別にフィナが悪いってことはない。スコルピオン自体がこの街では珍しい魔物だ。解体の経験が無くても、仕方ないことだ。


「でも、スコルピオンの解体のことを聞くってことは、スコルピオンを倒したんですか?」

「うん。こないだ王都で仕事をしているときに、たまたまスコルピオンに出くわして倒したんだけど。どうしようかと思って。とりあえず、フィナが解体ができるなら、してもらおうかなと思ったの」


 肉は食べられるらしいから、アンズのお店や孤児院にもあげることができる。

 甲殻は暇を見て、王都で売ってもいいし。


「それなら、お父さんが知っているかもしれません。お父さんは昔は冒険者でいろいろなところに行ったと言っていました。きっと、スコルピオンの解体も知っていると思います」


 ゲンツさんなら、知っているかな? ブラックバイパーも解体をしていたし。


「お父さんに聞いてみますか?」

「そうだね。それじゃ、アイス作りが終わったら、聞きに行ってみようか」

「はい!」


 わたしは先ほどから気になっていた、フィナの鼻の上に付いていたクリームをハンカチで拭いてあげる。

 途中でティルミナさんが卵を持ってきてくれ、ティルミナさんもアイス作りに参加することになった。仕事が気になったが、今日は大丈夫と言うことなので、ありがたく手伝ってもらうことにする。


「でも、こうやって型に入れると作れるのよね」

「流し込むだけですから」

「クマさんの形をした物も作れそうね」

「なんで、クマの話が出てくるんですか」

「いや、クマの形をしたアイスをお店に出したら、売れるかなと思って」

「朝は面倒なことはやめてって、言ってませんでしたか?」

「それはそれよ。お店の会計を預かる身としては、どうしても売り上げを考えちゃうのよ」


 ティルミナさんってそういう人でしたっけ。

 でも、ティルミナさんにはお金のことは任せっぱなしだ。それで影響が出てきたのかな?

 とりあえず、お店のアイスの話は保留になり、海に持っていくアイスを四人で大量に作った。



 アイス作りを終えたわたしはフィナと一緒に冒険者ギルドにやってくる。シュリはアイス作りが疲れたのか、眠そうにしていたので、ティルミナさんと帰った。なんだかんだ言っても7歳児だ。1日働けば疲れる。


 冒険者ギルドにやってくると、解体作業や冒険者が倒した魔物を管理している場所に向かう。


「失礼します」


 ゲンツさんを捜すと、部屋の壁ぎわで、ギルドマスターと会話をしている姿があった。


「取り込み中みたいだね」

「はい、お仕事中みたいです」


 わたしたちがジッと会話が終わるのを見ていると、二人がわたしたちに気付く。


「フィナにユナもどうした?」


 わたしとフィナはゲンツさんのところに向かう。


「ゲンツさんに聞きたいことがあったんだけど」

「おれにか?」


 わたしはチラッと、ギルマスの方を見る。なるべくならスコルピオンのことは聞かれたくない。


「なんだ。俺がいると迷惑そうだな」


 はい、迷惑です。と言いたいが、本人を前にして口にはできない。


「そうじゃないけど。仕事に戻らないの?」

「俺の勘が、面倒ごとを持ってきたと言っている」

「別に面倒ごとなんて持ってきていないよ。ゲンツさんに話を聞くだけだよ」

「なら、話せばいいだろう」

「…………」


 沈黙が流れる。


「なんだ、話が無ければ、俺は仕事に戻るが」


 ゲンツさんはわたしとギルマスに挟まれて、居たたまれなくなったのか、この場から逃げようとする。

 わたしはゲンツさんの行動に便乗する。


「そうだね。仕事が終わってからにしようか。フィナもそれでいいよね?」

「わたしはどちらでも」


 フィナがわたしとギルマスを見ながら答える。


「駄目だ。俺に聞かれても問題が無ければ、話せばいいだろう」


 わたしは息を吐くと諦める。

 まあ、親玉スコルピオンのことを話さなければ大事にはならないはずだ。


「ゲンツさん、スコルピオンって解体できる?」

「スコルピオン? まあ、やったことはあるからできるが、もしかして持っているのか?」

「うん、まあ、それでフィナに解体をお願いしようと思ったら、やったことがないって言うから、ゲンツさんに聞くことになったんだけど」

「まあ、この辺りにはいない魔物だからな。フィナも解体をしたことがないのは仕方ない」


 砂漠にいる魔物みたいだからね。


「何事かと思えばスコルピオンの解体か。俺はもっと、大変なことだと思ったぞ」


 わたしたちの話を聞いていたギルマスが、そんなことを言い出す。それはギルマスが勝手に思い込んだだけだ。わたしは悪くない。


「それでゲンツにスコルピオンの解体を頼みに来たのか?」

「フィナって解体の勉強をしているでしょう。だから、フィナの勉強になるかなと思って」

「そういうことなら、ギルドで引き取るぞ。他の職員も解体をしたことがない者もいる。良い勉強になるはずだ」

「でも、この街でスコルピオンなんか出したら騒がれない?」

「まあ、多少は騒ぐかもしれないが、ギルド内で処理をすれば大丈夫だろう。ゲンツもそれでいいな」

「娘のフィナと一緒でいいなら」

「それはいまさらだろう。それでユナは何体持っているんだ? そのクマのアイテム袋に入っているんだろう?」


 本当のことを言っていいのかな?

 何体ぐらいまでだったら、騒がれないかな?

 ちなみにスコルピオンは100体はある。ゴブリンを100体と考えれば大したことじゃないよね。


「おまえさんのことだ10体はもっているんだろう。全部引き取るぞ」


 その10倍です。しかも、その親玉も持っています。

 まあ、ギルマスがそう思っているなら、話を合わすことにする。


「ギルマスの言う通り、10体ほどあるよ」

「やっぱりな。こっちだと、手に入り難いが加工しだいでは甲殻はちょっとした防具になるから、商業ギルドも喜ぶだろう」


 親玉の甲殻は硬かったけど、通常のスコルピオンはそんなに硬いようには感じなかった。でも、加工しだいでは強度が強くなるのかな?

 茹でるとか?

 頭にカニやエビが入った鍋が頭に浮かぶ。美味しそうだ。

 寒くなってきたら、鍋もいいね。エルフの里に行けば、キノコもあるから、キノコ鍋もいいかもしれない。

 まあ、いまやる夏鍋も美味しそうだけどね。


「肉は美味しいの?」

「ああ、肉も美味しいな」

「それじゃ、肉はこっちで引き取るけど、いい?」

「半分でどうだ」


 半分か。まあ、欲しくなったら解体をすればいいだけだ。


「いいよ」

「商談成立だな。それで、引き渡しはいつにする? おまえさん、俺に知られたくないってことは、自分が持ってきたことは知られたくないんだろう」

「そうだけど、ギルドで内密にしてくれるなら、いいよ」

「う~ん、口の軽そうな奴もいるからな。なんなら、明日の早朝でどうだ? 早朝なら人も少ない」


 ギルドは24時間やっている。だからと言って、ギルド職員が何人もいるわけじゃない。緊急時に備えて、数人いる程度だ。だから、朝はギルド職員はいない。

 問題はわたしが早起きをしないといけないってことぐらいだ。

 これはくまゆるとくまきゅうに起こしてもらうしかないかな。

 わたしは了承して、明日の早朝に来る約束をする。



メリークリスマスです。

前回のお知らせの通り、今年はこれで最後になります。

来年は6日前後から再開の予定になっています。


今年は1億pv 総合評価10万突破。

書籍も無事に3冊出すことが出来ました。

これも、読みになって下さった皆様のおかげです。

ありがとうございました。

来年も『クマ』をよろしくお願いします。


記念メモ

総合評価 102,566pt

文字数 1,437,781文字

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スコルピオンってカニや海老と同じ扱い?(笑)
[気になる点] 砂漠に行ったときにジェイドたちと会ったと思います その時に水の魔石を付けたローブを着ていて、ユナは店や鳥の世話で働く子供たちにもそのローブをあげようとかクーラーモドキを作ってあげようと…
[気になる点] 「それなら、お父さんが知っているかもしれません。お父さんは昔は冒険者でいろいろなところに行ったと言っていました。きっと、スコルピオンの解体も知っていると思います」  ゲンツさんなら、…
感想一覧
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