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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、従業員旅行に行く。
337/904

332 クマさん、クリモニアに帰ってくる

 フローラ様にドナドナされたわたしはフローラ様と遊び、夕食前に帰ることになった。


「くまさん。また、きてね」


 もちろん、約束をする。そして、家に帰ろうとするわたしをエレローラさんが捕まえる。


「ユナちゃん、家で夕飯でもどう?」

「帰りますよ」


 丁重にお断りする。早くクリモニアに帰りたい。


「でも、家に帰っても寂しく独りでご飯でしょう」

「く、くまゆるとくまきゅうがいます」


 わたしはくまゆるとくまきゅうを召喚し、抱きしめてアピールをする。

 それに独りでも寂しくないよ。元引きこもりを甘くみないでほしい。独りで食事ぐらい、なんてことない。


「それに、このまま帰ったらシアが悲しむと思うわよ。せっかく王都に来たんだから、顔を出していってあげて」


 そんなことを言われたら、断れるわけもなく、シアに会いにエレローラさんの家にやってくる。


「ユナさん? 王都に来ていたんですか?」


 制服姿でなく、私服を着たシアが尋ねてくる。

 まあ、学園から帰ってくれば着替えるよね。24時間、同じ服を着ているわたしとは違う。


「ちょっと仕事で」

「それで、シアに黙って帰ろうとしたから、捕まえて連れてきたの」


 別に逃げるつもりはなかった。普通に帰りたかっただけだ。


「仕事ですか? どんな、仕事をしたんですか?」


 わたしの仕事って言葉に反応する。興味があるみたいだ。でも、全てを話すことはできないので、普通にデゼルトの街まで荷物を運んだことを言う。嘘は吐いていない。水晶板については内緒だし、スコルピオンの話をして見せてほしいと言われても困る。だから、エレローラさんも、そのことについては黙っている。

 でも、クリフには話すんだよね。

 

 それから食事を頂き、その日はエレローラさんの家に泊まっていくことになった。

 うぅ、結局、今日はクリモニアに帰れなかった。予定通りにいかないものだね。わたしは子熊化したくまゆるとくまきゅうを抱きしめながら眠りにつく。


 翌日、朝食を食べると学園に行くシアと、お城に行くエレローラさんを見送る。


「ユナさん。今度、王都に来たら、ノアの話とか聞かせてください」

「それじゃ、わたしはクリフのことでも聞こうかしら」


 そんな頼まれごとをされる。わたしはあなたたちの家族のことを報告するために王都に来るんじゃないよ。

 でも、シアもノアの話は聞きたいだろうし、了承する。

 それにクリフのあることないことを言うのも面白いかもしれない。


「それじゃ、今度二人の面白い話を持ってくるよ」

「約束ですよ」

「楽しみにしているわ」


 二人は手を振って学園とお城にそれぞれ向かっていく。

 やっと、解放されたわたしは一人で、王都のクマハウスに戻ってくる。

 1日ぶりのクマハウスだ。昨日はいろいろとあって疲れた。昨日の朝にカリーナと別れたとは思えないほど、密度が高い1日だった。


 クリモニアのクマハウスに戻ってきたわたしは、自分の部屋に入るとベッドにダイブする。そして、わたしは小熊化した、くまゆるとくまきゅうを召喚すると一緒にゴロゴロする。

 やっぱり、同じクマハウスでもクリモニアのクマハウスが一番落ち着く。一番長くいる部屋であり、寝泊まりしている部屋だ。旅用のクマハウスにしても、王都にあるクマハウスにしても、同じような作りでも、やっぱりクリモニアにあるクマハウスが一番落ち着く。


 わたしは仕事も終えた、どこかの父親みたいに無気力状態のようにだらける。真面目に仕事をしたあとは休まないとね。

 くまゆるとくまきゅうを抱きしめて、ベッドの上でゴロゴロしていると「くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん、くぅ~ん」とクマさんパペットが鳴き出す。

 なに!? なんなの?

 わたしは驚いて、ベッドから起き上がる。そして、クマフォンが鳴っていることに気付く。

 誰から?

 クマフォンを持っているのはフィナとルイミンの二人だけだ。たまにルイミンからかかってくることもある。わたしは慌てて、クマボックスからクマフォンを取り出して、魔力を流す。


『ユナお姉ちゃん? 聞こえている?』


 クマフォンから聞こえてきた声はフィナの声だった。


「聞こえているよ」

『良かった。通じました』


 クマフォンからホッとした声が聞こえてくる。


「もしかして、なにかあった?」

『ううん、何もないです。ユナお姉ちゃんに聞きたいことがあったから。その、今、大丈夫ですか?』

「大丈夫だよ」


 部屋でゴロゴロしているだけだし。

 今の仕事はくまゆるとくまきゅうと一緒にだらけることだ。スキンシップも大切だからね。


「それで、聞きたいことって、なに?」

『お母さんがユナお姉ちゃんがいつ帰ってくるのかなって、いつも言っているから。もし、クリモニアに帰ってくる日が分かれば、お母さんに教えてあげようと思って』


 優しい子だ。


「でも、ティルミナさんがそんなことを言うなんて珍しいね」


 わたしの帰りが遅くなっても、気にした様子はなかった。


『海に行くことで相談したいことがたくさんあるって言ってます』


 そっちが理由か。


「もしかして、ティルミナさん、怒っているの?」

『怒ってはいないです。心配しているような、相談ができないから困っている感じでした。それで、ユナお姉ちゃん。いつ帰ってきますか?』


 はい。実は、もう帰ってきています。


『ユナお姉ちゃん? もしかして、忙しかったですか?』

「……その、……家にいるよ」


 わたしは素直に答える。


『ユナお姉ちゃん、帰ってきていたんですか!?』


 クマフォンから、呆れたような、驚いたような、怒っているような。声にいろいろな感情が混じっている。


「今日だよ。ついさっきだよ。本当だよ。くまゆるとくまきゅうに聞いて、二人が証人だよ」


 くまゆるとくまきゅうが「くぅ~ん」と鳴いて、そうだよと言っているように擁護してくれる。


「仕事で疲れて、やっと家に帰ってきて、部屋で休んでいただけだよ。ちょっと、くまゆるとくまきゅうと一緒にゴロゴロしていただけだよ。……えっと、フィナさん? 聞こえてます?」


 なにか、分からないけど、わたしは言い訳をする。


『その、ごめんなさい。仕事で疲れて休んでいるのに。明日なら会えますか?』


 フィナはわたしの言葉を信じてくれる。優しい子だ。


「そんなことないよ。午後から、フィナに会いに行こうと思っていたから」


 本当は今日1日はゴロゴロしようと思っていた。仕事のし過ぎはよくない。でも、フィナが会いたいと言えば、断ることもできない。


『それじゃ、今からお母さんと一緒にユナお姉ちゃんの家に行っても大丈夫ですか?』

「大丈夫だけど。わたしがそっちに行ってもいいけど」

『いえ、ユナお姉ちゃんは少しでも休んでいてください。お父さんも仕事から帰ってくると、疲れた顔をしています。それじゃ、これから、お母さんと行きますね』


 通話が切れる。わたしはクマフォンを仕舞い、フィナとティルミナさんのお迎えの準備をする。

 掃除? お菓子? 飲み物? 掃除は平気。お菓子はクッキーやポテトチップスがある。飲み物も冷えた果汁がある。大丈夫だ。くまゆるとくまきゅうと一緒に待っているとフィナがやってくる。フィナとティルミナさん、それからシュリの姿もあった。


「ユナちゃん。今日、帰ってきたの?」

「はい。それで、家でゴロゴロしていました」

「疲れているところ、ごめんなさい。少し、話しておきたいことがあったから」

「別にいいですよ。とりあえず、座ってください」


 わたしは用意していたお菓子と飲み物を用意する。

 フィナとシュリは椅子に座ってるくまゆるとくまきゅうを抱きしめると膝の上に乗せる。そして、わたしが用意したお菓子を食べ出す。


「それで、相談したいことってなんですか?」

「そろそろ、海に行く日程を決めてほしいの。鳥のお世話をしてくれる村の人にも連絡をしないといけないし。お店の方も早めに休みの告知をしないといけないでしょう。それと…………」


 ティルミナさんは最後の方が少し声が小さくなる。


「なんですか?」

「その、ゲンツが冒険者ギルドの休みが貰えるか確認したいのよ」


 少し、恥ずかしそうにする。


「お父さん、長い休みを貰うために、休みを取らずに働いているんです」

「そうなの?」

「もう、海に行くのを楽しみにして」


 どうやら、ゲンツさんは家族旅行に行くために頑張っているみたいだ。まあ、仕事は簡単に長期休暇を貰うのは難しい。ニュースでも有給が取れない話は聞く。まして、異世界に有給なんてあるわけがない。

 だから、ゲンツさんは休みが貰えるように頑張っているみたいだ。


 ゲンツさんもティルミナさんと結婚して、どこにも行っていないだろうし。今回の旅行は新婚旅行になって、ちょうど良いかもしれない。フィナもシュリも嬉しそうにしているし。


「わたしの方はいつでも大丈夫だから。日程はティルミナさんが決めていいですよ」

「そういえば、何日ぐらい行く予定なの? お店の休みの期間の告知もしたいんだけど」


 移動で1日、往復で2日? 遊びで5日ぐらい? そう考えると。


「7日か10日ぐらいかな?」

「そんなに!?」

「あくまで予定ですよ」


 短いよりは長い方がいいはず。大は小を兼ねるっていうしね。


「でも、それだと、かなりお店の売上が下がるわよ」


 別にそんなことは気にしない。

 今回はあくまで、従業員旅行であり、みんなを(ねぎら)うのが目的だ。


「その分は帰ってきてから、頑張ってもらいますよ」

「それじゃ、帰ってきたら大変ね。それで移動手段はどうなっているの? 馬車を用意するの? ユナちゃんに考えがあるって言うから、なにもしていないけど。今から用意するにしても、人数が多いから大変よ」


 すっかり、移動手段のことを忘れていた。さすがにクマの転移門を使って海に行くわけにもいかない。


「だ、大丈夫ですよ。ちゃんと考えていますよ」

「ほんとう?」


 疑いの眼差しをわたしに向けてくる。

 まるっきり考えていなかったわけじゃない。候補は考えてある。ちょっと、忘れていただけだ。


「ホントウデスヨ」


 わたしのことを疑うように見るティルミナさんの目を、逸らさないように見つめ返す。


「わかったわ。それじゃ、馬車の件はお願いね」


 勝った。何にと言われても困るが、勝ったことは間違いない。


「それから、フィナに聞いているけど、泊まる場所はあるのよね」

「おおきな、くまさんのお家だよ」


 シュリが両手を大きく広げる。シュリの手は掴んでたくまきゅうから離れ、膝の上に乗っていたくまきゅうが落ちそうになる。でも、すぐにシュリが抱きしめる。


「シュリの言う通りに、泊まる場所は大丈夫ですよ」


 そのために大きなクマハウスを作った。


「大きなクマって言うのが気になるけど。泊まるところがあるならいいわ。あと食材も、向こうの町で買えるのよね?」

「大丈夫だけど。不安なら、持っていきますよ」


 いざとなれば、クマボックスに肉や野菜とか小麦粉などは入っている。それに天気さえ悪くなければ、新鮮な魚が手に入る。


「それじゃ、出発する日を決めましょう」


 ティルミナさんがお店の状況や仕入先などの予定をまとめてくれていたみたいで、予定は簡単に決まる。


「それじゃ、出発は10日後で、仕入先や商業ギルドには伝えておくわね」


 それから、お店の休みの告知のチラシを作ったり、鳥の世話をしてくれる人に連絡。ティルミナさんは今後の予定を1人で決めていく。

 勝手に決めた従業員旅行だったけど、ティルミナさんには迷惑をかけてしまったようだ。

 でも、楽しそうにしているから、大丈夫かな?


「ティルミナさん。いつも、ありがとうございますね」

「なに? いきなり、お礼なんて」

「いや、いつもお世話になっていると思って」


 わたしが素直に言うと、ティルミナさんは真面目な表情になる。


「なにを言っているの? わたしたち家族の方が、ユナちゃんにはお世話になっているのよ。わたしたち家族が幸せに暮らせているのも、ユナちゃんのおかげなのよ」


 ティルミナさんは最後にニッコリと微笑む。その表情を見れば嘘は言っていない。

 本当にこの世界に来て、一番初めに会ったのがフィナで良かった。


やっと、海編が始まります。現実では12月なのに……

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