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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、砂漠に行く
326/928

321 クマさん、バーリマさんに報告する その1

 屋敷に戻ってくると、ラサさんが出迎えてくれる。


「ただいま、ラサ」

「カリーナ様……ご無事で」


 ラサはカリーナを優しく抱きしめる。

 まあ、普通に考えれば心配するよね。10歳の女の子が冒険者たちと一緒に魔物がいる場所に行くっていうんだからね。

 こうやって抱きしめあっている姿を見ると、心配する姉って感じだ。


「ラサ、苦しいよ」

「申し訳ありません。少し前に戻ってきた冒険者からお話をお聞きして、心配で心配で仕方ありませんでした」


 戻ってきた冒険者? ウラガンたちのことかな。


「みんながいるから大丈夫だよ」

「ですが、数百に及ぶワーム。それに巨大なワームもいたそうではないですか。お話を聞いたときは倒れそうになりました」


 これは間違いなくウラガンが来たみたいだ。


「うん。でも、みんなユナさんたちが倒してくれたから大丈夫だよ」

「はい、冒険者のみなさんが協力して倒したから大丈夫だと、お聞きしました」

「ほとんど、ユナちゃんのおかげだけどね」


 話を聞いていたジェイドさんたちが苦笑いをする。

 たしかに、わたしが掘り起こすワームをウラガンたちは一生懸命に倒してくれた。最後まで付いてきたのはウラガンだけだったけど。

 それにウラガンはワームの解体もしてくれたし、凄く助かった。


「ユナさんは凄く格好良かったんですよ。こんなに大きなワームを一人で倒したんですよ」


 手を大きく広げて、大きなワームを表現しようとするカリーナ。

 さらにわたしの真似なのか、腕を伸ばして、魔法を放つ格好をする。わたし、そんな格好しているの?


「ふふ、凄いですね」

「あ~~、ラサ。信じていないでしょう。本当なんですよ。こんな大きなワームがいたんですよ」

「ふふ、信じてますよ。冒険者の皆さんから、お聞きしましたから」

「それじゃ、なんで笑うの!」


 それはカリーナの表現の仕方が可愛かったからだと思うよ。

 微笑むラサさんにカリーナは頬を膨らませる。

 そんなカリーナたちを見ていたジェイドさんが申し訳なさそうに声をかける。


「カリーナ、そろそろバーリマさんに報告しに行きたいんだが?」

「申し訳ありません」

「ごめんなさい。ラサ、あとでお話をしますね」


 話し込んでいたことに気付いたカリーナとラサさんは謝罪をする。


「はい、楽しみにしていますね」


 わたしたちはラサさんの案内で、バーリマさんがいる部屋に向かう。

 部屋に入ると、バーリマさんが驚いた表情でわたしたちを見る。


「カリーナ!?」

「お父様、戻りました」


 カリーナは部屋に入るとバーリマさんのところに近付く。


「カリーナ、どこも怪我はしていないかい?」


 近寄ってきた娘を抱きかかえようとして、バーリマさんは顔を苦痛で歪ませる。


「お父様!」

「大丈夫だ。少し傷が痛んだだけだ。大切な娘も抱き抱えられないとはなさけない」

「怪我をしてるんですから、無理をしないでください。怪我が治ったら、抱き抱えてください」

「それじゃ、早く治さないといけないな」


 バーリマさんは抱き抱える代わりにカリーナの頭を撫でる。そして、わたしたちの方に視線を向ける。


「戻ってきた冒険者たちから、報告は受けました。砂漠にいるワームの群れや大きなワームを討伐してくれたことを聞きました。契約に無かった、ピラミッド周辺の魔物討伐。みなさんにはなんとお礼をいったら良いかわかりません。もちろん、今回の報酬とは別に上乗せしておきますので、受け取ってください」

「気に…………」


 わたしが口を開く前に、ジェイドさんは素直に「ありがとうございます」と言う。

 トウヤ「やったぜ。ミスリルの剣の代金になる」と喜び。メルさんやセニアさんも嬉しそうにしている。

 危なかった。もう少しで「気にしないでいいよ」って言うところだった。ジェイドさんの対応が普通の冒険者の対応だよね。仕事をした分の報酬は受け取るのは普通のことだ。

 もし、ここに来たのがわたし一人だったら、「気にしないでいいよ」とか「わたしの通る道に魔物がいただけだよ」とか言って、報酬を断っていたかもしれない。

 わたしはともかく、もう少しでみんなの追加報酬を断るところだった。


「それでピラミッドの地下に、大きなスコルピオンが現れ、その体内に目的の物があったとお聞きしましたが、本当でしょうか? ウラガンさんたちからはみなさんが戻ってから、詳しい話を聞くように言われています」


 不安そうに尋ねてくる。

 ウラガンたちもジェイドさんに聞いた程度しか情報はないから、わたしたちから聞くしかない。


「お父様、本当です。でも、大丈夫ですよ。大きなスコルピオンはユナさんが倒して、水晶板は取り戻して下さいました」


 カリーナはアイテム袋から水晶板を取り出すと、バーリマさんに渡す。バーリマさんは水晶板を受け取ると、嬉しそうにする。


「良かった。本当に良かった。みなさん、ありがとうございます」

「みなさんって言っても、ユナちゃんが一人で倒したんだけどね」

「わたしたち、あまり役にたっていない」


 バーリマさんが皆にお礼を言うと、メルさんたちが正直に答える。べつにそんなことを言わなくてもいいのに。メルさんたちにはいろいろと助けてもらっている。カリーナも分かっているようで擁護し始める。


「そんなことはないです。確かにスコルピオンを倒したのはユナさんですが、メルさんやセニアさんがわたしのことを守ってくれたことを知っています。トウヤさんがわたしの後ろを守ってくれました。ジェイドさんが、前に現れる魔物を倒してくれました。皆さんがいたから、わたしは安心して地下に行くことができたんです」

「ふふ、カリーナちゃん、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」

「カリーナの言う通りです。皆さんの力添えがあったからこそです。皆さん、あらためてお礼を言います。ありがとうございます。夕食にはちょっとした食事の用意を致しますので、食べていってください」

「やったぜ」


 トウヤが喜ぶ。そんなトウヤの横っ腹をメルさんが肘を入れる。


「ありがとうございます」


 メルさんがみんなの言葉を代弁してお礼を言う。


「それでは食事までお休みになってください」


 ジェイドさんたちが部屋を出ていく。


「カリーナ」


 最後にわたしとカリーナが出ていこうとすると、バーリマさんがカリーナを呼び止める。そして、ゆっくりと近寄ってくる。


「お父様?」

「これはカリーナが持っていなさい」

「でも、これは……」

「カリーナには申し訳ないが、もう一度ピラミッドに行ってもらうことになる」


 まあ、そうなるよね。水晶板を使えるのは母親のリスティルさんとカリーナだけだ。お腹に赤ちゃんがいるリスティルさんは無理だ。そうなると水晶板の力が使えるカリーナの力が必要だ。

 ただ、気になるのがわたしでも使えてしまう可能性だ。

 エルフの里の神聖樹のことを考えると、もしかするとわたしでも使えるんじゃないかと思ったりする。だからと言って、試してみるわけにはいかない。もし、水晶板が反応して、使えることが分かったらいろいろと面倒なことになる。

 カリーナはじっと水晶板を見つめる。そして、ゆっくりと手を水晶板に伸ばす。


「お父様……わかりました。お預かりします」


 カリーナは大切そうに水晶板を受け取る。


「ユナさん、娘をよろしくお願いします」


 バーリマさんは小さく頭を下げる。



 わたしたちは食事をするまで、あてがわれた部屋に移動する。そこにはウラガンたち、冒険者がいた。それぞれが、ソファーや椅子に座って寛いでいる姿がある。

 そのうちの一人が「クマが帰ってきた」と言って怯えている。だから、なにもしないって。


「無事に戻ってきたみたいだな」

「バーリマさんに報告してきたところだ。ウラガンたちもいたんだな」

「報告に戻ったら、この部屋で休むように言われた。それで、おまえたちが戻らないようだったら、見に行ってほしいって頼まれていた」


 たしかに、娘が帰ってこないときの保険は必要だ。

 冒険者ギルドに頼むより、理由を知っているウラガンたちの方が話は早い。


「それで、ジェイドたちが言っていた大きなスコルピオンは倒したのか?」

「もちろん、ユナちゃんが倒したわよ」


 ウラガンがわたしに問いかけたのに、なぜかメルさんが自分が倒したかのように胸を張って答える。

 まあ、別にいいですけど。


「噂通りってわけか」

「噂通り?」

「こっちの話だ」


 自分が他人の噂をするのはいいけど、自分がされる噂は凄く気になるよ。

 まあ、どうせ、くまがとか、クマがとか、熊がとか、噂をしているんだろう。


「そうだ。ユナからの頼みだが、ユナが大きなスコルピオンを倒したことは秘密にしておいてもらえるか?」


 わたしの代わりにジェイドさんが話をしてくれる。


「どうしてだ?」

「目立ちたくないそうだ」


 全員の視線がわたしに集まる。

 うん、わかっているよ。言いたいことは凄くわかるよ。

 でも、クマさんの格好で目立つのと、大きな魔物を倒したことで目立つのは別の話だ。

 噂が広まって、面倒な仕事が来ても困る。自分から首を突っ込むのは良いけど、面倒ごとを押し付けられるのは困る。


「あはははははは」


 ウラガンはわたしを見ると笑い出す。それと一緒に一人を除いたパーティメンバーも笑い出す。

 そこまで笑わなくてもいいと思うんだけど。


「みんな、笑うのはやめろ! そのクマを馬鹿にしたりするのはやめろ!」


 一人の男から笑うことを止める声が発せられた。

 あの、わたしを見ると怖がる冒険者だ。


「ああ、そうだったな。おまえたちも笑うのはやめろ。それにしても、倒したのか……、本当にとんでもない嬢ちゃんだったんだな。別に黙っていることは構わない」

「本当?」

「ああ、ただ、そのスコルピオンを見せてくれ。俺も冒険者だ。ジェイドたちが逃げ出すほどの大きなスコルピオンなんてみたことがない」

「別に逃げたわけじゃないわよ。ユナちゃんの言葉に従っただけよ」

「同じことだろう」

「もし、嬢ちゃんが本当にそんなに大きな魔物を討伐をしたなら、一冒険者として見てみたい」


 微妙な取引だ。

 見せないなら、他人に言いふらす。(まあ、話しても信じないのは大半だ。でも、クリモニアの冒険者が知れば事実と認識するかもしれない)

 でも、見せずにあることないこと言われるよりは、見せて黙ってもらうことを約束をした方がいいのかな。

 ジェイドさんたちの方を見ても、口を挟もうとはしない。このことはわたしの判断に任せるみたいだ。


「いいよ。見せるから黙ってて。もし、話したらその男のようになるかもよ」


 全然、覚えていないけど。わたしのことをビビっている冒険者を指を差す。

 ビビっている冒険者は「絶対に言わない」と誰よりも返事をする。

 やっぱり、初めてクリモニアに来たときに殴った一人かな?

 ハッキリ言って、デボラネ以外の顔は覚えていない。


「ああ、大丈夫だ。約束する。皆も守れよ」


 ウラガンが返事をすると他の冒険者も頷く。


「でも、どこで見せる?」


 スコルピオンは大きい。それに他の人には見られたくない。そうなるとスコルピオンを出す場所は限られてくる。


「それなら、裏庭が広いから大丈夫ですよ」


 黙って聞いていたカリーナが提案する。




次回はウラガンの口止めですね。


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― 新着の感想 ―
名声も金も要らないって冒険者を真面目に頑張ってる人にしてみれば煽ってるよな 周りの冒険者から良い顔されないの当たり前に思えてきた
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