290.5 4巻発売記念、書き下ろし、没案 新人冒険者 シン視点
4巻、発売記念です。と書くと、このために書いたようになりますが、4巻の書き下ろしの没案です。
8割ぐらい書いて、これって、1巻と2巻の別視点で、書き下ろしじゃないと気付き没にさせてもらいました。でもせっかく書いたので、書き上げることにしました。
今回のお話は書籍版の一巻、二巻の書き下ろしのユナ視点を新人冒険者視点にしているため、web読者様には説明不足になっている可能性がありますので、ご了承ください。
俺たち四人は近くの村から冒険者になるためにクリモニアの街にやってきた。
三人とは小さいときから一緒の仲間だ。15歳になったとき、親の許しをもらって冒険者になった。
ラッテは父親が狩人のため弓が得意だ。ブルートは俺たちの中で一番力持ちで、斧を武器としている。そして、唯一の女の子であるホルン。魔法を使うことができるが、本当は連れてきたくなかった。でも、ホルンは俺たちの言うことは聞かずに付いてきてしまった。ホルンの両親からも止めてもらおうとしたが、逆に頭を下げて頼まれてしまった。
俺たち三人は何があってもホルンだけは守ることを誓った。
「それじゃ、説明は以上です。頑張ってください」
冒険者ギルドで説明を受けた俺たちはギルドカードを受け取る。これで俺たちは冒険者になった。嬉しさが込み上げてくる。みんなも嬉しそうにギルドカードを見ている。
「ああ、そうでした。1つ注意事項があります。この街には少し変わった服装をしている冒険者の女の子がいます」
「少し変わった服装?」
「……だいぶ変わった服装です」
あっ、言い直した。
「その変わった服装ってなんですか?」
俺の代わりにホルンが尋ねる。
「クマの格好をしています」
「「「「…………はぁ」」」」
俺たちは全員が同じ表情をする。今、クマって言わなかったか?
「その女の子はクマの格好をしています。もし、街の中やギルドの中で会ったりしても、笑ったり、決して馬鹿にするようなことはないようにお願いします。もし、トラブルを起こした場合。わたしたちギルドはあなたたちを守ることはできません」
「えっと、そのクマの格好した人は危険なんですか?」
「初めてギルドに来た日に、ベテラン冒険者を含む10人以上に怪我を負わせて、さらに彼らを冒険者ギルドから脱会させようとしました」
「嘘だろう」
「嘘ではありません。彼女のクマの格好について触れるのはこの冒険者ギルドでは禁忌となっています。だから気をつけてください」
信じられないことだったが、俺たちは素直に頷くことにした。
「馬鹿にしたりしなければ、いい子ですから、安心してください」
俺たちは説明をしてくれたヘレンさんにお礼を言って、ギルドを後にする。
今日はギルドの手続きを済まして、依頼は明日から受ける予定だ。
「さっきの話どう思う?」
「クマか?」
「う~ん、わからない。クマの格好ってどんな格好なんだろう?」
「クマの毛皮を被っているのかな?」
冒険者を倒すって言うんだから、筋肉が凄い大女かもしれない。それで、ホルンの言う通りにクマの毛皮を被っている。想像するだけで、近寄りたくはない。馬鹿にすることもしたくない。
そんな女には関わりたくないから、こっちから願い下げだ。
それから、俺たちは簡単な依頼を受けながら、お金を手に入れていた。両親からはギリギリ1ヶ月分は暮らせるお金をもらったが、このお金がなくなる前に稼げるほどにならないといけない。それが親との冒険者になる約束だ。
もし、稼げないようなら村に帰る約束をしている。でも、俺たちはこのお金を倍にして両親に返すつもりでいる。今は小さな家を借りて四人で暮らしている。1ヶ月単位で借りると安くなるのだ。この家を安定して借りられるようにならないとだめだ。
今日の雑用の仕事を終え、家に戻ってくる。冒険者の仕事は魔物を倒すだけじゃない。ちょっとした雑用もギルドに回ってくる。ヘレンさんが言うには初心者用のためだと言う。それで、徐々に自分にあった仕事のレベルを上げていけばいいと説明を受けた。
魔物を討伐とでも思ったけど、まずは生活を安定させてからにすることにした。そして、今日、初めてウルフの討伐に行って、四人で協力して倒すことができた。
「ラッテ、やったな」
ラッテの弓が逃げるウルフに止めを刺した。
「みんなが怪我を負わせて、ウルフが逃げるのが遅かったおかげだよ」
「そうだよ。みんなで倒したんだよ」
俺たちは冒険者になって初めての、魔物の討伐に嬉しくなる。村にいたときも、親に連れられて倒したことはあったけど、嬉しさは違う。冒険者になって、初めてのウルフ討伐だ。
ヘレンさんにウルフ討伐の報告をすると褒められた。冒険者は魔物や凶悪な動物などから、一般人を守るのが仕事だ。やっと冒険者として一歩、踏み出した。
「これからも頑張ってください。でも、無理だけはしないように」
「はい」
俺たちが嬉しそうにしていると、先輩冒険者が褒めてくれる。
「新人冒険者はこうじゃないと、可愛げがないよな」
「新人冒険者には初々しさがないとな」
俺の頭を強く撫でる。痛いが褒めてくれていることは分かる。
「あのクマは見た目と違って可愛げがなかったからな」
「ああ、あのクマはな」
また、クマの話だ。たまに聞くけど、とんでもないクマらしい。
「そのクマの格好をした冒険者って、そんなに凄いんですか?」
「凶暴なクマだ」
「あれは危険だ」
次々とクマを危険視する声があがってくる。
「タイガーウルフやゴブリンの群れにゴブリンキングを一人で倒している」
「ゴブリンキングはルリーナの奴が一緒だったんだろう?」
「いや、本人は見ているだけで、なにもしてないって言っていたぞ」
ヘレンさんにも聞いたが タイガーウルフに、ゴブリン100体にゴブリンキング。さらにブラックバイパーってとんでもない魔物も倒しているって言う。いったい、どんなに凶暴なクマなんだろう。
「おまえたちも、あのクマだけは馬鹿にしない方がいいぞ」
忠告をもらったけど、まだ、一度も会ったことがない。本当にそんな凶暴なクマがいるのか疑問になる。
それから、しばらくして、俺たちはウルフの群れが現れたという村の依頼を受けることにした。一匹ずつ倒していけば、できるはずとみんなと話し合った。そして、依頼を受けるとホルンがいないことに気付いた。
「どこに行ったんだ」
ホルンを捜すと少し離れた場所で尻餅をついている姿が見えた。
「ホルン! 大丈夫か!」
俺が駆け寄ると立ち上がっていた。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと、クマさんにぶつかっただけだから」
クマさん? ホルンの見る先に向けるとクマがいたので、思わず叫んでしまった。
そこにいたのは、クマの格好をした女の子だった。なんだ、その格好は。もしかして、ヘレンさんや先輩冒険者に聞いたクマって、このクマなのか?
ホルンとクマがお互いに謝罪している。そして、クマの格好をした女の子が俺の視線に気付いたみたいだ。
「なに?」
「あんたが、噂のクマか?」
俺が尋ねると、「そうだと思うけど」と答え、認めた。
「くそ、俺たちのことを、からかいやがったのか!」
こんなクマの格好をした女の子がタイガーウルフに、ブラックバイパーを倒しただと。みんなして俺たちを騙したのか。
俺の言葉にクマは怒ったみたいだ。こんなクマが怒ったからと言っても怖くもない。でも、ホルンのやつがクマに向かって謝る。
「ああ、ごめんなさい。実はこの街にはクマの格好をした怖い冒険者がいるから、近寄っちゃダメって、驚かされていて」
「しかも、そのクマは一人でタイガーウルフやゴブリンキング、ブラックバイパーを倒したって言って、驚かせやがったんだよ」
しかも、怖がらせるためか、凶暴とか、怖いとか、散々言っておいて。なんだ。この可愛いクマの格好は、どこが凶暴なんだ。どこが怖いんだ。
「それが、噂のクマって、お前かよ」
ふざけやがって、俺はクマの頭をポンポンと叩く。
俺たちを騙した冒険者を見ると、なぜか、顔が引き攣っているように見える。
嘘がばれて困っているみたいだ。
俺がクマの上に手を置いていると、ラッテとブルートがやってくる。
「ホルン、シン、なにやっているんだ」
「ほんとだよ。二人とも捜したよ」
「ホルンが、このクマにぶつかってな」
「クマ? もしかして、噂の?」
「ああ、あれか、こないだ受付で聞いた……」
「先輩たちに聞いた……」
「でも、怖いクマって聞いたけど」
「笑っちゃうよな。クマの格好をした女って言うから、てっきり、大女と思ったぜ」
俺はポンポンとクマの格好をした女の子の頭を叩く。
その瞬間、ギルドの中はざわめき、俺たちを見ていた冒険者たちがギルドから出ていく。
なんなんだ?
俺が再度、クマの頭を叩こうとしたとき、ヘレンさんがやってきた。
「ユナさん! 待ってください!」
「冒険者ギルドは冒険者同士の争いは中立で口を挟まないんじゃなかったの?」
「ユナさんが、トラブルに巻き込まれないようにするのは冒険者ギルドの仕事になってます」
「あのう、どうしたんですか?」
「あなたたち、先日の話を聞いてなかったのですか?」
「話って、クマのことか?」
「そうです。クマの格好をした冒険者の女の子がいるけど、バカにしたり、興味本位で近寄ってはいけないと」
「そのクマって、これのことなんですか?」
俺はクマの頭をポンポンと叩く。
「止めなさい。あなたたち、死にたくなかったら、すぐに謝って、仕事に行きなさい」
ヘレンさんが俺の手を掴み取り、ドアの外を指差す。
「行ってくるよ。みんな行こうぜ」
「うん。クマさん。ごめんね」
俺たちはウルフの討伐に行くんだ。クマに関わっている時間はない。
俺たちは討伐依頼があった村までやってきた。
村長に会い、話を聞き。森に詳しいブランダさんとバラドさんの二人にウルフがいる森まで案内してもらうことになった。
「俺たちはあっちに行く。おまえたちが、あっちを頼む」
ブランダさんが指を差す。
ブランダさんたちもウルフを討伐しているが、数が多くて困っているらしい。それで手分けをしてウルフを減らすことになった。
「無理だけはするなよ」
ブランダさんたちと分かれた俺たちはウルフを討伐するために森の中に入っていく。しばらく、歩くと、一匹のウルフを見つける。俺は剣をブルードは斧を、ラッテは弓を握る。
ラッテが俺を見る。俺が頷くとラッテが弓を構えてウルフを狙う。矢はウルフの横腹に命中する。俺とブルードが止めに走る。
「よし!」
無事に倒すことができた。討伐の証として魔石だけ剥ぎ取りをする。他の素材も欲しいが、ウルフを持ったまま移動することはできないので帰りにでも取りに来ることにする。
次のウルフを探して、森の中を歩いていると2体のウルフを見つける。ラッテとホルンの援護のおかげで倒すことができた。
「これで3体だな」
「順調ね」
魔石を剥ぎ取って、次の魔物を探していると、ウルフの遠吠えが聞こえてくる。
「シン!」
「わかっている。周りを警戒をしろ」
「みんな」
ラッテが小さな声で俺たちを呼ぶ。ラッテが指差す方を見ると、ウルフが6体いる。いや、もっと出てくる。
「……シン」
「移動するぞ」
この数は無理だ。
無理はしない。昔の俺なら無謀に突っ込んだかもしれないけど、今は守る存在がある。俺を心配そうに見るホルンがいる。俺たちはその場から静かに離れる。
そのとき、誰かが枝を踏む音がする。その音にウルフが反応して、俺たちの方を見る。
「走るぞ」
俺たちは駆け出す。後ろからウルフが追いかけてくる。数が多い。
走っていると、目の前の草むらが動く。前からもウルフか!?
「おまえたちか!?」
草むらから出てきたのはブランダさんだった。
「どうして、ここに」
「数十体のウルフに」
「そっちはウルフか。おまえたち走るぞ!」
ブランダさんが駆け出す。俺たちも一緒に走り出す。
「ブランダさん、どうしたんですか?」
「タイガーウルフが現れた」
タイガーウルフ。聞いたことはあるけど見たことはない。ただ、俺たちが倒せる魔物ではないことは分かる。
後ろの方から、大きな遠吠えが聞こえてくる。後ろを振り向くと、ウルフよりも大きなウルフがいた。あれがタイガーウルフ。凶暴な牙を剥いて、走ってくる。
ブランダさんが立ち止まり、弓を構えて矢を放つが、当たらない。タイガーウルフは横の草むらに入り、見失う。
だからと言って、立ち止まるわけにはいかない。
「ホルン、走れ!」
「シン! そっちにウルフが行ったぞ」
右からウルフが襲ってくる。剣を振って、ホルンをウルフから守る。
「タイガーウルフはどこだ!」
「ブランダさん! 危ない!」
タイガーウルフが横から現れたと思ったらブランダさんに襲い掛かってくる。ブランダさんは体をひねって躱す。
「おまえたちは先に行け!」
ブランダさんが立ち止まって矢を放つ。
「でも!」
「この森は俺の庭だ!どうにだってなる。逆にいると足手まといだ!」
確かにそうだ。俺たちは森に詳しくないし、タイガーウルフと戦う力もない。本当ならブランダさん一人なら逃げ切っていたかもしれない。
「みんな行くぞ」
「シン?」
「ここにいてもブランダさんの言う通り、足手まといになる」
俺たちはブランダさんを置いて駆け出す。駆け出す俺たちにウルフが追いかけてくる。数体なら倒すが、数が多い。
今は村に向けて走るしかない。その瞬間、前からクマが現れた。
「クマ!」
この森にはクマもいるのか!
立ち止まって剣を構える。
「バカ! よく見ろ!」
「くまさん!」
目の前に黒いクマと白いクマが現れた。その黒いクマの上には冒険者ギルドで会ったクマの格好をした女の子が乗っていた。女の子は魔法を唱えると、氷の矢は全てのウルフの脳天に命中して、一撃で倒す。
「すげぇ」
クマの格好をした女の子は周辺にいたウルフを一人で倒してしまった。
そして、白いクマを残すと、黒いクマに乗って駆け出していく。
「助かったの?」
「なんだったんだ?」
冒険者ギルドで会った、クマの格好をした女の子が助けてくれたのは間違いない。そして、ヘレンさんや先輩冒険者たちが言っていたことが本当だということが一瞬で理解できた。
とっても強いクマの格好をした女の子。
「どうする?」
みんなが俺のことを見る。どうすると言われても、逃げるしか選択肢はない。俺たちがタイガーウルフに向かってもなにもできることはない。
「クマの女の子は大丈夫かな?」
「ウルフを簡単に倒すから、大丈夫だと思う」
「俺、様子を見てくる。みんなは逃げてくれ」
「シン!」
「……俺たちも行く」
「危険だ。おまえたちはホルンを連れて村に」
俺たちが言い争っていると白いクマが近寄ってきて、首を横に振る。
「なんだ?」
「動くなってこと?」
「くぅ~ん」
クマの格好をした女の子が向かった方を見る。
「こっちに行けってことか?」
「くぅ~ん」
俺たちは全員で行くことにする。すると、そこには倒れているタイガーウルフと、先ほどのクマの女の子にブランダさんがいた。
矢がタイガーウルフの目に刺さっている。どうやら、ブランダさんが倒したみたいだ。でも、ブランダさんが言うには倒したのはクマの格好をした女の子だと言う。
俺たちは、ブランダさんの言葉に驚き、ヘレンさんの言葉が真実だと改めて理解した。
そして、俺たちはどうにか、無事に村まで戻ってくることができた。
クマの格好をした女の子の名前はユナ。
村の人に話を聞くと、前にもこの村を救ってくれたらしい。だから、誰もクマの格好について、笑ったり、質問する者はいない。
そして、ユナさんのクマ。黒いクマと白いクマは村の子供たちと一緒にいる。とっても不思議な光景だ。クマは危険な生き物なはずなのに、子供たちと楽しそうに遊んでいる。
ユナさんの方を見ると、ブランダさんたちと会話をしている姿がある。そして、驚いたことにユナさんはタイガーウルフを村の人のために譲ってあげることにしたみたいだ。タイガーウルフを売れば、俺たち四人なら、しばらく働かなくてもいいだけのお金が入る。でも、ユナさんは迷うこともなく、譲ってあげた。
それも話によれば赤ちゃんを泣き止ませるために、プレゼントしたそうだ。信じられない。
そして、タイガーウルフの解体はユナさんと一緒にいた小さな女の子が行った。これも凄かった。10歳ぐらいの小さな女の子が毛皮を剥ぎ取り、肉の解体まで行った。いったい、この女の子たちはなんなんだ?
でも、ヘレンさんや冒険者たちが言っていたことは嘘ではなかった。
ウルフを簡単に倒し、タイガーウルフまで倒してしまう強さ。そんな人物の頭を俺は馬鹿にしたようにポンポンと叩いてしまった。
ヘレンさんの話が本当なら、殴られても我慢しないといけないかもしれない。
俺は勇気を持って、ユナさんにお礼に行く。一人で行くつもりだったが、みんなも付いてきてくれる。
俺は助けてくれたことのお礼と、冒険者ギルドでのことを謝罪する。
みんなも一緒に謝ってくれたこともあって、ユナさんは許してくれた。その代わりに先輩冒険者から聞いたユナさんのことを話すことになった。
うぅ、全部話しちゃったけど。ユナさん、怒っているように感じる。もしかすると、失敗したかもしれない。冒険者のみなさん、すみません。
それから、ユナさんは一緒にいた女の子と帰っていったが、俺たちはしばらく、この村に残ってウルフを討伐していくことになった。
それから数日、俺たちはブランダさんと一緒に行動してウルフを討伐する。ブランダさんの弓は凄く、ラッテの良い勉強になり、喜んでいた。
無事に依頼を終えた俺たちは街に戻ってくると、ギルドにいる冒険者のみんなにユナさんの話をすると、引き攣った笑顔をしていたのは気のせいだろうか?
それから、俺たちは少しずつだけど、依頼をこなし、Eランクに上がることができた。これで、やっと冒険者と名乗っても恥ずかしくなくなった。
Fランクはウルフもゴブリンも倒せない証明にもなってしまう。これで、最低限、冒険者として周りからも認められる。先輩冒険者たちが、お祝いとして食事をおごってくれたりした。
みんな優しい人たちだ。
「たぶん、新人冒険者を苛めると、ユナさんが怒るからですね」
とヘレンさんは教えてくれた。ユナさんが来てからギルドで争いごとが少なくなったと言う。それも、ユナさんにやられた冒険者は大人しくなったり、街から出ていったりしたらしい。
本当にユナさんは凄い。でも、なんで、あんな格好をしているのかな?
そのことを先輩冒険者に尋ねても、知る人物は誰もいなく。本人には絶対に聞かない方が良いと忠告された。もちろん、俺にはそんな勇気はない。
それから、しばらく経ったとき、変な噂が流れてきた。
なんでも、中心街から少し外れた場所にある小さなお屋敷の前に、クマの置物が現れたと言う。そこがなんでも、ユナさんのお店らしい。
そして、ギルドの壁にチラシが貼られていることに気付いた。
「くまの憩いの店、開店!」と書かれていた。チラシには簡単な地図と開店日が書かれていて、料理名が書かれている。
「パン屋なのかな?」
「このピザって、パンなのか」
「このプリンってなにかな?」
でも、あのユナさんって冒険者じゃなかったのかな?
「みんなも、興味があったら、行ってあげてね」
壁に貼ってあるチラシを見ていたら、ヘレンさんが話しかけてきた。
「本当にユナさんがお店を出したんですか?」
「ええ、とっても美味しいから、行ってみるといいわよ」
「ヘレンさんは食べたことがあるんですか?」
ホルンが興味を持ったみたいで尋ねる。
「先日。試食にお呼ばれして、一足先に食べさせてもらったの。でも、どれも美味しいから、食べ過ぎには注意してね」
「そんなに美味しいんですか?」
「お勧めはプリンだけど、少し高いかな? ピザも熱くて焼きたては最高ね。もちろん、他のパンもどれも美味しいから、どれを食べるかは悩むわよ」
高いとなると、俺たちには無理かもしれない。
今ではギリギリの生活をしている。食費や家賃、武器の手入れなどにもお金がかかる。他にも買い揃える物はたくさんある。だから、俺たちはお金は無駄使いはせずに貯めている。武器だって、防具だって良いものが欲しい。
数日が過ぎ、今日は全員で休息をとっている。
俺は武器を見に行くが、ホルンはユナさんのお店に行ってみるそうだ。
「ちょっと、気になるから」
「なら、食べたら感想を聞かせてくれな」
ホルンから感想を聞いて、美味しかったら俺も行ってみるかな。
このあとの話が4巻の書き下ろしのユナとホルンの話に繋がっています。
※なんとユナとくまゆるが電車に乗ることになりました。
詳しいことは活動報告に書かせてもらいましたので、気になる方は確認をしてもらえると嬉しいです。