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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、学園祭に行く
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283 クマさん、ノアに絵本の存在を知られる

 マリクスたちからもお礼を言われ、学園祭の話で盛り上がる。

 初日のクマのことやら、ティリアがお店を手伝ったことで、大騒ぎになったこととか、騎士とわたしの試合が見れなく、悔しかったこと。


「ユナさん。今度、俺と試合をしてください」

「今度ね」


 面倒なので、適当に答えておく。


「それで、どこの店にする?」


 学園祭の話をしていると、お店を手伝ってくれた友達の話になる。

 なんでも、お店を手伝ってくれた友達やクラスメイトに食事をご馳走することになっているが、思っていたよりも人数が増えて困っていると言う。


「思ったよりも人数が、増えましたわね」

「どこかに頼めないかな?」


 マリクスの問いにカトレアとティモルは困った表情を浮かべる。


「何人だっけ?」

「たしか、16人よ」

「俺たちを合わせて、20人か。ちょっと多いな」

「まあ、手伝ってくれた人以外も呼んでいるからね」


 そんなにシアやマリクスのために友達が集まったんだね。わたしとは違うね。元の世界のわたしじゃ、呼んでも一人も来ないと思う。そもそも呼ぶ相手がいないから、比べること自体が間違っているんだけど。 


「ユナさんも来ますか?」

「う~ん」


 本音を言えば、見知らぬ人がたくさんいるところには行きたくない。クマの格好で行けば騒がれるだろうし、制服姿で行けば、シアの友人の騎士見習い女の子もいるだろうし、顔を会わせれば、騒がれるのは目に見えている。


「今回は遠慮しておくよ。このクマの格好で行っても、制服姿で行っても騒がれそうだしね。友達同士で楽しむといいよ」


 部外者のわたしが参加しても、居場所が無いのは目に見えている。

 それに食事会は次の休みに行われるみたいだ。そのときにはわたしたちは王都にいない。数日後にはクリモニアに帰るつもりでいる。わたし一人なら問題は無いけど、フィナとシュリはそうもいかない。学園祭が終わったなら、帰らないとね。ティルミナさんを心配させることになる。

 シアたちは残念そうにするが、今回は遠慮させてもらう。


「それだけの人数になれば絶対に騒ぐよな」

「食事も美味しくて、騒いでも問題が無くて、それなりに広いお店」

「広い店と美味しい店はなんとかなるとしても、騒ぐのは無理じゃない?」

「それじゃ、どうする?」


 確かに学生が20人も集まれば、うるさくなりそうだ。

 ここがクリモニアなら、わたしのお店を提供するんだけど。パーティー用の部屋もあるから少しぐらい騒いだりしても大丈夫だ。だからと言ってみんなをクリモニアに呼ぶわけにはいかない。

 でも、王都にも似たようなお店があることを思い出す。


「シア。良い場所があるよ」

「ユナさん、本当ですか?」

「うん。お客は誰もいないから迷惑にはならないし、食事は美味しいし、良い店だよ」


 自分で言っていて、矛盾していることに気付く。食事が美味しいのにお客さんがいないって。


「そんなお店があるんですか?」

「でも、食事が美味しいのにお客がいないって変じゃないか?」


 わたしが考えていたことをマリクスに突っ込まれる。


「まだ店が始まっていないからね。開店に向けて準備中なの」


 わたしはエレローラさんが国王の指示でお店を作ってることを話す。

 味に関しては、王族の料理長のゼレフさんが監修していることもあって、料理は美味しい。開店していないから、騒いでも他のお客さんの迷惑にはならない。

 問題があるとすれば、エレローラさんやゼレフさんの許可が必要なぐらいだ。

 その辺りはエレローラさんに頼めば大丈夫だと思う。


「国王陛下の指示でお店を……」

「いや、さすがに無理だろう」

「それにそんなお店じゃ、お金が足らないよ」


 わたしのアイデアは学生組から否定される。


「わたしがエレローラさんに頼もうか?」

「わたし?」


 どこからともなく声がすると、ドアの前にエレローラさんが立っている。


「お母様!?」


 エレローラさんの登場に学生組は椅子から立ち上がって、挨拶をする。


「それで、お母様はどうして家に? お仕事は?」

「いや、いつのまにか部屋の中にいたことの方が驚きなんだけど」

「それは、シアの友達が来ていると聞いて、娘を驚かせようと思ってね」


 これって、子供に嫌われる親の行動の1つだよね。

 まあ、ここは客室みたいな部屋だから、いいのかな?

 そして、改めてシアはエレローラさんが家にいる理由を尋ねる。


「ちょっと忘れ物をして、取りに戻ったのよ。それで、シアの友達が来ているって聞いて、顔を出そうと思ったのよ。いつもシアをありがとうね」

「いえ、そんなことは」

「いつも、シアにはお世話になっています」

「今日もみんなで押しかけて、申し訳ありません」

「ふふ、いいのよ。それでなんのお話をしていたのかしら? わたしの名前が聞こえたけど」

「お母様にお話しすることでは」


 シアがそう言うと、エレローラさんは悲しそうな表情をする。


「娘が反抗期に……」


 エレローラさんが、少し悲しそうな表情を浮かべて、チラッとシアを見る。

 うん、間違いなく演技だね。


「違います! 学園祭でお世話になった友達を集めて食事をするつもりなんですが、人数が多いから、どこでするか話し合っていただけです」


 そこで、わたしは「くまの憩いのレストラン」のことを話し、エレローラさんに頼んだらどうかと説明をした。


「あら、良い考えね」

「お母様?」

「国王陛下の指示で作られているお店ですよね」

「そんなお店に僕たちが行くわけには」

「ふふ、それは試食を兼ねれば大丈夫。ただし、そのときは料理の味の評価はしてもらうけどね」


 4人は悩んだ結果。エレローラさんに頼むことにした。

 それから、エレローラさんとシアたちは人数や料理の話を始める。

 エレローラさん、仕事はいいのかな? 忘れ物を取りに来たんじゃなかったのかな?

 そんな、話し合うシアとエレローラさんを残して、わたしはティリアに会いにお城に向かうことにする。ノアたちも今回はお礼を言うために一緒についてくる。



 お城に到着すると、わたしは(クマ)パスで入ることはできたけど。フィナたちは確認のため、市民カードを見せてから中に入る。


「今日はティリア様に会いたいんだけど、会えるかな?」


 今日はフローラ様でないことを伝える。


「はい、エレローラ様より、話は伺っています。クマ……、ユナ様が来たら案内するように仰せつかっています」


 エレローラさんが門の兵士に伝えておいてくれたみたいだ。話がスムーズに進むから助かる。ティリアに確認をすることもなく、兵士の1人がティリアの場所に案内してくれる。

 エレローラさんのこのような小さい気遣いが有り難い。仕事をしていなさそうで、仕事をしている。

 でも、先ほどのことを思い出すと、仕事をサボっているようにしか見えないんだよね。


 兵士はわたしたちをティリアの部屋まで案内をしてくれる。そして、部屋の前に着くとドアをノックをする。そして、中にいるティリアに向かって、わたしが来たことを伝える。


「入っていいよ~」


 部屋の中から入室の許可の言葉が聞こえてくる。

 兵士はわたしに頭を下げると去っていく。ドアを開けて中に入ると、椅子に座っているティリアとフローラ様の姿がある。


「くまさん!」


 先日に続き、フローラ様に会うとは思わなかった。フローラ様は椅子から降りるとわたしのところにやってくる。


「どうして、ここにフローラ様が?」

「ユナが来るって聞いて、出かけるわけにもいかないから、部屋でフローラと遊んでいたんだよ」


 それは悪いことをしたかな?


「もしかして、出かける予定があった?」

「なにも予定は無いから大丈夫よ」


 なら、いいんだけど。ティリアの都合も聞かずに、来ちゃったからね。


「ティリア、この三日間ありがとうね。楽しかったよ」

「ううん、わたしも楽しかったよ。やっと、噂のクマの女の子に会えて、気持ちもスッキリしたしね。ノアたちにも会えて嬉しかったよ」


 ティリアの言葉にノアとフィナは恥ずかしそうにして、シュリは嬉しそうにする。


「それにしても一昨日は驚いたわよ。いきなり、あのルトゥムと試合をするなんて。お父様は止めようとしないし、エレローラもユナが試合をすることを了承するし、あのときのわたしの気持ちが分かっている?」


 そんなことを言われても困る。

 あれは、あのおっさんがわたしの逆鱗に触れたのが悪い。


「わたしよりも背が低い女の子が騎士のルトゥムと戦うっていうのよ。普通は絶対に勝てないと思うわよね。なのにユナは騎士を倒し、あのルトゥムにまで勝ってしまう。自分の見ているものが信じられなかったよ」


 国王とエレローラさんはわたしの戦うところは見ていないけど、強いってことだけは情報を持っている。でも、ティリアはそれさえも知らなかったんだよね。


「三人は知っていたの?」


 ティリアはちびっこたちに尋ねる。


「はい。でも、戦うところは初めて見ました」

「わたしも初めて」

「わたしは少しだけあります」


 まあ、ちびっ子たちを連れて、戦うことは無いからね。そもそも、そんな危険なところに連れていくことがない。


「あの試合はハラハラして見ていたのよ。ユナに剣が向けられるたびに、何度止めようと思ったか。でもお父様は「心配するな」って言うし」


 かなり、心配をさせたようだ。


「あとでお父様にユナが強いって聞かされたけど。そのことはお母様も知っていて、わたしだけが知らなかったのよ」

「それは、今までティリアに会うことも無かったから仕方ないよ。それにわたしも国王にティリアみたいな娘がいるって知らなかったし」

「自分では有名と思っていたけど、知らない人もいるのね」


 ごめん、それはわたしが無知なだけだと思う。

 でも、フィナとシュリを見ると、二人も知らなかったみたいだ。まあ、二人も仕方ない。


「それで、ティリアにはお礼がしたいんだけど」

「もう、お礼ならもらっているよ」


 ティリアが目をベッドの方に向ける。そこには、フローラ様のベッドと同様に、くまゆるとくまきゅうぬいぐるみが枕元に置いてある。


「でも、お願いしてもいいなら、ユナにお願いがあるんだけど。わたし、召喚獣のクマが見てみたいんだけど」

「召喚獣?」

「ええ、だって、フローラやお母様が嬉しそうに話すのよ。可愛かったとか、柔らかかったとか、楽しそうに話すから、わたしも見てみたいんだけど。こないだもフローラが遊んだって言うし」

「くまさん? あそんだよ」


 フローラ様は椅子に座って絵本を読んでいる。それを先ほどからチラチラとノアが目を向けている。

 どうやら、絵本が気になって仕方がないみたいだ。


「別にいいけど。召喚していいの?」

「大人しいクマってことはお父様やお母様、フローラに聞いているから大丈夫」


 ティリアの許可も降りたので、クマさんパペットを前に出して、くまゆるとくまきゅうを召喚する。とりあえず、通常サイズだ。


「本当にクマだ。触っても大丈夫?」


 ティリアが聞く前にフローラ様が絵本を机の上に放り出して、「くまさん!」と叫んで、くまきゅうに抱きつく。


「大丈夫みたいね」

「危害を加えたりしなければ、大丈夫ですよ」


 ティリアはフローラ様の楽しそうにする様子をみると、少し怖がりながら、くまゆるに触れる。


「本当に柔らかい」


 一度、触り。くまゆるがなにもしないことがわかると、フローラ様同様に抱き締める。そこにシュリも一緒になって、くまきゅうを抱きしめる。

 フィナが止めに入るがティリアが「いいよ」って言うので、シュリはフローラ様と一緒にくまきゅうと遊び始める。


 ノアの方を見ると、フローラ様が机の上に置いた絵本を見ている姿がある。

 テーブルの上には、ちゃんと3冊、机の上に置いてある。


「ユナさん、あの絵本はもしかして、ユナさんが描いた絵本ですか?」


 表紙はクマと少女が描かれている。

 ノアは見たそうにしているが、お姫様の物を勝手に触れるわけにもいかず、悩んでいる。

 それを見たティリアが声をかける。


「見てもいいよ。それはわたしのだから」

「ティリアの?」

「わたしも貰ったの」


 あれ、そうなると三巻の印刷も出来上がったってことになるのかな?

 ノアはティリアの顔を見て、お礼を言うと絵本に手を伸ばす。


「それよりもユナ。この子の背中に乗ってもいい?」

「いいけど。背中の上で暴れたりしないでくださいね」


 わたしが許可を出すとティリアは「そんなことはしないよ」と言って嬉しそうにくまゆるの背中に乗る。広い部屋だから出来ることだね。それを見たフローラ様とシュリもくまきゅうの背中に乗る。

 ノアはくまゆるたちも気になるが、絵本も気になるみたいだ。

 でも、その絵本から興味を外そうとする人物がいる。


「ノア様。絵本よりも、くまゆるとくまきゅうと一緒に遊びませんか?」


 フィナがノアを絵本から引き離そうとする。


「いえ、絵本を見るチャンスは今しかありません」


 ノアは決意を固めて、椅子に座り絵本を見る。

 フィナが困ったようにわたしの方を見るが、どうにもならないよ。

 見たからと言って、気付かれない可能性だってある。あくまで、似たような女の子だ。

 ノアは絵本を捲っていく。


「この女の子は?」


 チラッとフィナの方を見る。そして、絵本に視線を戻す。絵本を捲り、またチラッとフィナの方を見る。フィナは苦笑いを浮かべながら、微笑んでいる。


「この女の子。フィナに似てませんか?」

「ノア様、気のせいです」


 フィナは否定する。


「そうですか。フィナに似ていると思うのですが」


 フィナは誤魔化せたようで、安堵の表情を浮かべている。

 でも、机の上に置いてあった、二冊目、三冊目と読むと、ノアは目を細めて、疑うようにフィナに視線を向ける。


「これは絶対にフィナです。そして、これはシュリです」


 三冊目に出てくる女の子を指す。


「そして、このクマさんはくまゆるちゃんとくまきゅうちゃん。そして、ユナさんです!」


 ノアは全てを言い当てる。

 フィナは諦めたような表情を浮かべる。


「どうして、今まで黙っていたんですか」


 わたしとフィナに問い詰める。


「だって、小さい子用の絵本だしね。ノアは絵本を見るほど小さくないでしょう」

「そうですけど。ユナさんが描いた絵本で、フィナが出ているなら、読みたいです。それに、こんな絵本ならわたしも欲しいです」


 わたしとフィナに迫り寄ってくる。


「分かったから、絵本はプレゼントするから落ち着いて」

「本当ですか!?」

「二巻までは予備があるから、三巻はエレローラさんに頼まないと駄目かな?」


 孤児院にも持っていかないといけないし、わたしもエレローラさんから三巻を貰わないといけない。


「あと、わたしも絵本に登場させてください」


 やっぱり、そうなるよね。


「まだ、続きを描くか決めていないし、約束はできないかな?」

「うう、フィナはずるいです」

「ノア様、絵本になっても恥ずかしいだけです。やめた方が良いと思いますよ」

「自分は主人公で、こんなに可愛く描いてもらって、ずるい」

「でも、この絵本はいろいろなところに配られるんですよ」

「そうなんですか?」


 ノアが確認するようにわたしの方を見る。


「初めはフローラ様のために描いてあげたんだけど。いろんな人が欲しがってね。印刷して増やすことになって配られているよ」

「だから、やめた方がいいです。恥ずかしいです」

「うう、確かに。でも、フィナとシュリだけずるい。しかも、ユナさんっぽいクマさんも出ているのに」


 なにか、悩み始めた。

 一応、羞恥心はあるみたいで良かった。

 ノアは絵本とフィナとシュリ、くまゆるにくまきゅうを見る。さらにわたしの方を見る。


「やっぱり、わたしも描いてください。みんなが出ているのにわたしだけ出ていないのはやっぱり、嫌です」


 そんなことを言われても絵本に登場ができるか微妙なところだ。

 わたしがクマ役になっているせいで、ノアの護衛の依頼を受けることはできないし、フィナ役の普通の女の子が貴族の女の子に出会うのは意外と難しい。

 どうするかな?

 とりあえず、ノアには「考えておくね」と言って、誤魔化しておく。


 ティリアの方を見れば、ティリアたちを背中に乗せたくまゆるとくまきゅうが部屋の中をぐるぐると回っている姿があった。

 こっちはこっちで楽しそうだ。




今回は長くなった。二分割にすればよかったかな?


シアたちは無事に食事をする場所が見つかりました。でも、当日にとんでもない人がお店に来るかもしれませんw(あくまで未定です)


そして、ついにノアに絵本の内容が知られました。でも、一応少しは羞恥心はあるみたいです。




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[気になる点]  国王とエレローラさんはわたしの戦うところは見ていないけど、強いってことだけは情報を持っている。でも、ティリアはそれさえも知らなかったんだよね。 「三人は知っていたの?」  ティリア…
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