表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、学園祭に行く
280/904

276 クマさん、試合の準備をする

 国王との話を終えて、シアのところに戻ってくると、シアがうつむきながら近寄ってくる。


「ユナさん。その、ごめんなさい。わたしのせいで」

「シアは悪くないよ」


 悪いのは子供の気持ちを考えない大人であり、ルトゥムだ。

 シアと一緒にノアたちちびっ子たちも不安そうな顔をしている。


「でも……」

「その、……シアとわたしは友達だよね」


 確認するように尋ねる。

 もし、これで「違います」とか「クマの格好した恥ずかしい友達はいません」とか返答が来ないことを祈りながら待つ。


「ユナさんは尊敬する人です」


 なんか、違う返答が返ってきた。


「強くて、料理も作れて、いろいろなことを知っていて、わたしを守ってくれる。でも、ユナさんが友達だって思ってくれると嬉しいです」


 良かった。

 一応、友達認定しても大丈夫らしい。


「なら、シアがリーネアって友達を守るのと同じように、わたしが友達のシアを守るのも当然でしょう」

「ユナさん……、ありがとうございます」


 シアが満面の笑みで微笑む。


「お、お姉様、ズルいです。ユナさん、わたしも友達ですよね」


 ノアが腕に抱き付きながら上目遣いで尋ねてくる。

 そんな目で見られても、


「ノ、ノアは妹って感じかな?」

「妹ですか?」

「うん、ちょっと、我が儘で、可愛い妹かな?」

「我が儘って……わたし我が儘じゃありません。ユナさん、酷いです」


 ノアは頬を膨らませながら抗議をするが、その顔は笑っているようにも見える。

 そんなノアに対して、わたしに取られないようにシアが抱きしめる。


「ユナさん、ノアはわたしの妹ですよ。ユナさんが友達でもノアは渡しませんよ」

「お姉様、苦しいです」


 抱きしめられて苦しそうにするノアを見て、わたしとシアはお互いに笑みをこぼす。


「ノアは取られたけど、こっちにも妹が二人いるよ」


 フィナとシュリを抱きしめる。


「ユナお姉ちゃん!」

「ユナ姉ちゃん!」


 わたしに抱きしめられた二人も苦しそうにする。

 でも、みんなから不安そうな顔は消え、笑顔が浮かぶ。でも、これで試合に負けでもしたら、悲しい顔にさせることになるから、絶対に勝たないとね。


 そして、試合をする広場に目を向ければ、ルトゥムが騎士団たちに一人を残して下がるように指示を出す。

 いきなりのことで、周囲が騒ぎ出す。

 賭け試合のことは伏せられ、見学者と学生たちには特別試合が行われることが告げられる。

 そのせいもあって、去ろうとしていた人たちの足も止まる。


 ルトゥムは残った騎士に、何か話している姿がある。

 あの騎士がわたしの相手になるのかな?


「やっぱり、彼が相手なのね」


 国王と話をしていたエレローラさんがルトゥムと話す騎士を見る。


「エレローラさん、あの人は強いんですか?」

「強いわよ。ルトゥムの騎士団の中で、一番強いかもしれないわね。手加減なんて、少しも考えていないわね」


 見た目が小さいわたし相手でも、油断はしないってことかな?

 それなら、こっちも手加減は必要はないよね。


「それで、国王とは何を話していたんですか?」


 エレローラさんはルトゥムとの話が終わったあと、国王に目で残るように言われて、ルトゥムが消えるのを待ってから会話をしていた。


「勝手なことをするな。って怒られただけよ。貴様が仕事を辞めて、困る者のことを考えろ! ってね」


 まあ、勝手に進退を賭けたりすれば怒るよね。

 仕事をサボるエレローラさんでも、国王にとっては大事な部下ってことなんだね。

 何だかんだで、仲が良い二人だ。


「わたし的には、クリフがいるクリモニアに帰ってもいいんだけどね。そしたら、ユナちゃんの料理も食べられるしね」


 それがクリモニアに戻っても良い、本当の理由じゃないよね?

 もし、そうだったら、クリフが可哀想だよ。


「それで、国王陛下から、ユナは勝てるんだよなって、聞かれたわよ」

「さあ、そればっかりはやってみないと分からないよ。あの騎士がワームやブラックバイパーよりも強かったら、勝てないかもしれないし」


 戦ったことが無い騎士の強さなんて、知らないから答えようがない。


「ユナちゃん。比較対象がおかしいわ」


 そんな、呆れたような目で見ないでください。だって、わたしこの世界の住人の強さって、いまいち、分からないんだもん。

 そして、相手になる騎士を見て、武器のことに気付く。


「エレローラさん、剣は自分の剣を使うんですか? それとも練習用の剣でも使うんですか?」


 自分の剣を使うなら、クリモニアのゴルドさんのところで買った鉄の剣がある。初めの頃に剣の練習するときに使っていたけど。魔法を覚えてからは、戦いは魔法中心になって、剣の出番がなくなってしまった。

 どうやら、今回も出番はないらしい。


「一応、練習試合になるから、練習用の剣ね。シア、借りてきてもらえる?」


 シアは頷くと、練習用の剣を取りに行ってくれる。

 そして、友達のリーネアに頼んで剣を借りてきてくれた。


「ユナさん、練習用の剣です」

「ありがとう」


 シアから剣を受け取り、鞘から剣を抜く。リーネアが持っていた剣のせいか、他の騎士に比べると小さいのかな。まあ、背が少し低いわたしには丁度良い。

 わたしは剣の感触を確かめるため、軽く剣を振ってみる。右に振り、左振り、切り下ろし、突き、何度か、同じ動作を繰り返して、最後に剣をクルッと回して、鞘に戻す。

 うん、大丈夫。体は覚えている。久しぶりだったけど、忘れないものだね。


「ユナさん、凄いです」

「ユナ姉ちゃん、格好いい」


 ちびっ子たちから、尊敬の眼差しでみられる。このぐらいで誉められると、ちょっと、気恥ずかしいね。


「ユナちゃん。そろそろ、いいかしら。ルトゥムが待っているわ」


 わたしは頷くと、ちびっ子たちの頭を、ポン、ポン、ポンと軽く叩く。


「それじゃ、行ってくるね」

 

 準備も整い、騎士がいる広場の中央に向かって歩く。

 そして、わたしの登場に周りが騒ぎ出す。しかも、わたしが学園の女性代表的な表現で告げられる。周りからいろいろな声があがる。


「誰だ?」「あんな女の子、見たことがないぞ」「あの小さな女の子が代表?」


 どうやら、ルトゥムは女性の地位を落としたいようで、わたしのことを女性代表と告げている。

 学園の女性代表であるわたしが無様に負ければ、周囲に対しても女性が弱いと宣伝になるとでも思っているのかな?

 でも、わたしみたいな、小さい(世間一般的に)女の子を倒しても説得力がないと思うんだけど。

 逆に負けても、当たり前と思われると思うんだけど。

 まあ、負けるつもりはないから、ルトゥムがそう考えているなら無駄なことだ。


 わたしが騎士の前に立つと、わたしの頭が騎士の胸辺りに来る。大きいね。見上げないと顔が見えない。

 20代半ばかな? 

 騎士は鎧を纏い。左に盾を持っている。剣は鞘に収められている。


「おいおい、あんな小さい子が大丈夫なのか?」

「あんなに体格差があったら、勝負にならないぞ」

「しかも、防具も付けていないぞ」


 見学をしている学生たちなどから、心配する声があがる。

 相手が防具を着けているのに、わたしは制服姿。

 わたしの防具って言えばクマの服だけど。着るわけにはいかないからね。


「嬢ちゃん、防具は」


 騎士が尋ねてくる。


「当たらないから、必要ないよ。そっちこそ、そんな重たそうな防具を付けて大丈夫?」


 盾を持ち、鉄の鎧を着け、重そうだ。でも、それだけ、防御が硬いってことになる。狙うなら、関節部分か、それとも足かな?

 騎士はわたしの格好を見て、少し考えて、口を開く。


「そうだな。鎧を着ていたから負けたなど、言われても困るから、同じ条件で戦おう」


 騎士の予想外の言葉に驚く。


「フィーゴ!」


 ルトゥムが騎士の勝手な発言に叫ぶ。


「貴様、この試合がどれだけ重要なのか、分かっているのか!」

「ルトゥム卿、分かっています。だから、言っているんですよ。あのエレローラ殿が、出してくる女の子です。弱いはずがありません。あの小柄の体からして、動きが速いと思われます。なら、こっちも身軽になった方がいいと思います。鎧を着ていては、対処ができないかもしれません」


 騎士に言われて、ルトゥムはわたしのことを見る。


「たしかにそうだな。あのエレローラが、娘よりも信用して試合に出すんだから、そう考えた方が良いかも知れないな。だが、油断はするなよ」


 騎士はルトゥムから許可をもらうと、仲間の騎士を呼び、盾を渡し、脱いだ鎧も渡す。

 ラフな服装になり、鍛え上げられた筋肉があらわになる。これを見ると、女性が騎士に向かないと言われても納得してしまうかもしれない。

 でも、戦いは筋力だけで勝ち負けが決まるわけじゃない。


「わたしの動きが遅いとは思わない方がいいぞ」

「忠告、ありがとう。でも、鎧を脱いだからといって、わたしの動きについてこられるとは思わないでね」


 わたしも、相手の騎士と同じ忠告をする。騎士はそれに対して、「わかった」と一言だけ返してきた。

 なんだか、この騎士はルトゥムと違って、言動や行動が本物の騎士っぽく見える。でも、手加減はしてくれそうもない。だからこそ、同じ状態で戦うと言い出したのかもしれない。

 もう少し、わたしのことを小馬鹿にする態度や暴言をしてくれれば、ストレスを発散するように戦えたんだけどな。だからと言ってわたしだって、手加減をするつもりはない。

 ただ、やり難いのはたしかだ。


「嬢ちゃん、悪いが手加減をするなと、ルトゥム卿に言われている。怪我する前に早めに負けることを勧める」

「ありがとう。でも、忠告だけ、もらっておくことにするよ」

「そうか、それじゃ早く負けを認めさせてあげることにしよう」

「楽しみにしているよ」


 ゲーム時代が懐かしく、エレローラさんには悪いけど。楽しくなってきたかも。


「おかしな嬢ちゃんだ。普通は怖がったり、震えたりするものだぞ」


 どうやら、わたしは笑っていたらしい。


「負けるわけにはいかないからね」

「それは俺もだ」


 お互いに負けるわけにはいかない試合。

 わたしはエレローラさんやシアのために。

 騎士は名誉のためにも、わたしみたいな女の子に負けるわけにはいかない。


「それじゃ、試合を始めるわよ。顔などへの危険攻撃は禁止よ」


 わたしには無いけど金的もアウトなのかな?

 金的は男性の急所らしく、痛いらしい。その痛みは女のわたしには分からないけど、狙ってもいいのかな?


「あとは、わたしたちが止めたら、試合は終了よ」

「それじゃ、始めるとしようか」


 わたしたちは返事をすると、お互いに距離をとる。


 そして、審判役にルトゥムとエレローラさんが離れる。どうやら、公正にするため、二人が審判をすることになったみたいだ。

 確かに、ルトゥムにでも審判役をさせたら、不正だらけの試合になるのが目に見えているから、エレローラさんが承諾させたみたいだ。


「小娘が怪我をしないうちに早く止めるんだな」

「それはこっちの台詞よ。今なら、女の子に花を持たせるために、わざと負けたことにしてあげてもいいわよ」


 審判の二人がお互いに言い争う。

 騎士との試合の前に、すでに場外乱闘が始まっている。


「でも、ユーナちゃん。無理はしちゃ駄目だからね。別に負けてもクリモニアに戻るだけだから、責任とか考えないでいいからね。あなたが怪我でもしたら、心配する()たちがいるんだからね」

「フィーゴ、手加減は必要はない。騎士は男がなるものと証明してやれ」


 そして、わたしと騎士は剣を構える。


試合まで行けなかったw 次回こそ試合です。


※ 申し訳ありません。書籍作業の締め切りが迫り、感想の返信が出来てません。来週には時間が出来ると思います。たぶん……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 一合で決着がついて笑ってやりたいです。
[一言] 武力云々ほざくなら相手の力量測れないとダサいよね(笑)
2020/06/13 12:19 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ