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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、学園祭に行く
275/904

271 クマさん、劇を楽しむ

 国王と王妃様が来たってことは、わたしたちは出ていった方がいいのかな?

 その旨を伝えると、


「騒いだりしないなら、ここにいても構わんぞ」

「いいの?」

「そんな状況のフローラを見て、追い出せると思っているのか?」


 国王の目が下がる。その先にはわたしに抱きついているフローラ様がいる。頭を撫でると気持ちよさそうにする。


「くまさんといっしょ」


 今はくまさんじゃないけど。呼び方はくまさんなんだね。


「それに、せっかくティリアが連れてきてくれたのを追い出すわけにはいかないでしょう」


 国王と王妃様の厚意により、わたしたちはここから劇を見ることになった。

 貴重な経験だから、ありがたく見させてもらう。でも、シュリ以外のチビッコの緊張している姿がある。ミサはノアの後ろに隠れるように立っているし、ノアも背筋を伸ばし、後ろに立つミサを国王から守っているようにも見える。フィナはシュリが勝手に動き回らないように手をしっかり握っている。


「なんなら、その椅子に座ってもいいぞ」


 国王は冗談なのか、本気なのか、立派な椅子を指す。それは丁重にお断りした。

 それから、国王は人の顔を何度も見て、「たしかにユナだな……」と呟いていた。


「それにしても服装を変えるから、すぐにお前だと気付かなかったぞ。でも、キティアはどうして分かった?」

「こんな可愛らしい女の子がどんな格好しても気付きます。あなたはもう少し、女性をしっかり見ないといけませんよ」


 わたしが持つ王妃様のイメージが変わる。のほほんとしているだけじゃなかったんだね。まさか、王妃様に気付かれるとは思いもしなかった。


「こうも、雰囲気が変わると分からん」

「それでは国王としては駄目ですよ」

「…………分かっておる。もう、覚えた。次はユナがどんな変な格好をしようと分かる」


 だから、どうして、変な格好って言うかな? 普通の格好だよ。制服姿だよ。

 まあ、制服姿は学園祭の間だけだから、学園祭が終われば制服を着ることもなくなる。終われば、いつものクマの着ぐるみに戻るだけだ。

 今は制服のことは忘れて、これから始まる劇を見ることにする。

 バルコニーに移動して、舞台を見ていると、大きな音がして劇が始まりの合図が起きる。劇場とかで見る本格的な劇を見るのは初めてだから、楽しみでもある。


 劇のお話は騎士と姫の恋物語のようだった。騎士と姫がお互いに愛するが、身分の差が二人を引き裂く。

 うん、定番だね。

 国王は娘の好きなようにさせたいが、邪魔をする大臣が出てくる。大臣は自分の息子と政略結婚をさせようとする。

 国王は娘に優しいんだね。まあ、本物の国王が見る可能性もあるんだから、国王の印象を悪くした劇はしないか。

 劇は進み、大臣の息子が出てくる。息子も性格が悪いと思ったら、騎士の良き友で理解者だった。でも、大臣は息子に姫と結婚をするように迫る。

 大臣は暗殺者を雇い騎士に差し向ける。だが、そのことを知った大臣の息子が、間一髪のところで助け、暗殺者を撃退する。

 それから、騎士と姫にいろんな困難が迫ってくるが、それを陰から守る大臣の息子。

 なにこれ? 大臣の息子イケメンなんだけど。

 もしかして、主役は大臣の息子?

 最終的に大臣の息子は父親の悪事を全て暴き、国王に告発した。そのことを知った大臣は、息子に怒り狂い、自分の息が掛かった部下に息子を殺させようとする。そこに騎士が駆けつけ、共に戦うシーンになる。騎士は大臣の息子を無事に助け出す。

 大臣は失脚し、騎士と姫は結ばれることになった。そして、大臣の息子は二人が結ばれるのを見届けると、一人旅立っていく。

 個人的には大臣の息子が主人公だね。ちらほら、大臣の息子も姫に恋心を持っていたみたいだけど。友人の騎士に譲った感じだった。

 う~ん、面白かったけど。大臣の息子にも幸せになってほしかったかな。

 それか主人公を大臣の息子にすれば良い話になると思うんだけど。友人のために頑張る大臣の息子。友人のために親の悪事を暴く。あとは彼を支えてくれる女性を出せば後味も悪くないと思うんだけど。第二王女とか?

 まあ、残念な終わり方だったけど、面白かった。

 そんな感想を抱いていると、国王がとんでもないことを言い出す。


「悪くはないが、ユナの絵本の方が感動的かもしれないな」


 いきなり、何を言い出すかな。この親父は。

 国王の言葉でちびっ子たちが反応している。


「そうね。クマさんが女の子のために頑張る姿は感動するわね。劇にすれば子供にも見やすいかもしれないわ」


 王妃様まで国王の言葉に賛同する。

 確かに、フローラ様は少し退屈そうに見ていた。フローラ様の年齢じゃ、今回の劇は早かったかもしれない。だからと言って、あのクマの絵本を劇とか、止めてほしいんだけど。

 国王と王妃様の話を聴いていたフィナなんて、震えているよ。

 それに劇にしたとしても、大人が見るようなものではなくなる。


「よし、今度、絵本を基に劇でも作るか」

「やめてください!」


 力強くお願いした。あの絵本だって、少しは恥ずかしいのに、劇なんてやられたら困る。


「そうか。良い考えだと思ったんだが」

「もし、そんなことをしたら、二度と食べ物は持っていきませんよ」

「うぅ、それは……」


 わたしをからかおうとしていたみたいだが、こっちだって弱みを握っている。食べ物の話を出せば止まるはずだ。


「それはフローラにたいしてもか?」


 わたしは首を横に振る。


「用意するのはフローラ様の分だけです。お二人が部屋に来ても用意はしません」


 お城の出入りを禁止にされたら、それで終わりだけど。国王は少し考えて、口を開く。


「……わかった。諦めよう」

「残念ね」


 どうやら、食べ物が勝ったらしい。よく、胃袋を掴んだら勝ちって言うけど。本当だったらしい。

 わたしが止めたことでフィナは安堵の表情を浮かべている。普通に考えたら、元が自分になっている絵本が劇になったら、嫌だよね。それにクマ役はどうするのよ。わたしはやらないよ。

 国王と王妃様は残念そうにしていたが、こればかりは許可を出すわけにはいかない。


 無事に絵本の劇化は防ぐことができたので、次の出し物は何かとティリアに尋ねる。


「次は学園の歌姫の歌ですよ」


 最後に歌があるらしい。でも、学園の歌姫ってそんな漫画みたいな人が存在するんだね。


「でも、歌姫って呼ばれるなら、ティリアが本物のお姫様でしょう。歌ったりしないの?」

「下手とは思わないけど、彼女は別格だから」


 そこまで言われると楽しみになってくる。

 舞台を見ていると、一人の綺麗な白いドレスに包まれた女性が舞台に上がる。学生だよね。大人っぽく見える。舞台に上がった女性は一礼すると、オペラのように歌いだす。

 歌いだすと、皆、女性に視線を向け、聞き惚れている。わたしもその一人だ。声は隅々まで響き渡り、心の中まで歌声が響いてくる。

 歌が終わると、今日一番の拍手が沸き起こった。


「綺麗な声でした」


 ちびっこたちも感動しているみたいだ。

 国王も王妃様も聞き惚れていた。


「うむ、最後に良いものが聴けたな」

「ええ、素晴らしい歌声でした。ティリアも頑張るんですよ」

「お母様、あのレベルを求められても困ります」


 あれは無理だね。才能と練習が必要だ。もし、練習もしてないと言うなら、本物のチートだね。

 でも、これで、全ての出し物が終わり、観客は建物から出ていく。国王たちはしばらくしてから出ていくそうだ。ティリアも一緒に残ると言う。

 わたしはここに連れてきてくれたティリアにお礼を言う。


「喜んでもらえて良かったよ。お父様が来たのは予想外だったけど」

「俺はおまえたちがいたことが予想外だった」

「でも、楽しい一時を過ごせたわ。みんな、ありがとうね」


 王妃様にお礼を言われて、みんなは緊張しながら、返事をしていた。

 わたしたちが先に部屋を出ていこうとすると、フローラ様に悲しい顔をされ、制服を掴まれる。でも、今度、会う約束をして、手を離してもらう。それにクリモニアに帰る前に国王に綿菓子を持っていかないといけないみたいだしね。


 部屋を出ると、数人の護衛が待機しており、わたしたちが部屋から出てくると驚かれる。まあ、王族しかいないと思ったらわたしたちが出てくれば驚くよね。でも、国王が出てきて、軽く説明をしてくれたおかげで、何事もなく建物から出ることができた。


「あのう、ユナさん」


 学園祭二日目も終わり、学園の外に向かって歩いていると、ノアが声をかけてくる。


「なに?」

「国王陛下が言っていた、ユナさんが描いた絵本ってなんですか?」


 どうやら、国王との話を聞いていたみたいだ。

 でも、ノアは絵本のことは知らないんだね。てっきり、エレローラさんが話していると思っていたんだけど。


「わたしがフローラ様に描いてあげた絵本だよ」

「ユナさん、そんなことまでしているんですか?」

「初めて、会ったときに、フローラ様に描いてあげたら、喜んでくれてね。それから、たまに食べ物を持っていったりしているよ」

「どんなお話なんですか? 王妃様がクマとか言ってましたけど」

「クマが女の子のために頑張るお話かな?」


 クマ役のわたしがフィナを助ける話になっている。少し、変更はしているが、現実に近い話に基づいている。


「うぅ、わたしもユナさんが描いた絵本が見てみたいです。でも、フローラ姫が持っているんですよね」


 まあ、普通は個人的に描いた物が何冊もあるとは思わないよね。

 複写した絵本なら持っているから、見せることはできる。

 でも、フィナが自分がモデルとなった絵本をノアに知られることを嫌がるかもしれない。ノアに見せるにしても、フィナに相談してから、決めた方がいいかな?


「でも、ユナさんって多才ですね。冒険者としても強いし、お店を開くほどに料理も上手だし、絵本も描けるなんて」


 冒険者は神様チートのおかげだし、料理は両親が家に帰って来なかったから、わたしがやっていただけだ。絵は若き頃(ほんの数年前だけど)に絵の練習をした名残だ。


 学園祭二日目も終わり、投票は剣舞、合奏、歌姫に各一票を投票した。

 劇は良かったけど、内容に若干、マイナスが入った。




無事に二日目も終わり、絵本もノアに知られました。

絵本がどうなるかはまだ、未定です。

やっと、三日目が見えて来た!

学園祭の終わりも近いですね。

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>う~ん、面白かったけど。大臣の息子にも幸せになってほしかったかな >それか主人公を大臣の息子にすれば良い話になると思うんだけど。友人のために頑張る大臣の息子。友人のために親の悪事を暴く。あとは彼を支…
>歌いだすと、皆、女性に視線を向け、聞き惚れている。わたしもその一人だ。声は隅々まで響き渡り、心の中まで歌声が響いてくる >あれは無理だね。才能と練習が必要だ。もし、練習もしてないと言うなら、本物のチ…
[一言] 何気に毎回新作料理を持っていっているだけはある
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