263 クマさん、学園祭を楽しむ。その2
みんなは手に入れた髪飾りを付けて、次の出し物に移動する。
シュリの髪飾りだけが大きく、綺麗で目立っている。シュリは嬉しそうにスキップしながら歩く。
「もう一回やれば、ティリア様と同じぐらいの髪飾りは狙えたのに」
二本も外しておいて、どこからそんな自信が来るのかな?
「わたしも、もう一度やれば、さっきよりも良い点数を取りますから、負けませんよ」
ノアに張り合うようにティリアが宣言する。
「それじゃ、もう一回やったら、今度はフィナにプレゼントするね」
「それはズルイです」
まあ、あの受付の女の子の顔を見ると、やらせてくれないような気がする。あんなに簡単に持っていかれたら、困ると思うし。
わたしたちは次の出し物を見るために移動する。
少し離れたところにボール投げがあったので、それをやることになった。
「ユナさん、凄いです」
「ユナ姉ちゃん、カッコいい」
「ユナお姉ちゃん、凄いです」
まあ、チートですから。
わたしが投げたボールは一番奥の障害物が邪魔をしている的に当たった。
「ナイフの的当てといい。よく、あんなのに当てられるね」
「あんなの無理です」
今回のボール当ては10mから20mの距離にA賞からE賞までがある。E賞は比較的近い距離に置かれ、A賞は一番奥にあった。的の大きさはA賞になれば小さく、E賞になれば大きい。さらに的の前には障害物になるものも置かれている。
賞品は三球なげて、一番高い的に当てた賞品が貰えるルールになっている。
A的、B的、C的と三球当ててもA賞の賞品となる。E賞を三回当ててもE賞が1つだけになる。
ティリアは一球目はA的を狙ったが外し、二球目はA的を諦めてC的を当てる。最後の一球はB的を狙うが外した。
ノアはA的を三球とも狙う暴挙に出て外す。なんで狙うかな?
シュリは一球目をE的に当てて、二球目はD的を狙ったが外し、三球目はD的に当てた。
フィナもシュリと同様に一球目はE的に当て、二球目はD的を当て、三球目はC的を狙うが外す。
わたしはどの的を狙うか悩むが、これはゲームなのだから、楽しまないといけない。
A的の位置は一番遠く、的も小さい。さらに的の上には板があり、山なりのボールは当たらないようになっている。的の前には棒が立っており、さらに難しくしている。
それを無謀にもノアは狙った。
でも、このボール当てはわたしへの挑戦状である。能力を使ってでも当ててみろと言っているように感じる。だから、この挑戦を受けることにする。
わたしはボールをクマさんパペットに咥えさせると、A的に向けて投げる。コースは一箇所しかない。 ボールは軽くカーブをして、障害物をかわし、見事にA的を当てる。
その瞬間、フィナたちが喜びの声をあげ、周りにいた人たちからも拍手があがる。
見事にA賞のアクセサリーをゲットする。
そして、今回の賞品はノアにプレゼントする。
それから、玉ころがしをやったり、障害物競走みたいな、タイムを競うものに参加したり。その他もろもろと参加して、賞品をゲットした。
そして、今回手に入れた手作りのブレスレットはフィナにあげる。
「ありがとうございます」
フィナ、シュリ、ノアの3人はわたしがプレゼントしたアクセサリーなどがたくさん、飾り付けされている。あらためて見ると、アクセサリーの付けすぎは良くないね。髪飾り、ネックレス、腕輪、ブローチ。あと、学生が育てた花とかも貰った。
「賞品荒しになっていますね」
3人の姿を見てティリアが面白そうに言う。ティリアも何だかんだで、自分で手に入れた賞品を身に付けている。
「ユナが一番良い賞品を手に入れるから、みんなの顔が引き攣っていましたよ」
「だって、あんな難しくされたら、挑戦したくなるでしょう」
あれはわたしへの挑戦状だった。挑戦されたらやるしかない。
「普通はあんな難しいのはクリアできませんよ」
まあ、それはクマのスキルのおかげだ。クマの力が無ければ賞品は1つも手に入れることができなかった。的に当てることも、的に届かせることもできる自信はない。
次の獲物を探して………、次の出し物を求めて歩く。
「うん、あそこはなに?」
周りが大きな布で囲まれて、中が見えないようになっている。
「なんだったかしら?」
ティリアでも分からないみたいだ。まあ、全ての出し物と場所を把握するのは無理だ。
でも、布で囲まれているって、お化け屋敷じゃないよね。上は何もないから、太陽の光が入ってくるから、それはないと脳内で弾かれる。あとは迷路とか?
みんなで入り口のところにやってくると人がいる。
「クマ? ……ティリア様!?」
男子生徒がわたしの格好に驚き、ティリアを見て再度驚きの表情をした。
「ここはなにをやっているの?」
「ここは魔物や動物の解体を体験する場所です。ティリア様がいらっしゃる場所では……」
男子学生が答えてくれる。
入り口近くにある看板を見ると、魔物や動物の解体をするようなことが書かれており、入場する注意書きが書かれていた。魔物や動物の解体をしているので、興味が無い方はご遠慮ください。と書かれている。
「そんなのがあるの?」
「うーん、この学園には騎士や兵士、冒険者になる者もいるわ。冒険者は当たり前だけど。騎士や兵士も魔物を討伐すれば解体もする。食料に困れば動物も解体しないといけない。普通の生徒には関係ないけど、必要な学生もいるのよ」
確かに食料を現地調達することもあるだろうから、騎士や兵士も解体技術は必要なんだね。
「つまり、中で解体を体験できるってこと?」
「ええ、だから、わたしたちには関係ないから、別のところに行きましょう」
「わたし見たい!」
シュリが手を挙げる。
「わたしもちょっと、見てみたいです」
シュリの言葉にフィナも賛同する。そういえばフィナは解体の仕事をしているし、最近ではシュリも一緒に解体をしているんだよね。
「2人とも、子供が見るものじゃないよ。だから、他の場所に行きましょう」
ティリアがシュリの手を引っ張る。
でも、シュリは動こうとしない。
「中に入りたい」
「どうして? 気持ちが良いものじゃないよ。お肉が食べられなくなるかもしれないわよ」
「大丈夫」
「大丈夫って……」
「ティリア、2人なら大丈夫だよ。魔物や動物の解体はしたことがあるから」
どちらかと言うとわたしの方が大丈夫ではない。未だにわたしは解体ができない。
「そうなの!?」
「はい。だから、少しでも勉強になれば、見てみたいです」
「うぅ、仕方ないわね。少しだけだからね」
フィナに言われて了承するが、ティリアは嫌そうな顔をする。わたしも解体は苦手だから、その気持ちは分かるよ。心の中で頷く。
「中に入ってもいいかしら」
ティリアが受付の男子学生に尋ねると、男子学生は驚いた顔をする。
「興味本位で入られるなら、止めた方がいいかと思いますが」
「大丈夫」
シュリがティリアの代わりに返事をする。
男子学生は困ったようにティリアの方を見る。
「わたしが責任を持つわ」
「……わかりました。でも、具合が悪くなりましたら、すぐに出てきてください」
「なにかあればすぐに外に連れ出すわ」
ティリアが受付にいる生徒と約束をする。男子学生は諦めた表情をする。
「それじゃ、そろそろ解体の実習が始まりますから中に入ってお待ちください」
中に入ると、すでに20人前後の人がいた。学生服を着た生徒もいるが一般の人もいる。これは出し物だけど発表会みたいなものなのかな。剣技を見せていた学生もいたし、これは解体技術を見せるってことなのかな?
「意外と人が少ないね」
「まあ、本格的に解体をやろうと思う学生は少ないですから。それに自分たちの出し物があれば、時間帯が合わない者もいますから、それを考えれば十分な人数だと思いますよ」
そう言われるとそうなのかな?
前の方には大きなテーブルが用意されており、シュリが一番前に駆け寄ろうとする。わたしはとっさにシュリの腕を掴む。
「ユナ姉ちゃん?」
「割り込みはダメだよ」
「だって、前に行かないと見えないから」
テーブルの前はすでに見学をする人が場所取りをしている。シュリの身長では後ろからでは見ることができない。だからと言って、後から来て割り込みをするわけにはいかない。
「こっちに台があるわよ」
ティリアが台が置かれていることに気付く。
どうやら、後ろからでも見えるように台を置いてくれていたらしい。
台の上に登ると、テーブルがよく見えるようになる。テーブルの前には学生と冒険者の格好をした男性と女性がいた。その冒険者と目が合う。
「ジェイドさん?」
ゴーレム討伐でお世話になったジェイドさんとメルさんがいる。
「ユナ?」
「ユナちゃん?」
「どうして、ジェイドさんとメルさんがここに?」
「それは俺の台詞だよ。俺たちはこの学生の解体の補助を頼まれたんだよ」
「補助?」
「メインは学生だが、俺は手伝いだ。それでユナは?」
「わたしは学園祭に遊びにだよ」
いきなり、テーブルにいるジェイドさんと台に乗っているわたしが話し始めるので、みんなの視線を集めてしまう。「クマ?」「くま?」ジェイドさんのせいで目立ってしまった。今更だけど。
「話はあとだな」
それはわたしも賛成だ。
ジェイドさんはアイテム袋からウルフを取り出す。そして、学生に解体作業を行わせる。
「ユナ、あの冒険者とは知り合いなんですか?」
「うん、前に一緒に仕事をしたことがあってね」
それがこんなところで会うとは思わなかった。他のメンバーのトウヤとセニアさんの姿は見えない。
どうやらジェイドさんとメルさんの2人しかいないみたいだ。
学生はジェイドさんの指示で解体作業を行っていく。ゆっくりだけど、学生は丁寧にウルフの毛皮を剥いでいく。フィナとシュリは解体作業を真剣に見て、ティリアとノアは台の上から降りて、見ないようにしている。わたしもフィナとシュリには悪いけど台の下に降りる。
すると、そこにメルさんがやってくるとわたしに抱き付いてきた。
「ユナちゃん、久しぶり」
「メルさん?」
「相変わらず、クマの格好をしているんだね」
そんなに触るのは止めてください。
「メルさんは解体の補助をしないでいいんですか?」
「ジェイドがいるから大丈夫よ。それで、ユナちゃんはこの子たちと一緒に学園祭に?」
メルさんがちびっ子たちを見る。ティリアを見ても驚かないってことはお姫様ってことは知らないみたいだ。
「この学園に通っている子から、招待を受けたんですよ」
「可愛い子ばかり、連れているね」
フィナ、シュリ、ノア、ティリアを見る。
まあ、それは否定はしない。みんな可愛いからね。
「でも、どうしてここに? 解体なんて冒険者や兵士希望の人ぐらいしか見に来ないわよ。出し物なら他にも見るものがあるでしょう」
「それはあそこの2人が見たがって」
フィナとシュリが真剣な目で解体するところを見ている。
「ああ、そんなナイフの入れ方じゃ」
「ダメだよ。穴があいちゃう」
「それだと順番が……」
「毛皮が……」
「もう少し綺麗に切らないと」
「ああ……」
なんか、学生が解体しているところにダメ出しをしている。
小さい声だから、解体している学生まで聞こえないと思うけど。聞こえていたら、喧嘩売っているよね。
「なんか、面白い子たちだね。あの学生、上手くはないけど、下手でもないよ。あれぐらいできれば十分に冒険者ギルドで買い取ってもらえるよ」
「ああ、肉が……」
「もったいないよ」
なんか、解体を見るよりもフィナたちを見ている方が面白い。
「なんか、凄いことを言っているわね」
「姉の方は小さいときから冒険者ギルドで解体をしていたんですよ。だから解体はとても上手いんですよ。最近では妹の方もやり始めて」
わたしが倒した魔物や動物の解体はほぼ2人がやっている。だから、シュリにもミスリルナイフを用意してしまったほどだ。
「それで、興味を持って、この出し物を見に来たんだけど」
「役に立っていないみたいね」
「ああ、そんな切り方だと……」
フィナが今にも飛び出しそうにしている。
それでも解体作業は進み、学生は解体作業を無事に終える。
フィナたちは台から降りてわたしたちのところにやってくる。
「どうだった」
「ダメです」
「うん、お姉ちゃんの方が上手い」
わたしには学生の解体技術は分からないけど。2人の目には学生の解体技術はお眼鏡に適わなかったみたいだ。
それだけフィナの解体技術のレベルが高いってことになる。教えたのはゲンツさんであって、わたしではない。
そんなわけで、ちょい役でジェイドさんとメルさんの登場です。
次回はフィナ無双かな? 違ったらすみません。