252 クマさん、出発前のひと休み
今日はクマハウスでくまゆるとくまきゅうと遊んであげていると、ララさんがクマハウスにやってきた。
「ユナさん、お忙しいところ、申し訳ありません」
ドアを開けると頭を下げるララさん。
「大丈夫だよ。それで、今日はどうしたの? ノアなら来ていないけど」
たまにノアが家に遊びに来ることがあり、そのときにララさんが迎えに来ることがある。でも、今日はノアは来ていない。
「いえ、今日はノアール様のことではなく。先日、クリフ様が頂いた茶葉についてなんですが」
ララさんが少し言いにくそうに言う。
「ああ、茶葉ね。もしかして、体調を崩したりはしていないよね?」
なにか、言いにくそうにしているけど、そんなことないよね。
でも、ララさんはわたしの言葉を否定する。
「いえ、体調を崩したりはしていません。クリフ様は始めは半信半疑で飲み始めたのですが、美味しそうに飲まれています」
違ったみたいだ。
なら、どうして言いにくそうにしているんだろう。
「お茶が美味しいなら、ララさんのお茶の淹れ方がよかったんだね」
「ありがとうございます。でも、美味しいのはユナさんがお持ちになられた茶葉が良かったからです」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。それで、クリフの体調はどうかな? 一応、疲れが取れるお茶なんだけど」
神聖樹のお茶を飲んだクリフの状態が知りたい。
「ユナさんから頂いた茶葉を飲まれるようになったクリフ様の体調は良くなっていきました。今では朝昼晩とお飲みになられて、元気に仕事をなされています」
「そんなに?」
「はい。いつもでしたら、朝、起きると疲れが取れていないご様子でした。でも、この数日は寝起きも良く、昼間も体調が良く、仕事が捗るとおっしゃっています」
話を聞く限りだと、栄養ドリンクみたいな効果だね。
でも、ちゃんと寝れるってことは栄養ドリンクとは効果は違うのかな?
栄養ドリンクをイメージすると、疲れを取るのはもちろんのことだけど。漫画家が眠気を飛ばし、徹夜で漫画を描くイメージが浮かぶ。
クリフはちゃんと眠っているようだし。
「それで、同様に疲れていました、クリフ様の補佐役のロンドさんもお飲みになられたんですが、元気になられまして、お二人はユナさんに感謝していました」
「効果があったみたいで良かったよ」
これで神聖樹の茶葉の効果は証明されたね。
もっとも、わたしには白クマ装備があるから、意味がないけど。美味しいから、お茶として飲んでも良い。
「……それで、ユナさんから頂いた茶葉なんですが……、無くなってしまい。茶葉を分けてもらえないかと、来たのですが。もちろん謝礼の方は致しますと、クリフ様はおっしゃっています」
茶葉を貰いに来たんだったんだね。それで、言いにくそうにしていたのかな。
でも、茶葉か。まだ在庫はあるから、あげてもいいんだけど。飲み過ぎって大丈夫なのかな?
栄養ドリンク的な物なら、飲み過ぎはよくない気がする。エルフに聞くと、よく飲んでいるらしいけど。だからと言って、体に悪いことが起きた話は聞かなかった。
ただ、種族は違うし、1日に飲む回数を聞いたわけじゃない。
どうしたらいいかな?
「あげてもいいんだけど。飲み過ぎは注意した方がいいかな」
「体に良くないのですか?」
ララさんが不安そうな顔をするので、慌てて首を横に振る。
「ううん、大丈夫だと思うよ」
副作用は無いと思いたいけど、わたしは科学者でもないし、神聖樹の成分が分かるわけでもない。
スキルのクマ観察眼を使っても、魔力の回復と体の疲労回復としか書いていない。
副作用のことは書かれていない。だから、危険なものでないと断言はできるが、鵜呑みにできるわけでもない。
例えば、砂糖や塩を大量に口にすれば、体に悪いことは分かるが、スキルにはいちいち、注意する文面は書かれていない。
神聖樹の茶葉も同様の可能性だってある。なにごとも食事はバランスよく食べたり、飲んだりした方が良いに決まっている。
「体の疲れを取るなら、茶葉の力を借りずに体を休めるのが一番だよ」
影響はないかもしれないけど。栄養ドリンクを1日3本飲んでいると考えると体に良くない。
もしかすると、それ以上飲んでいる可能性もある。
「はい、それはもちろんです。クリフ様には休むようには伝えてあります」
「1日1回って約束できるなら渡すよ」
「分かりました。お約束します。クリフ様にはそうお伝えして、1日1回にさせてもらいます」
ララさんと約束をして、前回と同じだけの容量の神聖樹の茶葉を渡す。
「何度も言うけど。ほどほどにね」
「はい。分かりました」
ララさんが頭を下げると、お屋敷に戻っていく。
クリフのおかげで神聖樹の茶葉の効果は証明されたけど、飲みすぎはどうなんだろう。
これはお店には出さない方が良いかな。
効果を知ったお客様がたくさん来ても困るし。
それから、王都に向けて出発するまでの間、くまゆるとくまきゅうと遊んだり、フィナとシュリと遊んだり、たまにノアが来たりして遊んだ。
先日は綿菓子機を数台作って、孤児院の子供たちに綿菓子を作ってあげた。
「ユナお姉ちゃん。この雲、美味しいよ」
「ふわふわだよ」
「溶けるとベタベタするから気を付けてね」
「口の中で溶ける」
「甘くて美味しい」
孤児院の子供たちが美味しそうに食べる姿を見ると、学園祭でも成功すると思った。
そんな感じで日々を過ごした。
今日は通常サイズのくまゆるのお腹でお昼寝をしていると、くまゆるが腕を伸ばして起こそうとする。
「もう少し寝かせて」
くまゆるの大きな腕を抱きしめる。
抱き枕だね。
でも、くまゆるは諦めずに、もう片方の腕でわたしを起こそうとする。
「なに?」
くまゆるに尋ねると外からわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
「う~ん、だれ?」
小さくアクビをしながらくまゆるのお腹から離れる。
もう少し寝ていたかった。
目を擦りながら外を確認すると、商業ギルドのリアナさんがいた。
「ユナさん。頼まれていた物ができましたので、お持ちしました」
「リアナさん、ありがとう。ふぁ~~」
小さくアクビをする。
「もしかして、寝ていたのを起こしてしまいましたか?」
「気にしないでいいよ。なにもやることが無くて、寝ていただけだから」
暇だからくまゆるとくまきゅうを召喚して、遊んでいたら眠くなっただけだ。
「なら、いいのですが」
「それでトランプができたって本当?」
「はい。こちらです」
リアナさんはアイテム袋から小さな木箱を取り出す。
わたしは木箱を受け取って、蓋を開けると中にはトランプが入っていた。
表紙のクマがちゃんと印刷されている。箱からトランプを取り出して確認する。
おお、ちゃんと出来上がっている。
「どうでしょうか?」
「うん、ありがとう。思っていたよりも、出来がいいよ」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
「リアナさん、ありがとうね」
改めてお礼を言う。
「いえ、仕事ですから気にしないでください」
残りのトランプを受け取るには家の前では大変なので、リアナさんをクマハウスの中に招待する。
「今日は仕事の方は大丈夫なんですか?」
商業ギルドは忙しいはずだ。
だから、届けてくれるのは業者の人か、手が空いているギルド職員が来ると思っていたので、リアナさんが届けてくれるとは思いもしなかった。
「大丈夫ですよ。今日はお休みですから」
「休みなのに届けに来てくれたの?」
「他の人に頼めませんからね」
なんか、いろいろと迷惑をかけてしまったようだ。
「でも、噂のユナさんのお家に入れるんです。それだけでも十分ですよ」
「噂って……」
「みなさん、このクマさんの形をした家に興味をもっていますから」
「中は普通の家だよ」
客室に通して、冷蔵庫から飲み物を用意する。
仕事が休みのときに届けてくれたんだ。お茶ぐらい出さないとね。
リアナさんに椅子に座ってもらい、わたしも対面になるように椅子に座る。
椅子に座るとリアナさんはテーブルの上に残りのトランプを出してくれる。100個ともなるとかなりの数だ。
「代金の方はどのくらい?」
「はい。こちらが、金額の明細書になります」
印刷代から紙の代金が書かれている。
「あれ、木箱の代金は?」
ケースのことは忘れていて、頼んでいなかったけど。バラバラにならないようにするために必要だ。これはリアナさんには感謝だ。
「それはサービスです」
「それは悪いよ。ちゃんと払うよ」
「その代わりと言ってはなんですが、このカードはどのようにして遊ぶか教えてもらうことはできるでしょうか?」
「遊び方?」
「はい、商業ギルドで働く者として、とっても気になりまして。もちろん、他言は致しません」
ゲームと言われれば気になるのは仕方ないかな。
わたしだって、ゲームと聞けば、どんなゲームなのか気になる。
「別にいいけど。なんなら遊んでいく?」
「よろしいのですか?」
「いいよ。今日は何もすることがないからね」
なにもすることが無かったから、くまゆるを抱き枕にして寝ていただけだ。
「ありがとうございます」
わたしはトランプが入った木箱を1つ残して全てクマボックスに仕舞う。
ネットではトランプはしたことはあるけど、リアルでは小学生以来となる。
木箱からトランプを取り出すと、テーブルの上にカードを並べる。
「見たから、知っていると思いますが、カードは全部で54枚あります。そして、この二枚は特殊カードです」
テーブルの上に火、水、風、土のマークごとに数字の順番通りに並べて、ジョーカーの二枚を横に置く。
「いろいろと遊びがあるんだけど、基本的なことだけを教えますね」
わたしはカードを集め、カードを切る。
そして、全てを裏返しにする。
まずは神経衰弱だ。
「記憶を争うゲームです。交互にカードを捲って、同じ番号を揃えたら、一点です。最終的に点数が高かった人が勝ちです」
「なるほど、相手の捲ったカードを覚えないといけないってことですね」
「ちなみに、揃えることができたら、続けて捲ることができます」
試しにゲームをしてみると、リアナさんは記憶が良く、初めてなのに良い勝負になった。
「なかなか、難しいですね。でも、子供の記憶力の勉強になりますね」
次に七並べを教える。
これは簡単な駆け引きのゲームになる。
「そうなると、『1』や『13』を持っていると不利ですね」
「まあ、そこは運が関係してくるけどね。いかに自分のカードを出しやすくするのかが勝負になるね」
次にババ抜き。これも七並べと同様に2人でやっても面白くないゲームだけど、説明をする。
「なるほど、最後の一枚が残った者が負けですか」
「自分がいかにババを持っていないか、知られないようにするかが、勝負ですね」
ポーカーフェイスってやつだ。
まあ、ポーカーと違って、それほど重要ではないが、あった方がいい。
わたしの場合。クマさんフードを深く被る方法があるから、必要はない。
最後に大富豪(大貧民)を教える。
「これは少し、難しいですね」
「隣の人のカードや自分のカードに左右されるからね」
ゲームのやり方を教えるのは以上にした。
ポーカーやブラックジャックはルールが面倒だし、なによりも役を覚えるのが面倒だ。
「ユナさん、他にもあるんですか?」
「あるけど、ルールが複雑だったりするかな」
「なるほど、このカードだけでいろんな遊び方があるんですね」
「二人から、複数人まで遊ぶことができるよ」
リアナさんがトランプを見て、考え出し始める。
「こちらを販売するようでしたら、ゲームのやり方を書いた紙が必要になりますね」
確かに販売するなら、ルールブックは必要かもしれない。
やり方が分からないなら、誰も購入なんてしないからね。
「もし、販売するようなことがあれば、教えてください。商業ギルドがお手伝いしますので」
「そのときはお願いね」
どうなるか分からないけど、そのように返答しておく。
「それでは今日はありがとうございました」
「こっちこそ、ありがとうね」
リアナさんはお礼を言うと立ち去っていく。
次回、出発です。
たぶん……