234 クマさん、凱旋する
今回だけ、早いです。たぶん……
しばらく三人の様子を見ていると、サーニャさんが神聖樹の葉を持ってやってくる。
わたしの周りにもたくさん落ちているけど、神聖樹の葉って、なにか使い道ってあるのかな。
「サーニャさん、この葉って、なにかに使えるの?」
くまさんパペットの口に葉を挟みながら尋ねてみる。
「う~ん、お茶にして飲むと少しだけ魔力と疲労が回復するかしら」
魔力と疲労の回復か、それも少しだけ。効果は白クマの着ぐるみの劣化版になるのかな?
わたしには必要はないけど、味の方はどうなのかな?
美味しいようだったら、欲しいけど。
「ちなみに味は?」
「普通かしら?」
なんとも判断に困る返答だ。
マズイならいらないし、美味しいなら欲しい。
普通なら、あっても無くてもって感じになる。
まあ、美味しくて、魔力も疲労も回復するお茶だったら人気が出て大変なことになるかもしれない。
でも、不味くないなら、お店で疲労回復のお茶として出せば人気がでるかな?
「神聖樹だから、イメージ的に高級茶と思ったんだけど」
「まあ、それは人それぞれだと思うから、村に戻ったら飲んでみたら?」
「いいの?」
「ユナちゃんなら大丈夫だと思うわよ。それに作ろうと思えばね」
サーニャさんは落ちている神聖樹の葉を見る。
確かにそうだね。
エルフたちが商売をするとは思えないし、神聖樹のことを自ら宣伝するとは思えない。
たぶん、自分たちで飲んでいるだけなのかな?
なら、ここは試飲してから要相談かな。
サーニャさんと会話をしているとムムルートさんとアルトゥルさんがやってくる。
二人は神聖樹に登ったりして、寄生樹の蔓などを処理をしていた。
少し離れた場所に寄生樹の蔓などが集められている。
「ラビラタも外で待っている。一度外に出て、今後のことを考えよう」
「寄生樹の方はもう大丈夫なの?」
「たぶん、大丈夫だろう。だが、しばらくは様子を見ることになる」
まあ、こんなに大きな大樹だ。
簡単には全ての確認はできないだろう。
寄生樹がどうやって、種を蒔いて増えていくか知らないけど、その辺りをちゃんと確認しないと同じことが起きる可能性がある。
まあ、その辺りはわたしが関与することじゃないけど、二度と今回みたいなことが起きないことを願うだけだ。
岩山の外に出ると、ラビラタが心配そうに待っていた。
洞窟に入ったまま、誰も戻ってこない。駆け付けたくてもできない。できることは待つだけ。そりゃ、心配するよね。
神聖樹を調べる前にラビラタに一度報告をするべきだったかな?
まあ、三人ともそれどころじゃなかったから、仕方なかったのかな?
外に戻ってきたムムルートさんたちはラビラタに簡単に神聖樹について説明をする。すると、わたしの方を見て礼を言われるので、素直に受け取っておく。
それから、ムムルートさんたちは再度、結界に入れるか確かめるために、三人で石碑に魔力を流すと、石碑は光りだし、岩山の結界の中に入ることができた。
そのあとにラビラタが入れないことを確かめる。
ラビラタは見えない壁に阻まれて、結界の中に入れない。
「えっと、ユナちゃんも確かめてくれる?」
サーニャさんはラビラタが入れないことを確認すると、わたしに頼んでくる。
わたしはサーニャさんたちみたいに石碑に手を当てることもせずに、一人で洞窟に向かう。
わたしは手を伸ばしながら進む。もし結界があれば壁みたいな物があるはずだ。この辺りでラビラタは先に進めなくなっていた。
でも、わたしの手はなににも邪魔をされることもなく、体は洞窟の中に入っていく。
「どうしてなのかしら?」
「嬢ちゃんは遠縁にエルフがいたりするのか?」
異世界人の自分にエルフの血が流れる訳がない。
だから、横に首を振る。
「でも、ユナちゃんにエルフの血が流れていたとしても、入れる理由にはならないわ」
ムムルートさんの言葉に、すぐにサーニャさんが否定する。
入れる理由は、たぶん神様から貰った着ぐるみのせいだからね。
でも、それは口にすることはできない。
「そうだな。まあ、考えても理由は分からん。今は嬢ちゃんが神聖樹に悪意が無いことだけが分かれば問題はない」
わたしとムムルートさん、サーニャさんの三人は一度村に戻ることになり、ラビラタとアルトゥルさんは結界の外に確認しに行くそうだ。
村に戻ってくると、村の中は平穏そのものだった。
子供たちは村の中を走り回り、あちらこちらから笑い声が聞こえてくる。
まあ、誰も神聖樹が危険な状態で、わたしが寄生樹と戦って、神聖樹を守ったなんて知らないからね。
寄生樹のことを知っているのは一部の大人だけで、ほとんどの者は結界が弱まったぐらいにしか思っていない。
まあ、知らせるのも、知らせないのもムムルートさんたちが決めることだ。
わたしがお願いしたことさえ守ってくれれば問題はない。
寄生樹のことを話すなら、わたしが倒したことは言わないようにお願いした。
英雄になるつもりもないし、村を混乱させることもない。
わたしとしてはくまゆるとくまきゅうと一緒に遊んでくれた子供たちが笑顔なら問題はない。
もし、寄生樹のことを説明するなら、ムムルートさんたちが倒したことにしてもらうつもりだ。
村に着いたわたしはクマハウスで休ませてもらうため、ここで別れることにする。
ムムルートさんとサーニャさんはルイミンが結界に入れるか確認するためにルイミンを連れて、もう一度神聖樹に向かうそうだ。
クマハウスに戻ってきたわたしはベッドにダイブする。
格好は白クマのままだから、そのまま寝ることができる。
誰かが訪ねてくる可能性があるから、小熊のくまゆるとくまきゅうを側に置く。
ベッドが心地好い睡魔を誘い、眠りについた。
一度、お腹が空いて目を覚ましたけど、夜になっており、軽く食事をすると再度、夢の中に向かう。
翌日、目が覚めたわたしは一階に降りて、朝食を軽く食べる。
寝すぎて、眠い。
でも、体調は元に戻っている。
くまゆるたちの様子を見ると昨日は誰も来なかったみたいだ。
それとも、くまゆるたちが気を使ってくれたのかな?
村に向かっている途中でラビラタに会う。ムムルートさんが会いたいから、家に来てほしいと伝言をもらう。
出会うタイミングが良かったし、もしかして、ラビラタはここで待っていたのかな?
それにしてもなんだろう。
昨日のことかな?
まあ、元からあの後のことを確認するために ムムルートさんたちに話を聞こうと思っていたから問題はない。
ムムルートさんの家に到着すると、「入りますよ~」と家の中に声をかけて、返事を待たずに家に上がっていく。
この家では呼んでも返事がないことは経験済みだ。
いつもの部屋に向かうと、ムムルートさんとサーニャさんがいた。
他は誰もいない。
「待っていた。座ってくれ」
言われるままに床に腰をおろす。
世間一般的に言われている女の子座りをする。
ムムルートさんはわたしが帰った後のことを教えてくれる。
部外者のわたしにいいのかなと思ったりしたが、村を救ってくれたことや、神聖樹の結界に入れるわたしには聞かせても問題ないことらしい。
まあ、内容は大したことではなかった。
村の外の結界には魔物は入らなくなったらしい。(無事に結界は発動しているようで良かった)
村の外の結界が広がったらしい。(もしかして、わたしのせい?)
ルイミンも無事に岩山の神聖樹がある結界の中に入れた。(これで、サーニャさんがいなくても、結界の中に入れるから安心かな)
「結界は正常に戻った。これも嬢ちゃんのおかげだ。感謝する」
頭を下げるムムルートさん。
「ユナちゃんが神聖樹の結界に入れること以外はね」
サーニャさんが1つだけ、変化があったことを言う。
でも、本当のことは言えないからスルーをする。
「それで、嬢ちゃんに1つ確認をしたいのだが」
「なに?」
「本当に嬢ちゃんが村を救ってくれたことを黙っていて良いのか? なんなら、神聖樹の隣に嬢ちゃんの石像を置いても……」
「止めてください」
ムムルートさんが全部言い切る前に言葉を遮る。
エルフたちに永久に祀られるなんて勘弁してほしい。
そんなのはミリーラの町だけで十分だ。
一応、広めないように頼んであるが、どこまで対処できているか分からない。
「我々、エルフを救ってくれたのだから、せめて我々血族には受け継ぐべきと思うんだが」
「作ったら壊しますよ」
「……そこまで言うなら、諦めよう」
わたしの本気度が分かったのか、ムムルートさんは渋々と引き下がる。
この人、本当に残念そうにしているよ。
サーニャさんは横で笑っているし、止めてよ。
エルフに受け継がれられたら、千年単位、失敗すれば万年単位で受け継がれてしまう。
それだけは防がないといけない。
「それで、ユナちゃんにお礼をしたいんだけど、なにかない?」
来た~~~~~~~。
その言葉を待っていました。
えっと、まずはクマハウスの設置。エルフの腕輪の作り方。神聖樹の葉が欲しい。枝も使えるようだったら欲しい。
あとは食べ物かな。この村はキノコ系が充実している。
実は松茸に似ている物があることを確認している。
現実世界では高級部類に入る食べ物。
お吸い物や炊き込み御飯にしたりして食べたい。炭火で焼くのもいいかも。
他になにかあったかな?
まあ、一番はクマハウスだけど、問題はクマの転移門のことだよね。
さすがに王都から遠いから、何度も行き来したら、怪しまれる。
どうしようかな?
クマハウス頼むべきか、頼まないべきか。
転移門のことがあるから、転移門が使えなければ、クマハウスの意味が無くなってしまう。
むむむむむむむむ。
「ユナちゃん。なにをそんなに悩んでいるの? わたしたちにできることがあったら言って」
「頼みたいことはあるんだけど、広まると困ることなの」
「それはなに?」
「我々エルフは村を救ってくれた嬢ちゃんが嫌がることはせぬ。なんなら、契約魔法をおこなってもいい」
「契約魔法?」
「我々、エルフが誓いを立てたり、エルフの秘密に関することを縛るときに使用するものだ」
「契約魔法を行うと、その契約に反することはできなくなるの」
なにそれ、ちょっと怖いんだけど。
「反するとどうなるの?」
「最悪の場合死ぬ。基本、話そうとすると息苦しくなったりして、言葉を発することができなくなる。それは文字で伝えようとしても同様だ」
それって呪いじゃない?
危険過ぎるよ。
「危なくない?」
「別にたいしたことではない。話さなければいいだけだ」
「知らないことは話せないと同じこと。知らなかったことで行動をすればいいだけよ」
うーん、でも、苦しんだり、死なれたら嫌だな。
まあ、それは話したりすればだけど、二人は話したりしないと思うけど、サーニャさんは怪しい。約束をしてもポロッと漏らす可能性が高い。
昨日も人前でわたしが履いているくまさんパンツのことを話すし、転移門のことを話すなら、その契約はして欲しい。
「その苦しみって変えることってできる?」
「変えるとは?」
「……笑いが止まらなくなるとか?」
少し考えて、思いつくままに答える。
笑うなら、苦しいよりもいいよね。
「ユナちゃんって鬼畜ね」
「えっ」
「つまり、笑い殺すってことね」
「もう、死んでください」
この人はなにを言うかな。
「できなくはないが、いいのか?」
「まあ、苦しくなるよりは、笑いが止まらなくなる方がいいかと」
「笑うのも辛いわよ」
苦しむ姿よりは笑い苦しんでいる方がいい。
とくにくまさんパンツを話すような人は笑い苦しんでほしい。
ムムルートさんの言う通り、黙っててくれればいいことだ。
「よかろう。明日までに準備をしておく」
「そんなに早くできるの?」
「そんなに難しいものではない。精神的な部分を変更するだけだ」
「それで、そのお願い事ってわたしたち二人だけで大丈夫?」
うーん、大丈夫なはず。
「たぶん。二人が上手く誤魔化してくれれば」
クマの転移門のことは、ムムルートさんが適当に誤魔化してくれればなにも問題はない。
クマ門を使って王都に帰るなら、サーニャさんだけに話せばいい。
「ユナちゃんのお願いごとが気になるわ」
それは明日まで内緒だ。