230 クマさん、ムムルートさんに報告をする
村に戻ってくるとくまきゅうが一番に駆け寄ってくる。
あれ? 背中にはムムルートさんが乗っていない。
もう、動いているのかな?
それとも、どこかで寝かされているのかな?
駆け寄ってきたくまきゅうがわたしに嬉しそうに擦りよってくる。
わたしはくまゆるから降りて、くまきゅうの頭を撫でてあげる。
「ムムルートさんを運んでくれてありがとうね」
くまきゅうは嬉しそうに「クーン」と小さく鳴いて、眼を細くして気持ち良さそうにする。
「サーニャさん、ムムルートさんは?」
「動けないようだったから、家に運ばせたわよ。ユナちゃん、お爺ちゃんになにをしたの?」
さっき聞かれたときはコカトリスのこともあって、適当に話を逸らすことができたけど、今回はできそうもない。
「逃げてくれそうもなかったから、魔法でちょちょいと」
「ちょちょいとって……」
サーニャさんが呆れ顔になるが、それ以上追及はしてこなかった。
わたしがサーニャさんと会話をしている間、ラビラタは他のエルフにコカトリスが討伐されたことを説明するように指示を出し、討伐したウルフやタイガーウルフ、ヴォルガラスの回収の指示もだしている。
どれほど倒したか分からないけど、そのままにしておけば、ウルフをエサとして他の魔物や獣が近寄ってくる可能性もある。だから、放置するわけにもいかないから回収するみたいだ。
それにお金にも食料にもなるから大切だ。
とくにタイガーウルフの毛皮はわたしが欲しいぐらいだ。
「ラビラタ、ユナちゃん。そろそろお爺ちゃんのところに報告しに行きましょう」
わたしも? と言いたいところだけど、行かないわけにはいかないよね。
くまゆるとくまきゅうを送還させて、ムムルートさんの家に向かう。
「お爺ちゃん、入るよ」
相変わらず、家主の返事を待たずに家の中に入っていく。
ムムルートさん、大丈夫だよね。電撃魔法のおかげで寝込んだりはしていないよね。
いつもの部屋に向かうと、ムムルートさんが寝かされていた。
わたしたちのことに気付くと、上半身を上げる。
まだ、痺れているのかな?
「嬢ちゃん! 無事だったか。良かった」
ムムルートさんはわたしの存在に気付くと、一番初めにわたしのことを心配してくれる。
「心配かけて、ごめんなさい」
悪くないと思うけど、年寄りを心配かけたのは事実なので謝っておく。
「嬢ちゃんがどれほど強いかわからんが、今回のようなことは止めてくれ。もし、嬢ちゃんに死なれでもしたら、悔やみきれない」
本当に心配をかけたみたいだね。
心配かけてポックリいかないでよかったよ。
ショック死とかよくあるからね。
「サーニャ、ラビラタ、それでコカトリスはどうなった?」
「倒したわよ」
「そうか、無事に倒せて良かった」
ムムルートさんはコカトリスが倒されたことを聞いて安堵の顔を浮かべる。
「二人ともご苦労だった」
ムムルートさんの頭の中では二人がコカトリスを倒したことになっているみたいだ。
それなら、それでいいかな。
わたしがそんなことを考えていると、バカ正直な者がここにいた。
「俺たちが駆け付けたときには、すでにユナによって倒されていた。俺たちはなにもしていない」
この男は表情を一つ変えずに説明をした。
たしかに、黙っているようには言ってないけど、空気を読んでほしい。
「嬢ちゃんが……、本当なのか?」
ラビラタの言葉を疑うようにサーニャさん、ラビラタに再確認する。
「信じられないと思うけど、本当よ。ユナちゃんはこんな見た目だけど、一応優秀な冒険者なの」
こんな見た目とか、一応優秀とか、突っ込みを入れたいけど、見た目のことで反論はできないので我慢をする。
「長、事実だ。コカトリスが倒れていることは俺たちを含め数人が確認している」
「嬢ちゃん、本当なのか」
ここは素直に頷いておく。
倒したことはすでにサーニャさんたちは知っていることだし、否定することでもない。
「そうか、嬢ちゃんは優秀な冒険者だったんだな。一緒に戦っているときも、強いとは思ったが、コカトリスを倒すほどとはな」
サーニャさんの言葉をどこまで信じてくれたのかわからないけど、わたしが討伐したことは信じてくれたみたいだ。
「ムムルートさんが、初めの一匹を倒してくれたおかげだよ。だから、残り一匹も倒すことができたんだよ」
「わしがやったことは翼を切り落としただけだぞ」
「そのおかげで、楽に止めを刺すことができたよ」
「でも、後から現れたコカトリスはどうやって倒したんだ?」
やっぱり、倒した方法が気になるよね。
「詳しくは説明はできないけど、隠し技でね」
「もしかして、わしが邪魔をしていたのか?」
ムムルートさんが討伐方法ではなく、自分がいたことで邪魔になったことが気になったようだ。
「そんなことはないよ。わたしはムムルートさんの補佐をしただけ」
「だが、わしがいなければ、嬢ちゃんはもう少し楽に倒せたのだろう?」
「倒せたと思う。でも、わたしが倒せるから、任せてと言っても、きっと誰一人信じなかったと思う。だから、そのことは無意味な空論だと思うよ。あのときはいきなりコカトリスが現れて、話し合っている時間はなかったし。もし、わたしが任せてと言って、ムムルートさん、わたしに任せてくれた?」
「それは……、任せなかったと思う」
「それなら、ムムルートさんが戦うのは仕方ないことでしょう。ムムルートさんはわたしにコカトリスを押し付けて、逃げたりしないでしょう」
「だが……」
「ムムルートさんと協力して倒せたらいいと思っていた。実際に二人で協力して、一匹は倒したでしょう。でも、もう一匹が現れたのは予想外のこと。さらにムムルートさんが戦いで疲労したのは仕方ないこと。なら、倒す方法があるわたしが残るのは仕方ないこと。でも、ムムルートさんに説明? 説得する時間はなかった。だから、強引だったかもしれないけど、くまきゅうにムムルートさんを安全なところに運んでもらったの。これはわたしの我侭だから、ムムルートさんは気にすることはないよ」
「嬢ちゃん……」
「だから、ムムルートさんが邪魔とかじゃないよ」
わたしはポーカーフェイスで、ムムルートさんに説明する。
少しだけ足手纏いと思ったことは心の奥深くに沈めておく。
「そうか。それなら、改めて礼を言う。コカトリスを倒してくれて、村と、わしを助けてくれて感謝する」
ムムルートさんは頭を軽く下げる。
真っ直ぐに礼を言われると恥ずかしい。
それから、サーニャさんとラビラタはそれぞれの魔物の討伐の報告をする。
タイガーウルフは5体ほどいたらしい。
毛皮ゲットだね。羨ましい。
「ムムルートさん、コカトリスの素材どうしますか? もし、必要なら分けますけど」
サーニャさんたちには貰ってもいいと言われたけど、ムムルートさんに確認をする。
コカトリスの一匹はムムルートさんが倒したものだ。
「いや、わしたちには必要はない。嬢ちゃんが倒したんだ。コカトリスは嬢ちゃんが貰ってくれて構わない。ヴォルガラス、ウルフ、タイガーウルフがある。商人と取引するなら、それだけで十分だ」
それならコカトリスは素直に貰っておくことにする。
「ユナちゃん、売るときは王都の冒険者ギルドでお願いね」
それは「分かりません」と返事をしておいた。
別にお金には困ってないから、無理に売る必要はない。
なにか作れるなら作りたいからね。
「サーニャ、明日は神聖樹のところに行く。アルトゥルにも伝えておいてくれ」
まだ、魔物が現れるかもしれないから、アルトゥルさんは村の周辺を見回っているらしい。
まあ、あれだけ魔物が集まったんだ。これからも集まる可能性はある。
「お爺ちゃん、その体で大丈夫なの?」
ここで寝ているのは魔力消耗のためなのか、それともわたしの電撃魔法のせいなのか、先ほどから気になっていた。
「問題はない。村の者が動けないわしを、無理やり寝かしただけだ。さっきまで動けなかったが、今はなんともない。一日経てば魔力も回復する。今は一刻も早く神聖樹をどうにかせねばならん」
その言葉を証明するように立ち上がる。
痺れていれば動けないはずだから、もう痺れは無いみたいだ。
「最悪、神聖樹を切り倒さないといけないかもしれんから、そのつもりでいてくれ」
「お爺ちゃん!」
「神聖樹に魔物が寄ってくるようになれば、どっちにしろ、ここには住めなくなる」
そうだよね。
神聖樹が魔物を呼び寄せる木になれば、普通の状態よりも危険度が増す。
何度も、コカトリスがやってきたら、たまったものではない。
神聖樹のお手伝いをしたいと思うけど、神聖樹の結界の中に入れないわたしにはどうすることもできない。
でも、遠距離攻撃とかできるのかな。できれば、お手伝いすることもできるんだけど。
まあ、そんなことができればムムルートさんたちも困っていないはず。
エルフ全員で結界の外から攻撃をすればいいことだし。でも、結界は侵入だけじゃなく、魔法も弾くのかな。それだと外からの攻撃も難しいことになる。
「ムムルートさん、わたしにできることある? 結界の外から魔法を使うとか?」
一応、尋ねてみる。可能なら、わたしでも手伝うことができるかもしれない。
でも、ムムルートさんは首を横に振る。
「嬢ちゃんの気持ちは嬉しいが、無理だ」
「やっぱり、秘密だから?」
「それもあるが、理由は別にある」
「ユナちゃん、神聖樹は岩山に囲まれた中にあるの。だから、結界の外から魔法を使うことはできないの」
たしかに、それだと結界の外から魔法を使うことはできないかな。
さすがにわたしでも見えないところに攻撃をすることはできない。
最終手段は岩山を破壊するとか?
クマさんゴーレムたちが、岩山を崩す方法を想像してみるけど、駄目かな?
結局、話はムムルートさん、サーニャさん、アルトゥルさんの3人と護衛としてラビラタが参加することになった。
「わたしも、護衛として付いていってもいい?」
駄目もとで尋ねてみる。
「ユナちゃん?」
「もしかすると、神聖樹によってコカトリスがまた来るかも知れないでしょう」
「そうだが、村にも現れるかもしれない」
「お爺ちゃん、いいんじゃないかな」
駄目かと思ったらサーニャさんが助け舟を出してくれる。
そんなサーニャさんに驚いたようにムムルートさんが見る。
「ユナちゃんにはお世話になったわ。それに、魔物が現れる可能性が高いのは神聖樹の方だと思う」
ムムルートさんが少し悩んで、同伴の許可を許してくれた。
やっと、神聖樹の話になったw
そろそろ、エルフ編の終わりが見えてきた。