225 クマさん、召喚鳥の存在を知る
夕飯を頂いたあと、サーニャさんに泊まっていくように言われたが、休むならクマハウスの方が落ち着くため、丁重にお断りする。
少し離れた位置にあるクマハウスに暗くなる前に戻ってくる。
温かいお風呂に入り、久しぶりの白クマになって、布団に潜り込む。
一応魔物対策に、くまゆるとくまきゅうを召喚して夢の中に向かう。
翌朝、くまゆるとくまきゅうのペチペチ攻撃によって起こされたわたしは村に向かう。
その途中に昨日逃したヴォルガラスがいたので、子供たちが襲われたら大変だから、サクッと倒しておく。
う~ん、でも、これだけ結界内に魔物がいると、結界の役目は果たしていないような気がする。
そもそも、結界が弱まるってどういうことなのかな?
ゲームや漫画だと、いくつかパターンがある。
結界が編み目のようになっていて、弱まっていくと編み目が大きくなり、小さな魔物が入ってくる場合。
あと、結界の一部が弱まって、その部分が消えてしまい、そこから魔物が入ってくる場合などがある。
まあ、知ったからと言って対処ができるわけでもないが、現代人としてはファンタジーの仕組みは気になるところだ。
そんな考えごとをしながら村に到着すると、少し騒がしい?
どうかしたのかな?
気になるので、会話がする方へ耳を傾ける。
内容を盗み聞きすると、村の近くまで魔物が入り込んだらしい。
わたしも村に来るまでに数匹倒しているけど、他にもいたみたいだ。
これは結界がかなり、弱まっていることになるのかな。
これって、わたしは大丈夫だよね?
よく物語だと、よそ者が外から来て、不幸なことが起きると、よそ者のせいにされることが多い。
クマが来たから魔物が……、クマが来たから結界が……とかなったら困る。
そんな心配しながら村を歩くと、子供も大人も普通に挨拶をしてくれる。
杞憂だったみたいだけど、一人が言い出すと、みんなも言い出すんだよね。
そんな、漫画や小説のテンプレ要素を考えながら歩いていると、サーニャさんとラビラタを見つける。
方角的にムムルートさんの家に向かっているみたいだ。
「サーニャさん、おはようございます」
「ユナちゃん、おはよう」
隣にいるラビラタも挨拶をしてくれる。
「神聖樹に行くんですか?」
油で燃やすとか言っていたけど。
「それが、そうも言っていられないことになってね」
「もしかして、魔物ですか?」
それ以外では思い付かない。
「ええ、村の付近に魔物が現れてね。そのことでお爺ちゃんに呼ばれて」
「一緒に行くことは?」
「……それはちょっと、ごめんね」
「かまわない」
サーニャさんとラビラタの返答が分かれる。
サーニャさんが驚いたように隣にいるラビラタを見る。
「ユナの力も借りるべきだ」
わたしの力?
「でも」
「長のことなら、俺が責任を持つ。それに、客人に手を借りたくないおまえの気持ちも分かるが、今はそんなことを言っている場合ではない」
「ずいぶん、ユナちゃんのことを買っているのね」
「先日、一緒にヴォルガラスを倒したからな。それに俺やヴォルガラスを探知できるユナのクマには手を借りるべきだ」
サーニャさんはラビラタの言葉に悩む。
わたしとラビラタを交互に見て考える。
「う~ん、ユナちゃん、どうかな。断ってもいいわよ。手を貸してくれるなら助かるけど」
サーニャさんがわたしに選択を委ねる。
わたしの返答はもちろん。
「いいよ」
「ユナちゃん、ありがとう」
手伝うことを了承したわたしはムムルートさんの家に一緒に向かう。
ヴォルガラス程度の魔物退治なら、手伝うことぐらいなんともない。
それにルッカや子供たちが襲われでもしたら、それこそ大変だ。
「でも、そんなに危ない状況なの?」
「そろそろ、隠しきれなくなっている。討伐はしているが数が多い」
「神聖樹に対処する前に魔物を倒さないといけないわね」
ムムルートさんの家に着くと、勝手に部屋の奥に向かう。
部屋にはムムルートさんをはじめ、数人のエルフがいた。わたしを見たムムルートさんがサーニャさんに目を向ける。
「どうして、客人の嬢ちゃんがいる?」
「俺が呼んだ」
「ラビラタ?」
「俺がユナの力を借りるべきと思った」
わたしのことを聞いているムムルートさんは悩む。
「これは我がエルフの問題だぞ」
「そんなことを言って、子供たちが犠牲になったらどうする。遊んで怪我をするのとは違う。最悪の場合死ぬことになるんだぞ」
ラビラタの子供が死ぬ発言にムムルートさんを始め、他のエルフも口を閉じる。
「おまえの言いたいことは分かった。だが、クマのお嬢ちゃんはそれでいいのか? たいしたお礼はできないぞ」
「お礼はいらないよ。サーニャさんにはお世話になっているし、わたしにできることなら手伝うよ」
本当は永久的なクマハウスの設置やエルフに伝わる腕輪の作り方をお礼として欲しいけど、ここはグッと我慢する。
もし、解決後に改めて聞かれたらお願いすればいいしね。
汚くないよ。交渉術だよ。
断られたら、素直に諦めるし。
「そうか、助かる。先日、ラビラタから報告を受けたとき、嬢ちゃんにも手伝ってもらえたらとは思っていた」
素直に礼を述べられる。
長のムムルートさんが言うことだから、他の皆も黙ってしまう。
「それじゃ、全員揃ったところで、話を始める」
この場にいる全員に寄生樹のことは話され、対応が急がれることが伝えられた。
そのことを聞いた全員が騒ぎ出す。
「わしらは寄生樹の処理をする。皆の者は周辺の警戒をよろしく頼む」
わたしにはくまゆるたちを使って、村の周辺の警戒を頼まれた。
まあ、要はくまゆるとくまきゅうを召喚して村の中を見回りだ。村を見学するつもりだったから何も問題はない。
ただ、くまゆるたちを召喚すると、子供たちが集まってしまうような気がする。
そうなったら、前回同様、お遊びタイムかな。
まあ、今は好感度を下げる行動よりも上げた方がいい。
ムムルートさんが皆に指示を出したとき、家の中に駆け込んでくる足音が聴こえる。
部屋に勢いよくエルフ青年が入ってきた。
「た、大変だ! ヴォルガラス、ウルフが結界付近に集まり出している!」
「なんだと!」
青年の言葉に全員が驚きの顔を浮かべる。
「サーニャ! 確認を」
ムムルートさんがサーニャさんに向かって叫ぶ。サーニャさんは頷くと、窓に駆け寄り、左腕をつき出す。
すると、腕輪の辺りから、鷹のような鳥が出現して、サーニャさんの腕に止まる。
「お願い」
サーニャさんが鳥に声をかけると、鳥は飛び立っていく。
ナニ? いまの。腕輪から出たよね。
もしかして、わたしの知らないエルフの隠された秘術?
「サーニャさん、今のは?」
気になったので尋ねてみる。
「わたしの召喚鳥って言うのかしら、ユナちゃんのクマの召喚獣と同じよ」
サーニャさんも召喚できたんだ。
しかも鳥だよ。
でも、今まで黙っていたんだね。
問い詰めたいところだけど、今はそれどころではないので我慢をする。
「サーニャ、様子はどうだ」
「オルバル山の方から、かなりの数のヴォルガラスが飛んできているわ。ウルフは……結界の外をうろついているわ」
サーニャさんが目を瞑りながら状況を説明する。
もしかして、ゲームや漫画であるやつ?
動物の目を通して、自分が見ているようになれる覗きのスキル。
漫画で鳥の目を通して風呂場を覗く話があったような気がする。
サーニャさんが女性で良かったよ。これが男性が持っていたら疑うね。
でも、男性エルフが持っている可能性もある。
「それじゃ、まだ結界の中には入っていないんだな」
「ええ、今のところは結界の外でウロウロしているわ」
サーニャさんが鳥の目を通して見ていることを報告する。
便利な召喚鳥だね。
わたしもくまゆるたちが見ている景色を見れたら良かったかもしれない。
「なんでだ」
「どうして、いきなり、魔物が増える!?」
もしかして、疑われるフラグ?
「なにが起きている」
「これは……」
サーニャさんの不吉な反応に全員がサーニャさんの方を見る。
「どうした?」
「ヴォルガラスもウルフも神聖樹の方を向いているような気がするわ。ううん、間違いないと思う」
「もしかして、原因は神聖樹なのか?」
「でも、それなら、過去にもあったはずだ。なんで、今なんだ」
「寄生樹のせいか?」
普通に考えたらそうだよね。
ここでクマが来たからとか、言い出されなくて良かったよ。
「可能性があるが、今は集まっている魔物をどうにかしないといけない。神聖樹の件はあとじゃ。魔物が結界に入ったら、村が危険じゃ」
全員頷く。
「それで、どうする?」
「ラビラタ、男衆を集めさせろ。そして、二つに分けろ」
「村の護衛はどうする。万が一のこともあるぞ」
「結界内に入らせなければいい。一気に大人数で対処する。全て結界の外で対処する」
「わかった」
ラビラタ含む男たちが立ち上がり、部屋から出ていこうとするが、サーニャさんが止める。
「ちょっと、待って、ウルフの周辺にタイガーウルフもいるわ」
「ウルフだけでも面倒なのに」
サーニャさんがわたしの方を見る。
もしかして、頼まれる?
タイガーウルフもいいけど、ヴォルガラスでもいいかな?
倒したら貰えるよね。
「ユナちゃん、村のことを頼める?」
うん? サーニャさんの言葉が予想と違った。
わたしの実力を知っているサーニャさんなら、討伐を頼むと思ったんだけど。
「別にいいけど、手伝わないでいいの?」
「ユナちゃんが村を守ってくれるだけで助かるわ」
「お爺ちゃん、村はユナちゃんに任せて、戦える者は全て行かせて」
「その変な女に村を任せるのか?」
エルフの一人が不安そうにする。
「心配なら、村に一匹も近づけさせなければいい。それにヴォルガラス程度ならユナに任せておけば大丈夫だ」
なんか、ラビラタの信頼度が高いのは気のせい?
いつの間にそんなに信頼度が上がったのかな。
サーニャさんにラビラタまでが、わたしに村のことを託すので、他の者は何も言えなくなる。
「二人の言う通りだ、村にはわしも残るから、安心しろ」
そのムムルートさんの言葉で全員が納得する。
召喚鳥は設定は魔物一万匹討伐のときからありました。
ただ、誰が持っているか、決めてませんでした。
サーニャさん、王都にいる召喚師、冒険者の誰かの三択で悩んだ記憶があります。
どうやって、およその数1万を調べたのか。
裏設定で召喚鳥が調べていました。