224 クマさん、神聖樹について話を聞く
フィナとの会話を終えたわたしは、くまゆるたちを送還させると一度村に戻ることにする。
クマハウスのことを報告をしないといけないし、神聖樹についてなにかわかったかもしれない。
村に到着して、サーニャさんの家に向けて歩いているとルイミンに出会う。
「ユナさん、どこに行っていたんですか!」
ルイミンが少し怒っている感じだ。
なんで怒っているかな?
「ちゃんと、クマハウスの設置場所を探しに行くと言ったよね」
「嘘です。あとで村の中を捜しましたが、どこにもいませんでした。他の人に聞いても誰もユナさんを見ていません」
確かに誰にも見つからないように外に出たからね。
「ユナさんが家を建てるために村の中を歩いて、誰にも気付かれないわけがありません。いったい、どこに行ってたんですか!」
悪いことはしていないのに、なぜか、問い詰められる。
「村の外にクマハウスを設置する場所を探していたんだよ」
「村の中じゃ、なかったんですか?」
ルイミンはわたしが村の中にクマハウスを設置すると思っていたらしい。
そんなことは誰も言っていない。
まあ、止められる可能性もあったから、村の外に建てるとも言わなかったんだけど。
「それで、どこに建てたんですか?」
「川の上流になるのかな? でも、ムムルートさんに正式な許可をもらっていないから、どうなるかわからないけど」
「川の上流って、そんなところに……」
「クマハウスは目立つからね。でも、思ったよりも近いよ」
クマ装備のわたしが走れば数分で着く。
他の人は知らないけど。
「それで、サーニャさんたちは戻ってきた?」
ルイミンは首を横に振る。
「まだです」
まだ、戻っていないのか。
神聖樹の話を聴きたかったんだけどな。
結界も気になるし、少し残念だ。
それにムムルートさんにもクマハウスの正式な許可も欲しかったんだけど、それも無理のようだ。
わたしは、とりあえずサーニャさんの家に向かおうとしたら、村の入口の方を見ていたルイミンがサーニャさんを見つける。
「お姉ちゃん」
ルイミンが見る先には神聖樹に向かった三人がいた。
タイミングが良い。
近寄って話しかけようと思ったが、三人の顔が暗い。
それに疲労しているようにも見える。
思ったよりも、悪い状況みたいだ。
「なにかあったのかな?」
ルイミンも三人の様子が違うことに気付いたのか、不安そうにする。
こういうときって、尋ねていいものなのかな。
エルフの問題にわたしみたいな余所者が首を突っ込んでいいのか分からない。
とくに種族が違うと、いろいろとトラブルになるのが定番だ。
でも、話を聞かないことには、どうなのかは判断できない。
拒否されれば、首を突っ込まないし、助けを求められれば、手伝うことだってできる。
「サーニャさん、どうだったんですか?」
「ユナちゃん?」
近寄るまで気付かなかったみたいだ。
「もしかして、大変なことが起きているの?」
サーニャさんはムムルートさんとアルトゥルさんの顔を見てから、小さく頷く。
「思っていたより、悪い状況ね。最悪と言ってもいいぐらいね」
「どんな状況だったの?」
「ごめんなさい。まだ、どこまで話していいか、分からないの。ああ、別にユナちゃんだからってことじゃないわよ。村全体に言えることだから」
サーニャさんはため息を吐く。
気になる。なにがあったのかな。
「ルイミン、今日は遅くなるから、ユナちゃんのことはよろしくね」
「うん」
サーニャさんたちはムムルートさんの家のある方向に向かっていく。
ムムルートさんにクマハウスのことを報告をできる雰囲気ではなかった。
残されたわたしたちはサーニャさんの家に帰ることにする。
わたしはルイミンを含め、タリアさんに家を建てたことを伝え、今日の夜からそっちで寝泊まりすることを伝える。
「でも、夕飯は食べていってね」
タリアさんの申し出をわたしは受ける。
夕食時になると、サーニャさんとアルトゥルさんが戻ってくる。
表情を見る限りでは、先ほどよりも暗い顔になっている。
「お父さん、お姉ちゃん、なにがあったの?」
楽しい食事時を暗くしている二人にルイミンが尋ねる。
さすがルイミンと言うべきか、雰囲気に関係なく、話しかけてくれる。
アルトゥルさんはルイミンの言葉に食事をする手を止める。
「近いうちに村人全員に言うが、確定じゃないことを始めに言っておくぞ」
アルトゥルさんの前置きに全員頷く。
「それって、わたしも聞いていいんですか。ダメなら離れますけど」
「構わない。ただし、他の者にはまだ内密でお願いする」
もちろん、誰かに言いふらすつもりはないので了承する。
「簡単に説明すれば神聖樹が寄生樹に寄生されていた」
「寄生樹?」
確か、ゲームでは木の魔物だった記憶がある。
森などの木に寄生して、栄養を奪いとり、最終的にその木に擬態する。
だから、擬態されてしまうと、見た目だけでは寄生樹とは判別できない。
そして、擬態した寄生樹は迷った人、動物、魔物まで食らうようになる。
長い枝や蔓で獲物を巻き付かせて、捕食する魔物。
「この辺りに寄生樹っているんですか?」
いるようなら気を付けないといけない。
見た目じゃ気付かないから危険だ。いきなり、襲われでもしたら、もしものこともある。
「無い。俺が知る限りでは周辺にはない」
アルトゥルさんの言葉にサーニャさんも頷いている。
「それじゃ、なんで」
「わからない。どっかから種が入り込み、寄生したのだろう。鳥だって運べるし、可能性はいくらだってある。でも、今は原因追及よりも対処方法に困っている」
対処方法ってあるの?
普通に倒すしか方法はないような気がするんだけど。
植物系の魔物は燃やすのが一番だ。
でも、燃やしたら神聖樹も一緒に燃えるよね。
「でも、寄生樹に寄生されているって気付かなかったの?」
気付くのが早ければもう少しなんとかなったはずだ。
「結界の中に入るには三人必要になる。だから、サーニャが来るまで確認をしなかった。今となってはそれが失敗だった。確認だけでもルイミン、ルッカに頼むべきだった」
まあ、これは結果論だ。
聞いた話では神聖樹は千年以上エルフの里を守ってきたそうだ。
その神聖樹は自身の結界に守られ、敵対するものから千年以上防いできた。
それが、寄生樹によって魔力を吸われるとは思ってもいなかったらしい。
長のムムルートさんは前回の結界が失敗して、弱まっている程度と思っていた。
だから、結界を張り直せばいいと思っていたとのこと。
「それじゃ、お姉ちゃん。神聖樹は……」
「このままなら、神聖樹は全ての魔力を吸いとられ、結界が無くなるわ」
その言葉に全員が口を閉じる。
でも、寄生樹のせいで、結界が弱まっていることはわかった。
「お父さん、その寄生樹を取り除くことは」
アルトゥルさんは首を横に振る。
「いろいろと試してみたが、ダメだった。魔法や剣で斬ったりしたが、神聖樹の魔力を吸い上げて再生される」
再生って、それって、もう、なにもできないんじゃない?
「いろいろと対応策を考えたけど、どれも無理なことばかりだ」
「無理って、その可能性は低いの?」
0でなければ可能性はあると、偉い人は言っている。
でも、サーニャさんは首を横に振る。
「神聖樹を守るための結界が邪魔をしているわ。まず、神聖樹の結界内に入れるのは主とする長の血縁者であること。この時点で神聖樹に対処ができる者は限られるわ」
確かに、この時点でかなりの人数に絞られる。
「だから、他の者は討伐の力になれない。さらに、寄生樹は火に弱いけど、わたしたちエルフは火の魔法は使えないから、討伐も難しい」
たしかに八方塞がりだ。
神聖樹に入れる者は決まっていて、さらにエルフが得意とする風魔法では倒せない。倒すには火属性の魔法が必要。でも、結界の中に入れるエルフは火属性の魔法は使えない。
わたしが結界の中に入れれば、クマの炎で燃やしてあげるのに。
でも、そんなことしたら神聖樹も燃えちゃうからダメか。
「でも、結界が弱まるなら、他の人も入れるようになるんじゃない?」
現に結界が弱まって、魔物が入り込んでいる。
「それが、弱まっていないみたいなの」
「それって、どういうこと?」
「そもそも神聖樹は自分を守るために周辺に結界を張っているの。わたしたちエルフはその力を借りて、大きな結界を作ってるの。神聖樹(寄生樹)はどうやら、自分を守る結界だけを構築しているみたいなの。お爺ちゃんやお父さんの予想ではわたしたちも結界に入れなくなる可能性があるって」
「入れなくなるって」
「まあ、そこまで行ったら、全てが終りね」
面倒なことになっている。
「明日、もう一度行くことになっているわ。火矢、油、いろいろとやってみるつもり」
火矢って原始的な。
でも、油って神聖樹は大丈夫なのかな。
うーん、設定が甘い。