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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、エルフの里に行く
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205 クマさん、エルフの里に行きたがる

 ルイミンを拾った翌日、冒険者ギルドに向かう。

 時間は混み合う早朝から少しだけ時間をずらして向かうことにした。

 ルイミンは早く行きたがったが、面倒ごとを少しでも減らすためには仕方ない。


「えっと、ユナさん」

 

 ルイミンはわたしの陰に隠れながら話しかけてくる。


「なに?」


 何を言いたいか分かっているが、敢えて尋ねてみる。


「皆さん、見てますね」


 うん、見ているね。いつもの光景だ。

 指を差している子供もいる。

 

「やっぱり、ユナさんの格好が変……じゃなくて、特殊……でもなくて、個性的なんですよね?」


 いろいろと言葉を選んでいるようだけど、口から漏れているから意味がない。 


「もしかすると、エルフが珍しいからルイミンを見ているだけかもしれないよ」

「そんなことはありません。今までに一度もこんな風に見られたことはありません」


 そんなに強く否定しなくても、視線の先がわたしだってぐらいは分かっているよ。

 王都を歩くと仕方ない光景だ。

 クリモニアと違って王都は広く、人も多い。王都でわたしのことを知っている者は一握りだろう。

 だから、クマの格好をしているわたしは注目の的になる。


「うう、なにか恥ずかしいです」


 体を縮こまらせるルイミン。

 見られているのはわたしなのに、わたしの後ろに隠れてどうするのかな?

 そんなに嫌なら、少し離れればいいのに。

 わたしの後ろに隠れるから自分が視線を受けているように感じるんだから。

 わたしはクマさんフードを深く被り、視線をシャットアウトするよ。

 気にするから気になるんだよ。この数ヶ月で学んだことだ。と、ルイミンに言いたいが、わたしも慣れるには、もう少し時間がかかりそうだ。


「ユナさん、冒険者ギルドはまだ着かないんですか?」

「もうすぐだよ」


 大通りの道を歩いていると他の建物に比べて大きな建物が見えてくる。


「あの大きな建物だよ」


 クマさんパペットが差す先にはクリモニアにある冒険者ギルドよりも大きな建物がある。

 まあ、冒険者の数も依頼の数も違うんだから仕方ない。


「あそこにお姉ちゃんが……」


 ルイミンはいきなり冒険者ギルドに向けて走り出す。


「ちょ、ルイミン!」


 わたしも追いかけるように冒険者ギルドに向かう。

 冒険者ギルドに入るとルイミンが中を見渡すようにキョロキョロとしている。

 いきなり、入ってきたわたしたちに視線が集まる。


「お姉ちゃんは?」

「ちょっと待って」


 ルイミンの手をクマさんパペットが掴み、奥に進む。

 入り口の前では出入りの邪魔になる。

 わたしの存在に気付いた冒険者たちの口から「クマ」って単語が聴こえてくる。

 だからといって近寄ってくる者はいない。

 前回の噂が少しは広まったかな?

 トラブルにならないのでこちらとしては助かる。

 受付の方を見ると、混む時間帯を避けたおかげで空いている。ルイミンの手を引いて受付に向かう。


「ちょっといいかな?」

「はい、なんでしょうか?」


 わたしを見てもちゃんと受け答えをする受付嬢。

 まあ、ギルド職員なら騒ぎを起こしたわたしのことは知っているよね。


「ギルドマスターのサーニャさんに会いたいんだけど、会えるかな?」

「お約束の方はしているでしょうか?」

「していないけど。ユナが会いたいって伝えてもらえる?」


 サーニャさんには貸しがあるから会ってくれるはず。


「妹のルイミンが来たって言ってください。わたし、サーニャお姉ちゃんの妹です」

「ギルドマスターの妹さんですか!?」


 受付嬢は横から割り込んできたルイミンの言葉に驚く。

 近くにいるギルド職員も驚いて、ルイミンを見る。

 そんなに驚くことなのかな?


「だから、お願いします。どうしてもお姉ちゃんに会いたいんです」


 頭を下げるルイミン。


「分かりました。お伝えしてきますので、少々お待ちください」


 受付嬢は席を外し、奥の部屋に向かう。

 ギルドマスターに会うには前もって約束を入れておくものなのかな?

 王都のギルドマスターとなれば忙しいから、普通は簡単には会えないのかな?

 そんなことを考えていると、先ほどまでの「クマ」って単語が聴こえなくなり、代わりに「ギルマスの妹」って単語が冒険者たちの中に広まっていく。

 その様子にルイミンは驚いたように周りを見渡す。すると、逆に冒険者たちがギルドマスターの妹のルイミンの顔を見るために視線が集中する。


「な、なんですか!?」


 だから、わたしの後ろに隠れるのは止めてほしいんだけど。


「みんなサーニャさんの妹ってところで反応したみたいね」

「うう、恥ずかしいです」


 今回の視線はルイミンの物なんだから、しっかりと受け止めないと。

 ルイミンが恥ずかしそうにしていると、奥のドアが勢いよく開く。


「ルイミン!」


 部屋から慌てるサーニャさんが出てきた。


「お姉ちゃん!」


 サーニャさんは駆け寄るとルイミンに抱きつく。


「5年ぶりかしら。大きくなったわね」

「お姉ちゃん。10年だよ」

「あら、そんなに経つ?」


 お互いに笑い出す。

 このエルフ姉妹たち駄目だ。時間感覚がやっぱりわたしとは違う。


「それでどうしたの? 王都まで」


 サーニャさんは尋ねてから周りの視線に気付く。

 冒険者やギルド職員の視線が集まっている。


「あなたたち、仕事しなさい。冒険者たちもいつまでもいないで、依頼を受けなさい」


 周りに注意して、わたしたちは興味本位で見る冒険者やギルド職員の視線から逃げるようにギルドマスターの部屋に連れていかれる。

 流れで、わたしもついてきちゃったけどいいのかな?

 邪魔なら追い出されるよね。


「ルイミン、久しぶりね。それで、どうして、二人が一緒にいるの?」


 サーニャさんが交互にわたしたちを見る。


「それは……」


 ルイミンが言いにくそうにする。

 まあ、行き倒れていたところをわたしが拾ったなんて言えないよね。


「道に迷っていたところをわたしと会って、ここまで連れてきてあげたのよ」


 ルイミンの名誉のために倒れていたことは黙っていてあげる。


「本当なの?」


 疑いの目をルイミンに向ける。

 ルイミンはサーニャさんの視線に負ける。


「はい」

「ユナちゃん、ごめんなさい。妹がお世話になったみたいね」

「たまたまだから気にしないでいいよ」


 たまたま家の前で倒れているのを見つけただけだからと、心の中で付け足しておく。


「それで、どうして王都まで来たの? わたしに会いに来てくれたの?」

「エルフの森の結界が弱まっていて、おさがお姉ちゃんを連れてこいって」

「結界が弱まっているの!?」


 サーニャさんが少し驚きの声をあげる。

 エルフの森って聞くだけで神秘の森ってイメージがある。だから、エルフの森の結界が弱まったと聞けば、わたしでも大事なことぐらいは分かる。


「うん、結界に綻びがあるみたいでエルフの森に魔物が入ってくるの。それで、結界を作り直すから長がお姉ちゃんを」

「話は分かったけど。結界が解けるなんて信じられないわ。あと100年は大丈夫なはずだったでしょう」

「わたしに言われても分からないよう。実際に弱まって、たまに魔物が入り込むようになったんだから」


 ルイミンの言い分も分かる。

 100年大丈夫と言われても魔物が入り込んでいるなら結界が弱まっていると考えるはず。

 でも、サーニャさんの言葉が本当なら、結界が弱まった理由があるのかな?

 ゲームや漫画だと、エルフの里を襲う、悪人がいるのが定番だけど。

 結界を壊してエルフの里の秘宝を盗むとか、よく有りそうな話だ。


「えっと、いいかな?」

「ユナちゃん、なに?」

「その結界ってエルフ以外は入れないの?」

「入れるわよ。入れないのは魔物だけよ」


 つまり、魔石を持つ魔物だけが入れないってことかな?

 そうなると悪人説はないか。

 でも、誰でも入れるのか。わたしも入れるってことだよね。エルフの森とか里はファンタジーの定番だ。頼んだら連れていってくれるかな?

 せっかく、異世界にいるんだから、エルフの里は一度は行ってみたいよね。


「それにしても面倒ね。でも、行かないわけにはいかないわね」

「サーニャさんじゃないとその結界はできないの?」


 わたしが代わりに行こうかと言いたいが我慢をする。


「できなくはないけど、結界の魔法と結界に使用する秘宝は代々おさの家系に引き継がれていくの。そして、長はわたしの祖父で、結界魔法を行うには三人必要なの。祖父、父、孫であるわたし。本当はルイミンでもいいんだけど。まだ、魔力が少ないからね」


 わたしでも結界は作れるみたいだけど。身内の秘術らしい。代わりはどうやら無理みたいだ。


「でも、エルフの里ね。ちょっと遠いわね」

「そんなに遠いの?」

「隣の国だからね」


 隣の国と言われても分からない。

 どのくらい遠いんだろう。

 でも、そんな遠くからルイミンは1人で来たんだ。

 わたしの家の前に倒れていたのを見ると、よく王都までたどり着けたものだ。


「ルイミン、今、どこの宿に泊まっているの? しばらくはわたしの家に泊まっていきなさい」

「しばらくって?」

「さすがにすぐには出発はできないのよ。副マスターに引継ぎをしたり、やりかけの仕事を終わらせないと。一応、ギルドマスターの地位にいるから、しっかりしないといろんな人に迷惑がかかるから」


 たしかに、サーニャさんは王都のギルドマスターだ。

 仕事量も多いだろうし、引継ぎもしないといけない。仕事をしている大人なら仕方ないね。


「それで、どこに泊まっているの?」

「それは……」


 ルイミンはチラッとわたしの方を見る。


「正直に答えなさい」


 なにかを感じ取ったサーニャさんはルイミンを問い詰める。


「昨日、王都に到着して、ユナさんのところに泊めてもらいました」


 ルイミンは正直に答える。


「はぁ、そんなことだと思ったわ。ユナちゃん、本当にありがとうね。この子、おっちょこちょいだから、少し心配だったの。なにかお礼をしたいんだけど。さっきも言ったけど、引き継ぎの仕事をしないといけないし、お礼はエルフの里から帰って来てからするわね」


 サーニャさんは申し訳なさそうに言う。


「それじゃ、わたしをエルフの里に連れていってくれませんか?」





と言う訳でエルフの里に行きます!

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さすがユナさん、こっちから押し掛けるスタイル(*´▽`*)
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