201 クマさん、味噌汁を作る
餡子するかお餅するか悩んでしまったw
倉庫の確認も終わり、次に冷蔵倉庫に向かう。
傷む物ってなんだろう。早めにクマボックスに入れた方がいいかな。
隣にある冷蔵倉庫に入るとアンズとセーノさんは寒そうに体を震わせる。
わたしは耐寒があるクマ服のおかげで大丈夫だ。見た目さえ気にしなければ寒くもなく、暑くもない、優れたクマ装備だ。
冷蔵倉庫の中にはお店で使用する野菜や飲み物が保管されている。
ちなみに隣に冷凍倉庫もある。こちらには冷凍された魚や肉が入っている。
わたしは氷の魔石を持っているし、無属性の魔石を氷の魔石に変えることもできる。
だから、こんな贅沢な倉庫が造ることができる。ティルミナさん曰く、氷の魔石は高く、こんなに贅沢な倉庫は作れないと呆れていた。
「ユナさん、この棚にあるのがそうです」
アンズが差す先の棚には陶器の壷が並んでいる。なにが入っているのかな?
壷の1つを手に取ってみる。壷にはしっかりと封がされている。蓋を開けてみると、中には茶色い粘土質みたいな物が入っていた。これは、もしかして……。
「味噌ですね。やっと入ってきたんですよ」
後ろから覗き込んでいるアンズがわたしが答えを出す前に教えてくれる。
そう、これは味噌だ。
つまり、味噌汁だ。味噌汁が飲めるんだ。嬉しくなって、叫びたくなる。
お米に味噌汁、目玉焼きに海苔。日本の昔ながらの朝ご飯がついに完成した。
これは早く味噌汁が飲みたい。お餅よりも優先順位は間違いなく上だ。
隣の壷も開けてみると違う色の味噌だった。
おお、いろんな味噌があるんだね。これは味噌汁を作るのが楽しみだ。
でも、これで朝ご飯は完成のはずだけど、なにかが足りないような気がする。なんだろう。喉まで出掛けているんだけど、出てこない。
そういえばお店でお味噌を使った料理を見たことがない。うどんと同様に見逃していたかな?
そのことをアンズに尋ねてみる。
「お店でも使いますよ。ただ、今まで不足ぎみだったので使ってませんでした。以前からミリーラの商業ギルドにはお願いはしていたんですけど、入ってこなくて。でも、今回やっと入ってきたんです。味噌はいろんな料理の味付けに使えるんですよ」
確かに味噌はいろんな料理に使うね。でも、わたしは白いご飯と一緒に味噌汁が飲みたい。これだけは譲れない。
わたしは味噌が入った壷を嬉しそうに見る。これって全部もらっていいのかな? わたしの分って言っていたし、いいよね。
量は多いけど、クマボックスに入れておけば傷んだりしない。わたしは静かにクマボックスに味噌が入った壷をしまう。
わたしは次は隣にある陶器の壺の蓋を開ける。
その瞬間、口の中に酸味が広がり、口が尖がる。匂いだけで唾液が溜まる。
壷の中に入っていたのは梅干だった。なんとも言えない懐かしい感覚だ。
「梅干です」
「わたし、酸っぱいから苦手です」
セーノさんは梅干しを見て少し離れる。
それに反して、アンズは近寄っている。大丈夫みたいだ。もちろん、日本人のわたしも大丈夫だ。
梅オニギリもいいし、お茶もあるから、梅干のお茶漬けにしてもいい。
すぐに帰ってご飯を炊いて、ご飯の上に梅干しを乗せて、味噌汁とお茶を並べて食べたい。
梅干の匂いを嗅いでいるだけで食欲が出てくる。
この感覚で思い出す。先ほど日本食に足りないと思ったのは梅干だ。
さっそく、今日の頭の中にある献立のメニューに梅干を追加をしておく。
「もし、ユナさんもダメなようでしたら、わたしに言ってください。捨てたりしないでくださいね」
そんなことをするわけがない。大事な梅干しだ。捨てるなんて勿体ない。
梅干しの入っている壷に蓋をして、次の壷の中身を確認する。
壷には醤油が入っていた。これは追加分だね。醤油はお店でも多く使うから、自分用にお願いをしておいた。醤油が入った壷は2つある。ゼレフさんにプレゼントしてもいいかな。
これで、冷蔵倉庫にある荷物も終わりだ。
それにしても、これだけ日本の文化に似ている物があるって、いつかは和の国に行きたいものだ。
たぶん、他にもいろいろとあるはずだ。
でも、お米に大豆に小豆、味噌に梅干し、これだけ揃えば今後の食事を心配することはない。
苦労してクラーケンを倒したかいがあったものだ。労働した分はちゃんと戻ってきた。
苦労は報われたね。
醤油の入った壷もクマボックスにしまう。これで、わたし宛の壷が全て無くなる。
「アンズにセーノさんも、休みなのにありがとうね」
「いえ、暇だったから大丈夫ですよ」
その言葉にセーノさんも頷いている。
そして、クマハウスに帰って、昼食でも食べようと思っていたら、アンズが作ってくれることになり、ご相伴に与ることにした。
もちろん、注文するのはシーリンで知ったうどんだ。
「うどんが無いから、無理ですよ」
と慈悲もない言葉をもらうことになった。まあ、在庫が無ければ一から作らないといけない。
仕方なく、すぐに食べられるいつものご飯と肉料理になった。
もちろん、アンズが作ってくれる料理はとても美味しかったよ。
お昼をご馳走になったわたしはアンズと別れてクマハウスに帰ってくる。
洗濯物を片付け、家の片付けを終える。
そして、少し早いが夕飯の下ごしらえをする。もちろん、作るのは味噌汁。
しっかりと出汁を取り具材の用意をする。ワカメなどあるけど、豆腐が無いことに気付く。さすがに大豆があっても、豆腐は作ることはできない。和の国にあるのかな?
とりあえず、味噌汁の具材は大根やニンジンを入れることにする。
味見をする。うん、美味しい。数ヶ月振りの味噌汁だ。
さっそく、ご飯を用意して梅干しを白いご飯の上に1つ乗せる。隣には味噌汁、焼き魚を用意する。もちろん、魚には醤油をかける。最後に熱いお茶を用意する。
簡易だけど昔の日本食が完成する。
「いただきます」
久しぶりに味噌汁と梅干を堪能した。
やっぱり、白いご飯には梅干しに味噌汁に緑茶だね。
うん、美味しくて、ご飯も味噌汁もおかわりをしてしまった。
太らなければいいいけど。
翌日、太る心配をしたのに、わたしはお餅と餡子計画を考えていた。
どっちがいいかな? 両方作ればおしるこが食べられる。
さすがに、一度に両方作るのは無理だ。初めて作るんだ。どちらか片方にしないと。
作るとしたらお餅の方が簡単そうだけど。餡子も捨てがたい。餡子が完成すればアンパンが作れる。そうなればモリンさんに新しいレシピとして教えてあげることもできる。
でも、お餅が無いとおしるこが作れない。ジレンマだね。
個人的にはお餅が食べたい。海苔で包んで醤油を付けて食べたい。
でも、お餅を作るには臼など、いろいろと道具が必要になる。
だから、悩んだ結果、餡子を先に作ることにした。幸いに作り方はレシピがある。和の国から来た箱の荷物の中にレシピが入っていたのだ。
餡子の作り方はテレビのバラエティ番組で見たぐらいしか情報が無かったので助かった。
うろ覚えで作るよりも正確なレシピがあった方がちゃんと作ることができる。
レシピを用意してくれたのがジェレーモさんなのか、和の国の人が気を利かせてくれたのか分からないけど。今度、お礼をしないといけないね。
ただ、餡子を作るには細かい工程があって、レシピを見ただけで挫けそうになった。でも、餡子のために頑張ることにする。もちろん、1人で作るのは大変なので、クマフォンを取り出して応援を呼ぶ。
『ユナお姉ちゃん?』
「フィナ、今日、暇? 暇なら家に来てほしいんだけど」
『今からですか?』
「うん、和の国から食材が届いたから、和の国の食べ物を作ろうと思ってね」
『和の国の食べ物ですか?』
「それで、フィナに手伝ってもらえたら嬉しいなと思って。ダメかな?」
『いえ、大丈夫です……』
わたしがフィナと会話をしていると、フィナの声が少し遠くなる。
『シュリ、ちょっと待って。ユナお姉ちゃんと話しているから』
クマフォンからシュリと話すフィナの声が聞こえる。
小さい声だけど、シュリが行きたがっている声が聞こえてくる。
声を聞いているだけで微笑ましくなってくるね。
『ユ、ユナお姉ちゃん。シュリもいいですか?』
「もちろん、いいよ。でも、シュリにも手伝ってもらうことは伝えてね」
『やった~』
シュリの喜ぶ声がクマフォンから聞こえてきた。
『それじゃ、すぐに行きますね』
クマフォンの通話を切る。無事に優秀な労働力をゲットできた。
わたしが餡子を作る下準備をしていると、フィナとシュリが家にやってきた。
「ユナお姉ちゃん、なにを作るの?」
「餡子だよ。パンとかに挟むと美味しいよ」
今日は餡パンを作る予定だ。と、言ってもパンに餡子を乗せるだけだけど。
本当はおしるこが作りたいけど今回は我慢する。
「美味しいの!?」
シュリが嬉しそうにする。
シュリはフィナと違って子供らしいね。
別にフィナが子供らしくないってことじゃない。どうも、フィナはしっかりしすぎている。
「それじゃ、その小豆をよく洗って」
フィナにレシピ通りの指示を出していく。シュリも隣で一生懸命に手伝っている。
それから、小豆を入れた水を沸騰させて煮ていく。
そして、過程を進ませて、灰汁取りはフィナたちに任せる。
作り方はテレビでみたことあったけど、レシピがあるから、間違いなく作れるのは助かる。失敗して材料を無駄にすることがない。
細かいところはさすがに覚えていないからね。
砂糖を入れて、水気が少なくなるまでゆっくりと煮込む。
そろそろ出来上がるかな?
「ユナ姉ちゃん、まだ?」
「もう、いいかな?」
スプーンですくって、火傷をしないように一口食べてみる。熱い、そして甘い。ちょっと砂糖が多かったかな?
今度作るときは少し減らしておこう。
わたしが味見をしていたら、シュリとフィナが食べたそうにしていた。
「熱いから、気を付けてね」
わたしはスプーンですくって2人の口の中に入れてあげる。
「甘いです」
「変な味。でも、美味しい」
餡子は普通と違った甘さだからね。
「それじゃ、少し遅くなったけど。これでお昼にしようか」
パンを用意して、餡子を塗って、アンパンモドキを食べることにする。
久しぶりに食べると美味しいけど。何個も食べるものじゃないね。
フィナたちも同様のようで、2つ食べて、3つ目は違うパンを出してあげた。
今度はお餅を作ったらおしるこだね。
もしかすると、過去にお茶の話は出て来なかったかもしれません。
過去にあったこととしてお読みになってください。
近いうちに確認して、修正しておきます。
次回、お餅の話に続くと思います。