187 クマさん、モグラ退治をする
前を歩くマリナの隣をミサが嬉しそうに歩いている。
マリナを信用をしているみたいだね。
オークに襲われていたときも、逃げ出すこともせずにマリナたちは戦っていたし、信頼がおけるんだろう。
ミサを見るマリナの顔も優しそうにしている。
「マリナ、ほかのメンバーはいないの?」
前を歩くマリナに尋ねる。
グランさんを護衛をしていたときは4人いた。名前は覚えていないけど。
「ああ、マスリカとローメンは別行動だ。別の仕事をしている。エルがいればこっちは大丈夫だからな」
逆に魔法使いのエルがいないとダメらしい。
門を出て、しばらく歩くと畑が見えてくる。
広いね。農作業をしている人が数人見える。
マリナは作業している人に、後ろから声をかける。
「すみません。モグラが出たと聞いて冒険者ギルドの依頼で来たんですが」
「来てくれたんだ。助かるよ……」
男性は振り返り、視線がマリナを見て、すぐに後ろにいるわたしに固定される。
「クマ?」
「ああ、このクマは気にしないでくれ」
マリナは一瞬だけわたしを見て、すぐに気にするなと言う。
助かるけど、少しわたしの扱いがおざなりじゃない?
でも、男性はわたしのことが気になるようでチラチラとわたしを見る。
「では、そちらの子供たちは?」
わたしの側にいたフィナたちを見る。
「見学だから、気にしないでいい。それで、モグラはどこに現れたんですか?」
「はぁ、はい。あちらの方です。かなり、作物がやられたのでお願いします」
男性はわたしとフィナたちを見るのを止めて、モグラが現れた方を指を差してくれる。
マリナは礼を言って男性が教えてくれた方に歩きだす。
わたしは魔物がいないか確認のために探知魔法を使う。マリナの言う通り、近辺には魔物の反応はない。そして、残念なことにモグラを探知することはできない。
探知魔法は魔物と人にしか反応はしない。魔物じゃないモグラは探知魔法には反応しない。
だから、探知魔法に反応があるのは、農作業で働く人たちぐらいだ。
改めて見ると農作業している人多いね。
すれ違った記憶はないけど、後方にも人がいる。
わたしは後ろを見るが人の姿は見えない。
反応は大きな木がある辺りにある。木陰で休んでいるのかな。もしかするとサボっているのかもしれない。
農作業は大変だからね。
「この辺か。エル、頼む。ミサーナ様たちは、少し離れていてください」
男性が教えてくれた場所に来るとマリナが指示をだす。
「それじゃ、周辺を確認するわね」
エルは畑の周辺を歩きだす。
「穴がいくつかあるわね」
エルが通った後を見ると確かに穴らしきものがある。
「どうやってモグラを見つけるの?」
ミサが興味深そうに尋ねる。
「水魔法で吸い出す方法かな。あとは土魔法で掘ったりするけど。わたしは土魔法は苦手だから。それじゃ、マリナ、行くよ」
エルは穴に手を近付け魔法を使う。
エルから出た水は地中に潜り込む。水は土に吸い込まれることはなく、穴に流れるようにどんどん吸い込まれていく。
どうなるのか見ていると、今度は水が逆流し始める。
水を引き戻している?
その現象に三人娘は驚きながら見つめている。
「ちなみにエルが使っている魔法は難しいんですよ」
真剣な目で見ている三人娘にマリナが少し自慢気に言う。
「そうなの?」
「水魔法を放つだけなら簡単ですけど。放った水を操るのは難しいんですよ」
マリナは優しくミサに説明をする。
確かにわたしも魔法を放つだけなら簡単だ。
でも、水のゴーレムを作った場合の操作は少し高度になる。操作するイメージ力が追加されるせいかな。
「マリナ。おしゃべりはおしまいだよ。そろそろ出てくるよ」
エルの言葉にマリナは剣を構える。
「みんなは、危ないから少し離れて」
わたしたちは少し離れる。
少し離れた位置から見ていると。吸い出されている水から黒い物体が穴から飛び出してきた。
「な、なにか出てきたよ!」
ミサが叫ぶ。
モグラだ。でも、わたしがテレビで見たモグラよりも一回りは大きい。
吸い上げられたモグラは地面に落ちるとマリナが剣を突き立てる。
モグラは絶命する。
さらに穴から2匹のモグラが飛び出し、マリナが処理をする。
「3匹か」
「上出来でしょう。さあ、次の穴に移動しましょう」
エルが次の穴に移動する。
「ミサーナ様。あまり面白いものじゃなかったでしょう」
ミサは首を横に振る。
「エルの魔法凄かった」
「ミサーナ様。ありがとうございます。でも、それほど凄くはありませんよ」
「でも、さっきマリナがエルの魔法は凄いって」
「確かに少しは凄いですが中級の魔法です。わたしは、魔法で作り出した水に触れていないと、水の操作はできません。上級者になると、離れても水の操作ができるようになります」
うん? もしかして、水のゴーレムを操作しているわたしは凄いことをやっている?
「だから、少しだけ凄い魔法使いだと思ってください」
エルはニッコリと微笑みながらミサに言う。
そのときに視線をミサに下げたとき、豊満な胸が強調された。
大きい。いつかは、わたしも。
それから、モグラ退治はわたしたちも手伝うことになった。
手伝うと言っても、穴を見つけることだ。退治はあくまでマリナたちの仕事だから、討伐の手伝いはしない。
「マリナ、こっちにも穴があるよ」
ミサが少し離れた場所から叫ぶ。
「はい。この穴が終わったら行きますからお待ちください。エル、やるよ」
エルは魔法を唱えて、先程と同じことを繰り返す。
穴は数人がかりで作業するため、すぐに見つかる。でも、穴と穴が近付き過ぎるとハズレを引くこともある。
でも、順調にモグラを処理していく。
「これっていつまでやるの?」
かなりの数のモグラを退治はしたけど。常識的に考えて、全て倒すことはできない。
「特に決まっていないが、時間とエルの魔力しだいだな。エルの魔力が切れれば、作業はできないし。暗くなってもできない。でも、すでにみんなのおかげでノルマは達成はしているから、ギルドに報告すれば終わりだ。それでも、被害が酷いようだったら、再度依頼が出る」
まあ、モグラの正確な数なんて分かりようがない。ある程度倒すことができたら様子を見るしかないよね。
「エル。まだ、大丈夫か?」
「まだ、平気よ」
「そうか。それならもう少し回るか。ミサーナ様たちはどうしますか?」
「付いていく」
ミサは初めて見るモグラ討伐が楽しいのか、そう答える。
ノアも残ると言い。フィナは二人の意見に従う。
「でも、思ったよりも数が多いな」
「そうね。まだ、半分も見回っていないのにかなりの数よね」
二人の会話を聞いてもピンと来ない。
そもそも通常がわからない、わたしには多いのか少ないかは判断できない。
それは三人娘も同様みたいだ。
「いつもよりも多いの?」
「ああ、多いな。短時間でこんなに討伐できることはあまりない」
「もしかして、ビッグモグラがいるのかしら」
「ビッグモグラ?」
大きなモグラ?
「可能性はあるな。モグラの穴探しは中断して、ビッグモグラの穴を探した方がいいかもな」
「マリナ、ビッグモグラってなに?」
ミサが尋ねる。
ミサ、ナイス。わたしもビッグモグラについて聞きたかった。
もし、常識だったら恥ずかしいからね。
「ビッグモグラはモグラの母親みたいなものです。一度に大量の赤ちゃんを産むため、見つけたら早めに討伐しないと、作物が食べ尽くされることもあります」
「そう考えると、わたしたちだけじゃなく。他の人の手も借りた方がいいかしら。手遅れになったらまずいし」
「穴を見付けてからでいいだろう。倒すことができればわたしたちでやればいいし」
「そうね。それじゃ、探しましょうか」
エルの指示で大きな穴を探すことになった。
なんでも、人の子供ぐらいの穴らしい。どんだけ大きいのよ。
わたしたちが手分けをして探そうとしたとき、男性がこちらに駆けてくる姿がある。
「すみませ~ん!」
男性はこちらまで走ってくると息を切らせる。
「どうかしたんですか?」
男性は息を整えてから口を開く。
「あちらに大きな穴があって、作物がやられています」
「大きな穴?」
「ビッグモグラ!?」
「はい。可能性はあると思って、みなさんにお伝えしようと思いました。このままだと大変なことになります。どうか、お願いします」
男性は頭を下げる。
今、話していたビッグモグラの穴らしきものがあるらしい。
マリナは穴を確認するために男性に案内をしてもらう。
案内された場所に到着すると。ぽっかりと大きな穴が空いている。確かに子供が入れるほどの穴だ。
「確かに大きいわね」
エルが穴を確認して、周りを確認する。
周辺の作物がかなり食われている。
「ビッグモグラかもな」
ビッグモグラ? いまいち、分からない。魔物じゃないんだよね。
探知魔法を使ってみるが魔物の反応はない。
反応があるのは人だけだ。
あの人、まだ。木のところでサボっている。
「エル、頼む」
マリナはエルに頼むと、エルは今までと同じように魔法を唱え、穴に水を流し込む。そして、逆流が始まるがなにも出てこない。
「いないの?」
「わからない。いないかもしれないけど」
エルは周りの荒らされた畑を見る。
「いるよな」
「大きくて、わたしの魔法じゃ引っ張りだせないかも」
エルは水を吸い出すがモグラが出てくる気配はない。
本当は手伝うつもりはなかったけど。このまま作物がやられるのは困るよね。
「わたしがやろうか?」
「ユナが?」
「できるなら、お願いしてもいい? わたしじゃ駄目みたいだから」
「土魔法が凄いのは知っているが、水魔法も使えるのか?」
「一応はね」
わたしはエルがやったように水の魔法を使う。クマさんパペットの口から水が出てくる。水は大きな穴に吸い込まれていく。
「凄い水の量だな」
「わたしの倍以上あるわね」
水の魔力を通じて何となく中の様子が分かる。水が何かに触れた感触があった。
「なにか大きいのがいるね」
「分かるのか?」
「何となくね」
わたしはエルがやったように水を吸い上げる。
うん、デカイなにかが吸い上げられてくる感覚がある。
「マリナ、何か出てくるからお願いね」
「ああ、任せろ」
剣を構えるマリナ。
もうすぐ、出てくる。
出てきたのは……モグラ!?
「ビッグモグラ!」
マリナが叫ぶ。
大きくない?
ウルフぐらいあるよ。絶対にモグラの大きさじゃないよ。
「マリナ! 逃がしちゃ駄目よ!」
「分かっている」
マリナは出てきたビッグモグラに剣を突き出す。マリナの剣がビッグモグラの胴体を貫く。一撃で終わったみたいだ。ビッグモグラは動かなくなる。
「大きい」
「こんなに大きなモグラいたんだ」
フィナはともかく、モグラの死体を見てもミサもノアも平気なんだね。
初めてこの世界に来たわたしなんて、ウルフの死体に驚いたのに。
異世界の子供、強し。
「ユナ、ありがとう。助かった」
「わたしの魔法じゃ無理だったから、助かったわ」
二人にお礼を言われる。
「作物が食べられると、農家さんが困るからね」
一生懸命に農作業をして育てた作物だ。
しかも、目の前で作業している人たちを見て、見捨てることはできない。
元の世界でも一生懸命に農作業をして、台風などの被害を受けて大変なことはニュースで知っている。
わたしもここの農作物を食べるかも知れないし、守れるものなら、守りたいからね。
お屋敷まで戻るところまで書くつもりだったけど、いけなかった。