185 クマさん、暇つぶしをする
現在はパーティー中だ。
お屋敷の中はお客様を招くためにメイドさんやお手伝いさんは大忙し。
手伝いたいと思っても、パーティーに詳しくないわたしやフィナが手伝えることはない。
だから、せめて邪魔にならないように部屋に閉じ篭っている。
着ぐるみ姿で会場の近くに行って見つかりでもしたら、騒ぎになるかもしれないからね。
「フィナ、どうしようか?」
「う~ん、解体のお仕事は?」
少し考えてから、そんなことを言い出す。
別の街まで来て、解体とか、少しは休むって言葉を覚えようよ。
「解体はしなくていいよ」
「それじゃ、掃除でも」
「しないでいいよ」
「うぅ、ユナお姉ちゃん。貴族様のお屋敷で、じっとしていると落ち着きません」
フィナは落ちつかなさそうにしている。
三日目だというのにダメみたいだ。
フィナはそろそろ、貴族のお屋敷にも慣れた方がいいと思うんだけど。
友達にノアとミサがいるんだから、今後もお呼ばれすることもあるだろうし。
「それじゃ、ゲームでもして遊ぼうか」
「ゲームですか?」
わたしはベッドの上に移動して、フィナを呼ぶ。
テーブルだと少し大きいから、対面でゲームをするには不便なためだ。
フィナに正面に座るように言って、クマボックスから、線が入った板と二つの小箱を取り出す。
「なんですか?」
「リバーシっていうゲームだよ」
わたしは小箱の1つをフィナに渡す。わたしが小箱を開けると、フィナも真似をするように小箱を開ける。
「うわ~、表と裏に黒いクマと白いクマの絵が描いてあります」
フィナは丸い駒をクルクルと回して楽しそうにする。
「これでどうやって遊ぶんですか?」
「駒と駒を挟んで遊ぶゲームだよ。フィナは黒いクマと白いクマ、どっちが良い?」
「そんなの選べません。黒いクマだとくまゆるだし、白いクマだとくまきゅうです。どちらかを選ぶなんて出来ません」
わたしも選べない。駒の絵はくまゆるとくまきゅうではない。絵はデフォルメされたクマ顔だ。でも、違うクマとはいえ、片方を選んだら、片方がいじける可能性がある。だから、フィナに選んでもらおうとしたが、フィナにもダメだったみたいだ。
「それじゃ、交代しながら使おうか」
「はい」
いつも通りの交代制にする。平等は大事だよね。
「それじゃ、やり方を説明するね。まずはこのマス目の中央に、このように駒を置く」
わたしは黒クマの駒を盤面の中央に二個置く。
「フィナは白いクマの駒を同じように置いてみて」
フィナは言われた通りに置く。
わたしは手本として、黒クマを置いて白クマの駒を1つ裏返しする。
「フィナも白駒の間に黒駒を挟むように置いてみて」
「どこでもいいの?」
「隣接していればどこでもいいよ」
フィナは黒駒を挟むようにして白クマを置く。そして、黒クマが裏返しになる。
「こうやって交互に駒を置いて、最終的に自分の色が多かった方が勝ちだよ」
「分かりました」
そして、暇潰しのリバーシ大会が始まった。
本当はトランプを作りたかったんだけど。絵柄を何にしようとか、キング、クイーン、ジャックはどうしようかとか、くだらないことを考えていて作っていない。
それに52枚プラス、ジョーカーの絵柄を同じに描くのは基本的に無理だし面倒だ。
だから絵柄はミレーヌさんに印刷ができないか聞こうと思っている。
キングの絵柄は国王様、クイーンは王妃様、ジャックは無理に考えないでフローラ様がいいかなと思ったりしている。でも、クリモニアで使うなら身近なクリフ、エレローラさん、ノアにするのもいいかもしれない。シアにはゴメンと謝っておく。
ジョーカーはクマにすればOKだろう。
まあ、面倒だったら、普通に11、12、13としてもいいし。
帰ったらミレーヌさんに相談かな。今後も数人で部屋に籠るようなことがあればゲームは欲しいところだ。
1人なら、寝て過ごすんだけどね。
フィナとリバーシで遊んだり、昨日作ったプリンを食べたり、久しぶりにピザを食べたりしながら、のんびりと部屋で過ごす。
ベッドの上でだらけていると、ノアとミサが綺麗なドレスを着て部屋に入ってきた。
ノアは赤色のドレスを着ている。金色に輝く髪に合っている。
ミサは水色っぽいドレスを着て、薄茶の髪に合う。
ミサの誕生日パーティーにはフィナも着るんだっけ、楽しみだね。
「2人とも可愛いよ」
「ありがとうございます」
「パーティーは大丈夫だった?」
二人の笑顔を見れば何事も無く終わったようだ。
相手の貴族が嫌がらせをしてくると思ったけど、予想が外れたかな?
「はい。ゼレフさん、格好良かったです」
ノアとミサがパーティーで起きたことを話してくれる。
やっぱり、例の貴族が料理に文句を言ってきたそうだ。ゴミを入れなかっただけマシなのかな。
話を聞くだけでも、テンプレの馬鹿貴族だね。
よくゼレフさんの料理を食べて、美味しくないとか言える。知らなかったとはいえ味覚を疑われても仕方ないレベルだ。
でも、発言者によって変わる場合もある。
人は自分よりも上の人間が三流と言えば三流と思い込む節がある。
学校でも会社でも自分が美味しいと思っていても、先輩や上司がマズイと言い、それに周りが賛同すれば、自分の味覚を疑い、美味しくないと思い込む可能性もある。
それに、自分は美味しいと思っていても、周りが美味しくないと言う中、1人だけ先輩や上司に向かって美味しいとは言えない。
それが、貴族なら発言力は大きいし、反対意見を言うのは難しいかもしれない。
それを抑え込むには同等の力か、それ以上の力を持つ者が発言するしかない。
今のグランさんでは頼りないし、クリフだとこの街での影響力は分からない。そうなると王宮料理長のゼレフさんが言うのが一番良い。
「ゼレフさんのおかげで、ランドルが父親と一緒に会場から出ていったとき、嬉しかったです」
2人が嬉しそうに話す。
ランドル……、こないだ、喧嘩を吹っ掛けてきたクズ男か。
まあ、あんなのがいたら、パーティーも楽しめないだろう。
育ての親が違うと、こうも違うんだね。
わたしは三人娘を見る。このまま、育ってもらいたいものだ。
「でも、出ていくとき、わたしたちの方を睨んでいたから、少し恐かったです」
「悔しそうに睨んでた」
しばらくは気を付けた方がいいかな。
また、外で会えばイチャモンを付けてきそうだ。
ミサとノアはサルバード家が居なくなった後を楽しそうに話してくれる。
「それから、わたしたちが作ったプリン。みんな美味しそうに食べてくれました」
「でも、みんなゼレフさんが作ったって思っていたよ」
「本当はわたしたちなのに」
2人は少し悔しそうにする。
「それは仕方ないよ。でも、みんな美味しそうに食べてくれたんでしょう」
「うん。みんな、美味しい、美味しいって食べてくれたよ」
自分たちが作ったプリンが好評だったのが嬉しかったみたいだ。
ゼレフさんの料理も好評で美味しかったそうだ。
パーティーには参加はしたくないけど。今度、ゼレフさんのパーティー料理は食べてみたいね。
お願いすれば作ってくれるかな。
「ユナさんもフィナも参加すれば良かったのに」
ノアの言葉にわたしとフィナは苦笑いを浮かべる。
そんな貴族や有力者たちのパーティーなんか参加はしたくない。周りの視線が気になって、食事どころではなくなる可能性の方が高い。
それにパーティーの礼儀作法は知らない。それはフィナも同様だろうし。なによりもクマの格好じゃ出れないよね。
ノアたちと会話をしていて、気づいたことがあった。
ゼレフさんの予定を聞いていない。
すぐに王都に帰らないといけないのかな?
ミサのパーティーが3日後にある。いきなり、明日帰ると言われても困るので、ゼレフさんに確認をしに行くことにする。
ゼレフさんを捜しにキッチンに行くと、片づけをしているメイドさんがいるが、ゼレフさんの姿は見えない。
忙しそうに片付けをしているメイドさんに聞くと、グランさんに呼び出されたみたいだ。
グランさんに?
うーん、どうしようか。
昨日のクリフとグランさんが居た部屋にいるのかな?
「ユナさん、こんなところで、どうかしたのですか?」
「メーシュンさん?」
後ろを振り向くとメーシュンさんがパーティーで使ったお皿などを運んでいた。
「ちょっと、ゼレフさんに用事があったんだけど。グランさんに呼び出されたみたいで」
「パーティーが終わったあと、グラン様がゼレフ様にお声を掛けていましたね。先日、ユナさんを案内したお部屋にいると思いますよ」
ゼレフさんの居場所が分かったので、さっそく向かう。
部屋に到着して、ドアをノックすると、入室の許可が出るので中に入る。
「クマの嬢ちゃん。どうした?」
部屋の中にはゼレフさんとグランさんがいる。クリフの姿は無い。
「ゼレフさんに予定を聞こうと思って」
「わたしのですか?」
「うん、もしかして、急いで帰らないと駄目? できれば、ミサの誕生パーティーが終わるまで待ってほしいんだけど」
「ミサーナ殿のパーティーがあるのですか?」
「3日後にあるんだけど。できれば終わってから王都に戻りたいんだけど」
「そういうことでしたら、構いませんよ。国王様には許可は頂いてますから大丈夫です。それにボッツとも、久しぶりに会ったので会話もしたいですから」
「ありがとう」
「それなら、ミサーナ殿のパーティー料理も自分が作らせてもらいますよ」
「いいのですか?」
わたしではなく、グランさんが尋ねる。
「ええ、ボッツもしばらくは料理は作れないでしょうから。料理はわたしからのプレゼントだと思ってください」
「ありがとうございます」
グランさんは頭を下げる。
おお、ゼレフさんのパーティー料理が食べられることになった。
ちょっと嬉しいかも。
「ノアとミサに聞いたけど。ゼレフさん、活躍したんだって?」
「活躍などはしておりませんよ。自分は自分の料理を美味しくないと言われたので、どこが美味しくなかったかをお尋ねしただけです。それにユナ殿の言葉のおかげです」
「わたしの言葉?」
「自分が料理を美味しくないと認めると、自分の料理を認めてくださっている人に失礼だと」
確かに言った。
「そう考えると自分ではなく、国王様や共に料理を作る仲間。わたしの料理を美味しいと言ってくださった方々の味覚を否定された気分になり、少し怒ってしまいました」
ゼレフさんが感謝を述べるが、ゼレフさんの立場なら当たり前だと思う。
その代わりに責任という重みを背負うことになる。
今後、ゼレフさんが失敗して美味しくない料理を出すことになったら、信じていた人を裏切ることになる。そして、料理長の料理が美味しくないから、部下も美味しくないレッテルを貼られる可能性もある。
それだけ、責任が重い場所にいる。
まあ、ゼレフさんが失敗した料理をお客様にお出しするようなことはしないと思うから大丈夫だと思う。
ゼレフさんから予定を聞きだしたわたしが部屋に戻ると、出しっぱなしになっていたリバーシで遊んでいる3人娘がいた。
2人とも遊ぶ前に着替えようよ。